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2017-05

恐ろしき人形(水谷準「瀕死の白鳥」より)

 大正11年に『新青年』の懸賞募集へ応募した短編「好敵手」が一等入選した当時、水谷準氏は18歳の若さでした。
 早稲田大学在学中から創作活動や翻訳に勤しみ、同人誌編集を経て、昭和3年には博文館へ入社してプロの編集者となります。戦後はゴルフ評論家としても活躍し、各分野で八面六臂の活躍を見せました。

 水谷氏の代表作である「恋人を喰べる話」や「胡桃園の青白き番人」は、退廃的な世界観とロマンチシズムを融合させた作風で書かれた一読忘れがたい印象を残す短編です。
 両作には「狂った感覚のエロチシズム」が垣間見え、恋する女性へ向けられた禍々しく歪んだ男の愛情を毒々しい筆致で描いていました。

 同じようなシチュエーションは「瀕死の白鳥」という短編にも見られますが、前述の短編が「退廃的な世界観とロマンチシズム」を融合させた作品ならば、本作は「精神を病んだ男による狂気の行動」だけを描いており、その結末には一抹の余韻もありません。
 美しい女性への残虐行為を淡々と描いているだけに恐怖の伝わり方もストレートでロマンの香りは微塵もなく、それが逆に「狂った感覚のエロチシズム」を強調しているように思えます。

 この短編は、一夜にして人気者となった可憐なバレリーナが体験する恐ろしい物語です。
 大成功に終わった舞台で一躍人気者となった原アケミの前に現れた怪紳士。彼はアケミを怪しい洋館へ連れていき、そこで「姫小路の殿さま」なる小男に引き合わせました。
 小男はアケミの全身に視線を注ぎ、その後で彼女の体を撫でまわすのですが、ネチネチとした陰険な行為を作者は嫌悪感たっぷりに描いています。


 姫小路の殿さまと呼ばれた小男は大きく首肯(うなず)いてみせながら、なおもアケミに火のような視線を注いでいたが、やっと彼女の近くまでくると、そのぶるぶると震えている腕を伸ばして彼女の肩へ手を置いた。
 なんとも知れぬ無気味な戦慄(せんりつ)が彼女の全身を貫いた。が、どうすることもできないのだ。アケミは恐怖の目を皿のように見開いたきり、ただ喘(あえ)ぐのほか
〈原文ママ〉はなかった。肩に置かれた姫小路の殿さまの指はゆるゆると、肩から背中・尻(しり)、それから胸というふうにまだ踊ったといのままの扮装(ふんそう)である薄着の上から撫(な)で回すのである。それがぬめぬめとした蜥蜴(とかげ)でも這(は)い回っているかのように、絶えず彼女の皮膚はぞくぞくと痙攣(けいれん)する。
≪春陽文庫『殺人狂想曲』P250≫


 やがて、姫小路の殿さまは怪紳士と結託して彼女を郊外の怪屋へ監禁してしまいます。
 華やかな舞台から一転して薄暗い部屋に閉じ込められたアケミ。怯える彼女の前に痩せた亀背の蝙蝠男が現れ、アケミの着ている舞台衣装を剥ぎ取ってしまいます。


 こうぶつぶつ呟(つぶや)きながら、手早く蝙蝠男は衣裳のホックを外して、滑らかなアケミの両肩を剥(む)き出しにした。まるでそれはバナナの皮でも剥くような鮮やかさであった。アケミの桃色をした五体は、細かくぶるぶると震えた。言いようのない羞恥(しゅうち)に、身も心も置き所がないのを感じたからである。【中略】
 「ほう! これは、これは」
 と言いながら、殿さまはテーブルの上から虫眼鏡を取り上げてアケミの首筋を穴の空くほど眺め入った。わざと剃刀(そり)を入れていない首筋には、おそらく絹糸のような産毛が光り輝いているに違いない。それから徐々に、肩口から腋(わき)、そして乳のほうに虫眼鏡を押し当てて、殿さまは長いこと桜桃(さくらんぼ)のような美しくもあどけない乳首に見惚(みと)れていたが、意外なことには、その興奮と熱中の様子に少しも淫(みだ)りがましいところがなく
【中略】感嘆しているのだった。
 アケミの衣装は全部剥ぎ取られた。ふさふさとしたスカートは傍らの椅子の上に置かれて、彼女は最後の一糸をわずかに腰に巻いているにすぎなかった。殿さまは胃の腑(ふ)のすっきりした平面から、ほどよく深く落ち込んだアケミの臍(へそ)を長いこと検(しら)べて、さてそれから、ついにアケミを素っ裸にしてしまった。
 その後の約何十分か、アケミがどんなに恥ずかしい思いをしたか、ここに書き記すまでもあるまい。
【後略】
≪春陽文庫『殺人狂想曲』P276~279≫


 ☆☆☆以下、ネタバレとなります。御注意下さい!☆☆☆
 蝙蝠男(=姫小路の殿さま)の目的は若く美しい女性を生き人形のような状態にする事でした。
 このおぞましい行為を「若い美しい肉体を永遠に保存しようというのに、何の罪悪があるというのだ」という理屈で蝙蝠男は正当化していますが尋常ではない考え方です。
 危うくアケミも蝙蝠男の毒牙にかかって命を落とすところでしたが、間一髪のタイミングで救出されます。

 歪んだ愛の結果ではなく、自己中心的な考えによる狂気の行動。
 簡単にはテキスト比較を行えないかも知れませんが、図書館で『殺人狂想曲』と『怪奇探偵小説名作選3 水谷準集 お・それ・みを』(「恋人を喰べる話」と「胡桃園の青白き番人」を収録)が借りられるようならば、それぞれの作品に描かれている「歪んだ愛による狂気」を読み比べてみるのも一興と思います。

 記事中の引用文ですが、1995年に「探偵CLUB」として刊行された復刻版を底本に使用しました。原本は昭和7年に刊行されています。
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