FC2ブログ

2017-06

見滝原帝都探偵局  「悪魔の種」事件 第三部・暴かれた犯罪

【十】

 甘味処『美国庵』の座敷を借りた意見交換では「弟による毒殺説」が全員一致の見解となりました。
 しかし、どのような毒物を使って衰弱死を狙っているのか、どのようにして殺人計画を未然に防ぐか、そういった点については意見がまとまらず、午後九時の閉店と同時に見滝原帝都探偵局の一行(いっこう)は店を出ました。
 杏 子「それで、これからどうすればいいのかしら」
 マ ミ「どうするって?」
 杏 子「このまま指をくわえて事件の拡大を見てるのもシャクだけど、今の段階では狩野氏の弟を罪に問う事はできないわ。今後の活動について指示を出してほしいのよ」
 ほむら「杏子さんの仰る通りですね。『美国庵』では毒殺説の検証に始終してしまいましたが、そこのところを詳しく話し合うべきでした」
 マ ミ「そうねぇ……。さしあたって、弟さんと同じ席上で食事をしない事、飲食物の味に違和感を覚えたら口にしない事、自宅で口にした飲食物の中に何か混入していると感じた時は吐き出す事。これらを狩野さんに伝える以外、現時点では手の打ちようがないわね」
 さすがのマミ局長もよい案が出ないらしく、その口から出た言葉は至極真っ当な防御策だけです。
 さやか「やっぱり、それくらいしか防御策はありませんよね。これからの食事を三度三度、全て外で済ませるというのなら話は別ですが」
 杏 子「おッ、その考えはいいんじゃないか。あれだけの資産家なんだし、さすがに『千和』のような高級店は無理としても、三度の食事をカフェーや定食屋で済ませる事はできるんじゃないかしら」
 マ ミ「あら、ウッカリして肝心な事を言い忘れていたわ。ごめんなんさいね。実は体に異変を感じてから狩野さんは三度の食事を行きつけの定食屋で済ませているそうなの。だからこそ、異常な体調不良に不安を覚えて相談しに来たというわけ」
 まどか「やはり、それなりに用心はしているんですね」
 マ ミ「ええ」
 さやか「でも、狩野氏の通っている定食屋がわかれば、厨房へ忍び込んで材料に細工するという事も可能ではありませんか」
 マ ミ「その可能性はないわ。注文する料理は日によって違うし、仮に材料へ細工をしていた場合、他のお客さんにも影響が出てしまうでしょう。狩野さんのお話では、店側に食べ物で体調を悪くしたという苦情は一件もないそうよ」
 杏 子「なるほどねぇ」
 まどか「やはり現時点では狩野氏に注意を呼びかける意外、我々にできる事はありませんね」
 さやか「犯人のメドはついているのに手も足も出せないなんて悔しいなぁ」
 マ ミ「カッカしないで、美樹さん。ここは持久戦で頑張りましょう」
 杏 子「そうそう。相手は濡れ手で粟を掴もうという狡猾な悪党よ。勇み足は禁物。焦ると逆に揚げ足を取られるかも知れないわ」
 このような会話を続けながら、わたし達は各々(おのおの)の帰路を目指して歩を進めるのでした。

【十一】

 この奇妙な事件がマミ局長の活躍によって迅速な解決をみたのは日曜日の事でした。
 わたし達が事務局内でマミ局長の口から事件の全貌を聞いたのは週明け月曜日ですが、「開いた口が塞がらない」という例えがピッタリする程、呆気ない事件の幕切れだったのでございます。
 マ ミ「最後になりましたが、狩野さんの事件は無事に解決しました。みんなにも心配をかけてごめんなさいね。この事件については狩野氏から近いうちに謝礼金が支払われます。美樹さん、帳簿をお願いね」
 午前八時からの朝礼で諸々の事務報告を済ませた後、最後にマミ局長が爆弾発言をサラリと口にされました。まるで往来で顔を合わせたご近所さんが「今日はよい天気ですね」と挨拶するような言い方です。
 この言葉に驚いたわたし達は異口同音に驚きの声を口にいたしました。
 まどか「えッ? あの事件、解決したのですか?」
 さやか「マミ局長。今、なんて仰いました?」
 杏 子「じ、事件が解決したって本当なの?」
 ほむら「マミ局長、どういう事ですか?」
 マ ミ「まあまあ、そう興奮しないで。今から詳しく説明をするから」
 そう言うとマミ局長は事件の真相を我々に解説して下さいました。
 マ ミ「わたしが『謎の毒薬』の正体に気づいたのは杏子の一言がキッカケだったの」
 杏 子「あたしの一言? さて、なんて言ったんだったかなぁ」
 マ ミ「金曜日の夜、『美国庵』で言ったじゃない。毒キノコを食べてしまった患者の体内から毒物を排出させるのに下剤効果がある粉薬を飲ませて毒を出させる民間療法がある、って」
 杏 子「まさか、下剤効果がある毒キノコを乾燥させて粉々に砕き、その粉を狩野氏に飲ませたって言うの?」
 マ ミ「いいえ。でも、それに近いわね。狩野さんの弟さんが使ったのは朝顔の種だったのよ」
 杏 子「あ、朝顔の……種?」
 さやか「そんな物が毒薬になるんですか?」
 マ ミ「まあ、わたしの話を最後まで聞いて頂戴。それから質問を聞くから」
 さやか「は、はい」
 杏 子「話の腰を折って悪かったわ」
 マ ミ「大連を引き払う時に尖さんが日本へ持ち帰ったと思っていた薬にばかり気をとられていたけれど、計画の途中で薬が足りなくなった場合、そのテの薬だと簡単に補充ができないでしょう。だから、尖さんは身近にある植物を利用しているんじゃないかと考えたのよ。そこで土曜日に神田の本屋を歩き回って植物学に関する本を何冊か買って調べてみたの。求めていた答えは『薬学と植物学の研究』という本に載っていたわ。その本によると朝顔の種子に含まれるファルビチンという成分は腹痛の原因になるんですって。朝顔は薬草として大陸から輸入されたそうだから、尖さんはファルビチンに目をつけたというわけね」

【十二】

 マ ミ「ここまで分かれば後は簡単だったわ。日曜日の午前中に狩野家を尋ねて庭師と料理人から話を聞いてきたの」
 まどか「まさか庭師と料理人も共犯だったんですか?」
 興奮のあまり、わたしは思わず余計な口出しをしてしまいました。
 マ ミ「いいえ、この二人は事件と無関係よ。ただ、確認したい事があったから話を聞いただけ。庭師の熊田八百八さんにお庭で朝顔を育てていないかを聞いてみたところ、狩野氏が朝顔好きなので専用の花壇を一つ作って栽培している事がわかったの。朝顔の種は多めに用意しているそうだから、何粒か失敬しても気づかれなかったでしょうね。実際、朝顔の種は透明な瓶に入れて納屋の棚に置かれていたわ。料理人の茂手木英一さんには、狩野さんが必ず家で口にする食べ物か飲み物はないか、あるとしたら誰が用意するかを聞いてみたの。茂手木さんのお話では、狩野さんは寝る前に必ず自分で淹れた日東紅茶を飲むそうなの」
 さやか「すると……」
 マ ミ「そうよ、美樹さん。尖さんは納屋から朝顔の種を盗み出し、粉状にして日東紅茶の缶へ混入していたのよ。粉状にした朝顔の種と紅茶の茶葉は色が似ているから混入しても気づかれる心配はないわ。それから、狩野氏は料理の味付けに胡椒を多用していたそうだから、胡椒挽きの中へも何粒か朝顔の種を入れておいたのでしょう」
 さやか「やはり犯行動機は狩野氏の財産狙いだったんですか?」
 マ ミ「おそらくね。破産前の贅沢が忘れられず、一日も早く贅沢三昧の暮らしをしたいと思っているんじゃないかしら」
 杏 子「たった一人の肉親を金目当てで殺すなんてゾッとするわね」
 マ ミ「破産して兄の家に居候している事が尖さんの自尊心を傷つけているのではないかしら。だからこそ、精神的に開放される意味も含め、お兄さんに死んでもらいたかったのかも知れないわ」
 まどか「なんだか……嫌な事件ですね」
 さやか「そうね。欲は人を鬼にすると言うけれど、まさに尖夫妻は人鬼だわ」
 杏 子「廻りくどい手段で兄を亡き者にしようとする根気や忍耐があるなら真面目に働けばいいのにね」
 ほむら「一応の謎は解けましたが、今後はどうなさるのですか。尖氏を告発するには物証がありませんし、自白を求めるのも困難と思います」
 マ ミ「その点は大丈夫よ。とりあえずの解決策を狩野さんと相談してきたから」
 杏 子「とりあえずの解決策?」
 マ ミ「ええ。謎が謎でなくなれば大した事ないわ。狩野さんに『今日から毎晩、寝る前のお紅茶を弟さんにも飲むよう薦めてみて下さい。あれこれ理由をつけて弟さんが遠慮すれば、そこから殺人未遂の告白を引き出す手掛かりになりますわ』と助言をしたのよ」
 さやか「自分が投じた毒……と言うのでしょうか、異物の混じった紅茶を飲むハメになるなんて皮肉ですね」
 ほむら「でも、尖氏が紅茶嫌いだったどうするのですか。それを理由に断れたら……」
 マ ミ「大丈夫。その点も抜かりなく調べたわ」
 まどか「と、申されますと?」
 マ ミ「西洋趣向の尖さんは商売の絶頂期、御夫妻揃って午後三時のTeaTime(ティータイム)に紅茶を飲む事を欠かさなかったんですって。紅茶の口当たりが気に入ったのか、日本を出て大陸に渡るまで輸入業者を通じて英国から茶葉を取り寄せていたそうなの」
 杏 子「それだけの紅茶狂いなら、狩野氏の誘いを断る理由がないわね」
 マ ミ「あとは狩野さんが上手く尖さんを説得できるかどうか。そればかりは運を天に祈るしかないわね」

【十三】

 蒸し暑い夏が終わり、いよいよ季節が秋に移り変わった頃、狩野勉造氏からマミ局長に宛てた手紙が届きました。
 厚く膨らんだ封筒から、同封されている便箋の量が伺えます。
 狩野氏からの長い長い手紙には次のような大意の文面がしたためられておりました。
 狩野『このたびは大変お世話になりました。巴さんの御推察通り、わたしの体調不良は弟夫妻が企んだ犯罪によるものでございました。寝しなの紅茶を一緒に飲もうと誘ったところ、明かに動揺した態度で辞退するので問い詰めてみたところ、アッサリと『計画』を自白したのでございます。(鹿目まどか註:犯行方法の解説については中略いたします)憎い奴とは言えども、わたしにとっては唯一の肉親でございます。この機会に弟と財産問題について腹蔵なく話し合いました。その結果、再起の為の資金として金1万円を与える代わり、大森の屋敷から出ていき、薬問屋として再出発するなり、薬学関係の仕事に就くなりして、真面目に働くよう申し渡しました。(鹿目まどか註:以下、マミ局長への御礼と調査の謝礼について書かれておりましたので中略いたします)今回の事で『お金の持つ魔力』というものを嫌というくらい思い知りました。幸い、老後も食うに困らないだけの資産はできましたので、店を閉め、約三十年ぶりに郷里へ戻る事にいたしました。もう二度と、都会の空気を吸う事はないでしょう。このたびは、本当に、本当にありがとうございました。探偵局の皆様にもよろしくお伝え下さい。冷気の加わる折から、くれぐれもご自愛下さいますよう。それでは、書面での御挨拶にて失礼いたします』


≪「「悪魔の種」事件」完結≫


【あとがき】
 今回も細部まで煮詰めないまま見切り発車でのスタートとなりましたが、シリーズ2作目を書きたいという意気込みだけが空回りしてしまい、前作以上に不満の残る結果となってしまいました。過去の反省が活かせず、なんともお恥ずかしい限りです。
 本当は全四部構成となる予定でしたが、思った以上に筆が(?)進まず、三週間以上かけて書いた結果として「マミさんの推理という形で強引に謎解きを済ませる」形になりました。
 こっそりと修正していますが、第二部の末尾には「第三部・狩野邸にて」と予告を出しており、当初の予定では見滝原帝都探偵局のメンバーが狩野邸に招かれ、そこで実地調査をしながら推理のディスカッションをする筈だったのです(思うように各キャラクターを動かせず、この部分をカットしてマミさん一人に謎を解いてもらう事にしました)。
 狩野邸の雇い人と『美国庵』三人娘の出番を削りに削ったうえ、犯行動機も微妙に変更(現行版では削除しましたが、尖夫人には宝石狂という設定がありました。これを盛り込んだ犯行動機になる筈だったのです)しており、書き始めた頃の構想とは違う内容になってしまいました。
 不燃焼気味の作品ではありますが、それなりの形にまとまったとは思いますので、よろしければ御笑覧下さい。
スポンサーサイト
[PR]

FC2公認の男性用高額求人サイトが誕生!
稼ぎたい男子はここで仕事を探せ!

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://ryonablog475.blog2.fc2.com/tb.php/390-ce6879fe
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | ホーム |  »

FC2カウンター

プロフィール

新 京史朗

Author:新 京史朗
好きな技(1):バスター技
好きな技(2):股裂き関節技
好きなシチュエーション:リョナ

最新記事

カテゴリ

小説 (84)
アニメ (33)
ゲーム (31)
アメコミ (23)
フィギュア (5)
映像・写真 (15)
DOA・無双 (114)
イラスト企画 (43)
鉄拳・スト鉄 (90)
漫画・絵物語 (106)
イラスト・挿絵 (51)
映画・イベント (34)
ウルトラヒロイン (12)
MUGEN・ドット絵 (2)
オリジナルヒロイン (8)
御挨拶・お知らせ・交流 (129)
魔法少女まどか☆マギカ (59)

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

月別アーカイブ

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する

最新トラックバック

検索フォーム

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR