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2017-10

「魔法少女まどか☆マギカ Another」  聖女の奇跡

【はじめに】
 全12話の中で最も感動的だった「オクタヴァア(=魔女さやか)と心中する杏子」のif物語を自分なりに書いてみました。
 二次創作SSを書く際はハッピーエンドを原則にしていますが、本作に限っては「杏子やほむらの将来的な不安(=魔女化)」を残した終わり方となっており、入院により出番のなかったマミさんも一人だけ真実を知らない状態にある事も含め、これまでに比べるとトーンの暗い内容になってしまったかも知れません。
 原作アニメでは杏子の自爆心中という悲劇的な結末を迎えますが、いろいろな二次創作漫画を読みながらアイディアを練り続けた結果、完全なハッピーエンドとはいかないまでも、このようなif物語&後日譚に仕上がりました。


【第一部 奇跡を信じて】


佐倉杏子(1)

 コンサートホールを思わせる魔女の結界。その中央にさやかはいた。
 おぞましい魔女へと変わり果てた姿。
 呪いに支配された美樹さやかのソウルジェムはグリーフシードへと変化した。その結果、さやかは魚の尾を持つ甲冑の騎士になっちまった。
 これが魔法少女の成れの果てってわけか。
 全身から放たれる殺気に威圧されながらも、あたしとまどかは結界の中央を目指して歩く。
 自分を殺そうとしたあたしへの憎しみか、人間としての尊厳を奪われた悲しみを知らない親友への妬みか。
 一歩一歩と足が前へ進むたび、あたしの体中を駆け抜ける寒気が強くなる。
 杏 子「いいな、打ち合わせ通りに」
 まどか「う、うん」
 あたしの言葉に頷くまどかだが、そこの声は心なしか震えている。
 無理もない。この子は魔法少女の契約を結んでいない普通の中学生だ。
 死と隣り合わせの危険な戦いには慣れていない。いや、そんな戦いに縁があってはいけないんだ。
 正直、今度の件に彼女を巻き込みたくはなかった。
 だけど……この作戦にはまどかの存在が必要不可欠だった。
 命の保証がない危険な賭け。
 それでもまどかは自ら協力を申し出てくれた。その好意に甘え、あたしはまどかを連れて魔女の結界内へ足を踏み入れた。
 杏 子「心配するな。あんただけは絶対に死なせない。あたしの命に変えてもな」
 まどかを背中に庇いながら、あたしは自分でもビックリするくらい優しい声を出していた。


鹿目まどか(1)

 杏子ちゃんが魔法で作ってくれた金網みたいな防御壁に守られながら、わたしは魔女になってしまったさやかちゃんへ必死に呼びかけました。
 まどか「さやかちゃん。わたしだよ、まどかだよ。ねぇ、聞こえる? わたしの声がわかる?」
 防御壁の向こうでは杏子ちゃんが巨大な車輪を相手に戦っています。不規則な動きで襲いかかる攻撃に苦戦を強いられ、防戦一方を余儀なくされています。
 まどか「さやかちゃん、前に言ったよね。正義の味方になってみんなを守るんだって」
 杏子ちゃんから言われているように、わたしはさやかちゃんへの呼びかけを続けます。
 しかし、魔女になってしまったさやかちゃんにわたしの声は届きません。
 魔 女「ガアァァァ」
 耳障りな咆哮が結果内を響かせると同時に杏子ちゃんを取り囲む車輪の数が倍になりました。
 まどか「杏子ちゃん!」
 杏 子「あたしの事は気にするな。それよりも呼び続けるんだ」
 まどか「やめて、さやかちゃん。もうやめて! わたし達に気づいて!」
 魔 女「グガァァァァ」
 魔女になったさやかちゃんが左手に持った剣を振り下ろすと、杏子ちゃんの体を取り囲んでいた車輪が一斉に動き出しました。
 杏 子「あうッ。うぐッ。うあぁぁぁ」
 車輪は容赦なく杏子ちゃんの体を打ちのめし、そのたびに苦痛の呻き声が杏子ちゃんの口から洩れます。
 衣裳はボロボロに破れ、腕や頭からは血を流し、見るも痛々しい姿の杏子ちゃん。
 まどか「杏子ちゃぁぁぁぁん」
 わたしは思わず杏子ちゃんの名前を叫びました。
 杏 子「あたしは……へ、平気だ。まどか、あんたは……ひ、怯まずに……呼び続けろ」
 まどか「お願い、さやかちゃん。正気に戻って。友達思いの優しいさやかちゃんに戻って」
 魔 女「ガアァァァァ」
 杏 子「あ、あんたを心配する……親友の声も……耳に……入らないのかよ。聞きわけが……ないにも……程があるぜ」


佐倉杏子(2)

 ちくしょう。やっぱり駄目か。
 親友が必死に呼びかける声を聞けば、もしかしたら……って思ったけど、どうやら作戦は失敗だったようだ。
 Qべえの野郎が言う通り、魔女になっちまった魔法少女を元の姿に戻す事はできないのか……。
 あぐッ。
 あたしの体もそろそろ限界のようだ。傷の回復が間に合わねえ。
 こうなったら最後の手段だ。
 杏 子「そこにいるんだろう。暁美ほむら
 あたしは背後を振りかえらず、この血戦場に現れた暁美ほむらの名を呼んだ。


鹿目まどか(2)

 いつの間に姿を現したのか、わたしの隣にほむらちゃんが立っていました。
 まどか「ほ、ほむらちゃん。どうして」
 ほむら「やはり手遅れだったようね」
 黒く冷たい二つの瞳で魔女になったさやかちゃんの全身を見つめ、あいかわらず感情を押し殺したような声で言いました。
 ほむら「あの夜、マンションの踊り場で彼女のソウルジェムを奪ってでも浄化していれば……」
 唇を強く噛みながら、ほむらちゃんは悲痛な声で独り言を口にします。
 杏 子「見ての通りのザマだ。あたしの浅はかな作戦は失敗だった」
 ううん、違うよ。杏子ちゃんの考え、浅はかな作戦なんかじゃなかったよ。
 でも、この言葉を口に出して言うのは躊躇われます。
 なぐさめにもならない言葉。傍観者の無責任な言葉。
 不用意な一言は傷ついた杏子ちゃんの心まで傷つけてしまうかも知れません。
 杏 子「その子を頼む。あたしのバカに付き合わせちまった」
 ほむら「杏子……」
 杏 子「足手まといを連れたまま戦わない主義だろ? いいんだよ、それが正解さ。ただ一つだけ守りたいものを最後まで守り通せばいい」
 ごめんね、杏子ちゃん。わたし、なんの役にも立てなかった。
 安全な所から、ただ声の限りに呼びかける事しかできなかった。
 まどか「ごめんなさい、杏子ちゃん。足手まといにしかならなくて」
 杏 子「あんたは足手まといなんかじゃなかったさ。ヘタしたら命の保証がない危険な賭けにのってくれた。まどかには心から感謝してるよ」
 そう言って振り返った杏子ちゃん。わたしを見つめる笑顔には神々しいまでに清らかさがありました。


暁美ほむら(1)

 美樹さやかのソウルジェムが近いうちに濁りきる事を予測していながら、わたしはなんの対処もできなかった。
 その事については罪悪感を覚える。でも、今となっては全てが手遅れだわ。
 魔女に成り果てた魔法少女を救う手立てはない。あるとしたら……魔女の体内にあるグリーフシードを取り出し、ソウルジェムに戻る事を願う事くらいだろう。
 魔法少女が条理を覆す存在とはいえ、絶望を希望に変えるような奇跡は万が一にも望めない。
 美樹さやかが災厄を振りまく存在でしかなくなった今、わたし達に与えられたのは「美樹さやかを倒す」という非情な選択肢だけだ。
 わたしは盾の中から手榴弾を取り出し、掴んだ掌の中で強く握りしめた。
 杏 子「ま、待ちな」
 ほむら「え?」
 杏 子「その……物騒な武器を……しまいなよ。あたしは……まだ……あきらめちゃいないぜ」
 ほむら「どういう事かしら」
 杏 子「もう一つ……切り札を……用意して……るんだ。さ、さやかを……殺すのは……それが……失敗してからにしてくれ」
 そんなバカな。この期におよんでなお、魔女になった美樹さやかを救えると信じているの。
 佐倉杏子、やはりあなたは純粋な心の持ち主ね。
 口では美樹さやかの行為を否定しながら、彼女自身も魔法は人を幸せにする力だと信じている。魔法少女の奇跡を信じている。
 いいわ、杏子。好きなようになさい。
 わたしはあなたを信じる。その切り札とやらに希望を託すわ。
 どんなに悲惨な結末を迎えようとも……。

 
佐倉杏子(3)

 頼むよ神様。これまでロクな事がなかった人生だ。せめて一度くらい、あたしの願いを叶えてくれよ。
 あたしは死んでもかまわない。どうせ悲しんでくれる仲間も友達も家族もいないんだからね。
 でもさぁ、さやかは違うだろう。
 こいつには家族がいる、友達がいる、尊敬する先輩もいる。あたしなんかとは違うんだよ。
 分(ぶ)が悪い賭けなのはわかってるけどさぁ、帰りを待つ人がいる純真無垢な女の子を救うくらいの慈悲はあるだろう。
 あたしの安っぽい命でよけりゃ……いいよ、くれてやるよ。
 だから、さやかだけは助けてくれ。頼むよ神様。
 杏 子「ま、まどかほむら。あたしが失敗したら……後の事は……頼むよ」
 まどか「きょ、杏子ちゃ~ん」
 ほむら「杏子」
 杏 子「さやかを……無事に……生還させられたらさぁ……もう二度と……バカな事を……しないように……言い……きかせなきゃね」
 最後まで他人の心配かぁ。あ~あ、やっぱり利己主義者にはなりきれなかったか。上っ面だけのメッキは剥げるもんだなぁ。
 さて、それじゃ最後の賭けに出るか。
 あたしは遥か彼方(かなた)さやかに向かって突進した。
 前後左右から無数の車輪が襲ってくるけど関係ない。もうすぐ燃え尽きる命だ。いくら体が傷ついてもかまうもんか。
 杏 子「これだけ暴れりゃ気が済んだろう。さぁ、そろそろ目を覚ましなよ。さやか


鹿目まどか(3)

 助走をつけた杏子ちゃんは槍を地面に突き立てて、反動を利用して高く宙へ飛び上がりました。
 その先には変わり果てたさやかちゃんの姿があります。
 杏 子「うあぁぁぁぁぁ」
 引き抜いた槍を右手に構え、杏子ちゃんは叫びながらさやかちゃんの胸元に狙いをさだめました。
 ガキィン。
 魔 女「ギャアァァァ」
 甲高い金属音とさやかちゃんの悲鳴が同時に聞こえました。
 杏子ちゃんが捨て身で放った槍の穂先が銀色に輝く魔女の甲冑を突き刺したのです。
 杏 子「さやか、許してくれよ」
 そう言う杏子ちゃんの声が聞こえた気がします。
 次の瞬間、突き刺さった槍は垂直に数メートル下がり、縦長の大きな傷跡を作りだしました。
 まどか「さやかちゃぁぁぁぁん」
 ほむら「自らの手で魔女になってしまった美樹さやかを抹殺する。それが杏子の切り札だったようね」
 まどか「そ、そんな……」
 ほむら「こうなってしまった以上、遅かれ早かれ美樹さやかは命を落とさなければならなかった。杏子の手にかかって死ねたのならば本望だったでしょうね」
 全てを諦めきってしまった感情のこもらない声でほむらちゃんが言いました。
 まどか「あんまりだよ、ひどすぎるよ。こんなのってないよ」


佐倉杏子(4)

 見えた。禍々しい輝きを放つグリーフシードだ。やっぱり胸元にあったか。
 清楚なさやかのイメージを残していた唯一の場所。それが赤いリボンの胸元だった。
 パックリと斬り裂かれた甲冑の奥で鈍く輝いている。
 あたしは左腕を伸ばしてグリーフシードを掴み、魔女になったさやかの体から槍を引き抜くと地面へ降り立った。
 杏 子「頼むよ、神様。奇跡を……一度でいいから奇跡を起こして下さい」
 神に祈りを捧げながら、あたしはもうポケットに入れてあった濁りのないグリーフシードを取り出し、さやかの「本体」ともいえるグリーフシードに近付けた。


美樹さやか(1)

 ボロボロのマント。切っ先の折れたサーベル。腹部から滴る鮮血。
 どこまでも広がる薄暗い空間を縦横にレールが走っている。
 わたし……何をしてたんだろう。ここは……どこだろう。
 必死になって記憶を辿るけど何も思い出せない。
 ???「さやか
 さやか「え?」
 どこからか、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。
 ???「それだけ暴れれば充分だろう。そろそろ戻ってこいよ」
 さやか「暴れれば充分? 戻ってこい? どう言う事よ」
 ???「あんたの居場所はここじゃない。さあ、みんなの所に戻ってこいよ」
 さやか「誰? 誰なの? どこにいるの?」
 ???「ほら、勇気を出して前へ踏み出すんだ」
 さやか「この声……まさか、杏子? あんた、佐倉杏子なの」
 ???「一歩前へ踏み出せ。全てはそれからだ」
 声の主は返事をしない。でも、これが杏子の声なのは間違いない。
 自分自身の為だけに魔法を使う利己主義な女。平気で人の首を絞めつける凶暴な女。
 以前のわたしだったら杏子の言葉なんか絶対に信じなかっただろう。
 でも、今は違う。
 あの焼け落ちた教会で彼女の本音を知ってから杏子への印象がガラリと変わった。
 自分の願いで家族を死なせてしまった罪悪感に悩み、その気持ちが杏子を利己主義者にしてしまった。
 彼女の本性は善人だ。困っている人を見捨てられない牧師の娘だ。
 ???「頼む、さやか。あたしを信じてくれ。信じて足を前に踏み出してくれ」
 わかったわ、杏子。あんたの言う通りにする。あんたを信じてみる。
 わたしは正眼に構えていたサーベルを下ろし、右足を大きく前へ踏み出した。


佐倉杏子(5)

 さやか「うぅぅぅん」
 ベッドの上に横たわるさやかの口から呻き声が洩れる。
 まどか「さやかちゃん」
 杏 子「さやか
 あたしとまどかは同時にさやかの名前を叫んだ。
 ほむら「そんな。まさか……」
 ほうらは驚きの表情でさやかを見つめている。まあ、無理もないか。あり得ない奇跡が実現したんだからな。
 杏 子「さやか。おい、さやか。起きろよ。さやか
 まどか「さやかちゃん、目を覚まして。ねえ、さやかちゃん。さやかちゃん」
 ほむら「美樹さやか、わたしの声が聞こえる? まどかも杏子もいるわ。わたしの声が聞こえるのなら目を開けなさい」
 あたし達は「さやかの生還」を期待しながら必死に呼びかける。
 頼む、さやか。目覚めてくれ。目を開けて、あたしの顔を見てくれ。


暁美ほむら(2)

 グリーフシードがソウルジェムに戻る。そんな奇蹟が実現するとは思わなかったわ。
 美樹さやかのグリーフシードから吸い出された穢れは杏子の持つ真新しいグリーフシードに移り、次の瞬間、さやか自身ともいえるグリーフシードがソウルジェムへと再生した。まさに奇跡とか言いようがない。
 いくつか気になる点はあるけれど、魔女になった魔法少女を救う一つの可能性が見つかったのは大きな収穫だわ。
 魔女になった魔法少女は呪いを振り巻く存在となり、いずれは魔法少女に倒されるしかない。
 魔法少女は魔女となり、魔女は魔法少女に殺され、その魔法少女もいずれは魔女になる。
 終わりなき悪循環。呪わしい因縁。これが魔法少女のシステムだと信じていた。千古不易の法則だと思っていた。
 実際、インキュベーターの知識にさえ「魔女を魔法少女に戻す方法」はなかったと言う。
 杏子の愛が奇跡を生んだのか、それとも条理を覆す魔法少女の存在が奇跡を呼び起こしたのか。
 いずれにしろ、グリーフシードがソウルジェムへと戻った事実に変わりはない。
 今は次の奇跡を信じ、美樹さやかの名前を呼び続ける事にしましょう。


美樹さやか(2)

 杏 子「さやか、目を覚ましてくれ。さやか
 まどか「さやかちゃん。ねえ、さやかちゃん。お願い、目を明けて」
 ほむら「美樹さやか。起きなさい、あなたを待っている人がいるのよ。早く目を明けなさい」
 耳元で聞き覚えのある声がする。
 目を覚ませですって? わかったわよ、起きるわよ。
 そんなに大声で怒鳴られちゃ寝てもいらんないわ。
 わたしが目を明けると見覚えある三人の顔が視界に入った。
 あたしを殺そうとした杏子がいる。
 涙を流して泣いているまどかがいる。
 そして、何かとウマが合わない転校生もいる。
 杏 子「さやかぁぁぁ」
 まどか「さやかちゃぁぁん」
 ほむら「目を覚ましたわ。もう心配はいらないようね」
 杏子、まどか、転校生が同時に話しかけてきた。
 なに? なんなの? 杏子、まどか、なんで泣いてるわけ?
 転校生も安堵の表情を浮かべてるし、わけがわかんないんだけど。
 状況が把握できず、わたしはベッドの上に半身を起こしたまま三人の顔を交互に見つめた。
 突然、杏子が泣きながら抱きついてきた。
 杏 子「さやかぁぁぁぁ」
 さやか「うわぁ、急に抱きつかないでよ」
 杏 子「良かった、無事で本当に良かった」
 さやか「無事で良かった? なんの事よ」
 まどか「さやかちゃん、今までの事を覚えてないの?」
 さやか「ま、まどか……」
 ほむら「佐倉杏子に感謝しなさい。魔女に成り果てたあなたを命懸けで助け出したのだから」
 さやか「魔女になった? 何よ、それ。どう言う事よ。詳しい話を聞かせてくれないかしら。転校生……ううん、暁美ほむら


佐倉杏子(6)

 これまでの一部始終を聞かされたさやかの顔色は真っ青だった。
 無理もない。自分の魂が宝石にされちまっただけでもショックなのに、その宝石が濁りきったら魔女になるなんてショッキングな事実を聞かされたんだからね。
 こんな話を聞いて驚かないヤツがいたらお目にかかりたいもんだよ。
 まあ、ほむらの話を聞いて取り乱さなかったのは立派だったと褒めといてやろう。
 さやか「なる程。それが魔法少女のカラクリ、Qべえの狙いだったわけね」
 ほむら「ええ、そうよ。あの忌々しい生物が集めているのは「魔法少女が魔女となった時に発生する絶望のエネルギー」。いずれ魔女になる事を見越し、あいつは世界中で魔法少女を増やしていたの」
 杏 子「Qべえのヤツに騙された哀れな犠牲者の一人があたしであり、ほむらであり、マミであり、あんたってわけさ」
 さやか「あんた、マミさんの事を知ってるの?」
 杏 子「ま、まあな。ちょっとした縁があったんだよ。ずっと前の事だけどね」
 一方的に弟子入りした挙句、ケンカ別れしたなんて恥ずかしくて言えねえよ。
 さやか「意外だわ。あんたとマミさんが知り合いだったなんて」
 杏 子「昔の話だよ。それよりもケガはないか。あんたの体は……ええと……そのぉ」
 さやか「なによ。どうしたの? 急に口ごもっちゃって」
 さて、ここんところをどうやって話そうか。まさか死体をホテルに持ち込んだなんて言えねえしなぁ。
 どうやって話を切り出そうか困っていたら、ほむらがテレパシーでアドバイスをしてくれた。
 ほむら『心配無用よ、杏子。美樹さやかの肉体は少し腐敗していたけれど、わたしの魔力を注入して修復しておいたわ。ソウルジェムも破損していないようだし、あなただってホテルへ死体を持ち込んだ事は話したくないのでしょう。ここは余計な口出しをせずに黙っていなさい。どうして自分が見知らぬホテルにいるのか聞かれたら、その時はわたしがフォローするわ』
 杏 子『そ、そうか。なんだかんだ言って、意外と気がきくんだな。サンキュー、ほむら
 あたしは素直に御礼を言った。興味なさそうな顔をしているけど、実はイイヤツらしい。あるいはツンデレだったりして。
 杏 子『そう言えばさぁ、あたしがさやかのソウルジェムに魔力を分け与え過ぎてヘバっちまった時、あたしに貴重な魔力を分けてくれたよな。その御礼、まだ言ってなかったね。ありがとうよ、ほむら
 ほむら『礼には及ばないわ。わたしは佐倉杏子という戦力を失いたくなかっただけよ。現時点の美樹さやかでは共闘戦力にならないでしょうし、巴マミも「ワルプルギスの夜」襲来前に退院できるか危うい。あれは戦力確保の止むを得ない行動だったのよ。もしも恩義に感じているのなら、来るべき戦いで成果を見せて頂戴』
 杏 子『相変わらずトゲのある言い方だな。まあ、あんたに借りができたのは事実だ。この恩は利子をつけて返してやるよ。借りっぱなしは性に合わないんでね』


【第二部 未来を信じて】


 幸いにも、さやかは魂を失った自分の肉体が見知らぬホテルに持ち込まれ、そこで蘇生した事を疑問には思わなかった。
 杏子が差し出したグリーフシードでソウルジェムの穢れを除去した後、さやかは杏子と連れだってホテルを出た。
 時刻は午前1時を過ぎている。無断外出した中学生の帰宅時間としては遅すぎるが仕方ない。
 ほむらまどかのエスコート役を申し出たので、必然的に杏子がさやかのエスコート役を務める事になった。
 こんな時間に制服姿の女子中学生が正面ロビーから堂々と外へ出て行くわけにもいかず、四人は非常階段を使って階下へ降り、どうにか受付の係員に見とがめられずホテルから抜け出した。

 道路を走る車の数は少なく、人通りも途絶えた深夜の見滝原市。
 ホテルを出た杏子とさやかは娘の失踪で大騒ぎしているであろうさやかの自宅へと歩を進める。
 杏子が前を歩き、その後にさやかが続く。
 杏子達がQべえの口からソウルジェムの真実を聞かされた因縁の歩道橋まで来た時、不意にさやかが口を開いた。
 さやか「悪いわね、迷惑かけちゃって」
 杏 子「気にすんな。どうせ気楽な一人暮らしだ」
 さやか「あんたにとって、わたしは目障りな存在だったんでしょう。それなのにどうして助けてくれたの?」
 杏 子「あんたが大事な友達だから助けた。この答えじゃ不満か?」
 さやか「と、友達……」
 夜の闇を煌々と照らす街頭の下で足を止め、杏子は後ろを振り返りながら言った。
 杏 子「友達を助けるのに理由(わけ)なんていらないだろう」

 杏 子「さあ、着いたぜ。懐かしの御自宅に」
 さやか「う、うん……」
 杏 子「帰りづらい気持ちは分かるけどさぁ、いつまでもボケッと立ってるわけにはいかないだろう。ほら、勇気を出しなよ」
 さやか「そう気軽に言わないでよね」
 杏 子「あんたの事を心配してる両親がいるんだ。帰りを待ってくれてる人がいるのに帰りたくないなんて言ったらバチが当たるぜ」
 さやか(そうだ。杏子は帰りを待ってる人も帰るべき家もなかったんだ。それなのに、わたしの事を心配して……)
 杏 子「あ~、もう。じれったいなぁ。グズグズしてたって時間が過ぎるだけだよ。遅くなれば遅くなっただけ怒られるんだ、こうなったら覚悟を決めるしかないって」
 さやか「そうだね。杏子の言う通りね」
 杏 子「やっと分かってくれたか」
 さやか「プチ家出と深夜の帰宅。た~っぷりとお説教されてくるわ」
 おどけたような口調でさやかが言った。杏子の言葉で帰宅を躊躇う態度が吹っ切れたらしい。
 そんなさやかの様子を見た杏子は安心したように微笑を浮かべた。
 さやか「今日は……いろいろとありがとう。改めて御礼はさせてもらうわ」
 杏 子「気にすんなって。それより、明日にでもまどかに詫び入れておけよ。あの子、さやかの事を随分と心配してたんだ」
 さやか「わかってる。ホテルでは言えなかったけどさぁ、あの夜の事はちゃんと謝ろうと思ってるんだ。だから心配しないで」
 杏 子「そうか」
 さやか「じゃあね。おやすみなさい」
 杏 子「おやすみ」

 マンションのエントランス・ホールを抜け、さやかは奥にあるエレベーターへ乗り込んだ。
 それを見送った杏子はホットパンツのポケットに両手を入れ、もときた道を宿泊先のホテルへ向かって歩き始める。
 杏 子「やれやれ、とりあえずは一安心だ。まったく、世話がやける正義の味方だなぁ」

 さやかが見滝原中学校の正門を出たのは午後5時過ぎだった。
 二日間の無断欠席について学年主任や担任教師から厳しく叱られ、1時間近く学校に居残っていたのだ。
 桜並木の通学路に出た時、太い桜の木陰から杏子が姿を現した。
 杏 子「よう」
 さやか「きょ、杏子」
 杏 子「ずいぶんと遅かったじゃないか。居残りか?」
 さやか「そうよ。無断欠席の事でお説教されてたの」
 杏 子「その様子じゃ、かなりキツイ説教だったみたいだね」
 さやか「まあね。新学期すぐに学校を二日も休んだうえ、家へも帰らなかったんだから仕方ないわ」
 自虐的な微笑を浮かべながら、さやかは言葉を続けた。
 さやか「魔法少女も楽じゃないわねぇ。普段の生活を維持しながら、並行して魔女退治もしなきゃいけない。正義の味方って辛いわ」
 杏 子「それを承知でQべえと契約したんだろう。だったら文句を言わないの。正義の味方にグチは似合わないよ」
 さやか「グチるつもりはないけどさぁ。あ~あ、やっぱりマミさんは偉大なんだなぁ。一人で生活しながら魔法少女としても頑張ってるし、成績も学年トップ。わたしみたいな凡人にはマネできないスーパーガールぶりだわ」
 杏 子「あいつは特別だよ。才能があって努力もしてる。それだけ自分の使命に責任を感じてるんだろうけどね」
 さやか「あんたとマミさんと知り合いなんでしょう。どういう関係なのよ」
 杏 子「まあ、腐れ縁とでも言っておこうかな。あんたが一人前の魔法少女になったら教えてやるよ」
 さやか「焦らすわねぇ。別にいいわよ、教えてくれなくても。マミさんから聞けば済む事だし」
 杏 子「おい、それはフェアじゃないぞ」
 さやか「フェアもアンフェアもないでしょう。あッ、そうだ。明日にでも、まどかほむらに聞いてきてもらお~っと」

 シャルロッテとの戦いで負傷した巴マミは県立の中央病院に入院しており、半月の病院生活を送っている最中であった。
 一瞬の油断から首を食い千切られたものの、髪飾りとして着用していたソウルジェムは破損せず、頭部を噛み砕かれる前にほむらの援護攻撃でシャルロッテを倒せたのが幸いして死に至る事はなかった。
 まどかさやかも「マミの魂がソウルジェムに変えられている」事実を知らなかった為、魔力による治癒だけでは不安だと思って短期入院を勧めたのだ。
 マミ自身もソウルジェムの真実をQべえから聞かされておらず、大事を取る意味から二人の申し出を受け入れ、亡父の学友が院長を務める県立の中央病院へ傷ついた身を預けたというわけである。

 杏 子「そう言えば、お仲間の二人はどうしたんだよ。一緒じゃないのか?」
 さやか「まどかほむらは病院よ。マミさんのお見舞い」
 杏 子「さやかは行かないのかよ」
 さやか「行きたくても行けないわ。学校では一ヶ月間の居残り命令、家では学校からの直帰と夏休みまでの外出禁止命令。魔女から魔法少女に戻った代償は高かったわ」
 杏 子「その程度で済めばいいじゃん。魔法少女に戻れないまま死んでいったヤツもいるんだ。生きてる事に感謝しなきゃ」
 自分の浅はかな発言に気づいたさやかは顔を俯け、溜息をつきながら言った。
 さやか「……うん。そうだね。生きたくても生きられなかった子だって大勢いたんだもんね。あんたに助けてもらった命、大事にしなきゃ」
 杏 子「さやか……」
 さやか「これからも世の中の平和を守る為、さやかちゃんは頑張っちゃいますよ~」
 杏 子「頑張るのもいいけどさぁ、一ヶ月の外出禁止を言われてるんだろう。まさか、正義の味方のくせして泥棒みたいに窓から出入りするのか?」
 さやか「う、うるさいわね。余計なツッコミを入れるんじゃない!」

 夕闇迫る大通りを二人は無言で歩いていた。
 杏子の泊まるホテルはさやかの住むマンションとは反対方向にあるが、さやかは同行する杏子に対して何も言わない。
 杏 子「頑張るのもホドホドにしておきなよ」
 間もなくマンションに着こうという頃、それまで黙っていた杏子が口を開いた。
 さやか「え?」
 杏 子「もう誰かの為に頑張らなくたっていいんだよ。あんたはあんたの為に頑張ればいい」
 さやか「きょ、杏子……」
 杏 子「他人を守る為に魔女と戦う。その心構えは立派だよ。でもさぁ、世の中ってヤツは綺麗事だけじゃ生きていけないんだ」
 さやか「……」
 杏 子「苦しい時は苦しいって言えばいい、辛い時は辛いって言えばいい。頑張りきれなくなったら遠慮しないで助けを求めなよ。その時はあたしが力になってやるからさ」
 さやか「あ、ありがとう」
 杏 子「あんまり気張り過ぎるなよ。正義のヒロインさん」
 さやか「……やっぱり、あんたってイイ奴だったんだね。いろいろ誤解しててゴメン」
 杏 子「き、気にすんなよ。あたしだって……あんたの事を誤解してたんだから」
 さやか「あんたとの出会いは最悪だったけどさぁ」
 そこで言葉を区切り、さやかは杏子の顔を見つめながら続きの一言を口にした。
 さやか「杏子とは良い友達になれそうな気がするわ。これからもよろしくね」
 さやかは屈託のない笑顔で右手を差し出し、一瞬後、はにかんだ表情を浮かべながら杏子を右手を差し出した。
 杏 子「こっちこそ」
 固い握手を交わす二人。その横顔を日没の残効が赤く照らした。

 希望を信じる聖女の願いが奇跡を起こし、魔女になってしまった一人の少女を救った。
 正義と平和を願う聖女の想いが奇跡を起こし、絶望に蝕(むしば)まれた魂が救われた。
 佐倉杏子と美樹さやか
 奇跡が生んだ運命の交叉により、二人は強い絆で結ばれる事となった。
 この後、杏子とさやかは戦線復帰した巴マミをリーダーにする『美滝原魔法少女』のメンバーとなって正義の刃を奮うようになるのだが、それはまた別の物語なのである。


【あとがき】
 原作アニメ第9話のif物語は以前から書いていみたいテーマでしたが、グリーフシードになったソウルジェムを元に戻す方法が思い浮かばず、その点に頭を悩ませながら先延ばしにしていました。
 しかし、シノ氏がpixivへ投稿した漫画「「だから私たちはそれを紡ぎ戦う」」で素晴らしい解決法が提示されており、おかげ様で最大の難関が突破できました。
 本作が完成したのもシノ氏の素晴らしいアイディアに助けられた為であり、この場を借りてシノ氏に厚く御礼申し上げます。
 マミさんの生存理由については『鹿目まどかと愉快ななかまたち』(著者:杜講一郎,さくらあかみ/発行:GUNP)を、生存さやかと杏子の帰宅シーンは『ロマンと呼ぶには熱すぎて』(著者:ジャム王子/発行:ジャム王国)を参考にさせて頂き、作中の日時設定は「魔法少女まどか☆マギカ WIKI」内のコンテンツ「作中のタイムテーブル」を参照しました。
 この他、めそめそ氏のイラスト「なんで」、キサラギウサギ氏のイラスト「幸せな夢を」、しぃな氏の漫画「たとえ話」からも多大な影響を受けました。
 同人誌の発行に関わった方々、タイムテーブル作成者、pixivへの作品投稿者御三方。以上の皆様に記して感謝致します。
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新 京史朗

Author:新 京史朗
好きな技(1):バスター技
好きな技(2):股裂き関節技
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