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2017-10

「魔法少女まどか☆マギカ Another」  Girl meets Girl

【はじめに】
 約三週間ぶりの更新です。諸事情から放置状態となってしまい、年末年始にかけて予定していた計画が大幅に狂ってしまいました(もちろん、それらの計画を放棄した訳ではありません)。
 今回の「魔法少女まどか☆マギカ」二次創作SSもpixiv先行アップ作品「Heartful Night」(2011年12月14日13時45分付)の再掲載(リンクを設定して記した末尾の一文「⇒「「魔法少女まどか☆マギカ Another」  Heartful Night」へ続く。」はブログ掲載版での加筆となりますが……本文の内容はpixiv版と全同です)であり、本格的な更新再開とは言えませんが……。
 気がつけば累計アクセス数が50,000Hitを超えており、達成日時さえチェックできませんでした。
 更新頻度は下がってもブログを閉鎖する事は考えていませんので、今後も当ブログをよろしく御愛顧頂ければ幸いです。


Prologue:決別

 満月が照らす静寂な深夜の裏路地に二つの人影があった。
 マ ミ「さ、佐倉さん……。どう……して」
 うつ伏せに倒れた金髪の少女が自分を見下す赤髪の少女に向かって弱々しい口調で語りかけた。その傍らには真っ二つに切断された一丁のマスケット銃が転がっている。
 月を背後に仁王立ちする少女の右手には巨大な槍が握られており、彼女は勝者の余裕を見せつけながら言い放った。
 杏 子「あんたの青臭い正義論は聞きあきたよ。これからは自分なりのやり方で魔女狩りを続ける。狙うのは魔女だけだ。使い魔に見知らぬ他人が喰われようと知ったこっちゃねえ。弱い奴が強い奴に食われるのは自然の摂理。使い魔との戦いで無駄に魔力を消費したり、手に入るグリーフシードの数を自分から減らすようなバカなマネをしたり、あんたの間抜けな行動にはウンザリだ」
 マ ミ「でも、使い魔を放っていたら……誰かが殺されるのよ。あなたは……それを見捨てておけるの」
 杏 子「他人の事なんて知るか。この世は弱肉強食。あんたがあたしに負けたのも弱肉強食という摂理の縮図なんだよ」
 マ ミ「どうして……そんな事を言うの。一緒に戦ってくれた……佐倉杏子は……どこへ行ってしまったの」
 杏 子「昔の事をウジウジ言ってんじゃねえよ、見苦しい。あたしはグリーフシードが手に入ればいいんだ。使い魔狩りなんかバカらしくてやってられるかよ」
 マ ミ「待って……。佐倉さん……」
 杏 子「あばよッ、マミ。あんたとは今日でお別れだ。今まで世話になったな。あたしは自分の町で魔女狩りを続ける。あんたの領域(シマ)には手を出さねえから安心しな。それがせめてもの情けだ」
 言うだけの事を言うと赤い髪の少女は両脇に聳え立つビルの外壁を利用しながら夜空へと消えて行った。
 マ ミ「佐倉さん。せっかく……わかりあえたと思ったのに……。どうして……」
 あとに残された金髪の少女は涙を流しながら呟いたが、その涙が敗北の悔し涙か、相手を説得できなかった不甲斐ない自分を責める悔恨の涙か、それは自分自身にもわからなかった……。
 時を同じくして、最善までの戦いをビルの屋上から見ていた黒い影が感情のない声で言った。
 Qべえ「昨日の友は今日の敵。まさかマミと杏子二人が袂を分かつ事になるなんて……。まあ、僕はグリーフシードを回収できれば彼女達の関係が壊れようと関係ないけどね」

 昨夜の戦闘は一方的な敗北だった。思い出しても自分ながら情けない敗北だと思う。
 わたしにマスケット銃を撃たせる余裕を与えず、佐倉さんの槍は殺気に満ちた攻撃で容赦なく攻めてきた。
 彼女の操る槍はまるで生きているかのように変幻自在な動きを見せながら、わたしの両腕を斬りつけ、両足を突き刺し、脇腹を貫き、右頬を斬り裂く。
 背筋も凍る様な形相で襲いかかる佐倉さんの姿に恐怖し、わたしは反撃もできないまま地面に倒れ伏した。
 そして去り際に言い放った一言。
 マミさんと呼んで慕ってくれた佐倉杏子はいない。互いに背中を預けて使い魔や魔女と戦った佐倉杏子はいない。
 いったい何があったの。何があなたを変えてしまったの。もう二度と分かりあえる事はないの。
 あなたが戻ってきてくれるのならば、わたしはいつでも笑顔で迎え入れるわ。
 だから……戻ってきて。佐倉さん……。

 なにが魔法少女だ。なにが希望だ。なにが奇跡の魔法だ。
 希望を祈れば同等の絶望が撒き散らされる。こんな簡単な事に気づかなかったなんて……あたしは世界一の大バカだよ。
 使い魔に襲われる人を助ける? 魔女に襲われる人を助ける?
 自分の家族さえ守れないヤツに他人を守る資格なんてない。 
 もう二度と他人(ひと)の為に魔法を使ったりしない。この力は自分の為だけに使い切る。
 マミさん、今まで世話になったね。でも……もうお別れだ。
 あたしは自分の信念に従って生きて行くよ。あなたと同じ道は歩けない。
 ……ごめんね、自分勝手な女でさぁ。バカな弟子の事は忘れてくれ。


Chapter1:心配

 杏 子「これで終わりだよッ」
 勝ち誇った杏子の声と同時に鋭い槍の先端が魔女の脳天を貫いた。
 魔 女「ウオォォォォン」
 不気味な断末魔の悲鳴をあげ、魔女の体は黒い霧となって四方に散る。
 コロンッ。
 魔女の姿が消えた後には球体を串で刺し貫いたような物体が落ちていた。グリーフシードだ。
 同時に魔女の結界が解除され、白い壁で囲われていた空間が見慣れた夜の町の景色に変わる。
 杏 子「一丁あがり。チョロイもんだ」
 グリーフシードを拾いながら杏子は変身を解除した。
 杏 子「どうだ、マミさん。あたしの……」
 言いかけて杏子は口を閉じた。視線の先には誰もおらず、彼女の言葉に耳を傾ける者はいない。
 杏 子「そうだ。あたしは独立したんだった。駄目だなぁ、こんなんじゃ」
 苦笑しながらグリーフシードをパーカーのポケットに投げ入れ、ホットパンツのポケットに両手を突っ込みながら夜の道を歩き出す。
 杏 子「あれだけ啖呵をきったんだ。今さらマミさんを頼るわけにはいかない。あたしは……あたしの信じる道を進むだけだ」

 魔女探索パトロールから帰ったマミは久しぶりに会ったQべえから信じられない話を聞かされた。
 Qべえの話によれば、佐倉杏子の父親は発狂した挙句に妻と妹娘を教会奥の懺悔室で殺害し、自らは首を吊って自殺したのだと言う。
 佐倉神父の付け火によって自宅は全焼。教会は外壁と屋根を焼きながらも半焼で済み、三人の遺体は辛うじて火葬を免れたらしい。
 マ ミ「なんですって」
 Qべえ「急に大きな声を出さないでくれるかなぁ。ビックリするじゃないか」
 マ ミ「大きな声も出したくなるわよ。まさか……佐倉さんの家族が一家心中しただなんて……」
 Qべえ「その言い方は正確じゃないね。佐倉杏子だけは助かっているんだから」
 マ ミ「そ、それはそうだけど……」
 Qべえ「彼女は学校へ行っていたから難を逃れたんだ。でも、一人だけ生き残った事で心のバランスを完全に崩れてしまったらしい」
 マ ミ「それはいつの事?」
 Qべえ「5日前さ。ローカル放送のニュースや新聞の地方欄で大々的に報道された筈だが知らなかったのかい?」
 マ ミ「ええ、気がつかなかったわ」
 Qべえ「杏子は焼け残った教会で暮らしているらしい。この事があってからは学校へも行かずに魔女狩りを続けているようだ」
 マ ミ「この季節に焼け跡で暮らすのは辛いでしょうね。可哀相だわ」
 Qべえ「夜も段ボールと新聞紙の布団で寝ているみたいだよ」
 マ ミ「……」
 Qべえ「杏子の今の生活レベルは別として、一家心中に生き残った絶望で魔女とならなかったのは不幸中の幸いだった」
 マ ミ「いいえ、彼女の心は魔女になってしまったわ。わたしの言葉も届かなかった……」
 Qべえ(おっと、つい口が滑ってしまった。「魔女にならなかった」と言う言葉をマミが抽象的な意味に受け取ってくれて助かった)
 マ ミ(そう言えば佐倉さんの態度が豹変したのは4日前だったわ。その前日はパトロールに来なかった。まさか、そんな不幸があっただなんて……)
 Qべえ「これまでマミと杏子の家を往復する形で世話になっていたけど、よかったら今日からマミの家に住まわせてくれないかな?」
 マミの胸中を知ってか知らずかQべえは厚かましくも事実上の同居を願い出た。
 マ ミ「え? わたしの家に住みたい? あなたが?」
 Qべえ「うん。マミは毎日パトロールを欠かさないだろう。それだけに使い魔や魔女と出会う確率も高い。杏子に代わるサポーターとして僕を飼っておくのも悪くないんじゃないかなぁ」
 メチャクチャな理屈だが素直なマミはQべえの言葉を疑いもせず聞きいれた。
 マ ミ「そうね。佐倉さんがいなくなった今、Qべえにサポート役をお願いするしかないわね。わたしも一人前の魔法少女とは言えないし……」
 先日の苦々しい敗北がマミの脳裏をよぎる。
 マ ミ(あの時の相手が魔女だったら確実に命を落としていた。経験不足を補う為にも場数を踏まないと)
 Qべえ「よし、交渉成立だ。今日からよろしく頼むよ、マミ」
 マ ミ「よろしくね、Qべえ」
 笑顔で言いながらもマミは心の中では別の事を考えていた。
 マ ミ(Qべえの情報網ならば佐倉さんに関する情報をリアルタイムで得られるかも知れない。その意味でもQべえとの同居は得策だわ)

 杏子がマミのもとを去ってから数日後。
 その夜も杏子は真紅のコスチュームに身を包み、一人で魔女と戦っていた。
 横に払った槍の穂先が魔女の胴体を見事に切断。致命傷を負った魔女は黒い霧となって消滅した。
 杏 子「へッ。やっぱり狩るなら魔女に限るぜ。グリーフシードを持っていない使い魔と違って見返りがある」
 口では魔女狩りを楽しむ言葉を発しているが、その心中は言葉にできない嫌な気分に覆われている。
 杏 子(せっかくグリーフシードを手に入れたってぇのに……。チッ。なんだ、この胸クソの悪さは)
 魔女の正体が絶望に浸りきった魔法少女の末路である事を杏子は知らない。それでいながら潜在的な感覚によって「かつての魔法少女」を消滅させている自分の行動に罪悪感を抱いているのだろうか。それは誰にもわからない謎であった。
 妙な不快感を覚えながらも変身を解除し、杏子は再び闇の彼方へ消えて行く。

 マ ミ「!」
 深夜のパトロール中、マミは全身の毛が逆立つような恐怖を感じた。恐怖で足は震え、長袖の下の細い腕には鳥肌が立った。
 Qべえ「マミ、きみも感じたかい?」
 マ ミ「ええ。物凄いプレッシャーだわ」
 Qべえ「この魔女は手強(てごわ)そうだね。戦闘経験豊富なベテラン魔法少女でも苦戦は必至かも知れない」
 マ ミ「……」
 Qべえ「幸いにも魔力の発信源は隣町だ。あの魔女は佐倉杏子が対処するだろう。僕らには関係のない事さ。さあ、パトロールを続けよう」
 マ ミ(佐倉さん……)
 見滝原市に隣接する新房町(しんぼうちょう)は杏子のテリトリーだ。もしかしたら、規定外の魔力を発する魔女と一人で戦っているかも知れない。
 マ ミ「Qべえ、肩から降りて頂戴。新房町へ行くわよ」
 Qべえ「えッ、新房町へ行くのかい? よした方がいいと思うよ。下手をしたら佐倉杏子から領域侵犯で攻撃されるかも知れない」
 マ ミ「テリトリーなんか関係ないわ。ここまで魔力を感じさせる魔女が相手なのよ、佐倉さんでも勝てる保証はないわ」
 そう言うとマミは呆れ顔のQべえを肩から放り投げ、ソウルジェムで魔力の根源を探りながらマミは新房町を目指して走り出した。
 マ ミ(佐倉さん……。わたしが行くまで無事でいてね)
 数日前に絶縁宣言をされたにも関わらず、マミは短い時間を共に過ごした大切な友人の安否を気遣いながら夜の市内を疾走する。
 路上に投げ捨てられたQべえはマミの後ろ姿を見送りながらポツリと呟く。
 Qべえ「まったく、自分を見捨てた相手を助けに行くだなんて……。訳がわからないよ」


Chapter2:戦闘

 マミが新房町を目指して急いでいる時、杏子は『自転車の魔女』を相手に苦戦を強いられていた。
 自転車と一体化した少女。その背中には赤いランドセルが背負われている。
 ランドセルの中から次々と発射される自転車の車輪は四方八方から杏子を襲い、彼女に防戦一方の戦いを余儀なくさせていた。
 マ ミ「チッ。目障りな車輪だなぁ。斬っても斬ってもキリがねえ」
 ズシャッ。ズシャッ。
 そう言いながら新たに二つの車輪が破壊され、原型を留めない残骸が結界内の地面に落ちる。
 この魔女は「自転車に乗れるようになりたい」と願った少女の末路だった。
 少女は遠距離通学の為に自転車登校を認められていたが補助輪なしでは乗れず、その事をバカにされて落ち込んでいる時にQべえと出会って契約をしたのだ。
 その願いが叶えられた翌日、登校途中の少女は信号無視で暴走してきた酔っ払い運転の自動車と正面衝突。辛うじて一命は取り留めたが両足麻痺の後遺症を遺してしまった。
 不幸な事故を嘆き悲しんだ末、未来に絶望した少女は車椅子のまま病院を抜け出して夜の町を彷徨い、とうとう『自転車の魔女』になってしまったのである。
 強すぎる憎悪の念によって尋常ではない魔力を持った魔女となってしまい、彼女が発する魔力の波紋は見滝原市内にまで届いた。
 杏 子(こいつ……マジで強い。あたし一人じゃ勝てないかも知れないなぁ。もしかしたら、ここで死んじまうかも……)
 強大な魔力を察知したマミが救援に向かっている事を夢にも知らない杏子は予想外の強さを誇る敵に恐怖を感じ始めた。
 魔 女「ウィキキキィィィィ」
 不気味な魔女の鳴き声が結界中に響き渡った次の瞬間、ランドセルから無数の車輪が飛び出して杏子の体を取り囲んだ。
 ゴムタイヤにガラス片が埋め込まれた車輪は木材切断用の電動ノコギリを思わせる。
 杏 子「やべえ、囲まれた」(チッ、これで終わりか。あんなガキなんか助けるんじゃなかった。なんだかんだ言いながら他人の為に命を落とす事になるなんてなぁ。偉そうな説教こきながら、こんな死に方するなんて情けない。これじゃ、マミさんに顔向けできねえや)
 心の中で自分の行動を自嘲した杏子は自分を取り囲む車輪の群れを見ながら死を覚悟した。
 杏 子(あのガキにモモの面影(おもかげ)を見たとはいえ無茶したなぁ)
 最初は杏子も『自転車の魔女』と戦う気はなかった。
 しかし、ひょんな偶然から異常な魔力を感じさせる魔女の結界に自ら飛び込むハメになってしまったのだ。
 その偶然とは……。

 マ ミ「ソウルジェムの反応が強くなってきたわ。どうやら魔女の結界が近づいてきたようね」
 Qべえ「マミ、本当に佐倉杏子を助けるのかい?」
 マ ミ「当たり前でしょう。同じ魔法少女の友達を見殺しにするなんてできないわ」
 Qべえ「でも、杏子はマミに容赦なく刃を向けてきた。きみだって全身をズタズタに傷つけられたじゃないか。そんな相手なのに助けてやるのかい?」
 マ ミ「……。ええ。刃を交えた相手でも佐倉さんは大切な友達よ。見捨てるなんてできないわ」
 Qべえ「マミは心が広いんだね」
 マ ミ「彼女は迷っているのよ。自分の願いが家族に不幸をもたらした事、最愛の家族を失った事、自分だけが生き残った事。悲しみの捌け口が見つからず、それを怒りに変える事で自分自身を納得させているんじゃないかしら? ぶつけ所のない悲愁と憎悪から佐倉さんは利己主義者に徹しようと決め、わたしから離れる決意をしたのだと思うわ」
 Qべえ「マミの言葉は抽象的で意味が理解できないなぁ」
 マ ミ「うまく言葉では説明できないわ。感情の機微に関する事ですもの」
 Qべえ「ふ~ん。ぼくには感情がないからマミと杏子の衝突した理由は永遠に理解できないかも知れないね」
 マ ミ「そのようね」(待っていて、佐倉さん。すぐに行くわ)

 ???「ヒック。ヒック」
 どこからか幼い子供のすすり泣く声が聞こえてきた。
 杏 子「ん? ガキが泣いているのか?」
 周囲を見回すと曲がり角の向こうで10歳くらいの少女が泣いていた。
 杏 子「こんな時間にガキ一人放っておくなんて……。最近の若い親は常識がねえなぁ」
 街頭まばらな裏道。夜も10時を過ぎた時間に小学生らしき少女が泣きながら立っているなんて尋常じゃない。
 ブツブツ言いながらも杏子は泣いている少女に近寄って声をかけてやった。
 杏 子「おい。どうしたんだ」
 少 女「パパとママが……ヒック」
 杏 子「親父とおふくろが近くにいるのか?」
 少 女「ううん」
 杏 子「近くにいないのか。チッ。こんな場所に子供を放っておくなんて信じらんねえな」
 少 女「喰べられちゃった……ヒック……の」
 杏 子「はぁ? 喰われた? お前の両親が?」
 相手の言葉を確かめるように杏子は反復しながら質問した。
 少 女「うん」
 杏 子「誰に?」
 少 女「真黒い影が……ヒック……パパとママを……ヒック……食べちゃったの」
 泣きながら訴える少女の顔を見ているうち、杏子の脳裏に死んだ妹の幻影が浮かんできた。
 杏 子(モモと似たガキだな。年も同じくらいかなぁ)
 ゾクッ。
 そう思った次の瞬間、杏子の背中を悪寒が駆け抜けた。
 杏 子(凄いプレッシャーだ。この感覚は魔女だな)
 そう思った次の瞬間、杏子は闇の向こうから魔女の結界が迫って来るのを感じた。
 杏 子(なるほど。魔女に喰われちまったんだな。このガキが無事って事は現実世界(こっちの世界)で襲われたのか……。なかなかのプレッシャーだが勝てない相手じゃなさそうだ。一狩りしていくか)
 僅かな時間で思考をまとめた杏子は傍らで泣き続ける少女に言う。
 杏 子「わかったよ。お前の両親を喰った憎い相手はあたしが退治してやる」
 少 女「お、お姉ちゃん」
 杏 子「お前は走って逃げろ。この路地を抜けた先にコンビニがある。そこで待ってな」
 少 女「で、でも……」
 杏 子「早く行け。グズグズしているとお前まで喰われるぞ」
 少 女「う、うん」
 杏子に叱咤された少女は後ろを振り向く事なく言われた通りに走り出した。
 まさにタッチの差であった。数秒後に魔女の結界は杏子を取り込んだが、少女は射程距離外へ取り逃してしまったらしい。
 杏 子「なんてプレッシャーだ。ゾクゾクさせやがる。まあ、結界に取り込まれたんだから戦うしかねえな」
 そう言いながら杏子は魔法少女の姿に変身した。
 このような経緯があり、図らずも杏子は『自転車の魔女』と戦う事になったのである。


Chapter3:再会

 ザシュッ。
 杏 子「うわぁぁぁぁ」
 右腕の皮膚を切り裂かれ、杏子は悲鳴をあげながら槍を落とした。
 ガシャン。
 杏 子「しまった。槍が……」
 ザシュッ。ザシュッ。ザシュッ。ザシュッ。ザシュッ。
 杏 子「あぐッ」
 凶器と化した車輪は容赦なく杏子の全身を切りつけ、下腹部、左の太腿、右脛、右頬、左脇腹の皮膚を切り裂いた。
 赤いコスチュームが裂け、傷ついた皮膚からはポタポタと真っ赤な血が滴り落ちる。
 華麗なステップによる対応で致命傷を負うには至らないが杏子が受けたダメージは決して小さくない。
 しかも、足を傷つけられたうえ、頼りとする武器を落としてしまったのだから状況は最悪である。
 杏 子「くそッ。足をやられちまった……。これじゃ満足に動けない」
 魔 女「キシャアァァァ」
 甲高い魔女の奇声と同時に車輪が再び杏子の周囲を取り囲む。どうやら次の攻撃で弱った魔女少女を仕留めるつもりらしい。
 思うように足が動かない杏子は逃げる事を諦め、その場に座り込んだ。
 杏 子「これまでか。あ~あ、しけた人生だったなぁ。こんな死に方するなんて」
 魔 女「ウィキィィィィ」
 まるで「殺せ」と命令するかのような魔女の声。その声に従って車輪が一斉に襲いかかってきた。
 杏 子「マミさん……。さよなら」
 目を閉じて覚悟を決めた杏子が呟いた時……。
 マ ミ「フルオープン。ファイアァァァ」
 杏 子「こ、この声。もしかして……」
 聞き覚えのある声にハッとした杏子が目を開けると、空中に浮かんでいた無数の車輪は後方から飛んでくる数えきれない程のエネルギー弾に撃ち落とされ、その残骸を地面に積み上げていた。
 杏 子(この攻撃はマスケット銃の大量召喚による一斉射撃。マミさんが来てくれたのか?)
 魔 女「キキィィィィ」
 マ ミ「あなたの負けよ。大切な友人を傷つけた罪は重いわ、覚悟しなさいッ!」
 声のする方を見ると、空高くジャンプしたマミが大砲を思わせる大きな銃で魔女を狙っていた。
 マ ミ「ティロ・フィナーレ」
 ドオォォォン。
 銃口から発射された巨大なエネルギー弾が魔女の腹部を貫く。
 魔 女「ウロロォォォン」
 不気味な断末魔の悲鳴を遺した魔女の体はエネルギー弾に包み込まれ、その数秒後に消滅した。
 コロン。
 グリーフシードの落下と共に結界が解除され、杏子とマミは現実世界へ無事に帰還できた。
 マ ミ「佐倉さん。もう大丈夫よ」
 杏 子「マミ……さん」
 マ ミ「あらあら、こんなに傷ついて。ちょっと待っていなさい」
 そう言いながら杏子に近づき、傷口に手をかざした。
 マミの手許が淡く光り、パックリ裂けていた傷口を信じられない早さで塞いでいく。
 マ ミ「はい、治療終了」
 杏 子「あ、ありがとう」
 一方的に見捨てた相手が自分の窮地を救ってくれたうえ、傷まで治してくれた。その現実が信じられない杏子は御礼を言うのがやっとだった。
 Qべえ「はい、マミ。さっきの魔女が落としたグリーフシードだ。ろくに電灯もない路地だから探すのに苦労したよ」
 マ ミ「御苦労様」

 変身を解除したマミはグリーフシードを差し出しながら杏子に言った。
 マ ミ「これはあなたの物よ。受け取りなさい」
 トドメを刺したのが自分であるにも関わらず、マミはグリーフシードの所有権を当然のように杏子へ譲った。
 思いもよらない申し出に困惑した杏子だが、自らも変身を解除するとマミに向かって短く言い放つ。
 杏 子「いらねえよ」
 マ ミ「え?」
 杏 子「いらねえよ。魔女を倒したのはマミさんだろう。だから……それは受け取れない」
 マ ミ「ううん。わたしは最後の美味しい所を持っていっただけ。これは佐倉さんの物よ」
 杏 子「あたしは……マミさんに助けてもらったんだ。それを受け取る資格はない」
 マ ミ「でも……」
 Qべえ「二人ともいらないのなら僕が貰ってお……。きゅぷッ」
 杏 子「うるせえ。Qべえは引っ込んでろ」
 脇から口を挟むQべえの体を蹴り飛ばす杏子。
 しばらくの沈黙後、再び杏子が口を開いた。
 杏 子「どうして助けてくれたんだ」
 マ ミ「どうしてって?」
 杏 子「今まで世話になった恩も忘れて傷つけ、挙句に絶縁宣言までした。そんな恩知らずをどうして助けてくれるんだよ」
 マ ミ「同じ仲間が傷つくのを黙って見過ごせないでしょう。まして、それが大切な友達であれば尚更よ」
 杏 子「仲間……。友達……」
 Qべえ「あの魔女のプレッシャーは見滝原市にいても感じられた。マミは杏子の事を心配して駈けつけてくれたんだよ」
 杏 子「……」
 マ ミ「さあ、どうぞ。あなたのグリーフシードよ」
 マミは再びグリーフシードを杏子に差し出した。
 Qべえ「貰っておきなよ。マミの好意を無駄にしちゃ悪いよ」
 杏 子「それじゃ……遠慮なく貰っておくよ。あ、ありがとう」
 困惑の表情を浮かべながらもマミからグリーフシードを受け取った杏子。
 マ ミ「どういたしまして」
 屈託のない笑顔で答えるマミ。その微笑みが杏子には神々しい聖母の微笑みに見えた。


Chapter4:和解

 杏 子「このあいだは……本当にごめん」
 マ ミ「いいのよ。何も言わないで。御家族の事はQべえから聞いたわ」
 杏 子「……。そうか。それなら話は早い」
 どこか遠い所を見つめながら杏子は話を続けた。
 杏 子「あたしの自分勝手な願いが家族の絆を壊しちまった。因果応報って言うのかな? 自業自得だって事はわかってた。でも、怒りと憎しみの捌け口を見つけてイライラをぶつけたかった」
 マ ミ「……」
 杏 子「あたしって最低だよな。一人で悲劇のヒロインを気取る一方、優しい先輩に八つ当たりして鬱憤ばらし。平和を守る魔法少女が聞いて呆れるよ」
 マ ミ「そんな事はないわ」
 杏 子「マミさん……」
 マ ミ「たった一日で御家族を失った佐倉さんの辛さ、わたしにはよくわかる」
 杏 子「そうか。マミさんも自動車事故で両親を失くしてたんだよな」
 マ ミ「ええ。わたしは両親を失ってから始めて知ったわ。当たり前の日常が本当は幸せに満ちていた事をね」
 杏 子「……」
 マ ミ「あなたが自暴自棄に陥った心境は理解できるつもりよ。でもね、辛い現実に絶望しているだけでは駄目。前を向いて歩きださなければ状況は変わらないわ」
 杏 子「前を向いて歩きだす……」
 マ ミ「あら、ごめんなさい。つい自分の言葉に酔って偉そうな事を言ってしまったわ。わたしって本当に駄目ねぇ。うふふふふふ」
 そう言って苦笑するマミ。自分自身の発言に酔いしれてしまった事を反省しているような口ぶりだが、これも杏子の心をリラックスさせようとする計算であった。
 マ ミ「今すぐに気持ちの整理をつけるのは難しいかも知れない。でも、困った事や悩み事があれば遠慮なく訪ねてきてね。わたしでよければ力になるわ」
 杏 子「マ、マミさん」
 マ ミ「でもね、佐倉さん。これだけは約束して頂戴。絶対に自暴自棄にならない事。いいわね」
 杏 子「わかった。約束するよ」
 そう言いながら杏子は躊躇いがちに右手を前に出して握手を求め、マミは左手を出して杏子の握手に応じた。

 杏 子「あッ」
 突然、杏子が大きな声を出した。
 マ ミ「ど、どうしたのよ。大きな声を出して」
 杏 子「すっかり忘れてた。あの魔女に両親を喰われたってガキを逃がしてやったんだよ。路地を抜けた先にあるコンビニで待ってる筈だ。すぐ迎えに行ってやらないと」
 マ ミ「魔女に両親を……」
 杏 子「そうらしい。あたしも詳しい話を聞くヒマが無かったからガキの言う事が本当か嘘か判断できなかったけどね」
 マ ミ「その子は佐倉さんの知り合い?」
 杏 子「いや、名前も知らない他人だよ」(……死んだ妹に似ていたけどね)
 Qべえ「すると杏子は名前も知らない子供を助けようとして魔女の結界に入ったのかい?」
 杏 子「まあ、そういう事になるかな」
 Qべえ「弱肉強食を理由にマミと決別しながら弱者を助けるなんて矛盾しているね。訳がわからないよ」
 マ ミ「Qべえは黙っていなさい」
 珍しくマミがQべえを叱りつけた。
 Qべえ「マミにも怒られてしまった。どうやら僕は邪魔なようだね」
 マ ミ「別に怒ったわけじゃ……」
 Qべえ「それじゃ先に帰っているよ」
 マミの言葉に耳を貸さず、Qべえは踵(きびす)を返して夜の闇に溶け込んでしまった。
 マ ミ「まったく、Qべえったら慌て者ねえ」
 杏 子「どうしてだ?」
 マ ミ「だって玄関の鍵はわたしが持っているのよ。先に帰っても部屋の中には入れないわ」
 杏 子「あっはははははは。あいつらしくないミスだな。この寒空の下、マミさんが帰るまで締め出しかよ」
 マ ミ「うふふふふふ。そういう事になるわね」
 無表情のまま寒さに震えるQべえの姿を頭の中で思い浮かべて笑い合う二人。
 そんな二人を先に帰った筈のQべえが電信柱の上から見下ろしていた。
 Qべえ「やれやれ、どうにか二人ともリラックスできたようだ。道化役も苦労するよ。これで二人が協力して魔女狩りを続けてくれればグリーフシード回収率も高まり、魔力を消費して濁ったグリーフシードも手に入り易くなる。見返りの為なら道化師になるのも悪くないかな」


Chapter5:少女

 マ ミ「さあ、その女の子を迎えに行きましょう」
 電信柱の上にQべえがいる事を知らないマミが杏子に向かって言った。
 杏 子「え? マミさんも来てくれるのか?」
 マ ミ「その子から詳しい事情を聞かないとね。御両親を魔女に殺されてしまったのなら今後の事についても考えないと」
 杏 子「今後の事って?」
 マ ミ「身の振り方よ。御両親を失くして一人で生きていける年齢ではないのでしょう?」
 杏 子「ああ。まだ小学校低学年くらいだと思う」
 マ ミ「可哀そうに。そんな年頃で御両親を失くしてしまうなんて……」
 杏 子「……」
 マ ミ「ともかく、その子を迎えに行きましょう」
 杏 子「そうだな」

 少 女「あッ、お姉ちゃんだ」
 コンビニの前に一人佇んでいた少女は道路の向こうから走って来る二つの人影を確認した。
 レジの死角になっている場所なので店員の目には女の姿が見えず、場所柄だけに客足も疎(まば)らなので、誰一人として幼い子供が夜遅くコンビニの前で人を待っている事に気づかない。
 この事が少女にとって幸か不幸か、それは一概に答えられない問題である。
 杏 子「なんだよ、外で待ってたのか? 店の中で待ってりゃよかったのに。寒かっただろう? 待たせて悪かったな」
 少女に近づいた杏子は腰を屈め、同じ目線になって話しかける。
 少 女「ううん。平気」
 マ ミ「佐倉さんが言っていた女の子って彼女の事?」
 杏 子「そうだよ」
 マミも腰を屈め、少女と同じ目線から話しかけた。
 マ ミ「こんばんは。わたしは巴マミ。よろしくね」
 少 女「マミ……お姉ちゃん」
 杏 子「あたしは佐倉杏子だ」
 少 女「杏子……お姉ちゃん」
 マ ミ「あなたのお名前は?」
 ゆ ま「ゆま。千歳ゆま
 マ ミ「ゆまちゃんね。可愛い名前だわ」
 ゆ ま「ありがとう、マミお姉ちゃん」
 マ ミ「ねえ、ゆまちゃん」
 ゆ ま「なぁに?」
 マ ミ「パパとママはどうしたのかしら?」
 杏 子「マミさん、こいつの両親は……」
 マ ミ「佐倉さんは口を出さないで」
 杏 子「……」
 マ ミ「こんな時間に一人で出歩いていると危ないわよ。パパとママは?」
 ゆ ま「真黒い影が喰べちゃった」
 少し時間が経って落ち着いたのか、それとも両親が魔女に喰われた事を悪夢だと思い込もうとしているのか、ゆまはマミの質問にハキハキと答えた。
 マ ミ「そう……」
 ゆ ま「でもね、杏子お姉ちゃんが悪い怪獣を退治してくれるって言ったの。怪獣が退治されたらパパもママもお腹の中から出てくるんでしょう?」
 マ ミ「さ、佐倉さん。あなた、そんな事を言ったの?」
 杏 子「冗談じゃねえ。あたしはそんな事を言った覚えはないよ」
 ゆ ま「ゆま、絵本で読んだもん。悪い狼がヤギさんを食べちゃったけど、お腹を切ったらヤギさんが元気に出てきたんだよ」
 杏 子「腹からヤギが出てきたって、それは童話の話じゃねえかよ」
 マ ミ「ええ。グリム童話の「狼と七匹の子山羊」ね」
 杏 子「もしかして、ゆまは……」
 マ ミ「お父さんとお母さんが助かるって信じているのよ」

 無垢な笑顔で両親を待つ幼い少女に残酷な現実を告げるのは気が進まなかった。
 しかし、いつまでも誤魔化し続けるわけにはいかない。マミは覚悟を決めてゆまに真実を告げる決意を固めた。
 マ ミ「あのね……」
 杏 子「待って、マミさん」
 マ ミ「え?」
 杏 子「ゆまにはあたしから言うよ」
 マ ミ「さ、佐倉さん」
 杏 子「ゆま、よく聞くんだ。おまえの両親は死んじまった。あのバケモノに喰われて死んだんだ」
 ゆ ま「ん?」
 杏子の言葉が理解できないのか、ゆまは不思議そうに首をかしげながら杏子の顔を見つめる。
 杏 子「あの黒い影はバケモノだったんだ。おまえの両親はバケモノに喰われて死んだんだよ」
 ゆ ま「違うもん。パパもママも生きてるもん」
 杏 子「現実から目をそらすな。親父もおふくろも死んだ。ゆま、おまえは今日から一人ぼっちなんだよ」
 ゆ ま「杏子お姉ちゃんのバカァァァ」
 マ ミ「佐倉さん、それは言い過ぎよ」
 杏 子「言い過ぎなもんか。遅かれ早かれ両親が死んだ現実は受け入れなくちゃいけないんだ」
 マ ミ「それはそうだけど……」
 ゆ ま「うわあぁぁぁぁん」
 Qべえ「あ~あ、泣かせちゃった」
 マ ミ「Qべえ」
 杏 子「なんだよ、帰ったんじゃなかったのか」
 先に帰った筈のQべえが闇の中から現れたので杏子は少し驚いた。
 Qべえ「細かい事は気にしないでくれ。それよりレジの店員がこちらを見ているよ。どうやら彼女の泣き声が聞こえたようだ」
 マ ミ「困ったわねぇ。こんな状態じゃ住所を聞き出すのは無理だわ」
 杏 子「まずいぜ。店員が不審そうな顔をしてる」
 Qべえ「どうする、マミ?」
 マ ミ「仕方がないわ。とりあえず、ゆまちゃんを連れて帰りましょう」
 Qべえ「そうだね。一般人に魔女や魔法と言っても通用しないだろうし、トラブルに巻き込まれては後が面倒になる」
 マ ミ「そうと決まれば急ぎましょう。さあ、佐倉さんも来て」
 杏 子「え?」
 マ ミ「一緒に善後策を考えましょう。この寒さで体も冷えたでしょうから、温まるようにハーブティーを御馳走するわ」
 杏 子「マミさん……」
 マ ミ「さあ、行くわよ」
 杏 子「お、おう」
 マミは泣きじゃくるゆまを背負うと先頭に立って走り出し、逃げるようにして見滝原市への帰路を急いだ。
 その後ろを杏子とQべえが全力で追いかけた事は言うまでもない。


Chapter6:思慮

 新房町のコンビニから逃げるようにして帰ってきたマミ、杏子、ゆま、Qべえ。
 シャフト・スカイハイツの15階にある1506号がマミの住まいである。
 ゆまを落ち着かせてから詳しい経緯や住所を聞こうと思っていたが、マミの背中が気持ち良かったのか彼女は泣きながら眠っていた。
 時計を見ると午後10時過ぎ。幼い子供なら寝ている時間だ。
 泣き疲れたのか頬に涙が流れた後を残しながらもゆまは安らかな顔で寝入っていた。
 起こすのも可哀相だと言うマミの一存から今夜はゆっくり休ませてやろうという事になり、暖房を効かせたリビングのソファーに寝かしつけたところである。
 杏 子「ごめんな」
 ゆまの頬に手を当てながら杏子が詫びた。
 杏 子「ゆまの気持ちを考えずに無神経な言葉で傷つけちゃったね」
 マ ミ「佐倉さん……」
 杏 子「あたしって本当にバカだよな。家族を傷つけ、マミさんを傷つけ、それでも懲りずにゆままで傷つけちゃった」
 Qべえ「……」(僕を蹴り飛ばした事はカウントしないんだね)
 杏 子「(小声で)寝顔までモモにそっくりだ」
 マ ミ「そんなに自分を責めては駄目よ、佐倉さん。誰かが言わなければならなかった事ですもの。だからバカだなんて卑下しないで」
 杏 子「ありがとう。マミさん」
 マ ミ「うふふふふふ。今夜は御礼を言われてばかりね」
 杏 子「そ、そうか?」
 マ ミ「佐倉さんは素直で優しい子なのよ。その事を自分では気がついていないのね」
 杏 子「よしてくれよ。あたしは無神経でガサツでジコチューな女だ。優しさなんて持ち合わせてないし、マミさんのように立派な魔法少女でもない」
 マ ミ「あなただって立派な魔法少女よ。実際、ゆまちゃんを助けてあげたじゃないの」
 杏 子「ま、まあな」
 Qべえ「ガールズトークを邪魔して申し訳ないけど……」
 どこからともなく姿を現したQべえが会話に割り込んできた。
 Qべえ「あの子の処置はどうするんだい?」
 マ ミ「どうしましょう」
 Qべえ「質問を質問で返すなんて君らしくないなぁ」
 マ ミ「軽々しく答えを出せる問題ではないもの。即答できるわけないでしょう。明日は学校が休みだから今夜一晩かけて考えるわ」
 杏 子「その事なんだけどさぁ」
 マ ミ「ええ」
 杏 子「あたしが引き取ってやろうと思うんだけど……」
 Qべえ「なんだって?」
 マ ミ「本気なの?」
 杏子の爆弾発言に驚きを隠せなかったマミとQべえは同時に口を開いた。
 杏 子「な、なんだよ。そんなに驚かなくてもいいだろう」
 マ ミ「驚くに決まっているじゃないの」
 Qべえ「君は正気かい? 保護者も安定した生活も失った中学生が幼い少女を育てるなんて常識で考えても不可能だよ」
 マ ミ「Qべえの言う通りよ」
 Qべえ「まあ、ゆまが僕と契約してくれれば安定した生活なんて簡単に得られ……。きゅぷい」
 マ ミ「はいはい、その話は後にしましょうね」
 それが口癖の「契約話」を持ち出したQべえ。しかし、マミの両手で小さな口を塞がれてしまい得意のセリフは途中で遮られてしまった。
 Qべえ「むぐぅ……。むぐッ、むぐぅぅぅ」
 杏 子「なんか苦しそうだけど大丈夫か?」
 マ ミ「平気よ。この程度では窒息しないわ」
 Qべえ「むぐぅぅぅ。むぐッ。むぐぅ」」
 マ ミ「それより今の話だけど本気で言っているの?」
 杏 子「うん」
 マ ミ「小さい子を養うという事は佐倉さんが考えている以上に難しいのよ。それをわかっているの?」
 杏 子「そ、それは……」
 マ ミ「一番の問題は金銭面な問題だわ。二人の食費はどうするの? 生活必需品を買うお金は? 学校行事に必要な集金は誰が払うの?」
 杏 子「……」
 マ ミ「それに新しい住まいだって探さなければいけないわ。そこの家賃だって月々に払うのよ」
 杏 子「やっぱり……金か……」
 マ ミ「それ以外にも問題はあるわ。お金の事を例に挙げたのは一番身近な事柄だからよ。実際に住まいを借りる際には親権者の承諾が必要になるの。わたしにも佐倉さんにも両親はいないでしょう」
 杏 子「……」
 マ ミ「ゆまちゃんを一人にさせたくない佐倉さんの気持ちはわかるつもりよ。でもね、これが現実なの」

 チャプン。
 マ ミ「ふ~。今日はいろいろな事があったわねぇ」
 熱い湯に浸かりながらマミは数時間前からの事を思い出していた。
 物凄いプレッシャーを発する魔女との戦闘。佐倉杏子との再会。両親を魔女に殺された少女との出会い。その少女と杏子の宿泊。
 魔女との戦いには勝利できたし、杏子との仲も一応は以前のように戻った。しかし、最大の問題は少女の身の振り方である。
 自分達のような未成年が引き取って育てるわけにはいかず、そうかと言って児童福祉相談所に一切をまかせる事がゆまにとって幸せであるとも限らない。
 大人びているとはいえ、まだマミは中学生である。他人の人生を決めるような決断は荷が重すぎる。
 マ ミ(どうしたらいいんだろう)
 ガラガラ。
 目を閉じて物想いに耽(ふけ)っている時、浴室の引き戸を開け、体にタオルを巻いた杏子が入って来た。
 杏 子「あ、あのさぁ……。一緒に入っても……いいかな?」
 マ ミ「さ、佐倉さん」
 照れくさそうに口を開く杏子。最初は驚いていたマミだが、すぐに笑顔を取り戻して言った。
 マ ミ「もちろんよ。狭いお風呂でもよければ歓迎するわ」
 杏 子「ありがとう」
 短く御礼を言った杏子は洗面器に汲んだお湯で汗と汚れを流し、その身を浴槽へ入れる。
 杏 子「やっぱり……ゆまは施設に預けるしかないのかなぁ」
 マ ミ「……」
 杏 子「あいつは両親が死んだ事を信じようとしていない。純粋にも魔女の腹の中から元気な姿で出てくると思い込んでいる」
 マ ミ「現実というのは残酷ね。希望が大きければ大きいだけ、それが潰えた時の絶望も大きくなるわ」
 杏 子「今の精神状態だと真実を知った時のショックは計り知れない。心の支えとなる保護者が必要だよ」
 マ ミ「そうね。わたし達が保護者になってあげられればよいのだけど、実際問題として難しいわね」
 杏 子「そうだよね。あたしもマミさんも未成年。ゆまの保護者にはなってやれないよね」
 天井の照明を見つめながら杏子は言葉を続けた。
 杏 子「情けねえよな。魔法少女が二人も揃いながら一人の幼い少女すら救えないなんて」
 マ ミ「佐倉さん……」
 杏 子「最後に愛と勇気が勝ったり、人を幸せにする奇跡が起こったりするのは物語の中だけなんだね」


Chapter7:決断

 二人が風呂から出たのは午後11時過ぎだった。
 リビングではゆまが熟睡しており、その傍らでQべえもスースーと寝息をたてながら眠っている。
 ドライヤーで長い髪を乾かした後、マミは杏子をキッチンへと誘った。
 ティーカップに暖かいハーブティーを注ぎ、杏子の前に差し出す。
 マ ミ「さあ、どうぞ。ハーブティーには精神を落ち着かせるリラックス効果があるのよ。これを飲んで今夜はゆっくりと休みましょう」
 杏 子「御馳走になるよ」
 御礼を言ってティーカップに口をつける杏子。彼女が暖かい部屋の中で夜を迎えるのは4日ぶりだった。
 ここ数日は朽ちた礼拝堂の片隅にゴザを敷き、段ボールと新聞紙で作ったお手製掛け布団を寝具にして寝ていた。
 12月が近いだけあって夜の冷え込みは厳しく、杏子は寒さに震えながら眠りについていたのだが今日は違う。
 ハーブティーが体の内側を、暖房が体全体を温めてくれる。
 家族を失ってからサバイバル生活を余儀なくされた杏子にとって、マミに迎え入れられた今夜は夢のような一夜だ。
 杏 子(温かい……。なんて温かいんだろう)
 申し分のない待遇に満足しながら、杏子は心の中でマミに御礼を言った。先日の引け目から自分の気持ちを口に出してマミに伝えるのが恥ずかしかったのだ。
 杏 子(優しい気遣い感謝するよ、マミさん)

 マ ミ「ところで佐倉さん」
 杏 子「ん?」
 マ ミ「ゆまちゃんの事だけれど」
 杏 子「何か名案でも浮かんだのか」
 マ ミ「美国さんに相談してみようと思うのよ」
 杏 子「美国? あの美国織莉子か?」
 マ ミ「ええ」
 杏 子「冗談じゃない。あたしは反対だ」
 マ ミ「どうして?」
 杏 子「あいつは魔法少女狩りの首謀者だったんだぜ。マミさんだって命を狙われたじゃないか。そんな物騒な相手にゆまを預けるなんて賛成できない。魔女の空間を利用してキリカに襲わせた事を忘れたのかよ」
 マ ミ「忘れてなんかいないわ」
 ハーブティーを一口飲んだマミは美国織莉子との激しい戦いを思い出した。同じ魔法少女同士が血で血を洗う命がけの死闘を繰り広げた事は生々しくマミの記憶に残っている。
 魔法少女の美国織莉子は未来予知能力で「見滝原市周辺を壊滅させる救済の魔女」の存在を知ったが、その前身となる魔法少女の名前が分からない。そこで自分を慕う呉キリカと一緒に見滝原市周辺の魔法少女を全滅させようと目論んだのだ。
 最初のターゲットに選ばれたのが巴マミと佐倉杏子であり、二人は未知なる能力で襲いかかる織莉子&キリカのコンビに苦戦を強いられたがマミの戦略によってキリカを撃退、直接攻撃に弱い織莉子は追い詰められた末、絶望した未来を見る前に自ら命を断とうと考えたがマミの説得で思い止まり、これからは暴力に訴えない方法で「救済の魔女となる魔法少女」を探すと約束した。
 これをキッカケにマミと織莉子は良き友人となり、杏子とキリカも互いに似た者同士と直感し合ったのか一応は仲良くなれた。しかし、最初の出会いが最悪だったせいか杏子は織莉子の事を今一つ信用できないらしい。
 杏 子「それでも織莉子にゆまを預けるって言うのか」
 マ ミ「彼女は自分の非を悔いて改心したわ。いつまでも昔の事を責めては駄目よ」
 杏 子「改心したからって……」
 マ ミ「頭を乾かしている時に思い出したのよ。美国さんのお父様が孤児の育成に力を入れる児童福祉施設の副所長を兼任している事をね」
 杏 子「まさか、その施設にゆまを入れようって言うのか」
 マ ミ「ええ。ゆまちゃんの将来を考えると美国さんに協力を求める必要があると思うの」
 杏 子「あいつの協力? どういう事なのさ」
 マ ミ「呉さんが美国さんの自宅で暮らすようになったのか、その理由を知っている?」
 杏 子「いいや、知らない」
 マ ミ「美国さんのお母様はね、親を亡くした子供が社会に出ても対人関係で困らないよう、精神的ショックで心を閉ざした身寄りのない子供を自宅へ引き取って面倒をみる福祉プログラムの支持者なのよ」
 杏 子「へえ、そうなんだったんだ」
 マ ミ「呉さんは早くに御両親を亡くし、義理の御両親からは虐待されて育ったそうなの。幸い、虐待の事実は早めに分かったけれど、呉さんは子供心に「力には力を」という考え方をするようになってしまったらしいわ」
 杏 子(あいつの攻撃的な性格は子供の頃の虐待が原因だったのか)
 マ ミ「美国さんのお母様は排他的な性格だった呉さんを立ち直らせようとして児童福祉施設へ掛け合い、彼女を御自宅へ引き取られた」
 杏 子「キリカの事はわかったよ。でもさぁ、それとゆまを預ける事になんの関係があるんだよ」
 マ ミ「ゆまちゃんはまだ幼いでしょう。御両親が亡くなった事を知れば、きっとショックで心を閉ざしてしまうわ。そんな精神状態で福祉施設に預け、見知らぬ他人と共同生活をさせたら彼女の精神は完全にまいってしまうと思うのよ」
 杏 子「うん」
 マ ミ「美国さんの自宅は隣町だし、休日を利用してゆまちゃんにも会いに行けるわ。彼女のお父様は教育委員会でも発言力のある市会議員だから学校関係の問題について心配する事はないでしょう。お母様は呉さんを……ちょっと美国さんへの依存が強いけれども立ち直らせた。メンタル面のケアも含め、ゆまちゃんの将来を考えると施設へ預けるより安心できるわ。非常時だって美国さんや呉さんとテレパシーで通信できるでしょう。その意味でも不安はないように思うのよ」
 杏 子「……」
 マ ミ「自分勝手な考え方だという事は承知しているわ。でも、わたし達が幼い少女の将来に責任を持つのは早すぎる。どうしても誰かを頼らなければいけないのよ」
 杏 子「織莉子や家族が反対したらどうする?」
 マ ミ「わたし達の力が及ぶ限りで彼女の希望に添えるよう努力しましょう」
 杏 子「ゆまが織莉子の家で暮らすのを嫌がったら?」
 マ ミ「その時は可哀相だけれど児童相談所へ行くしかないわ」


Chapter8:同居

 ピピピピピピピ。
 目覚まし時計の電子音でマミは目を覚ました。
 時刻は午前7時。いつもより1時間遅い起床である。
 杏 子「んぐぅ。んぐぅ」
 マ ミ「あらあら、よく眠っているわ。よっぽど疲れていたのね」
 マミは微笑みながら脇で眠る杏子の姿を見つめた。鼾をかきながら枕を抱きしめて芯から眠っている。
 ベッドから飛び出した足を布団の中へ入れてやり、肩をポンポンと軽く叩きながらマミは熟睡中の杏子に声をかけた。
 マ ミ「御家族を失ってから一人で大変だったでしょうね。ゆっくりとお休みなさい。わたしなんかでよかったら、いつでも頼ってきてね」
 杏 子「ありがとう。マミさん」
 マ ミ「さ、佐倉さん。ごめんなんさい、起こしてしまって」
 杏 子「気にする事ないよ。いつもなら朝の魔女狩りに出掛けてる時間だからね」
 マ ミ「……」
 杏 子「あのさぁ」
 マ ミ「ん? どうしたの?」
 杏 子「よ、よかったら、また指導してくれないかな。魔法少女としての戦闘技術を」
 マ ミ「もちろんよ。また一緒に頑張りましょう」
 杏 子「よろしく頼むよ、マミさん」
 マ ミ「こちらこそ」
 スッと差し出されたマミの右手。杏子は布団をはねのけて起き上があってマミの握手に応じた。

 Qべえ「話は聞かせてもらったよ」
 マ ミ「きゅ、Qべえ」
 器用に寝室のドアを開け、厚顔無恥なQべえは無遠慮にも乙女の園へ入りこんできた。
 Qべえ「それなら二人で一緒に暮らしたらどうだい? お互いに一人者だし、共同生活をした方が便利じゃないかな?」
 杏 子「……」
 マ ミ「……」
 Qべえ「慣れ合うのが嫌なら仕方がないけれど考えてみる価値はあると思うよ」
 しばらくの沈黙後、マミが最初に口を開いた。
 マ ミ「わたしは賛成よ」
 杏 子「え?」
 マ ミ「佐倉さんとの共同生活、わたしは賛成するわ」
 杏 子「い、いいのかよ。あたしみたいな居候を養う事になるんだぜ」
 マ ミ「あら、わたしは居候だなんて思っていないわよ」
 杏 子「マミさん……」
 マ ミ「あなたさえよければ歓迎するわ。杏子」
 これまで「佐倉さん」と呼んでいたマミだが、互いの距離を縮める意味から親しみを込めて「杏子」と呼んだ。
 そんなマミの気持ちを汲んだのか杏子も親しみを込めてマミの名を呼び捨てた。
 杏 子「不束者だけど、どうかよろしく頼むよ。マミ」

 Qべえ「最強魔法少女コンビの結成だね。おめでとう」
 自分の思惑通りに事が運び、心なしか嬉しそうな口調でQべえが言った。
 杏 子「こいつ、こうなる事を予想してやがったな」
 Qべえ「うん」
 杏 子「躊躇いなく認めやがった……」
 マ ミ「いいじゃないの。Qべえの思惑通りだったとしても共同生活の利便性は否定できないわ。私生活でも魔女退治でも、お互いをカバーし合いましょう」
 杏 子「……。まあ、そうだな」
 マ ミ「さて、わたしは朝ごはんの支度をしないと。今日は三人分だから作り甲斐があるわね」
 杏 子「あッ。あたしも手伝うよ、マミさ……マミ」
 マ ミ「佐倉さ……杏子はもう少し寝ていなさい。今日一日はお客様よ」
 杏 子「でも……」
 マ ミ「ただし、明日からは客人扱いしないわ。私生活の面でも厳しく指導するから覚悟しなさいね」
 冗談っぽく言いながらマミは寝室を出て行く。
 杏 子「相変わらずだな、マミさん」
 ベットから降りた杏子は借りたパジャマの上着を脱ぎながら呟いた。呼び慣れた言い方は簡単に変えられず、つい「マミさん」と言ってしまう。
 杏 子「あたしも明日から真面目に学校へ通うとするか。一週間近くサボっちまったしなぁ」
 Qべえ「おやおや、君の口から「真面目に学校へ通う」なんて言葉が聞けるなんて驚いたよ。マミとの共同生活が決まって少しは学生らしい自覚が持てたようだね」
 杏 子「やかましい。これから乙女が着替えようとしてるんだ、さっさと部屋から出てけよ」
 Qべえ「乙女って誰のこ……。きゅぷぅ」
 白いTシャツ姿の杏子に頭を踏みつけられ、Qべえは情けない声の悲鳴をあげた。
 杏 子「冗談は顔だけにしておきな。これは警告だ。10秒以内に出て行かないと次は槍で脳天を貫くぞ」
 Qべえ「ぼくの顔は生まれつきなんだから仕方ないだろう」
 杏 子「警告だって言うのが聞こえなかったのか? 残り6秒、5秒、4秒……」
 Qべえ「カウント・ダウンなんかしなくても出て行くよ。君の場合、本気でぼくの事を刺し殺しかねないからね」(まあ、ぼくを殺したところでスペアは無尽蔵にいるから関係ないけどね)


Epilogue:未来

 近隣の三県に囲まれる風見野町。ここに美国織莉子の自宅がある。
 新房町とは反対側の隣町だが距離的には大差ない。どちらも見滝原市まで徒歩10分程度の距離なのだ。
 朝食後、ゆまに両親の死を伝えたマミは自分の案を打ち明けた。
 最初はマミの言葉を信じられずに泣きじゃくり、近くの物を手当たり次第に投げつけながらマミと杏子を罵っていたゆまだが、落ち着きを取り戻して非情な現実を受け入れる覚悟を決めたらしい。マミの提案を受け入れ、一緒に美国邸へ行くと言った。

 事前に電話連絡していたので織莉子は在宅してマミ達の来訪を待っていた。
 織莉子の部屋へ案内された三人を代表し、マミが訪問理由を告げる。
 ゆまの境遇を聞いた織莉子は母親に話を通したところ、彼女の身柄を引き受ける了解が得られた。

 マ ミ「ゆまちゃんの事、どうもありがとう」
 織莉子「お安い御用よ。わたしも可愛い妹ができて嬉しいわ」
 杏 子「あんたを誤解していたよ。本当はいい奴だったんだな」
 キリカ「へえ、ようやく織莉子の優しさに気づいたんだ」
 杏 子「ま、まあな」
 マ ミ「今後の事、よろしくお願いするわね」
 織莉子「まかせておいて」
 杏 子「よろしく頼むよ」
 織莉子「ええ。わかったわ」
 マ ミ「ゆまちゃん。今日から新しい御家族と一緒よ。辛い過去を乗り越えて元気に育ってね」
 杏 子「織莉子やキリカの言う事を聞くんだぞ。あたし達も折を見て会いにくるからな」
 マミと杏子は腰を屈め、ゆまの大きな瞳を見ながら励ましの言葉を送った。
 織莉子「いつでも歓迎するわ。ねえ、ゆまちゃん」
 ゆ ま「マミお姉ちゃん、杏子お姉ちゃん」
 マ ミ「ん? なあに、ゆまちゃん」
 ゆ ま「どうもありがとう。それから……ごめんなさい。物を壊したり、悪口を言ったりして」
 マ ミ「気にしないで。ゆまちゃんの気持ち、わたし達にも痛いくらいわかるわ。新しい環境に慣れるまで大変かも知れないけれど、挫けないで頑張ってね」
 ゆ ま「うん。ゆま、頑張る」
 マ ミ「そうよ、その調子で頑張ってね」
 ゆ ま「は~い。マミお姉ちゃんとのお約束ぅ。チュッ」
 小さな唇をつぼめ、ゆまはマミの頬にキスをした。
 マ ミ「あら、ありがとう」
 ゆ ま「それから杏子お姉ちゃんにも」
 杏 子「え?」
 ゆ ま「チュッ」

 かくして千歳ゆまは美国織莉子の家へ引き取られ、呉キリカと一緒に織莉子の『妹』になった。
 彼女がQべえに騙されて魔法少女となり、その事で見滝原魔法少女と風見野魔法少女は(一時的に)再び敵同士として刃を交える運命にあったが、それは数ヶ月先の話である。

 ⇒「「魔法少女まどか☆マギカ Another」  Heartful Night」へ続く。


【あとがき】
 本作は「「魔法少女まどか☆マギカ Another」  Heartful Night」の前日譚となります。基本的に「魔法少女まどか☆マギカ Another」は一話完結形式となっており各作品の世界観に連続性はありませんが、本作は例外的に前掲「Heartful Night」と世界観に繋がりを持たせました。
 二次創作SSでは「杏子とマミさんが共同生活をしている」基礎設定となっており、今回は二人が同居するようになった経緯を描いてみました。併せて、お互いを「マミ」「杏子」と呼び合うようになった点についても言及しています。
 もともとは「ゆまと杏子の出会い」を自分なりの解釈で描いてみようと思ったのですが、あれこれ+αの要素を盛り込んでいるうちに話が広がり過ぎてしまい、このような形になりました。
 ラストが急ぎ足となってしまい説明文に逃げてしまった点は反省しています……。しっかりとプロットを組み立てないと後半のシワ寄せが厳しい事を改めて思い知りました。
 なお、「魔法少女おりこ☆マギカ」(原案:Magica Quartet/作画:ムラ黒江)では千歳ゆまが両親からの虐待を受けていますが、本作では美国織莉子との同居理由と絡め「呉キリカは両親に虐待されていた」という設定に変更しています。
 最後になりましたが、杏子とマミさんの絡みを描くにあたり、空歩氏と最上蜜柑氏による『それからの世界』(発行:アメチャン)と新美栖氏の『フツーに友達』(発行:みやげや)を参照させて頂きました。前掲2冊の作者様には記して感謝致します。
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