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2017-10

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「魔法少女まどか☆マギカ Another」  Heartful Night

【はじめに】
 賞味期限の過ぎたネタですが「11月29日=いい肉の日」をテーマにした佐倉杏子の物語です。心温まる話を書くのは苦手なのですが、あえて苦手な内容に挑戦してみました。
 作中では杏子の家族が一家心中した日を「11月28日」と設定していますが、このような記述は原作にはありません。杏子の口から語られる母親やモモのセリフと同じく完全なオリジナル設定です。
 トラウマと向き合う杏子の葛藤を自分なりに描いてみたかったものの、なかなかアイディアが浮かばず先送りしてばかりいました。強引な構成かも知れませんが「すき焼き」をキーワードにして以前からの試みを形にしてみた次第です。
 今回はオールスター総登場として「魔法少女おりこ☆マギカ」から魔法少女三人娘(美国織莉子,呉キリカ,千歳ゆま)にも御登場願い、本家「魔法少女まどか☆マギカ」の五人娘と共演させました。
 原作に描かれる織莉子,キリカ,ゆまは「魔法少女まどか☆マギカ」本編と違う時間軸に登場する為、ここでは自己流にアレンジしたキャラクター設定を採用しています。
 なお、本作はブログ掲載に先駆けてpixivの小説コーナーへ2011年12月2日3時47分付で投稿しました。


 マ ミ「どうしたの、杏子」
 杏 子「え?」
 マ ミ「箸が進んでいないようだけど」
 杏 子「そんな事……ないよ」
 マ ミ「……」
 そう言いながらも杏子は呑水(とんすい)の中で湯気を立てるすき焼きの具材に箸を伸ばそうとせず、澄んだ二つの瞳で野菜と肉、割り下が染み込んだ豆腐を見つめている。
 今日は『いい(11)肉(29)の日』。マミは特売品の国産牛肉や野菜を大量に買い込んで牛すき焼きを作ったのだ。
 ハリキリ過ぎて二人では食べきれない量になってしまったが杏子の胃袋なら二日程度で鍋をカラにしてしまうかも知れない。
 マ ミ『うふふふふ。今日のお鍋は牛肉の大サービス。杏子の喜ぶ顔が目に浮かぶわ』
 しかし、マミの思惑とは裏腹に杏子の箸は鍋へ伸びず、先程から黙って呑水に盛り分けられた鍋の具を凝視している。
 マ ミ「嫌いな野菜でも入っていたの? 好き嫌いは駄目よ」
 冗談めいた口調で話しかけたが杏子のリアクションは「いや」と言う短い一言だけだった。
 マ ミ「ねえ、どうしたの。学校で何かあったの?」
 杏 子「なにもないよ」
 マ ミ「美樹さんと喧嘩でもしたの?」
 杏 子「そんなのはいつもの事だ」
 マ ミ「それじゃ……。小テストの点数が悪かったとか」
 杏 子「マミが勉強をみてくれるから授業にはついていけてるよ」
 マ ミ「鹿目さんや暁美さんと……」
 杏 子「喧嘩なんかしてないよ」
 暗い表情のまま言葉少なげに答える杏子。マミは溜息をつきながら小型ガスコンロの火を止めた。
 カチッ。
 マ ミ「杏子ッ」
 叱りつけるような口調でマミは杏子の名を呼んだ。
 大声を出すのは好まないマミだが場合が場合だけに仕方がなかった。
 杏 子「な、なんだよ。ビックリさせるな」
 マ ミ「言いたい事があるならハッキリ言って。嫌いな食べ物があるの? 味付けが気に入らなかったの? 牛すき焼きは嫌いなの?」
 マシンガントークのように質問を連発するマミ。
 杏 子「違う。違うよ」
 マ ミ「なにが違うの?」
 杏 子「モモの事をさぁ……思い出しちまったんだ」
 マ ミ「モモ?」
 杏 子「あたしの妹だよ。親父の無理心中に巻き込まれて死んだ」
 マ ミ「……」
 杏子の家族が一家心中した話は過去にマミもQべえから聞いた事がある。
 説教を聞きに来る信者が増えたのは娘の魔法によるものだと知り、そのショックで父親は発狂。妻と妹娘を殺害して自らは首を縊って死んだ。
 学校から帰った杏子は冷たい躯(むくろ)になった母親と妹、説教台を踏み台にして懺悔室で首吊り自殺する父親の姿を見てしまった。
 その日から杏子は生まれ故郷を捨て、艱難辛苦を舐めつくしながら一人で生きてきた。インキュベーダーと魔法少女の契約を結ぶ運命の日が来るまで……。
 杏 子「親父とおふくろ、モモが死んだのは11月28日だった。今でもハッキリと覚えているよ」
 ティーン。
 リビングの掛け時計が甲高い金属音を響かせながら、午後6時半の時報を告げる。
 この音が耳に入らなかったように杏子は話しを続け、掌中の箸を箸置きの上へ戻したマミは杏子の話に耳を傾けた。
 杏 子「親父が全ての秘密を知って発狂する何日か前、おふくろは言った。『11月29日は「いい肉の日」だからすき焼きにしましょう。お父さんも多忙でお疲れのようだから美味しいお肉を食べて元気になってもらわないとね』。その親父に殺されるなんて夢にも思ってなかっただろうな」
 マミに語りかけながらも、杏子の両目はどこか遠くを見ている。
 杏 子「おふくろの言葉にモモは大喜びしながら言ったんだよ。『うわ~い。嬉しいなぁ。ねえ、ママ。頑張って嫌いなお野菜を食べるから、い~っぱいお肉を入れてね』。屈託のない無邪気な笑顔だった。数日後の運命も知らずにさ……」
 マ ミ「そんな事があったの……」
 杏 子「暖かいキッチンでモモにすき焼きを食わせてやりたかった。それが叶わなかったのは……あたしのせいなんだ。あたしが余計な事をしたから親父は気が狂い、おふくろとモモは命を落とした。あたしが……余計な願い事をしたから……」
 しばらくの沈黙後、目に涙を浮かべる杏子の顔を見ながらマミは目を伏せながら詫びた。
 マ ミ「ごめんなんさい、杏子。そんな辛い思い出を抱えていたなんて知らなかったわ」
 杏 子「マ、マミ……」
 椅子から立ちあがったマミは杏子の背後に歩み寄り、両肩に手を乗せながら言った。
 マ ミ「無神経にも心の傷口を開かせてしまったわね。本当にごめんなんさい」
 杏 子「いや、謝るのは……」
 マ ミ「なにも言わないで。杏子は悪くないわ。今も、過去も」
 杏 子「マミ……。ありがとう」
 涙を服の袖で拭きながら杏子が言った。その肩は僅かだが小刻みに震えており、声を殺して泣いているのをマミは敏感にも察した。

 数分後。
 涙と一緒に辛い過去の思い出を記憶の奥へ封じ込めたのか、杏子は背後のマミに声をかけた。
 杏 子「すまなかったね、楽しい夕食を台無しにしちゃって。あたしって本当に身勝手な女だ。勝手に昔の事を思い出して落ち込んでさぁ、それでマミに心配をかけちまった」
 マ ミ「いいのよ、そんな事……」
 微笑みながら杏子に言い、マミは自席へ戻って小型ガスコンロの火を再点火した。
 カチッ。ゴオォォォ。
 マ ミ「優しいのね」
 杏 子「なにがさぁ」
 マ ミ「心の傷に触れられながら、それでも怒らずに許してくれたのだもの」
 杏 子「マミは悪くないよ。あたしが勝手に落ち込んでただけなんだから」
 ここで会話が途切れ、二人は言葉少なげに鍋が煮えるのを待つ。
 三分。五分。十分。……。
 なかなか鍋は温まらない。
 杏 子「おかしいなぁ、ちっとも温まらないぞ。火が弱いんじゃないか?」
 マ ミ「そんな事ないわ。最大火力よ」
 杏 子「どうなってんだ。ちょっと火を消してただけなのに……。ガスの残量が少ないのかなぁ?」
 杏子が不思議そうに言った時、来客を知らせるチャイムの音が部屋中に響き渡った。
 ピンポ~ン。
 マ ミ「あッ。来てくれたようね」
 杏 子「来てくれた? 誰か呼んでいたのか?」
 マ ミ「まあね」
 ウィンクしながら謎めいた言葉で答え、マミはキッチンから姿を消す。
 杏 子「どうなってんだ? 訳がわからねえよ」
 Qべえ「それは僕のセリフだよ」
 杏 子「うわッ。なんだ、Qべえじゃねえか。ビックリさせるな」
 驚いた杏子がテーブルの下を覗くと、そこにはQべえの姿があった。
 杏 子「マミの部屋で寝てたんじゃなかったのかよ」
 Qべえ「まあ、いろいろあってね。寝てもいられなかったんだ」
 杏 子「はぁ? ますます訳がわかんないや」
 呆れた杏子が爪先でQべえのフワフワした白い体を弄んでいると、廊下の方から賑(にぎ)やかしい話し声と数人の足音が聞こえてくる。
 杏 子「おいおい、食事の最中に訪問者かよ」
 Qべえ「到着したみたいだね」
 杏 子「?」
 マミやQべえの言っている事が理解できない杏子だが、その疑問は数秒後に氷解した。
 さやか「お~っす」
 杏 子「さ、さやか
 まどか「こんばんは、杏子ちゃん」
 ほむら「お邪魔するわ」
 ゆ ま「杏子~」
 杏 子「まどかほむら。それに……ゆま
 織莉子「ごきげんよう、佐倉さん」
 キリカ「久しぶりだね、杏子」
 杏 子「織莉子、キリカ。あんた達まで……。どういう事だよ、マミ」
 マ ミ「みんなで楽しく鍋をつつこうと思ってね、急な事だけど声をかけてみたのよ」
 杏 子「ど、どうやって」
 マ ミ「Qべえにテレパシーでお願いしたの。美樹さん、鹿目さん、暁美さん、ゆまちゃん、織莉子、呉さんへのメッセンジャーを」
 Qべえ「おかげで僕は安眠を妨害されたよ」
 マ ミ「まだ夕食が済んでいなければ、一緒に食べましょう。そういう伝言をお願いしたの」
 Qべえのクレームを華麗にスルーしながらマミは杏子に解説する。
 さやか「いや~、ビックリしたよ。窓を叩く音が聞こえてさぁ、カーテンを開けたら白いバケモノがいるんだから」
 Qべえ「こんなにキュートな魔法少女のマスコットをバケモノ呼ばわりするなんて失礼しちゃうよ。プンプン」
 ほむら「殺しても死なないのだからバケモノでしょう」
 Qべえ「君に言われると笑えないね……。暁美ほむら
 まどか「今はQべえだって魔法少女の味方なんだからバケモノなんて言っちゃ可哀相だよ」
 さやかほむらから集中口撃されるQべえを庇うようにまどかが言った。
 Qべえ「まどか~。君だけだよ、僕を信じてくれるのは」
 無表情のままQべえが甘えた声でまどかの名を呼ぶ。
 さやか「まったく。まどかはQべえに甘いんだから」
 ほむら「その優しさがまどかの魅力なのよ」
 さやかほむらは苦笑しながらも心優しい親友の顔を見つめる。
 一方、普段はQべえとの付き合いがない美国織莉子と呉キリカはQべえの変貌ぶりに驚いていた。二人も世界改変前の記憶を持ち越しており、前世界での悪逆非道なQべえしか知らなかったからだ。
 キリカ「イ、インキュベーターに感情があるなんて……。信じらんない」
 織莉子「わたしも……」
 ほむら「どうやら『円環の理力』によって宇宙の法則が書き換えられた影響でインキュベーターにも感情というものが備わったらしいわ。そうなるに至った詳しいメカニズムはわからないけれども」
 事情を知らない織莉子とキリカにほむらが解説をする。
 まどか「もう悪い事はしないよね、Qべえ。わたしと約束したんだから」
 キリカ「約束?」
 まどか「うん。改変された世界では魔法少女のサポーターとして魔獣と戦ってね、そう約束したの」
 キリカ「うそでしょ。こいつが「約束を守る」なんて言葉を口にするなんて……」
 ほむら「信じられなくても事実よ」
 マ ミ「さあ、立ち話は終わりにしましょう。温めなおした鍋が冷めてしまうわ」
 いつの間にかマミと杏子は小型ガスコンロと鍋をリビングに移動させていた。
 見るとリビングの中央には重厚な木製のテーブルが置かれており、その上では小型コンロの火が鍋をグツグツと煮えたぎらせている。
 洒落たガラス製のテーブルで紅茶やケーキを御馳走になる事が多い見滝原魔法少女の三人は和風な木製テーブルの存在を驚きの眼差しで見ながら囁き合う。
 さやか「(小声で)あのテーブルさぁ、なんかゴツイわね。スタイリッシュなマミさんのイメージじゃないわ」
 まどか「(小声で)そうだね。どこで買ったんだろう」
 ほむら「(小声で)捨ててあったものを佐倉杏子が拾ってきたのではないかしら? 彼女なら『まだ使えるじゃねえか。もったいない』と言って拾いかねないわ」
 さやか「(小声で)あり得る」
 杏 子「なにをコソコソ話してんだよ。冷める前に食べようぜ」
 さやか「う、うん。すぐ行くわ」
 三人を代表してさやかが答えた。
 織莉子「それじゃ、わたし達も行きましょう。キリカ、ゆま」
 キリカ「ああ」
 ゆ ま「うん」
 6人の来客はゾロゾロとキッチンからリビングへ移動し、思い思いの場所に座った。

 円い木製のテーブルを囲む面子は巴マミ、佐倉杏子、千歳ゆま、美国織莉子、呉キリカ、暁美ほむら、鹿目まどか、美樹さやか、Qべえの合計8名+1匹。
 最前までの重苦しかった空気は一掃され、巴家のリビングは賑やかな食事の場へと変化した。
 量を多めに作っていたのが幸いし、すぐに鍋の中身がなくなる心配はない。
 まどか「美味しいねぇ、このお鍋」
 さやか「うん。この割り下、お店で出しても通用しようだよね」
 ほむら「見事な料理の腕前だわ」
 杏 子「こりゃ美味い。さすがマミだ」
 キリカ「……うん。確かに美味しい」
 織莉子「後を引く美味しさだわ」
 ゆ ま「このおつゆ、とっても美味しい。それに……。ゴクッ。しょっぱくない」
 マ ミ「ありがとう。みんなに美味しく食べてもらえて嬉しいわ」
 賛美の言葉を聞きながらマミも鍋に箸を伸ばす(親しい仲なので直箸(じかばし)OKと言うルールになった)。
 お喋りしながらの楽しい夕食が進む中、杏子は隣で黙々と肉や野菜を食べるゆまの姿をジッと見ていた。
 杏 子(モモ……。お前にも暖かい部屋で美味しいすき焼きを食わせてやりたかった。バカな姉貴を許してくれ……)
 箸を持った硬直する杏子。その時、無垢な眼差しで杏子の顔を見ながらゆまが言った。
 ゆ ま「ねえ、杏子。さっきから全然食べてないよ。ほら、あ~んして。ゆまが食べさせてあげる」
 ゆまは箸を器用に操りながら肉を掴み取り、煮汁がたれないよう呑水を受け皿にして杏子の方へ近づけた。
 杏 子「い、いいよ。自分で食えるから。ほら、みんなが見てるだろう」
 マ ミ「せっかくだもの、ゆまちゃんに食べさせてもらいなさいよ」
 キリカ「人の好意は素直に受けるべきだよ、杏子」
 ほむら「あなたを慕う子の好意を無にするのは大人げないわよ」
 杏 子「くッ。わ、わかったよ。それじゃ……。あ、あ、あ~ん」
 ゆ ま「はい、どうぞ」
 パクッ。
 柔らかく煮えた牛肉が口の中へ入った瞬間、杏子の目から再び涙の粒が溢れて頬を伝った。
 ゆ ま「どうしたの? 泣いてるの?」
 心配そうにゆまが声をかける。
 杏 子「泣いてる? バカな事を言うなよ。湯気が目に痛かっただけだ」
 ゆ ま「ふ~ん」
 杏 子「今度はあたしの番だ。ゆま、口を開けな」
 ゆ ま「えへへへへ。やった~。杏子が食べさせてくれるぅ」
 ゆまは嬉しそうに言いながら口を大きく開けた。
 ゆ ま「あ~ん」
 杏 子「ほら、お肉だ。熱いから気をつけろよ」
 パクッ。
 ゆ ま「あふッ、あふッ。う~ん。おひひい」
 杏 子(この笑顔……。まるでモモが笑ってるみたいだ)
 ゆ ま「杏子。もう一回ぃ」
 杏 子「はいはい、世話の焼ける妹だねぇ」
 呆れたように言いながらも、杏子は嬉々として呑水から肉を摘み出した。
 杏 子「ほら、口を開けな」
 ゆ ま「あ~ん」
 マミ達6人は箸を休め、このような微笑ましい二人のやり取りを見ている。
 織莉子「なんだか本当の姉妹みたいね」
 キリカ「うん。ゆまの奴、心の底から喜んでる」
 まどか「てぃひひ。杏子ちゃんも嬉しそうだよ」
 さやか「あいつの笑顔、いつもより優しそうに見えるわ」
 ほむら「ええ。母性溢れる笑顔に見えるわね」
 マ ミ「二人とも幸せそうな顔をしているわ」
 そんなギャラリーの声が耳に入らないのか、杏子とゆまは食べさせっこを続けている。

 まどか「どうも御馳走様でした」
 さやか「とっても美味しかったです。御馳走様でした~」
 マ ミ「喜んでもらえて嬉しいわ。それよりも悪かったわね、御家族との夕食前に呼び出しちゃって」
 さやか「気にしないで下さい。マミさんの手料理と聞いたら黙っちゃいられませんから」
 マ ミ「うふふふふ。ありがとう、美樹さん」
 ほむら「今日は御馳走様。また明日、学校で会いましょう」
 マ ミ「ええ。鹿目さんのエスコート、お願いね」
 ほむら「わかっているわ」
 マ ミ「鹿目さん、暁美さん、美樹さん。今日は本当にありがとう。それじゃ、おやすみなさい」
 杏 子「気をつけて帰れよ~」
 まどか「ありがとう、杏子ちゃん。それじゃ、失礼します」
 さやか「おやすみなさ~い」
 ほむら「おやすみなさい。佐倉杏子、巴マミ」
 マミが可愛い三人の後輩を送り出した直後、今度は風見野町の三人組が玄関に現れた。
 織莉子「それじゃ、わたし達も失礼するわ」
 マ ミ「ごめんなさいね、急に呼び出しちゃって」
 織莉子「気にしないで。久しぶりに大勢で食事ができて楽しかったわ」
 キリカ「織莉子の恩人からの頼みじゃ断るわけにはいかない。それに……(呟くような声で)あなたの料理も美味しかった」
 マ ミ「え? なにか言った、呉さん?」
 キリカ「い、いや。賑やかな夕食を楽しめたって言ったんだ」
 ゆ ま「マミお姉ちゃん、御馳走様でした」
 マ ミ「どういたしまして。ゆまちゃんにも御礼を言わないとね。夜遅くまで付き合ってくれて、どうもありがとう」
 ゆ ま「どういたしまして」
 織莉子「うふふふふ、まったら」
 マ ミ「ちょっと、織莉子。笑ったら失礼よ」
 ゆ ま「失礼よ」
 織莉子「そうね、笑ったら悪いわね。ごめんなさい」
 ゆ ま「わかればいいんです」
 杏 子「あっはははは、ゆまも一丁前の口を聞くようになったじゃないか」
 キリカ「生意気盛りで困るよ」
 ゆ ま「ゆま、生意気じゃないもん」
 キリカ「はいはい、そうだね」
 ゆ ま「むうぅ。キリカなんて嫌いッ」
 織莉子「さあ、喧嘩していないで帰るわよ」
 キリカ「わかったわ」
 織莉子「また機会があったら食事に誘ってね。おやすみなさい」
 キリカ「おやすみ。杏子、マミ」
 織莉子「キリカ。マミは先輩でしょう。「マミさん」と言いなさい」
 キリカ「わ、わかったよ。おやすみなさい、マミ……さん」
 マ ミ「無理しなくてもいいのよ、呉さん。呼びなれた言い方で構わないわ」
 織莉子「甘やかしちゃ駄目よ、マミ。親しき仲にも礼儀ありでしょう」
 マ ミ「なるほど。それじゃ杏子にも「マミさん」って呼ばせないとね」
 杏 子「おい、あたしに話題を飛び火させるなよ」
 マ ミ「うふふふふ。冗談よ。わたしはわたしのペースでいくわ。呉さんも無理しないでね」
 キリカ「は、はい」
 杏 子「ゆまの事、よろしく頼むよ。キリカ、織莉子……先輩」
 織莉子「あら。佐倉さんもキリカに感化されてしまったようね。うふふふふ」
 杏 子「そ、そうじゃねえ……そうじゃありませんよ」
 キリカ「なんか……キミらしくない話し方だな」
 杏 子「う、うるせえ」
 マ ミ「はいはい、玄関先で喧嘩しない。御近所の迷惑になるでしょう」
 杏 子「ご、ごめんなんさい」
 織莉子「さあ、それじゃ帰りましょう。おやすみなさい。マミ、佐倉さん」
 マ ミ「また会いましょう、織莉子」
 キリカ「またな」
 杏 子「元気でな」
 ゆ ま「じゃ~ねぇ。杏子、マミお姉ちゃん」
 マ ミ「またね、ゆまちゃん」
 杏 子「いつでも遊びにこいよ」
 風見野町から足を運んでくれた三人の魔女少女をエレベーターまで見送り、マミと杏子は閑散とした玄関へ戻ってきた。
 ふと空を見上げると満天の星が煌々と光り輝いており、ランダムに点在する星々が幻想的な夜空のアートを展開している。
 マ ミ「この静かで平和な夜が続けばいいわね」
 杏 子「そうだな」
 感傷的な気持ちになった二人は冷たい風が吹きつけるのも構わず壮大なスケールのアートを見続けていた。

 杏 子「なあ、マミ」
 照明の消えた寝室で杏子が不意にマミの名を呼んだ。
 ダブルベッドの右端には杏子が横たわっており、彼女の両目は遠い天井を見つめている。
 反対側に体を横たえるマミは杏子の方に体を傾け、僅かに見えるシルエットへ返事をした。
 マ ミ「なぁに?」
 杏 子「今夜の食事は本当に楽しかった。どうもありがとう。心から御礼を言うよ」
 マ ミ「ううん、わたしは何もしていないわ。みんなを呼んできてくれたQべえ、その呼び出しに応じてくれた鹿目さん達の好意に御礼を言いなさい」
 杏 子「でもさぁ、みんなを呼んでくる事はマミの思いつきだろう。やっぱり一番の感謝はマミにするべきだ」
 マ ミ「そんな事……」
 杏 子「ゆまとの食べさせっこ、とても嬉しかったよ」
 マ ミ「え?」
 杏 子「あの小さな口と清く澄んだ目。まるでモモに食べさせてるみたいだった。あの時……少しだけど夢が叶った気がする」
 マ ミ「どういう事?」
 杏 子「すき焼きを楽しみにしてたモモは……それを食べる事なく……し、死んじまった。あたしの……自分勝手な願い事が家族を崩壊させ……モモにすき焼きを食べさせてやる事が……できなかった」
 マ ミ「杏子……」
 杏 子「わかっていたよ。ゆまにテレパシーで食べさせっこを提案したのはマミだろう」
 マ ミ「……」
 杏 子「一年前……ゆまと始めて会ったときから……あいつにモモの面影を見ていた」
 声が途切れ途切れなのは涙を堪(こら)えているせいだろう。咽喉の奥から無理に声を絞り出しているような喋り方だ。
 杏 子「ゆまが……箸で摘んだ肉を差し出した時……あたしには……ゆまの顔がモモに見えた。不覚にも涙が出たよ。ゆまの箸から食べた肉は……美味しかった。これよりも美味い肉なんて……存在しないんじゃないか……って思えるくらい……美味しかった」
 Qべえ「……」
 マミの枕元にあるペット用クッションで丸くなりながら眠る体勢を整えているQべえも杏子の話に黙って耳を傾ける。
 杏 子「僅かな時間だけど……モモと一緒にいたような気分だった。ゆまが聞いたら……怒るかも知れないけど……あの時……あたしの胸の痞(つか)えが少しだけとれたよに……思え……たん……だ……よ」
 言葉の終わりは涙声になっていた。どうやら堪えていた涙が一気にあふれ出したらしい。
 しばらくの沈黙後、再び杏子が口を開いた。少しは落ち着いたのか普段の口調に戻っている。
 杏 子「なかなか鍋が温まらなかったのもマミの仕業だったんだろう。みんなが来るまでの時間を稼ごうとして魔力でコンロの火から熱を奪ったんじゃいのか」
 マ ミ「あらあら、やっぱりバレていたのね。その通りよ、御名答。お鍋の中からも少し熱を奪って時間を稼いでいたわ」
 杏 子「変だと思ったんだ。あれだけグツグツ煮えてた鍋が十分以上経っても温まらなかったんだから」
 このような会話が暗闇の中で交わされている時、今まで沈黙を守っていたQべえが脇から口を挟んできた。
 Qべえ「ねえ、君達」
 杏 子「なんだよ」
 マ ミ「どうしたの、Qべえ」
 Qべえ「僕の事は労ってくれないのかい? 寝ている所をテレパシーで起こされ、隣町まで行ってきたんだよ。織莉子達に声をかけた後は鹿目家、美樹家、暁美ほむらの自宅へも行ってきた。御苦労様、お疲れ様、ありがとうの一言くらいあってもいいんじゃないかな」
 この一言で湿っぽい雰囲気は一掃され、杏子も普段の活発な調子を取り戻した。
 杏 子「なにを言ってんだ。お前は寝てばかりいるじゃねえか。こんな時に働いて当然だろう。ちょっと使いに行ってきたくらいでドヤ顔すんなっつぅの」
 Qべえ「それはそうだけど……」
 杏 子「魔獣退治の時だって戦いには加わらずに安全な所からエールを送るだけだろう。これくらいの事で御礼を要求するなて厚顔無恥にも程がある」
 Qべえ「うぐぅ。急所を突くね、杏子。槍による肉体への暴力だけでなく、言葉による精神への暴力も凄い威力だ」
 杏 子「ほざいてろ」
 マ ミ「まあまあ、落ち着いて。Qべえのおかげで織莉子や鹿目さん達が来てくれたのも事実なんだから、やっぱり御礼は言わないよね。ありがとう、Qべえ」
 Qべえ「きゅっぷい。さすがマミ、話せるなぁ」
 杏 子「チッ。まったく、調子のいいヤツだ。でも……」
 そう言いかけた杏子は半身を起こし、マミの枕元にいるQべえの脇腹を指でツンツンと突きながら礼を述べた。
 杏 子「ありがとよ、Qべえ」
 Qべえ「うん、素直で結構。大いに感謝してほしいね」
 杏 子「こいつ、調子にのるなッ」
 Qべえ「むぐぅ」
 笑いながらQべえの腹を指先で突く杏子。その笑顔には一点の曇りも見られなかった。
 杏 子「オラオラァ」
 Qべえ「やめないか、佐倉杏子。僕のデリケートな肌が痛むじゃないか」
 杏 子「スポンジみたいな体のくせに「肌が痛む」だって? 笑わせるな。オラオラオラァ」
 相手の顔が見えないにも関わらず陽気にじゃれ合う杏子とQべえ。それを横目で見ながらマミは心の中で呟いた。
 マ ミ(どうやら少しは憂鬱が晴れたようね。辛い過去を忘れ去る事はできないけれど、お互いに頑張りましょう。杏子)
 闇に覆われて見えない相手へ優しく微笑みかけるマミ。
 それと同時に杏子もQべえを弄びながらマミへ心の中で御礼を述べていた。
 杏 子(マミ、今日は最高の一日だったよ。本当にありがとう。袂を分かつ事もあったけど、もう二度とバカはしない。これからも……よろしくお願いします。マミさん)


【あとがき】
 念願だった「魔法少女まどか☆マギカ」と「魔法少女おりこ☆マギカ」のコラボレーションが実現できてホッとしています。両作品の魔法少女が和気藹々の楽しい時間を過ごすSSを書いてみたかったので「杏×ゆま」メインではあるものの念願が叶いました。
 玄関先でのキリカと杏子の絡み、もう少しお互いの個性を出した会話にできればよかったのですが……。あれが限界でした。
 最後になりますが、滝原市の隣町・風見野町の名称はSix315氏の二次創作小説「“VV”(not “W”)/あなたにさよならを」(魔法少女まどか☆マギカ小説合同誌『願いのチカラ Piece of Desire』所収)より拝借しました。Six315氏には記して感謝致します。
 実現できるか微妙な状況ですが、クリスマス頃に「魔法少女まどか☆マギカ」&「魔法少女おりこ☆マギカ」&「スイートプリキュア」のコラボ長編を分載形式でアップしようと考えています。無事にアップされた際は御笑覧下さい。
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