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2017-10

「魔法少女まどか☆マギカ Another」  寒月(後編)

シーン11:さやかの本音(12月4日 午後9時)

 さやか(わたし、杏子になんて事を言っちゃったんだろう。土曜日の夕方、杏子はわたしを優しく慰めてくれた。怒りにまかせて頬を叩いても笑って許してくれた。そんな杏子に向かって『この街に来なきゃよかったのよ』だなんて……。ブレスレッドを投げつけられた時の悲しそうな顔、瞼に焼付いて離れないわ。元を正せば杏子の言う通りよ。わたしが匿名の善意で自己満足に浸り、自分の気持ちを伝えられなかったのが悪かったんだわ。頭に血が上って怒鳴り散らし、心配してくれた杏子の心をズタズタに傷つけたうえ、ブレスレッドまで投げつけて……。いつもそうだわ。失くしてから大切な物に気が付くのよ。わたしって、ほんとバカ)


シーン12:一夜明けて(12月5日 午後7時45分)

 まどか「おはよ~。ほむらちゃん、杏子ちゃん」
 ほむら「おはよう、まどか
 杏 子「おはよう」
 いつもと変らない朝の学校風景。しかし、昨日のショックが抜けきらない杏子の心は重く沈んでいた。
 まどか「どうかしたの、杏子ちゃん。元気ないみたいだけど……」
 杏 子「ん? ああ、いや。別に……なんでもない」
 ほむら「顔色が悪いようだけれど、大丈夫?」
 杏 子「大丈夫だよ。ちょっと気分が乗らないだけさ」
 元気のない杏子を心配する二人。そんな時、さやかが教室へ姿を現した。
 さやか「おはよう」
 まどか「あッ、さやかちゃん。おっはよ~」
 ほむら「おはよう」
 杏 子「……」
 さやか「お・は・よ・う」
 杏 子「え?」
 さやか「聞えなかったの、杏子。おはようって言ってるの」
 杏 子「お、おはよう……」
 いつものように朝の挨拶を求めるさやか。その顔に軽蔑や憤怒の感情は微塵もなかった。
 さやか「ねえ、杏子。よかったら……」
 杏 子「ん?」
 さやか「今日のお昼は一緒に食べよう。あんたの好きな玉子焼き、少し甘めにして持ってきたんだ」
 杏 子「さ、さや……か?」
 さやか「なによ、その顔。わたしの手料理じゃ不満なの?」
 杏 子「そ、そんな事ねえよ」
 さやか「それなら昼は一緒に食べましょう」
 杏 子「ああ」
 さやか「それじゃ、お昼にね!」
 そう言い残して自席へ戻るさやかの背中を杏子は複雑な気持ちで見送る。
 杏 子(どういう事だ。さやかのやつ、昨日はあんなに怒ってたのに……)


シーン13:中庭の二人(12月5日 午後12時10分)

 午前中の授業が全て終わり、昼食の時間となった。
 さやかは杏子を中庭へ誘い、東屋の中で持参した弁当を広げた。誰もいない真昼の中庭は解放感満点である。
 今日は風もなく、太陽の弱々しくも明るい日差しが降りそそぐ。
 さやかは玉子焼きの一切れを箸で掴み、弁当箱の中から取り出すと杏子に向かって言った。
 さやか「ほら、杏子。これが特製玉子焼きよ。食べさせてあげるから、あ~んして」
 杏 子「よ、よせよ。そんな恥しいマネ。自分で食えるよ」
 さやか「いいから、いいから。ほら、あ~ん」
 杏 子「しかたねえな。あ、あ、あ~ん」
 さやか「はい、どうぞ」
 パクッ。モグ、モグ、モグ。
 さやか「どう? 美樹さやかのお手製玉子焼きの味は?」
 杏 子「うん、悪くない」
 さやか「そ、それだけなの、感想は」
 杏 子「冷めた時の事も計算した味付け、なかなかの腕前だな。マミの作る玉子焼きといい勝負だよ」
 さやか「他には?」
 杏 子「この柔らかさ、ふんわり仕上げるのにマヨネーズを使ってるだろう。口全体に広がる甘い味付けは溶かしたバターと加糖生クリームかな」
 さやか「へえ、食べるのが専門な杏子にしては冴えてるじゃない。正解よ。意外と料理に詳しいのね」
 杏 子「まあな。あたしだって食うだけが専門じゃないし」
 さやか「それでは御褒美に追加の一切れ。はい、あ~ん」
 杏 子「あ、あ~ん」
 まどか「さやかちゃんと杏子ちゃん、楽しそうだね」
 ほむら「ええ」
 まどか「邪魔しちゃ悪いから、わたしたちは教室で食べようか」
 ほむら「そうしましょう」
 一緒にランチを食べようと二人の後を追ってきたまどかほむらだが、目の前に展開される光景を見て割り込む事を遠慮した。
 まどか「ねえねえ、ほむらちゃん」
 ほむら「なにかしら」
 まどか「わたしたちもやろうか」
 ほむら「なにを?」
 まどか「さやかちゃんたちと同じ事だよ」
 ほむら「え?」
 まどか「わたしはほむらちゃんに、ほむらちゃんはわたしに。自分のお弁当から一品『あ~ん』ってやるの」
 ほむら「……」
 思いもよらぬ一言に茫然とするほむら。あまりの嬉しさにフリーズしてしまったが、まどかは逆に受け取ったらしい。
 まどか「や、やっぱり……駄目だよね。ごめんね。変な事を言っちゃって」
 ほむら「いいえ、やりましょう」
 まどか「え?」
 ほむら「やりましょう、食べさせっこ。まどかとなら喜んで」
 まどか「ほ、ほむらちゃん……」
 ほむら「さあ、時間が惜しいわ。わたしたちは屋上で誰にも邪魔されず昼食を楽しみましょう」
 まどか「あッ……。うん。そうだね」
 アツアツの二人を中庭に残し、ほむらまどかの腕を引いて屋上へ急いだ。


シーン14:夕暮れの二人(12月5日 午後4時40分)

 さやか「ごめんね、こんな所まで付き合わせて。寒くない?」
 杏 子「いや、別に。マミの家へ転がり込む前は真冬でも土管の中で寝てた事があるから、これくらいの寒さは何ともないよ」
 学校の中庭でアツアツな雰囲気の昼食を済ませた後、さやかは杏子に「今日の帰り、見滝原中央公園まで付き合ってくれない? 大切な話があるの」と伝えた。
 ほむらを拝み倒して掃除当番を代わってもらったさやかは杏子と一緒に定時で下校し、失恋の苦い思い出がある見滝原中央公園までやって来たのだった。
 陽は西に傾き始め、夕暮れの足音が刻一刻と迫って来る。
 杏 子「それで、大事な話ってのはなんだい?」
 さやか「あのね。ええと……」
 どうやって話を切り出したらいいのか、その言葉が見つからないさやかは俯きながら口ごもる。
 しばらく無言の時が流れ、寒々しく吹きすさぶ風の音だけが公園内に虚しく響く。
 この沈黙を先に破ったのは杏子だった。
 杏 子「もしかして、昨日の事か?」
 さやか「う、うん」
 杏 子「ごめん。本当に悪かったよ、さやか。あんたの気持ちも考えないで勝手な事を……」
 さやか「違う」
 杏 子「え?」
 さやか「違うの。謝るのは……わたしの方」
 杏 子「さやか……」
 意を決したさやかは顔を上げ、心の中でくすぶらせていた罪悪感を言葉にして杏子へ伝えた。
 さやか「昨日は本当にごめん。杏子の気持ちも考えず、深く心を傷つけるような言葉で怒鳴りつけちゃって」
 杏 子「……」
 さやか「その事を謝りたかったの。杏子が優しく慰めてくれた、この公園で」
 杏 子「いいや、謝るのはあたしの方だよ。余計な口出しを……」
 さやか「杏子は悪くない。あんたの言う通り、自分の気持ちをハッキリと伝えられなったわたしが悪いの。本当に……本当にごめんなさい」
 さやかは大きな声で謝罪し、深々と頭を下げた。彼女の青く短い髪を一陣の風が掻き乱す。
 さやか「頬を叩いても許してくれた、落ち込んでいるわたしに胸を貸してくれた。それなのに……。それなのに……」
 杏 子「も、もういいよ。あたしは気にしてないから」
 昨日とは正反対の態度に杏子は戸惑いを隠せず、ただ慌てるだけだった。
 さやか「勢いとはいえ大切なブレスレッドを投げつけ、そのうえ『この街に来なければよかった』なんて酷い言葉まで口にしちゃって」
 杏 子「だから、もう……」
 さやか「あの時の杏子の悲しそうな顔が瞼から離れなくってさ、昨夜(ゆうべ)は夜中まで眠れなかったんだ。だから……どうしても謝りたかったの。本当にごめんなさい」
 杏 子「顔を上げなよ、さやか。元はと言えばあたしが悪かったんだ。謝るのは……あたしの方だよ」
 さやか「違う。悪いのは……。んぐッ」
 このままではキリがないと思った杏子は、顔を上げたさやかの唇に自分の唇を重ね合わせた。
 強引な態度に抵抗を見せるかと思いきや、さやかは杏子を拒絶しようとせず、目を閉じたまま甘美なキスを受け入れる。
 ミントガムを噛んでいるので軽く唇を押し付けただけだが、さやかの温もりが唇を伝って感じられた。
 黄昏前の残光を全身に浴びながら、二人は微動だにしない。
 さやか「……」
 杏 子「……」
 さやか「……」
 杏 子「ハァ~(´0`)」
 先に唇を離したのは杏子だった。僅か1分にも満たない口づけだったが、その短い時間が二人には数時間にも感じられた。
 杏 子「これが……あたしからのお詫びだ」
 さやか「……」
 杏 子「さやか?」
 さやか「……」
 杏 子「怒ってるのか? ファースト・キスの相手があたしだったから」
 さやか「くすッ……。あっははははは」
 杏 子「ど、どうしたんだよ。さやか
 さやか「あんたのキスはミントの味がしてさ、これがファースト・キスの味なんだって思ったら……。あっははははは。なんだか知らないけど笑いが込み上げてきちゃった」
 杏 子「なんだ、おどかすなよ」
 さやか「ねえ、杏子」
 杏 子「ん?」
 さやか「わたしの事……許してくれる? また、友達になってくれる?」
 杏 子「許すに決まってるだろ。それに……」
 さやか「それに?」
 杏 子「友達をやめた覚えはねえぜ」
 八重歯を見せながら杏子は優しく微笑み、鞄の中からブレスレッドを取り出した。
 杏 子「ほら。落し物を返すよ」
 さやか「杏子……」
 杏 子「大事な物なんだろ。もう落とすんじゃねえぞ」
 さやか「あ、ありがとう。どうもありがとう」
 目に涙を浮かべながら、さやかは受け取ったブレスレッドを左腕に装着した。


シーン15:一枚の写真(12月6日 午後12時30分)

 翌日の昼休み。ランチを食べ終えた杏子にほむらが話しかけてきた。
 ほむら「佐倉杏子」
 杏 子「なんだ、ほむら?」
 ほむら「話があるの。屋上まで付き合ってくれないかしら?」
 杏 子(小声で)「またか。昨日から中庭だの公園だの付き合ってばかりだな」
 ほむら「なにか言った?」
 杏 子「いいや、なんでもねえよ。付き合ってやる」
 ほむら「ありがとう。手間は取らせないわ」
 連れだって教室を出て行く二人だが、その後姿を見つめる女生徒の存在には気付かなかった……。
 肌を刺すように冷たい木枯らしのせいか屋上まで足を運ぶ生徒はおらず、青空が見渡せる広い空間には誰もいない。
 ガチャリ。
 ドアが開き、無人の屋上へ二人の人影が姿を現した。ほむらと杏子である。
 杏 子「それで? 用件はなんだ」
 ほむら「これを見て」
 眩しそうに太陽から顔を背けたほむらが差し出した手には二枚の写真があった。
 杏 子「写真じゃねえか。これがどうした?」
 ほむら「ここに映っている光景、見覚えあるでしょう」
 杏 子「映っている光景? ん? う、嘘だろう……。なんで……この写真をほむらが……」
 ほむらから受け取った写真を見て杏子は愕然とした。そこに写っていたのは制服姿の杏子とさやかがキスをしている瞬間だったからだ。
 しかも、そのうちの一枚は御丁寧にも重ねあう唇を横向きアングルから可能な限りアップにして撮影したショットであった……。
 ほむら「昨日の学校帰り、公園の前を通りかかった時に撮影したのよ」
 杏 子「なるほど。あの噴水は入口から丸見えだからな。迂闊だった……」
 ほむら「どのような経緯(いきさつ)があったのかは知らないけれど、あなたが羨ましいわ。好きな娘(こ)の唇を堂々と奪えたのだから」
 杏 子「そ、そんなんじゃねえよ。って言うか、この写真をあたしに見せてどうしようってんだ。脅迫でもするつもりかよ」
 ほむら「馬鹿な事を言わないで。思い違いも甚だしいわ」
 キリリと柳眉を逆立てて……とまでは言えないものの、ほむらは少し怒った表情で杏子を睨みつけた。
 杏 子「わ、悪かった。今のは言いすぎだったよ。許してくれ」(なんか、昨日から謝ってばかりだなぁ)
 ほむら「わかればいいのよ」
 杏 子「それで、この写真をどうしたいんだ」
 ほむら「よかったらプレゼントするわ。そのつもりで撮影したのだから」
 杏 子「ほ、本当か?」
 ほむら「ええ。ただ、シチュエーションが際どいだけに人目の多い場所では渡せなかったのよ」
 杏 子「それで屋上へ呼び出したのか。まあ、その判断は正しかったよ。こんな場面、あたしだって他人(ひと)に見られたくねえからな」
 ほむら「喜んでもらえたかしら?」
 杏 子「ああ。ありがとう、ほむら
 ほむら「どういたしまして」
 杏 子「この画質から判断するとデジカメで撮影したように思えるんだが……。なんで学校帰りなのにカメラなんか持ってたんだ?」
 ほむら「もちろん、まどかを撮影する為よ」
 杏 子「はぁ? まどかを撮影するだって?」
 ほむら「ええ。あの娘(こ)が熱心に授業を受ける姿、体操服で運動する姿、休み時間に友達と喋りながら笑う顔、美味しそうにランチを食べる顔。時間を止めて素敵な写真を撮り放題。わたしの『まどかコレクション』を一枚でも増やす為、いつもデジタルカメラを持ち歩いているのよ」
 杏 子「さすがだねえ、その情熱。不意の持ち検(=持ち物検査)も時間を止められりゃ怖くねえしな。くぅぅ、羨ましすぎる」
 ほむら「数枚だけなら美樹さやかの写真も撮ってあげるわ」
 杏 子「えッ? いいのか?」
 ほむら「特別サービスよ」
 杏 子「ほ、ほむら……」
 ほむら「どんな写真が欲しいのか言いなさい。できるだけ要望に応えるわ」
 杏 子「そ、そ、それじゃ……。さやかが制服を脱いで体操服に着替える瞬間を撮ってくれないか。そのショットが一枚あれば……あたしは……じゅ、じゅ、充分だ」
 ほむら「着替えのショットね。わかったわ。金曜日の体育が終わるのを楽しみに待っていなさい」
 杏 子「ありがとう、ほむら。ワルプルギスの夜を倒してから、随分と優しくなったな」
 ほむら「心境の変化とだけ言っておくわ。そろそろ教室に戻りましょう。体が冷えてきたわ」
 杏 子「そうだな。でも、その前に一つだけ聞いていいか?」
 ほむら「なにかしら」
 杏 子「ほむらの『まどかコレクション』で最高の一枚ってのがあれば教えてくれないか」
 ほむら「コレクション最高の一枚は……これよ」
 間髪入れない即答と同時に、ほむらは制服の内ポケットからラミネートカードケースを取り出した。
 そこには定期券サイズにカットされた写真が入っており、銀色に輝くパイプで組み立てられたハシゴを昇ってプールから出ようとするまどかの後姿が映っている。
 激しい運動を終えた後らしく、スクール水着の股下部分が小さなヒップに食い込んでいた。
 杏 子「水着姿って事は水泳の授業で撮影したのか。執念の一枚だな……」
 ほむら「自画自賛するわけではないけれど、この一枚は奇蹟のショットだと自分でも思っているわ」
 杏 子「この被写体がさやかだったらなぁ。あ~あ、ほむらの秘密を夏に知ってれば、あたしもさやかの……」
 さやか「水着写真を撮って貰うんだった、なんて言うんじゃないでしょうね」
 杏 子「ゲッ。さ、さやか。いつの間に」
 まどか「ひどいよ、ほむらちゃん。こんなのってないよ」
 ほむら「まどか……。ち、ち、違うの。これは違うのよ。誤解しないで」
 いつの間にか、教室を出て行く二人の後姿を見送っていたさやかまどかも屋上へ来ていた。
 話に夢中だったほむらと杏子の耳には階段を上がる足音が聞えなかったらしい。
 さやか「二人して寒い屋上で卑猥な写真の交換会? まったく、呆れて言葉も出ないわ」
 杏 子「違うんだ、さやか。あたしの話を聞いてくれ」
 杏子が弁解しようとした瞬間、手に持っていた二枚の写真が強い風で飛ばされてしまい、あろう事かさやかの顔に直撃した。
 杏 子「や、やべえ……」
 さやか「うっぷ。な、なにすんのよ」
 杏 子「うあぁぁぁ。見るな、さやか。見るな」
 さやか「なによ。なにが写って……るの……よ……」
 杏 子「ああ~、もう終わりだ」
 ほむら「あきらめなさい、佐倉杏子」
 愛するまどかに秘密を知られ、絶望の極地に立つほむらは他人事のように言った。
 さやか「こ、こ、これ……これって……昨日の写真じゃないの」
 杏 子「あたしは知らない。ほむらが勝手に撮影したんだ。それを譲ってくれるって言うんで……」
 さやか「あんた、まさか貰うつもりだったんじゃないでしょうね」
 杏 子「え? ええと……。そ、そんな事……」
 さやか「聞くまでもなかったわね。態度でバレバレよ」
 杏 子「違うんだ、さやか。誤解だって」
 さやか「言い訳は聞きたくないわ。まどか、教室へ戻ろう」
 まどか「う、うん。そうだね」
 杏 子「さ、さやかぁぁぁ~」
 ほむら「待って、まどか。行かないでぇ~」


エピローグ:(12月6日 午後4時10分)

 帰りのホームルームが終わり放課後となった。
 教室を出て行こうとするさやかの前に立ちはだかった杏子は昼間の事を詫びた。
 杏 子「さやか、ごめん。昼間の事は心から謝る」
 さやか「……」
 杏 子(さやかにだけ聞えるような小声で)「あれは……さ、さやかの事が……す、す、好きだから口に出た言葉だった。ぜ、ぜ、絶対に変な下心がったわけじゃない。これだけは嘘偽りのない本音だ」
 さやか「……」
 杏 子「信じてくれ……なんて調子のいい事は言わない。信じてもらえなくて当然だからな。でも、これだけは言わせてくれ。(さやかにだけ聞えるような小声で)大好きだ、さやか
 さやか「くすッ。あっはははは」
 杏 子「な、なんだよ。笑う事はねえだろ」
 さやか「あんたには負けたわ。そんなセリフを恥しげもなく言えるなんて」
 杏 子「べ、別に恥しくなんかねえよ。あたしの本心なんだから」
 さやか「あはははは。いいわ、許してあげる。あんたの純情さには勝てないわね」
 苦笑しながら、さやかは杏子から取り上げた写真を鞄の中から取り出した。
 さやか「返すわ、この写真。でも変な事に使うんじゃないわよ」
 杏 子「変な事って?」
 さやか「バカ。そこまで言わせる気」
 同じ頃、自席で週直日誌を書いているまどかの前にほむらが現われ、深々と頭を下げた。
 ほむら「まどか、ごめんなさい。あなたを思うあまり、わたしは許されない事をしてしまった」
 まどか「ほ、ほむらちゃん……」
 ほむら「あなたを守りたくて手に入れた魔法(ちから)を邪(よこしま)な下心の為に使った。この事について言い訳はしないわ。百万言を費やしても償いきれない罪を犯してしまったのだから」
 まどか「……」
 ほむら「これは写真のデーターが入っていたメモリーカードよ。内容は全て消去してあるわ。それから、これが例の写真よ。あなたに返すわ。思うように処分して頂戴」
 まどかの机の上にメモリーカードと裏返した写真を置いたほむら。そのまま踵を返し、ポツリと呟いた。
 ほむら「貴重な時間を無駄にさせてしまったわね。さようなら、まどか
 立ち去ろうとするほむらの哀愁漂う背中に向かい、まどかは優しく声をかける。
 まどか「待って、ほむらちゃん。これは受け取れないよ」
 ほむら「え?」
 まどか「ほむらちゃんの気持ち、よく分かってたよ。わたしの事を誰よりも大切に思ってくれる気持ち、ずっと前から気付いていた」
 ほむら「まどか……」
 まどか「ちょっと恥しいけど、この写真はほむらちゃんの大切な写真なんでしょう。だから……受け取れないよ……。このカードも」
 ほむら「……」
 まどか「わたしなんかでよかったら、いつでも写真を撮って」
 ほむら「許してくれるの? この……わたしを……」
 まどか「うん。これからは無断撮影をしないって約束してくれれば、それだけで充分だよ」
 ほむら「約束するわ、まどか。この能力(ちから)は二度と悪用しない」
 まどか「それじゃ、これで仲直りだね」
 ほむら「ありがとう、まどか。あなたは本当に優しい娘(こ)だわ。だからこそ、わたしも命をかけて守りたくなるのよ」
 まどか「大袈裟だよ、ほむらちゃん」
 こちらでも和解が成立した時、教室の向こうからさやかの声が聞えてきた。
 さやか「まどかぁ~、悪いけど今日は先に帰るね。ほむらぁ、まどかをいじめるんじゃないわよ~」
 まどか「また来週ねぇ。さやかちゃ~ん、杏子ちゃ~ん」
 杏 子「おう」
 ほむら「心配無用よ、美樹さやか。あなたこそ佐倉杏子と仲良くしなさい」
 さやか「な、なにを言うの。あんたは余計な事を心配しなくてもいいのよ」
 杏 子「ほむらこそ、まどかと仲良くやれよ~。じゃあな」
 ほむら「ええ。よい週末を」
 二人の姿が教室から見えなくなった。それと同時にまどかは嬉しそうに言う。
 まどか「さやかちゃんと杏子ちゃんも仲直りできたみたいだね」
 ほむら「雨降って地固まる。二人の絆は以前よりも深まったようだわ」
 まどか「わたしたちも?」
 ほむら「もちろんよ」
 まどか「うぇひひ。嬉しいなぁ。ほむらちゃんと前よりも仲良くなれて」
 どうにか四人の仲は丸く収まり、これで万事解決となった。
 夕方前だと言うのに夕暮れが迫る寒々とした空には月が浮かんでいた。
 煌々と冴える冬の月は寒そうに見えるが故に「寒月」と呼ばれる。
 窓越しに見える寒月へまどかの笑顔を重ね合わせ、ほむらは口元をほころばせた。
 ほむら(わたしも嬉しいわよ、まどか。あなたと前よりも仲良くなれて。今は無理でも、いつか優しい笑顔をわたし一人のものにしてみせる。夜空に冴える寒月よりも明るい笑顔を独占させてもらうわ。いつか……必ず……)
 週直日誌を書き続けるまどかに視線を戻し、ほむらは心の中で宣言した。


The End


【あとがき】
 ネット接続できない日々が続いた為、完結まで3週間近くを要しました。空き時間を利用して少しずつ書き進めた本作ですが、構想段階とは全く違う物語に仕上がっています……。
 最初の予定では「杏×さや」カップルが破局・仲直りしてラブラブ度が以前よりも高まる過程をジックリと描く筈でしたが、自分には向かないテーマであった事を徐々に痛感し始め、最後は「ほむ×まど」絡みのギャグ路線で強引に話をまとめてしまいました。タイトルと内容の関連性が薄いのも、このような理由によるものです。
 島田荘司氏は自作「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」執筆当時の事を振り返った小文にて、「作中でシャーロック・ホームズが笑うシーンを描こうと決めていながら失念し、最後に強引な方法を用いてホームズを笑わせた」と述懐していますが、その故智に習い、最後の最後でタイトルと内容を絡ませるような文章を挿入しました(蛇足と呼ばれる事は百も承知です……)。
 反省点の多い本作ですが、いろいろな同人誌で描かれる「杏×さや」の百合っぽいシーンを自分なりに描くという目標を無事に達成できて一安心しています。
 具体的な内容までは煮詰まっておらず、漠然としたアイディアしかありませんが、魔法少女五人がシミュレーション世界で様々なゲームのキャラクターになる中編、夏休みを利用した加音町への旅行で「スイートプリキュア」のメンバーと出会う長編も書いてみる予定です。
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