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2017-06

「魔法少女まどか☆マギカ Another」  寒月(中編)

シーン6:佐倉杏子と上條恭介(12月3日 午前7時25分)

 この日は特別に寒く、朝の天気予報は昼前まで強い北風が吹くと伝えた。
 いつものようにマミと連れ立ってマンションの自室を出た杏子だが、昨夜の事もあってか互いに口数は少ない。
 杏 子(マミは余計な口を出すなと言ってたけど、このままさやかを放っておくなんて……)
 冷たい風に凍えながら、杏子は心の中で一人ごちる。
 失意のさやかを放っておけないと分かっていながら、一方ではマミの言い分も理解していた。
 土曜日の夕方、公園で見たさやかの泣き顔を思い浮かべるたびに杏子の心は揺れ動く。
 気まずい沈黙が続く中、背後からマミの名を呼ぶ声が聞えた。
 エレン「マミ~」
 マ ミ「え? あら、エレン。おはよう」
 エレン「おはよう」
 声をかけてきたのはマミの親友である黒川エレンだった。
 エレン「朝一の学年集会で提出するプリントなんだけどさぁ」
 マ ミ「ああ、音吉先生が言っていたプリントね」
 学校に着いてからでは間に合わないのか、二人は道端に寄ってプリントを出しながら立ち話を始めた。
 真剣な顔で話し合うマミたちの会話に割り込む事を遠慮した杏子は、先に歩き出し学校へ向かう。
 その時だった。
 杏 子「あ、あいつは」
 白い制服をパリッと着こなした少年の姿が杏子の視野に入った。上條恭介だった。
 杏 子(上條……)
 まだ足の怪我は完治していないのか、右足を少し引き摺りながら歩いている。
 杏 子(こいつの腕を治したい一心でさやかは魔法少女になった。それなのに……こいつは……)
 上條の姿を見た杏子の心に怒りの感情が湧きあがってきた。
 理不尽な怒りなのは分かっている。杏子自身は上條となんの接点もなく、上條も自分の腕がさやかによる「癒しの祈り」で全快した事を知らない。杏子が上條を責める理由がなければ、上條がさやかに感謝する理由もないのだ。
 杏 子(志筑仁美は近くにいないようだな。よし、当たって砕けろだ)
 これまで胸に溜めてきたモヤモヤした不思議な感情が上條の姿を見た事で一気に解放されたのか、杏子は足を早めて上條に近づき、後ろから声をかけた。
 杏 子「おはよう、上條恭介」
 上 條「え?」
 聞き覚えのない女性の声に驚いた恭介は後ろを振り向いた。だが、相手が同じクラスの女子生徒だと分かりホッとしたらしい。
 親しいクラスメイトに接するような気軽な口調で挨拶を返した。
 上 條「やあ、佐倉さん。おはよう」
 杏 子「……」
 上 條「僕になにか用事かな?」
 杏 子「手間は取らせない。ちょっとだけ、あんたに聞きたい事があるんだ」
 上 條「聞きたい事?」
 杏 子「単刀直入に言うよ。あんた、美樹さやかと志筑仁美、どっちが好きなんだ」
 上 條「え? 何を言うんだい、突然」
 動じる様子もなく、恭介は真顔で問い返した。そんな態度が杏子をイライラさせる。
 杏 子「美樹さやかと志筑仁美、どっちが好きかって聞いてるんだ」
 上 條「ど、どうして、そんな事を聞くんだい」
 杏 子「いいから、あんたの答えを聞かせてくれ」
 上 條「その質問には答えられない。佐倉さんには関係ない事だ」
 杏 子「関係ない……だと」
 上 條「ああ。朝早くから変な質問をされるのは迷惑だね」
 杏 子「……」
 相手に叱咤され、杏子は自分の勇み足を悔やんだ。奇蹟の真相を知らない上條にとって杏子は一人のクラスメイトでしかなく、そんな相手に際どいプライベートな事を話したい筈はない。
 上 條「そういえば、佐倉さんはさやかと仲がいいみたいだけど、今の質問はさやかの気持ちを察しての代弁かい。それとも……」
 杏 子「それとも?」
 上 條「僕の本心を確かめてくれとさやかに頼まれたからかい」
 杏 子「さやかは関係ない。あたし自身からの質問だよ」
 上 條「そう。それなら僕には答える必要がないね」
 杏 子「待てよッ。あんたは……医者からも見放された自分の腕が完治した事を不思議に思った事はないのか。それがさやかのおかげだって少しでも考えた事があるのか」
 上 條「僕の腕が完治したのはさやかのおかげだって? どういう事だい」
 杏 子「そ、それは……」
 杏子は言葉に詰まった。さやかが癒しの祈りで魔法少女になった事を恭介に話しても信じてもらえないだろうが、それ以外に説明のしようがない。
 上 條「さやかが毎日のように見舞ってくれた事は感謝している。でも、それと僕の腕が治った事は別問題だ。変なコジツケはやめてくれないか」
 杏 子「くっ……」
 上 條「朝から変な質問をしないでほしいね。それじゃ、これで失礼するよ」
 杏 子「待て、上條」
 しかし、上條は立ち止まらなかった。
 杏 子「チッ」
 相手の態度に苛立った杏子は舌打ちをして足元の砂利を蹴り、去っていく上條の後姿をジッと見つめていた。


シーン7:屋上の二人(12月2日 午後12時45分)

 昼休みが終わる十五分前、マミは屋上にやってきた。あれほど冷たかった北風は止んでいる。
 こんな日に屋上で昼食をとる者はいなかったが、冬の陽を浴びた広いスペースには何名か先客がいた。
 その中の一人に暁美ほむらの姿もあり、彼女は眼を閉じて鉄柵に体を預けている。
 マ ミ「あら、暁美さん」
 ほむら「こんにちは、巴マミ」
 マ ミ「こんにちは。あなた一人?」
 ほむら「ええ、今はね。さっきまではまどかも一緒だったわ」
 マ ミ「そうなの? 鹿目さんはどこへ行ったのかしら」
 ほむら「午後から使う化学教室の準備があるので少し前に戻ったわ。彼女は週直だから。一緒にいた北条響と南野奏も体が冷えたからと言って教室へ戻ったところよ」
 マ ミ「あなたは戻らないの?」
 ほむら「ちょうど戻ろうと思っていたのよ」
 マ ミ「あら、そうだったの」
 ほむら「でも、あなたが来て気が変わったわ。聞いてほしい事があるの。手間は取らせないから少し時間を頂けるかしら」
 マ ミ「ええ、構わないわよ。外の空気を吸いにきただけだもの」
 ほむら「美樹さやかが日曜日に入院した事は知っているでしょう」
 マ ミ「杏子から聞いているわ。精密検査でも異常は見られず、今日中に退院できるそうね」
 ほむら「魔法少女の体内では常に微量の魔力が生成され、体外へ放出される僅かな魔力によって内部から保護されているわ。肉体に激しい傷を負っても、それは表面上のダメージに過ぎず、よほどの事がない限り致命傷を負う事はない。だからこそ、わたしたちは人外の魔女と互角に戦えるのよ。もちろん、ソウルジェムが精神の牢獄でなくなった今、肉体と魂がバラバラだった頃と比べれば感じる痛みは強いけれど」
 マ ミ「それは初耳ね。魔法少女の契約をした時、Qベェはそんな事を言ってくれなかったわ」
 ほむら「あいつは魔法少女の契約を結ぶ事だけしか頭にない生物よ。必要最低限の知識しか与えない。魔法少女にとってソウルジェムが事実上の肉体になるって話も口にしなかったでしょう」
 マ ミ「ええ。その事を知った時はビックリしたわ」
 ほむら「話を戻すけれど、美樹さやかは癒しの祈りによって魔法少女の契約を結んだ。それにも関わらず、今回に限って魔女との戦いで傷ついた肉体を回復させられなかった」
 マ ミ「それはわたしも不思議に思っていたわ。彼女なら癒しの祈りで自分自身の傷も治せる筈なのに、一時的とはいえ入院を余儀なくされる程の深手を負ったまま辛うじて自宅に戻るなんて……」
 ほむら「わたしも彼女を見舞った時には変だと思ったわ。失恋と苦戦で心身共に疲労困憊していたとはいえ、何故、あれだけ傷ついた肉体を多少なりとも回復させなかったのか」
 マ ミ「……」
 ほむら「無意識のうちに魔法で多少は回復させていたんじゃないかって思っていけれど、美樹さやかの話を聞くとそうではないみたい」
 マ ミ「美樹さんの話って?」
 ほむら「彼女は言ったわ。『わたしも癒しの祈りで傷を治そうと思ったんだ。でも、自分の意思とは関係なく魔法少女の変身が強制的に解除されて魔法が使えなかったのよ』って」
 マ ミ「魔法が使えなかったですって。そんな事があり得るのかしら。それに自分の意思とは関係なく変身が解けるなんて話は聞いた事がないわ」
 ほむら「これはわたしの仮説だけれど、美樹さやかが魔法を使えなかったのはソウルジェムの副作用が原因ではないかしら」
 マ ミ「ソウルジェムの副作用?」
 ほむら「改めて言うまでもないけれど、これまでソウルジェムは魔法少女の精神を封じ込める器であり、魔女の卵でもあったわ」
 マ ミ「でも、その作用については鹿目さんのおかげで解決された筈よ。ソウルジェムは魔力を蓄える装置として根本的な構造から作り直され、穢れについても限界に達した時点でグリーフシードがなくても自動的に浄化されるようになったわ」
 ほむら「その通りよ。しかし、これらとは違う副作用が新たに設定されたと考えた事はない?」
 マ ミ「どういう事かしら」
 ほむら「これまでの世界ではQベェと契約を交わした者は魔法少女として魔女と戦い、いずれは魔女になる事を宿命づけられていた。その代償として一つだけ願いが叶うけれど、叶った願いとは吊り合わない不幸が自分自身にかえり、Qベェと契約した魔法少女は一人の例外もなく不幸になってきたわ。美樹さやかも、佐倉杏子も、あなたも」
 マ ミ「……」
 ほむら「ワルプルギスの夜を撃破した事で世界が改変され、ソウルジェムの構造や役目も改まり、魔女化や精神の束縛という機能は消失した。しかし、何の代償もなく魔法を与えられるなんて都合のよい事は考えられないのよ。程度の差はあれ、必ずマイナスの作用がある筈だわ」
 マ ミ「暁美さんの考えは当然ね。でも、そのマイナス作用ってなんなのかしら」
 ほむら「断言はできないけれど、おそらくは「ソウルジェムの穢れに比例して魔力が低下し、その穢れが限度を越えると強制的に魔法少女としての力を失う事」だと思うわ。もっとも、ソウルジェムには永久浄化機能があるから魔力を喪失するのは一時的な現象でしょうけれど」
 マ ミ「なるほど。その可能性は大いにあり得るわね。何のデメリットもなく魔法が使い放題なんて、それでは話がうますぎるわ。暁美さんの意見は正鵠を射ているかも知れない」
 ほむら「同時に永久浄化能力の欠点もハッキリしたわ。負の感情の急激な高まり、魔力の大量消費、これらの要因によってソウルジェムの濁りが限界に達した場合、その浄化には多少の時間がかかる。昨日の学校帰りに見舞った際、美樹さやかのソウルジェムを見たけれど真っ黒に穢れたままだったわ」
 マ ミ「それじゃ、しばらく美樹さんは魔法少女になれないわね」
 ほむら「ええ。誰もグリーフシードを持っていなかったので、彼女のソウルジェムの穢れは浄化できなかったわ。でも、わたしたちだって他人事ではないのよ。穢れの自動洗浄スピードは濁る速度の半分以下だから、気をつけないと魔女との戦いで必要な魔力が足りなくなる事だったあり得るわ」
 一陣の風が吹き、ほむらの長い髪とマミの縦ロールが風下に向かってなびいた。同時に午後1時からの授業開始5分前を知らせる予鈴がスピーカーから鳴り響く。
 ほむら「予鈴ね、そろそろ教室に戻りましょう。貴重な時間を消費させて悪かったわ」
 マ ミ「いいえ、そんな事ないわよ。あなたの考察、とても興味深い話だった」
 ほむら「これまで経験してきた世界に比べれば、今の時間軸は文句のつけようがないわ。まどかは生きて帰ってくれた。巴マミ、佐倉杏子、美樹さやかは共に戦う仲間として存在する。ソウルジェムの穢れによる魔法少女の魔女化も心配がなくなった。でも……」
 マ ミ「でも?」
 ほむら「改変されたが故に不明な点もあるわ。使い魔や魔女が誕生する原因、わたしたちの前からインキュベーターが姿を消した理由。この二つの謎がどうしてもわからない。これが新たな悲劇の引き金にならない事を願うばかりよ」


シーン8:退院(12月4日 午前11時5分)

 翌日、無事に退院したさやかは四時限目が始まる直前、一人で登校してきた。
 手首に巻いた包帯や頬に貼られた絆創膏が痛々しく見えるが本人はいたって元気であり、心配するクラスメートや友人とも笑顔で接する。
 外傷こそ激しかったが入院治療の必要はないと診断され、ギプスや松葉杖の必要もない奇跡的な容態であった。
 まどか「あッ、さやかちゃん。もう大丈夫なの?」
 さくら「心配したよ、美樹さん」
 ともよ「怪我の具合は如何ですか」
 さやかが教室へ入ると同時にまどかが駆け寄り、彼女と談笑していた木之本さくらや大道寺智世もさやかを迎え入れた。
 さやか「心配かけてゴメンね、もう大丈夫だよ。包帯も絆創膏も数日でとれるって」
 ともよ「そうですか。それはようございました」
 さくら「いったい、なにがあったの」
 さやか「わたしにもわからないの。市立図書館の前を通りがかった時、急に眩暈(めまい)がしたかと思うと意識がなくなって……それっきり。気が付いたら病院のベッドだったのよ」
 本当は魔女との戦いで負傷したのだが、魔法少女でもない二人(及びクラスメート)にそんな事は言えず、警察の事情聴取で述べた嘘を繰り返した。
 女教師「はいはい、授業開始のチャイムが鳴りましたよ。席について」
 午前中最後の授業となる国語の担当教師が姿を見せたので談話タイムは中断され、さやかと彼女を囲んでいたクラスメートは自席へ戻る。
 ・・・。
 ・・・・。
 ・・・・・。
 五十分の授業も終わり、国語教師は教室を出て行った。
 今から一時間は昼休みとなり、学生食堂に走る者、集まって弁当を広げる者、それぞれが思い思いの行動を取る。
 さやかが机の上に弁当を広げて食べようとしたとき、上條がやってきた。
 さやか「きょ、恭介……」
 上 條「もう怪我は大丈夫かい」
 さやか「うん」
 上 條「そうか。思ったより元気そうで安心したよ。さやかの元気な姿が見られないと寂しくてね」
 さやか「元気だけが取り得ですからね、わたしは」
 上 條「ところで、ちょっと話したい事があるんだ。時間は取らせない。中庭まで付き合ってくれないかな」
 さやか「ええ、いいわよ」
 務めて冷静な口調で答えると、弁当を鞄の中にしまって立ち上がった。
 教室を出る時に横目で志筑仁美に一瞥をくれたが、彼女は下を向いており表情が分からない。
 まどかは真剣な表情のさやかと上條に声をかける事ができず、杏子は教室から出て行く二人を黙って見送っただけだった。


シーン9:放課後の屋上で(12月4日 午後4時20分)

 さやか「杏子、ちょっといい」
 全ての授業が終わり放課後となった。生徒たちは帰り支度を始め、一人、また一人と教室から出て行く。
 週直のまどかは学級日誌の提出や雑務で居残り、ほむらは所属する図書委員の月例会への参加でいない。
 久しぶりに一人で帰る事になった杏子だが、そんな彼女にさやかが声をかけてきた。
 杏 子「さ、さやか
 さやか「話があるの。用事がなかったら付き合ってくれないかしら」
 その真剣な表情から用事の察しはついた。杏子は覚悟を決めて返事をする。
 杏 子「いいよ」
 教室を出た二人は階段を上って屋上へ向かった。
 真新しいベンチに二人揃って腰を下ろしたが、杏子を誘ったさやかは何も語ろうとしない。
 沈黙に耐えられなくなった杏子が先に話しかけようとした時、意を決したさやかが口を開いた。
 さやか「ねえ、杏子。昨日の朝、恭介に『美樹さやかと志筑仁美、どっちが好きなんだ』って聞いたそうね」
 杏 子「あ、ああ」
 さやか「なんでそんな事を聞いたの。恭介が好きなのは仁美に決まってるじゃない。その事は杏子だって知ってたでしょう」
 杏 子「……」
 返す言葉が見つからない杏子は黙っているしかなかった。
 さやか「恭介から『佐倉さんに変な事を質問されたけど、さやかは関係ないよね』なんて言われた時にはビックリして声も出なかったわ。なんにも知らないから驚いたわよ。それだけじゃない。恭介の腕が完治した事についても余計な一言を洩らしたそうね」
 杏 子「……」
 さやか「頼みもしないお節介はやめて頂戴」
 杏 子「ご、ごめん……」
 それ以外に言葉が見つからなかった。実際、頼まれもしない事をやってしまったのだから。
 さやか「恭介から仁美と付き合ってるって聞いた後、こんな事を言われたわたしの気持ち、あんたにわかる? あんたは……わたしが惨めな負け犬になった姿を見たいわけ?」
 杏 子「違うんだ、さやか
 さやか「何が違うって言うのよ」
 杏 子「昨日の件は確かにあたしが悪かった。あんたの気持ちを考えないで出しゃばったマネをした事は謝る。だけど、それはさやかの事が心配だったから……」
 さやか「それが余計なお世話なのよ。あんたのせいで恭介に誤解されて大恥かいちゃったわ」
 杏 子「……」
 さやかは手首に付けていたブレスレットを外し、杏子の胸めがけて乱暴に投げ捨てた。
 さやか「それ、返すわね。しばらくは口もききたくないわ」
 杏 子「さ、さやか
 さやか「あんたなんか……この街に来なきゃよかったのよ」
 そう言い捨て、さやかは小走りに屋上を出て行く。あとには目尻に涙を浮かべた杏子だけが取り残された。


シーン10:杏子の涙(12月4日 午後5時30分)

 美樹さやかは感情の起伏が激しい。普段は明るく元気なムードメーカーでありながら、些細な事で気落ちしてしまう性格面の弱点がある。
 放課後の激怒も感情の高ぶりによる一時的な事かも知れないが、別れ際の「あんたなんか……この街に来なきゃよかったのよ」と言う一言は杏子の心を鋭い矢のように貫いた。
 杏 子「ただいま」
 マ ミ「おかえりなさい。今日は遅かったわね。居残りでもさせられたの?」
 暗く沈んだ杏子の心境を知らないマミは冗談まじりに笑顔で声をかけた。
 杏 子「いや」
 マミの冗談を短い答えで受け流し、杏子は俯いたまま自室へ入る。
 マ ミ「……」
 眼の前を通り過ぎる杏子の肩が軽く震えているのを見たマミは、学校で何かあったと直感的に悟った。
 キッチンに戻って夕食の支度を切り上げたマミが杏子の部屋の前に立つと、室内からは嗚咽の声が聞えてくる。
 憂いの表情を浮かべながら、マミは思い切ってドアをノックした。
 コン、コン、コン。
 マ ミ「杏子。入ってもいいかしら」
 杏 子「……」
 マ ミ「杏子、どうしたの。学校で何かあったの」
 杏 子「……」
 マ ミ「悪いけど入るわよ」
 ドアノブを捻ると難なく廻った。どうやら鍵はかけていなかったらしい。
 部屋の中は真っ暗だった。カーテンも閉まっておらず、窓の向うにはとっぷりと暮れた紺青の冬空が広がっている。
 暗くてハッキリとは見えないが、杏子は両手で抱えた膝に顔を埋もれさせる恰好でベッドの上に座っていた。
 マ ミ「どうしたのよ、電気もつけないで」
 カーテンを閉めて電気をつけると、杏子は制服姿のまま体を縮めているのが目についた。
 マミは杏子の脇に腰を下ろすと静かな声で尋ねた。
 マ ミ「美樹さんとなにかあったのね」
 杏 子「……」
 返事をする代わりに杏子は小さく頷いた。
 マ ミ「なにがあったのか、よかった聞かせてくれる」
 杏 子「……マミ。あたし、どうしたらいい。どうしたら、さやかに許してもらえる」
 顔を上げた杏子の顔は涙で濡れ、頬をつたう涙の滴が掛け布団のカバーにポタポタと落ちる。
 マ ミ「落ち着いて。ほら、まずは涙を拭きなさい」
 スカートのポケットからハンカチを取り出し、杏子に差し出す。
 杏 子「ありがとう」
 受け取ったハンカチで涙を拭った杏子は座を正し、放課後の出来事をマミに話した。
 話をしているうちに気持ちも落ち着いたのか涙は止まっていた。
 杏 子「マミの言う通りだった。あたしが余計な口出しをしたせいで、さやかは上條に誤解されちまった。さやかが激怒したのも当然だよ。自業自得って、この事だよな」
 マ ミ「……」
 杏 子「マミも……怒ってるよね。あれだけ忠告してくれたのに、それを無視しちゃったんだから」
 マ ミ「怒っていないわよ」
 杏 子「え?」
 マ ミ「怒っていないと言ったの」
 マミは杏子の手に自分の手を重ね合わせ、優しく声をかける。
 マ ミ「こんな結果になってしまったけど、美樹さんを思う杏子の気持ちは理解できるつもりよ」
 杏 子「マミ……」
 マ ミ「ただ、ちょっと行動がストレート過ぎたわね」
 からかう様な口調でいい、杏子の額を人差し指で軽く突いた。
 杏 子「気持ちばかり先走って行動が空回りしたみたい。これまで突き返されちゃったよ」
 悲しげな声で言い、スカートのポケットからブレスレッドを取り出した。
 マ ミ「これって、あなたが美樹さんにプレゼントしたブレスレッドじゃないの」
 杏 子「そうだよ。さやかと駅前アーケードにオープンしたアクセサリーショップを覗いた時に買ったブレスレッドさ。あたしはさやかに、さやかはあたしに。プレゼント交換の形で買ったんだ」
 マ ミ「……」
 杏 子「なあ、マミ」
 マ ミ「ん?」
 杏 子「あたしが見滝原中学校にきたのは間違いだったのかなぁ」
 マ ミ「どうして?」
 杏 子「もともと見滝原市(ここ)はマミのテリトリーだろう。あたしが来るべき場所じゃなかったのかも知れない」
 マ ミ「そんな事ないわ」
 杏 子「やっぱり、あたしは一匹狼でいるべきだったんだ。相手の事を考えて行動できない利己主義な女だから」
 マ ミ「あんまり自分を卑下しないで、杏子。今のあなたは利己主義者なんかじゃない。友達や仲間の事を思いやれる優しさがあるわ」
 杏 子「でもさぁ……その付け焼刃の気持ちが裏目に出ちゃ意味がないよ」
 マ ミ「こういう事は時間が解決してくれるわ。あなたと美樹さんの事も、美樹さんと上條君の事もね」
 杏 子「そうかなあ。あんなに怒ったさやかを見たのは初めてだよ。今にも絶交を宣言しかねない剣幕だったけど……」
 マ ミ「大丈夫。わたしの言葉を信じなさい」
 杏 子「……。わかった。マミがそう言うなら信じるよ」
 マ ミ「そう、その調子よ。さあ、服を着替えていらっしゃい。今夜はクリームシチューを用意したの。思いっきり食べて悲しい事は忘れてしまいなさい」


⇒ To be continued
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