FC2ブログ

2017-10

恥辱に耐える心優しい高貴な麗人(八波則吉「犠牲」より)

 大正14年に創刊された大衆娯楽雑誌『キング』は、創刊号から吉川英治氏の長編「剣難女難」が連載され、まだ学生だった角田喜久雄氏が変名で発表した「罠の罠」も掲載されています。
 30年以上も発行の続いた歴史ある雑誌だけに、大正時代や昭和初期のバックナンバーさえ面白く読め、改めて大衆娯楽小説雑誌の魅力を確認できました。
 現在の月刊小説雑誌よりも遥かに充実した誌面作りとなっており、正直な事を言えば昔の雑誌の方が遥かに面白く感じる事もあります。
 レトロ趣味に生きる者の感傷と言われてしまえば、そうかも知れませんが……。

 大正14年と同15年に発行された『キング』のバックナンバーを図書館で読んでいたところ、何ともユニークな作品を見つけました。
 現在では間違っても掲載される事はないであろう怪作なので紹介しようと思います。
 肩の力を抜き、骨董品でも眺めるような気持ちでお付き合い下さい。

 この怪作のタイトルは「犠牲」。物語詩として『キング』大正15年3月号へ掲載されました。
 作者は八波則吉氏。
 紹介文によれば「『小学校国語読本』を編纂」と書かれており、おそらく国文学や教育関係の人物だろうと思って調べてみたところ、国語教育学者として有名な方だと分かりました。
 前述『小学校国語読本』の正しい書名は『尋常小学国語読本』であり、文部省の教科書編纂官になった頃、他の国文学者たちと協力して編纂したようです。

 八波氏の「犠牲」は非常に短い物語であり、一言で説明すると「犠牲の心で民を救った高貴な淑女の話」です。
 これだけでは何の事か分からないと思うので簡単に内容を説明しますが、物語詩という形式上、どうしてもネタバレせざるを得ません。
 今となっては手軽に読めない作品という事も考慮し、ここではネタバレを含む内容紹介となりますが、その点のみ御了承下さい。
 なお、時代や場所に関する詳しい記述はありませんが、挿絵を見る限りでは中世ヨーロッパをイメージして書かれた作品と思われます。

 殿様(正確には城主?)の重税に苦しむ城下町の人々の為、奥方は夫に減税を申し出ます。
 ところが殿様は「裸体(はだか)で町をお廻りよ」と笑いながら言い、言う通りにすれば税金を減らすと暗示した命令をします。
 心優しい奥方は城下に「お昼の鐘が鳴るまでは一人も外へ出まいぞや」とおふれを出し、全裸のまま馬に乗って町を廻りました。
 奥方の優しさに心うたれた殿様は改心し、約束を守って重税を取り止めました。

 如何でしょう。
 物語詩をダイジェストで紹介してみましたが、何とも凄い内容である事は分かって頂けたかと思います。
 しかし、さらに驚くべきは「附記」に記されている一文。
 編集部員が書いたと思われる「附記」では、「この詩は、家族晩餐後の団欒、小学校・中学校・女学校の学芸会、発表会、其の他の諸会合の席上などで朗読するのに、最もふさはしいものであると信じます」と書かれているのです。
 この一文を読みながら、犠牲の精神で人を救う尊さを説いた詩とはいえ、セクハラを超えたバカ殿の無意味な発言に問題はないのかと余計な事を思ってしまいました。
 高貴な御婦人が全裸で町を行く姿、花も恥じらう女学生ならば想像しただけでも顔を赤らめてしまうのではないでしょうか……。

 参考までに原文の一部を以下に記しますので、「朗読するのに、最もふさはしいものである」かどうか、自分の目で確かめてみて下さい。



 『それほど心にかかるなら、』
 奥方の背を撫でながら
 冗談交り『これ奥や、
 裸体(はだか)で町をお廻りよ。』

 『裸体で町を?』と驚いて
 殿様の顔見られれば、
 『裸体で町を!』と殿様は
 鼻で笑って合点首。

 恥か―犠牲か―奥方の
 やさしい胸はとつおいつ、
 波に揺られる木の葉舟、
 されど『犠牲!』と健気にも。

【中略】
一二
 輝る日も少時(しばし)薄曇り、
 そよ吹く風も息を詰め、
 静かな町にかぽかぽと
 駒の蹄の音がする。
一三
 『あれ、奥方のお通りだ、
 覗くまいぞや、出まいぞや。』
 家に籠った人々は
 頭(こうべ)を垂れて聴いている。
一四
 犬ころ一つ通らねど、
 土蔵の尾根(やね)の鬼瓦、
 黒板塀の節穴も
 吾を見るかと恥かしく。
一五
 廻り廻って奥方が
 お城の門へ着かれたら、
 折からひびく寺々の
 正午(まひる)知らせる鐘の声。

≪『キング』大正15年3月号≫


 寺門萬次郎氏の描く挿絵には、馬に乗った全裸の奥方も描かれていました。
 当然の事ながら乳房や秘部は巧みに隠されているものの、着エロ的な雰囲気を漂わせるイラストに仕上がっています。
スポンサーサイト
[PR]

コメント

v-426色付きの文字おはようございます
新京史朗さん読んでませんよ

物語詩「犠牲」

 この作品は雑誌へ掲載されたままかも知れません。物語詩という形式も単行本向けではありませんから。
 かなりエロスが濃厚な内容だと感じましたが、21世紀の視点から見ると今一つかも……。

 明日にでも挿絵のスキャン画像をアップしますので、よろしければ御覧下さい。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://ryonablog475.blog2.fc2.com/tb.php/254-8adc60ad
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | ホーム |  »

FC2カウンター

プロフィール

新 京史朗

Author:新 京史朗
好きな技(1):バスター技
好きな技(2):股裂き関節技
好きなシチュエーション:リョナ

最新記事

カテゴリ

小説 (86)
アニメ (33)
ゲーム (31)
アメコミ (23)
フィギュア (5)
映像・写真 (16)
DOA・無双 (114)
イラスト企画 (43)
鉄拳・スト鉄 (92)
漫画・絵物語 (107)
イラスト・挿絵 (51)
映画・イベント (35)
ウルトラヒロイン (12)
MUGEN・ドット絵 (2)
オリジナルヒロイン (8)
御挨拶・お知らせ・交流 (134)
魔法少女まどか☆マギカ (59)

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

月別アーカイブ

最新コメント

リンク

このブログをリンクに追加する

最新トラックバック

検索フォーム

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR