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2017-08

ドSなヤンデレ姫の物語(坂口安吾「夜長姫と耳男」より)

 無頼派作家の中心的存在となった坂口安吾氏が昭和27年に発表した「夜長姫と耳男」には、今で言う「ヤンデレ属性」のヒロインが登場します。
 マゾヒズムの残虐美と人間の死がもたらす破滅美を彩りに添え、狂気と愛情の果てに待つ悲劇的な死を描いた情痴文学の異色作であり、この分野の意外な傑作とも言えるでしょう。
 ヒロイン役の夜長姫ですが、彼女の本名は最後まで明かされず、作中では「夜長の長者の娘」である事から「夜長ヒメ」とだけ記されています。

 この夜長姫、野良仕事へ出た村人が疫病によって働きながら命を落とす様子を見ては喜び、そばに控える耳男を震え上がらせます。
 それだけでなく、耳男へ叢に生息する蛇を捕えてくるよう命令し、その生き血を啜っては死骸を天井から逆さ吊りにさせるという恐ろしい行動をとるようになりました。
 結局、このような残酷な性格によって夜長姫は命を落としますが、死ぬ間際に彼女は耳男へ偽りのない本心を語って聞かせます。

 以下、夜長姫のドSっぷりをヤンデレらしい末期の言葉と併せ、たっぷりと御紹介します。


 ヒメはニッコリうなずいた。ヒメはエナコに向って云った。
 「エナコよ。耳男の片耳もかんでおやり。虫ケラにかまれても腹が立たないそうですから、存分にかんであげるといいわ。虫ケラの歯を貸してあげます。なくなったお母様の形見の品の一ツだけど、耳男の耳をかんだあとではお前にあげます」
 ヒメは懐剣をとって侍女に渡した。侍女はそれをささげてエナコの前に差出した。

【中略】
 可憐なヒメは無邪気にイタズラをたのしんでいる。その明るい笑顔を見るがよい。虫も殺さぬ笑顔とは、このことだ。イタズラをたのしむ亢奮(こうふん)もなければ、何かを企む翳りもない。童女そのものの笑顔であった。
【中略】
 オレの耳がそがれたとき、オレはヒメのツブラな目が生き生きとまるく大きく冴えるのを見た。ヒメの頬にやや赤みがさした。軽い満足があらわれて、すぐさま消えた。すると笑いも消えていた。ひどく真剣な顔だった。考え深そうな顔でもあった。なんだ、これで全部か、とヒメは怒っているように見えた。すると、ふりむいて、ヒメは物も云わず立ち去ってしまった。
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P369~371≫

 侍女たちは小屋の中をみてたじろいだ。ヒメだけはたじろいだ気色がなかった。ヒメは珍しそうに室内を見まわし、また天井を見まわした。蛇は無数の骨となってぶらさがっていたが、下にも無数の骨が落ちてくずれていた。
 「みんな蛇ね」
 ヒメの笑顔に生き生きと感動がかがやいた。ヒメは頭上に手をさしのばして垂れ下っている蛇の白骨の一ツを手にとろうとした。
【後略】
 「火をつけなくてよかったね。燃してしまうと、これを見ることができなかったわ」
 ヒメは全てを見終ると満足して呟いたが、
 「でも、もう、燃してしまうがよい」
 侍女に枯れ柴をつませて火をかけさせた。小屋が煙につつまれ、一時にピッと燃えあがるのを見とどけると、ヒメはオレに云った。

【中略】
 オレはヒメの無邪気な笑顔がどのようなものであるかを思い知ることができた。エナコがオレの耳を斬り落とすのを眺めていたのもこの笑顔だし、オレの小屋の天井からぶらさがった無数の蛇を眺めていたのもこの笑顔だ。【後略】
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P376~378≫

 「今日も死んだ人があるのよ」
 それをきかせるときも、ニコニコとたのしそうであった。
【後略】
 オレはヒメになぶられているのではないかと疑っていた。さりげない風を見せているが、実はやっぱり元日にオレを殺すつもりであったに相違ないとオレは時々考えた。なぜなら、ヒメはオレの造ったバケモノを疫病よけに門前へすえさせたとき、
 「耳男が無数の蛇を裂き殺して逆さに吊り、蛇の生き血をあびながら呪いをかけて刻んだバケモノだから、疫病よけのマジナイぐらいにはなりそうね。ほかに取得もなさそうですから、門の前へ飾ってごらん」

≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P383≫

 「耳男よ。今日は私が何を見たと思う?」
 ヒメの目がいつもにくらべて輝きが深いようでもあった。ヒメは云った。
 「バケモノのホコラへ拝みにきて、ホコラの前でキリキリ舞いをして、ホコラにとりすがって死んだお婆さんを見たのよ」

≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P389~390≫

 「袋の中の蛇を一匹ずつ生き裂きにして血をしぼってちょうだい。お前はその血をしぼって、どうしたの?」
 「オレはチョコにうけて飲みましたよ」

【中略】
 「お前がしたと同じことをしてちょうだい。生き血だけは私が飲みます。早くよ」
【中略】
 オレはまさかと思ってみたが、ヒメはたじろぐ色もなく、ニッコリと無邪気に笑って、生き血を一息にのみほした。それを見るまではさほどのこととは思わなかったが、その時からはあまりの怖ろしさに、蛇をさく馴れた手までが狂いがちであった。
【中略】
 ヒメは蛇の生き血をのみ、蛇体を高楼に逆吊りにして、何をするつもりなのだろう。目的の善悪がどうあろうとも、高楼にのぼり、ためらう色もなくニッコリと蛇の生き血を飲みほすヒメはあまり無邪気で、怖ろしかった。
【中略】
 ヒメは心残りげに、たそがれの村を見下した。そして、オレに言った(ママ)
 「ほら。お婆さんの死体を片づけに、ホコラの前に人が集っているわ。あんなに、たくさんの人が」
 ヒメの笑顔はかがやきを増した。

≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P393~395≫

 二度目の袋を背負って戻ると、ヒメの頬も目もかがやきに燃えてオレを迎えた。ヒメはオレにニッコリと笑いかけながら小さく叫んだ。
 「すばらしい!」
 ヒメは指して云った。
 「ほら、あすこの野良に一人死んでいるでしょう。つい今しがたよ。クワを空高くかざしたと思うと取り落してキリキリ舞いをはじめたのよ。そしてあの人が動かなくなったと思うと、ほら、あすこの野良にも一人倒れているでしょう。あの人がキリキリ舞いをはじめたのよ。そして、今しがたまで這ってうごめいていたのに」

【中略】
 「耳男よ。ごらん! あすこに、ほら! キリキリ舞いをしはじめた人がいてよ。ほら、キリキリと舞っていてよ。お日さまがまぶしいように。お日さまに酔ったよう」
【中略】
 「とうとう動かなくなったわ。なんて可愛いのでしょうね。お日さまが、うらやましい。日本中の野でも里でも町でも、こんな風に死ぬ人をみんな見ていらッしゃるのね」
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P397~400≫

 オレはヒメに歩み寄ると、オレの左手をヒメの左の肩にかけ、だきすくめて、右手のキリを胸にうちこんだ。オレの肩はハアハアと大きな波をうっていたが、ヒメは目をあけてニッコリ笑った。
 「サヨナラの挨拶をして、それから殺して下さるものよ。私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに」
 ヒメのツブラな瞳はオレに絶えず、笑みかけていた。

【中略】
 するとヒメはオレの手をとり、ニッコリとささやいた。
 「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして……」
 ヒメの目が笑って、とじた。

≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P400~401≫


【関連サイト紹介】
 ・坂口安吾の「夜長姫と耳男」(「kenyama's blog お酒とジャズが大好きです」2004年2月3日更新記事)
 ・『夜長姫と耳男』を熱を出しながら読む(「唯物論的な猫の日常生活」2007年12月2日更新記事)
 ・『桜の森の満開の下』と『夜長姫と耳男』(「福島剛 ホワッドアイセイ?」2009年4月5日更新記事)


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コメント

奴隷牧場小説版お願いします

色付きの文字v-441新京史朗さん
奴隷牧場小説版お願いしますおやすみなさい

小説版「 奴隷牧場」

 小説の「奴隷牧場」を御希望との事ですが、こちらも掲載誌や単行本を持っておらず紹介できる状況にありません。
 せっかくのリクエストですが、上記の理由から御期待に添えません事、御了承下さい。

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