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清楚なヒロインの受難(角田喜久雄「髑髏銭」より)

 角田喜久雄氏が書く長編時代小説の魅力について、文芸評論家の菊池仁氏は「ヒロイン受難の物語とエロティシズム」を特徴の一つとして挙げていますが、実に的を射た見解と言えます。
 と言うのも、時代小説の分野で出世作となった「妖棋伝」以降の長編では必ずと言ってよいくらいヒロイン受難が描かれており、怪奇的な物語に色気を添えているのですから(受難場面のシチュエーションは様々で、監禁、折檻、凌辱の危機とバリエーションが豊富に用意されていました)。
 その一例として、今回は時代小説家としての地位を確立した記念碑的作品「髑髏銭」を紹介しようと思います。

 本作は昭和12年の冬から昭和13年の夏まで約9ヶ月に亙って『読売新聞』へ連載され、連載終了直後に春陽堂書店から単行本が刊行されました。
 謎の財宝【浮田の八宝】と14枚の呪殺銭を巡って複数の勢力が虚々実々の抗争を繰り広げるスケールの大きな宝探し物ですが、探偵小説的要素(銭酸漿(ぜにほおづき)が死人の目を律令銭で塞ぐ理由、呪殺銭に秘められた暗号、【浮田の八宝】の正体)も強く、初出発表から70年以上経った今でも鑑賞に耐えうる名作です。
 角田氏が始めて読んだ探偵小説はモーリス・ルブランの「L'aiguille Creuse」との事ですが、壮大なスケールの財宝というアイディアは同作からの影響によるものと思われます。
 敵見方を問わず登場人物の数が多いうえ、その関係も複雑多岐にわたるのでメモを取って整理しながら読んだ方がよいかも知れません。

 角田氏の長編時代小説には「主役の男性を巡って複数のヒロインが悲喜交々の恋愛ドラマを展開させる」設定が多く見られ、恋に破れた女性の大半は悲しい運命を辿ります。
 この「髑髏銭」にヒロインと呼べる女性は3人登場しますが、そのうちの2人は主人公を愛しており、彼を中心に恋のバトルが演じられました。
 その辺の事情は省きますが、注目すべき点は各ヒロインに強烈な個性と今で言う「萌え属性」が与えられている事です。
 そのヒロインとは、小夜(武家の娘)、檜(高貴の姫君)、お銀(女賊)の3人で、小夜=清楚な美女、檜=ツンデレ、お銀=妖艶な魅力の鉄火な姐御と性格づけされていました。

 本作のメインヒロインは小夜であり、菊池氏の言う「ヒロイン受難の物語」は彼女にメインとして用意されています。
 以下、本文から小夜の受難場面を拾ってみました。


 黒い男の影が、大羽根を拡げた怪鳥のように宙へおどったと思うと、薄暗がりの床へ蒼白く仰反ったお小夜の小手から、抜きはなたれた懐剣が空しく飛んで床へおちた。
 凄じい激しさでゆれ動いた空気が、数秒にして、またふッと静まってしまう。
 一塊にもつれ合った人影が、柱へのしかかるような姿勢でじッとしていた。
「ううう……」
 お小夜の喉が苦しそうに鳴っている。
 男の片腕がその喉首へからみついているらしい。男の朱い覆面の蔭から、お小夜の苦悶に蒼ざめた横顔がすけて見えた。

【中略】
「ううう……」
 お小夜は、身体を反らせてもがこうとした。
 裾が割れて、徒らに嬌(なまめ)かしく下着が乱れかかるばかり……
 肩のあたりまで露出した象牙のように艶やかな片腕が全身の苦痛を訴えるように震えている。
 而もその手は、包をしっかと握ったまま離そうとしなかった。
 男の糸のように細い片目は、じッとその包を睨み、それから、その露出した腕へ、仰反っている喉へ腰へ、はだけた裾へと、ゆっくり移って行く。そして、可憐に必死のもがきをつづけている脛の白さへ。

≪講談社文庫『大衆文学館 髑髏銭』P35~37≫

「おい、姐さん……」
 呼び方まで、がらりと態度を変えた駕籠屋の声。
 そこは、柳原の土手の中でも、よく辻斬りなどの出る極く淋しい辺りであった。

【中略】
「この、女ッ!」
 その隙に素早くすりよって来たもう一人が、お小夜の腕をつかもうとする。
 お小夜は小手をふって飛びすさろうとしたが、折悪しくも、濡れた裾が足にからんで、深い叢の中へ男の身体を背負ったままどっと倒れた。

≪講談社文庫『大衆文学館 髑髏銭』P405~407≫

「おい! 上品ぶって見な。このお銀を軽蔑して見な、お嬢さん。こうなりゃ腕ずくだ……」
【中略】
 それまで、柳の幹に身をよりかけて黙々と身構えていたお小夜。だが、気だけは張っているが、先刻仆れた時打った脾腹が息も絶えそうに痛んで、こうして立っているのさえ目まいがしそうに苦痛なのである。
 勢いこんでおどりかかって来た一人を、一度はからくも身をかわして避けはしたが……
「ええ、じれッたいねえ!」
 お銀が足踏みした。
 お小夜のよろめく姿が見えた。
「うううッ……」
 うめいて、のめる。

≪講談社文庫『大衆文学館 髑髏銭』P412~413≫

 垂れをあげると、先ず、赤い女の袖裏がちらッと目をひいて、それから……
 保明がぐッと首をのばした。
 怪しむようにその駕籠の中をじッと凝視する。
 後手にくくし上げられて、口には固く猿轡をかまされた、それはお小夜のやつれた姿であった。

【中略】
「小夜のいましめを解いてやれ。あちらの部屋へ伴って休息させてやるがよい……」
 縛めが解かれ、猿轡が取られても、お小夜は固く口をとじて一言も発しなかった。
 顔色は蒼ざめ、手足はやつれ、その目は光を失って暗く足許を見詰めている。赤吉の屋敷にあっての生活が、この娘をどんなにいためつけた事か、どんなにさいなんだことか。

≪講談社文庫『大衆文学館 髑髏銭』P495~498≫


 この他、自分と瓜二つの容貌をした檜に見染められ耽美的な百合場面(簡単に言えば、レズビアン趣味を連想させる描写です)に発展する見せ場も描かれました。
 直後、皮肉にも二人は眉目秀麗な浪人・神奈三四郎を巡って一時的に対立しますが、小夜と檜の意外な関係が読者に明かされた後、物語のクライマックスを間近に和解します。
 檜によって監禁された三四郎は小夜の活躍で自由の身となりますが、その事を知って激怒した檜は小夜を折れ弓で折檻します。


「小夜……」
「は」
「そなたも、湯を浴びたがよかろう」
「は?」
 お小夜は、その檜の言った言葉の意味がよく解らなかったようにちらりと目を上げた。
「よい湯じゃ」
 声と一緒に湯槽につかった気配がして、
「小夜。そなたも、は入るがよい」

【中略】
 お小夜は当惑げに立ち上って、とうとうその帯に手をかけた。
 ためらい勝ちに、やがて、するッと肩先をすべって衣装が落ちる。
 湧き上り渦まく湯気の中に、お小夜の身体は艶々とうるんで、白い牡丹の花のようにあでやかである。

【中略】
 並んだ二人の白い肩をうずめて、まだ真新しい檜の香を含んだ湯気が馥郁と立ちのぼる。
「小夜……」
「は……」
「そなたは、ほんに女らしゅう、美しいのう」
 檜の吐息をつくようなしみじみとした声であった。
「わらわは男が嫌いじゃ。そして、そなたのように、ほんに女らしゅう美しい女子を心から愛しいと思います」

≪講談社文庫『大衆文学館 髑髏銭』P168~170≫

 檜は、容貌の美しさの中にもきらめくような鋭さが動いているし、乙女らしく脂肪ののった肩の丸味にも武術で鍛えた争われぬ肉のしまりが感じられる。それに反して、お小夜は飽くまで楚々と美しい。武士の娘らしい負けぬ気の気性もその可憐さの蔭にかくれて表面には現われていない貌だ。そして襟筋から肩胸へかけて流れる線の馨しさは、女が見ても思わず見とれるであろう。
【中略】
「一目見た時から、わらわはそなたが愛しゅうなった。今、ここにこうして、その顔を近々と見ていると、その心がますます激しゅうなる。生れ損った檜の代りに、女子らしゅう、美しいもう一人の檜をこの身のかげに引き添えておきたいのじゃ。小夜……そなた、わらわを嫌いと思いやるか?」
 お小夜はかすかに震える胸を両手で蔽いながら顔を上げた。
 檜の燃えるような瞳が思わぬ額の近くに迫っていた。
「小夜……」
「は、はい……」
「美しい。そなたは美しいのう」
 お小夜を凝視している檜の両眼は、まるで恋人を胸に抱きしめた時の男の両眼のように、大胆に露骨に光っていた。

≪講談社文庫『大衆文学館 髑髏銭』P171~172≫

「小夜ッ!」
 怒声と一緒に、その右手に杖つかれていた弓の折れが、ひゅっとうなってお小夜の背へ振りおろされた。
「うっ!」
 喉の奥でうめいて、お小夜は仰向けざまに仰反ったが、苦痛をこらえてはね起きると乱れた裾をおさえてまた平然と端坐した。
「しぶといっ!」
 檜の唇が憎さげに釣り上がる。
「小夜」
「…………」
「小夜ッ!」
「は」
「そちゃ、よくもわらわを裏切ったの? この檜に煮え湯を飲ませて呉れたの?」

≪講談社文庫『大衆文学館 髑髏銭』P231≫


 女中も含めたヒロイン全員の受難場面を紹介したかったのですが分量の都合で小夜のみの紹介に留めました。この点、御了承下さい。


髑髏銭 (春陽文庫)髑髏銭 (春陽文庫)
(1999/05)
角田 喜久雄

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