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鞭打たれる美女(江戸川乱歩「陰獣」より)

 江戸川乱歩氏の「陰獣」は昭和3年に『新青年』へ3回連載された代表作であり、横溝正史氏が昭和8年に単行本書下ろし作品として発表した「呪いの塔」にも多大な影響を与えました。
 連載当時の『新青年』編集長だった横溝氏の言によれば、「陰獣」が大好評を博したおかげで雑誌の売れ行きがよく、連載第1回目が掲載された昭和3年8月増大号は増刷されたそうです。

 謎多き小説家の大江春泥。隅田川で死体となって発見された小野田六郎。小野田静子を脅かす平田一郎。奇妙に絡み合う人間関係が事件に複雑な彩りを添え、小野田六郎殺害事件は混迷の一途を辿ります。
 謎への追及が深まるにつれ、徐々に隠された秘密が浮き彫りとなり、遂に事件は悲劇的な結末を迎えました。
 現代のミステリーファンから見れば物足りなく感じる点もあるかと思いますが、昭和初期に書かれた探偵小説としては完成度の高い作品に仕上がっています。
 もっとも、現行本で読める「陰獣」は結末が改変されたヴァージョンであり、初出発表当時とは結末が異なりますが……。
 いずれにしろ、ミステリーファンならば読んでおくべき古典作品なので、未読の方には読んでおく事を薦めたい一作です。

 本作では、小野田静子なる美しい人妻(後に未亡人)が最重要人物として登場し、その魅力で物語の語り手=探偵小説家の『私』を虜にしました。
 彼女の夫である小野田六郎が惨虐色情者であった為、静子は背中に赤痣ができる程、海外製の乗馬用鞭で青白い皮膚を打たれるのですが、それと絡み、本文中にはサドマゾ行為に関する記述が至る所で見られます。
 亭主の惨虐趣味に付き合ううち、遂には静子自身が鞭打たれる快楽に目覚めてしまい、『私』に向かって艶めかしい背中を鞭打ってくれと懇願するようになってしまいました。
 初期の江戸川乱歩作品には艶やかにして残虐な独特の耽美趣味が見られますが、その作風が最も色濃いのは本作と言えるでしょう。


 彼女の項には、おそらく背中の方まで深く、赤痣のようなミミズ腫れができていたのだ。それは生まれつきの痣のようにも見えたし、又、そうではなくて、最近できた傷痕のようにも思われた。青白い滑らかな皮膚の上に、格好のいいなよなよとした項の上に、赤黒い毛糸を這わせたように見えるそのミミズ腫れが、その残酷味が、不思議にもエロチックな感じを与えた。それを見ると、今まで夢のように思われた彼女の美しさが、俄かに生々しい現実味を伴なって、私の迫ってくるのであった。
≪角川文庫『陰獣』P10≫

【前略】小山田氏が見かけによらぬ(こうしたことは多くの場合見かけによらぬものです)恐ろしい惨虐色情者(サディスト)であったことなど、これらの事実は、偶然さまざまの異常が集合したかに見えますけれど、よくよく考えますと、ことごとく或る一つの事柄を指し示していることがわかるのであります。
≪角川文庫『陰獣』P68≫

 この種の悪癖は、例えばモルヒネ中毒のように、一度なじんだら一生涯止められないばかりでなく、日と共に、月と共に、恐ろしい勢いでその病勢が昂進して行くものです。より強烈な、より新たしい刺激をと、追い求めるものであります。きょうはきのうのやり方では満足できず、あすはまたきょうの仕草では物足りなく思われてくるのです。小山田氏も同様、静子夫人を打擲するばかりでは満足ができなくなってきたことは、容易に想像できるではありませんか。【中略】
 静子の独居(ひとりい)の隙見は、なるほど甚だ彼の好奇心をそそったにはちがいないのですが、惨虐色情者の彼がそれだけで、そんな生ぬるい趣味だけで満足しようはずがありません。鞭の打擲に代るべき、もっと新らしい、もっと残酷な何かの方法がないものかと、彼は病人の異常に鋭い想像力を働かせたことでしょう。
≪角川文庫『陰獣』P73~74≫

【前略】なぜといって、静子の項の傷は、同氏の死後になって、はじめてその痕が見えなくなったのですから。彼はこのように妻の静子を責めさいなんではいましたけれども、それは決して彼女を憎むがゆえではなく、むしろ静子を溺愛すればこそ、その惨虐を行なったのであります。この種の変態性慾者の心理は、むろん、あなたも充分ご承知のことと思います。
≪角川文庫『陰獣』P75~76≫

 だが、ある日、静子が芍薬の大きな花束の中に隠して、例の小山田氏常用の外国製乗馬鞭を持ってきたときには、私はなんだか怖くさえなった。彼女はそれを私の手に握らせて、小山田氏のように彼女のはだかの肉体を打擲せよと迫るのだ。
 長いあいだの六郎氏の惨虐が、とうとう彼女にその病癖をうつし、彼女は被害色情者の耐えがたい欲望に、さいなまれる身となり果てていたのである。そして、私もまた、もし私女(ママ)との逢う瀬がこのまま半年もつづいたなら、きっと小山田氏と同じ病にとりつかれてしまったにちがいない。
 なぜといって、彼女の願いをしりぞけかねて、私がその鞭を彼女のなよやかな肉体に加えたとき、その青白い皮膚の表面に、俄かにふくれ上がってくる毒々しいミミズ腫れを見た時、ゾッとしたことには、私はある不可思議な愉悦をさえ覚えたからである。

≪角川文庫『陰獣』P85≫

 私がそれを言い切らぬうちに、静子は部屋の隅から例の外国製乗馬鞭を持ってきて、無理に私の右手に握らせると、いきなり着物を脱いで、うつむきにベッドの上に倒れ、むき出しのなめらかな肩の下から、顔だけを私の方へふりむけて、
「それがどうしたの。そんなこと、そんなこと」
 と何かわけのわからぬことを、気違いみたいに口走ったが、
「さあ、ぶって! ぶって!」
 と叫びながら、上半身を波のようにうねらせるのであった。

≪角川文庫『陰獣』P101≫

 私は静子をつき離した。彼女はグッタリとベッドの上に倒れかかり、激しく泣き入って、いつまで待っても応えようとはしない。私はすっかり興奮してしまって、思わず手にしていた乗馬鞭をふるって、ピシリと彼女のはだかの背中へ叩きつけた。私は夢中になって、これでもか、これでもかと、幾つも幾つも打ち続けた。
 見る見る彼女の青白い皮膚は赤み走って、やがてミミズの這った形に、まっ赤な血がにじんできた。
【後略】
 静子はベッドの上で死んだようになってだまりこんでいた。ただ、彼女の背中の赤ミミズだけがまるで生きているかのように、彼女の呼吸につれてうごめいていた。彼女がだまってしまったので、私もいくらか興奮がさめて行った。
≪角川文庫『陰獣』P104~105≫


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