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2011-08

見滝原帝都探偵局  紺碧荘殺人事件(解決編)  *改訂

【十三】

 福田栄夫人への疑惑が晴らせないまま、志筑署長は「時間が時間ですので、一先ずは失礼致します」と辞去されました。
 杏 子「なんだか目が覚めてしまったわね」
 さやか「ええ」
 杏 子「あれでよかったの?」
 マ ミ「えッ、何が?」
 杏 子「あの女が犯人に間違いないって事だけでも署長に伝えておいた方がよくはなかったんじゃない」
 まどか「やっぱり、マミ局長も杏子さんも栄夫人が浪尾氏を殺害した犯人だと看破されていたんですか」
 杏 子「ええ。あのサロンから出入りした唯一の人物は福田栄だけなら、彼女を犯人と断定しても問題ないわ」
 まどか「ほむらちゃんの言った通りね」
 マ ミ「やっぱり、暁美さんも気付いていたようね」
 ほむら「はい。この現状で福田栄夫人を犯人と考えなければ、それこそ不可能犯罪が成立してしまいます」
 さやか「あ~あ、まだまだ勉強不足だわ。時間の事ばかり気にして彼女が犯人ではないと思い込んでしまうなんて。杏子さんの言う通り、目の前の事しか見えてないんだな、わたしは……」
 まどか「わたしも」
 マ ミ「そんなに落ち込まないで、美樹さん。鹿目さんもよ。経験を積めば自然に観察眼は鍛えられるわ。わたしも杏子も最初は失敗ばかりだったのよ。焦らず慌てず、今の失敗を次の成功の糧にするんだと考えて」
 杏 子「そうそう。常識的に考えれば、あの女が犯人であり得る筈はないんだ。そう気にする事はないさ。あたし達だって福田栄犯人説を唱えているけど、万分の一の確率で殺人狂の宿泊者が浪尾則助を殺したのかも知れないからね。素直に考える事も大切だ」
 まどか「はい」
 さやら「でも、ほむらは凄いわね。わたしたちと同時期に採用されながら、マミ局長や杏子さんと同じ犯人像を指摘したんだもの」
 杏 子「あれッ。二人とも知らなかったのかい。ほむらの両親は岩井探偵事務所の調査員なのよ。祖父は岩井三郎の部下として一緒にシーメンス事件の捜査に関わっていたそうだ。つまり筋金入りの探偵淑女ってわけさ」
 ほむら「そ、そんな大袈裟なものでは……」
 さやか「それは初耳だわ」
 まどか「わたしも」
 ほむら「ごめんなさい。隠すつもりはなかったんだけど。自分から言うような事でもないと思って……」
 まどか「謝る必要ないわよ、ほむらちゃん。ねえ、さやかちゃん」
 さやか「そうよ。こんな心強い同僚がいれば競争心を煽られてヤル気が出てくるわ」
 ほむら「(小声で)ありがとう。二人とも」
 まどか「何か言った、ほむらちゃん」
 ほむら「ううん、何でもないわ」
 杏 子「それにしても、あの女の計略を何とかして暴露してやりたいもんだわ。何だか馬鹿にされているようで気分が悪い」
 マ ミ「馬鹿にされているとは思っていないけれど……。このまま袋小路に迷い込んでいるわけにもいかないわね」
 さやか「さしあたって、何をどうするんですか」
 杏 子「午後九時五分に別館のサロンを出た女が午後九時に本館の寝室で人を殺す事が物理的に可能だった事を証明するんだ。その検証から始めよう」
 ほむら「福田栄夫人が犯行可能であった事を言い逃れさせずに証明するわけですね」
 マ ミ「そういう事よ」
 杏 子「考える事なら、この部屋でもできる。どうせ二度寝はできそうもないし、どうだい、あの女が用いた詭計について意見を出し合ってみない」
 マ ミ「それは良い考えね。一応の事は志筑署長から伺ったし、必要な情報も揃っている。みんなで知恵を出し合って犯人の詭計を解き明かしましょう」
 杏 子「それじゃ、マミ。仕切り役を頼むよ」
 マ ミ「分かったわ」

【十四】

 マ ミ「繰り返しになるけど、まずは事件の詳細を時系列に追いながら要点を抑えてみるわね」
 杏 子「何か書く物があると便利だな。ちょっと待って、鞄から出すわね」
 杏子事務局長が寝台の下のスペースに収納した鞄を漁ります。転落防止の低い柵から体を乗り出す格好で鞄の中を探している為、こちらからお尻と下着が丸見えです。
 胸の発育具合はわたしたちと同じでしたが、肉付きのよいお尻には大人の魅力が感じられました。
 マ ミ「杏子ったら……。横着しないで降りなさい。下着が見えているわよ」
 杏 子「いいじゃない、見知らぬ他人が見ているわけでもないし。おッ、あった。ほら、筆記帳と鉛筆」
 マ ミ「ありがとう。ええと、まずは……。わたしたちがサロンへ入ってから出るまでを時系列で書いてみるわね」
 小さな円形テーブルの上に筆記帳を広げたマミ局長は、そこへサロンでの出来事を書きこんでいきました。


 午後七時五十分頃:巴マミ以下五名が紺碧荘別館1階のサロンへ入室。
  ⇒紅茶の準備、談笑。

 午後八時頃:「和竿必釣会」の六名がサロンに現れる。
  ⇒佐倉杏子が花林糖を取りに一時退席、福田松雄氏より栗饅頭の差し入れ。

 午後八時十分過ぎ:浪尾則助氏が仮眠の為、本館の寝室へ戻る。
  ⇒美樹さやかと佐倉杏子が将棋を三局指す。「和竿必釣会」同人による釣り竿自慢。
  ⇒佐倉杏子と巴マミが将棋を指す。

 午後九時五分:福田栄夫人が腹痛を訴え、お手洗いへ向かう。

 午後九時十分:「和竿必釣会」同人が本館へ戻る。美樹さやかが佐倉杏子,巴マミ,暁美ほむら,鹿目まどかと将棋を指す(計四局)。

 午後九時三十分:巴マミ以下五名が本館へ戻る。数分後、浪尾則助氏の死亡報告を聞く。


 マ ミ「こんなところかしら」
 さやか「こうして一覧にすると時間の流れが分かり易いですね」
 杏 子「そうね。これを検証すれば、わたしたちが見落としている『何か』が見つかるかもしれないわ」
 まどか「八時十分過ぎから九時五分までの間、ここが気になりませんか?」
 ほむら「ええ、わたしも同じ事を思ったわ。数分で勝負がつく将棋を四局指しただけにしては時間の経過が長すぎる」
 さやか「そう言われれば……。自分で言うのも恥ずかしいけど、杏子さんとの対局は数分で勝負がついたわ」
 ほむら「美樹さやかさんと佐倉杏子さんの対局時間が一局あたり七分から八分として最大でも約二十五分。巴マミ局長と佐倉杏子さんの対局が長くみても十五分。合計しても四十分です。浪尾則助氏がサロンを出た時間を八時十五分としても四十分を加算して午後八時五十五分。大雑把な計算でも十分の誤差が生じます」
 マ ミ「ちょっと待ってね、今の計算を余白に書いておくから」
 マミ局長の綺麗な文字と数字が筆記帳に並び、新たな情報が追加されました。
 杏 子「この計算が正しいかどうかは別として、なかなか興味深い考え方ね。確かに時間の経過がおかしい。何か違和感を感じさせるわ」
 マ ミ「それじゃ、午後八時十分から午後九時五分の間に何かがあったを考えてみましょう。この五十五分間に福田栄夫人が『何をした』のか」
 さやか「的外れな考えかも知れないけど、思いついた事を言っても構いませんか」
 マ ミ「もちろんよ。どんどん意見を出して頂戴」
 さやか「浪尾則助氏の死は他殺ではなく、自殺と考えれば何の不思議もないと思うんです」
 マ ミ「なるほど」
 杏 子「そんな事なら……」
 マ ミ「杏子、静かに。今は美樹さんの意見を聞きましょう」
 杏 子「分かった。すまなかったな、さやか。先を続けて」
 さやか「活動写真上映会までの仮眠を口実に寝室へ戻った則助氏は、自分の鞄を適度に漁って物色されたように見せ、もともと空だった財布を用意してから刺身包丁で胸を突き刺します。そして、絶命する前に財布を床へ落とす。こうして自らの死を他殺に見せかける劇的な演出を施したのです。他殺と決めるつけるから謎が生じるのであって、自殺であれば何の疑問も生じません」
 マ ミ「その可能性は考えたわ。でも、同人の方々への聞き込みからは則助氏が自ら命を断つ理由は見つからないそうだし、活動写真を見たがっていた事からも彼に死のうという意思があったとは考えられないのよ」
 杏 子「それだけじゃないわ。取り調べにあたった早乙女主任の報告では、あの男、来年が結婚十周年とかで帝国ホテルに食事と宿泊の予約を入れていたって言うじゃない。こんな所で死ぬような理由が見当たらないわよ」
 さやか「そうなんだった……。やっぱり見当外れの意見だったなぁ。ごめんなさい」
 マ ミ「謝る事はないわ。これは意見交換会ですもの。明確な事実を確実に消去していけば、必ず真相に辿りつける。その意味では美樹さんの発言も無駄ではないわ」
 杏 子「そうそう。無駄な意見、見当外れな意見なんてないさ。一つ一つの可能性を検討していくのが大切なんだから、ガッカリしないの」
 ほむら「自殺の可能性が排除されるのであれば、後は死体発見時間の誤認でしょうか。例えば、何らかの理由で本館の時計が遅れており、実際に浪尾則助氏が殺害されたのは午後九時五分以降であった。こう考えれば時間的矛盾は解消されますが……」
 杏 子「その可能性もない。美智子という女中は則助の死体を見つけた後、穴子支配人に急報した際、彼の支持で支配人室の時計を見て正確な時刻を控えている。美智子が則助の死体を見つけた時、たまたま壁際の柱時計に目がいったそうだが、その時の時刻と一分程度の誤差しかない。しかも、この一分は401号室から支配人室への移動時間だ。犯人が事前に二つの時計を細工していたとは考えにくい。可能性が無いとは断言できないが、まず不可能だろう」
 まどか「もしかしたら、サロンの柱時計に細工がされていたのではないでしょうか」
 さやか「そうだわ。栄夫人は夕食後、わたしたちよりも先にサロンへ来て、時計の針を進めておいたのよ。そうすれば、同席者がいても時計の細工に心配する必要はないわ」
 ほむら「その可能性は高いわね。時刻操作の出発点を午後八時前と考えれば衆人環視の中で時計に細工する必要もないし」
 さやか「どうです、マミ局長、杏子さん。この可能性もあり得ませんか?」
 杏 子「否定ばかりで悪いけど、九時半からの活動写真上映を知らせに穴子支配人がサロンへ顔を見せたのを覚えているでしょう。志筑署長の話では、午後八時に本館の遊戯室や撞球室を廻った後、すぐにサロンへ来たと穴子支配人は証言しているそうよ。サロンの入り口からも時計は見えるから、あの時点で時計の針が不自然な時刻を示していたら穴子支配人が気付いていた筈だわ」
 さやか「この考えも駄目か」
 マ ミ「ちょっと待って、杏子。分かりかけてきたわ。暁美さん、美樹さん、鹿目さんの発言で閃いたの。やはり、細工はサロンの時計に施されていたのよ、きっと」
 杏 子「まさか……」
 マ ミ「サロンにあった柱時計への細工が時刻誤認の詭計だったのよ」
 まどか「そうすると、犯人は……」
 さやか「わざとらしく「もう九時過ぎか」と話した甚六氏って事ですか」
 マ ミ「ちょっと待って。考えを整理してみるわ」
 マミ局長は口元に手を当て、目を閉じながら何かを一生懸命に考えていらっしゃいます。
 どのくらいの時間が経ったでしょうか。マミ局長は目を開き、開口一番、
 マ ミ「間違いないわ。杏子、やはり則助氏を殺害した犯人は福田栄夫人よ。彼女による時刻誤認の姦計も見当がついたわ」
 杏 子「あたしにも何となく分かったよ。あの女、無邪気に釣り竿なんか振り回していたけど、なかなかの食わせ者だったようね」
 マ ミ「あら、あなたも時刻を誤認させた方法が分かったのね」
 杏 子「あんたの片腕を何年やってると思う。この一覧を見てサロンの時計に細工する方法は予測がついたわ。ただ、あたしには解せない点もあるのよ。あまりにも偶然に頼り過ぎているわ」
 マ ミ「ええ。則助氏や甚六氏の行動を事前に予測していなければ、綿密な計画を立てても砂上の楼閣になってしまうわね」
 杏 子「どうする。とりあえず、志筑署長に知らせるかい」
 マ ミ「そうね。どんな些細な手掛かりでも欲しいと仰っていたから、知らせるだけは知らせましょうか」

【十五】

 間もなく午前六時になろうとしております。
 志筑署長に起こされてからは一睡もできませんでしたが、わたしたちは身支度を整え、五人揃って臨時の捜査本部にされた大広間へ向かいました。
 マ ミ「お早うございます、志筑署長」
 マミ局長に続き、わたしたちも順番に志筑署長以下の捜査員へ挨拶を致しました。
 志 筑「これはマミお嬢さん、婦人探偵の皆様。お早うございます。先程は熟睡されているところを申し訳ございませんでした。改めてお詫び申し上げます」
 志筑署長は椅子から立ち上がって深々と頭を下げて詫びます。
 マ ミ「あら、そんな事をなさらないで下さい。志筑さんの方も夜遅くまでの捜査、御苦労様でした」
 相手の丁寧な挨拶に恐縮しながらも、マミ局長は優しく労(ねぎら)いの言葉をかけます。
 志 筑「おそれいります。皆様お揃いのようですが、何か?」
 マ ミ「わたくしたちの想像に過ぎませんが、浪尾則助氏を殺害した人物をお知らせしようと思いまして……。出しゃばったマネとは存じますが、こうして罷り出た次第でございます」
 早乙女「な、なんですと。浪尾氏を殺したのが誰だか分かったのですか。あッ、これは失礼致しました。わたくし、捜査の指揮を執る早乙女和夫と申します」
 マ ミ「初めまして。巴マミと申します。見滝原帝都探偵局を代表して御挨拶申し上げます」
 志 筑「こちらの御婦人は美しいだけでなく頭脳明晰でな。最近では「郵便行嚢爆破事件」の犯人検挙に協力されておる」
 早乙女「ほお。なんとも頼もしい御婦人連ですな」
 マ ミ「おそれいります」
 早乙女「本題に戻りますが、浪尾氏を殺した人物がお分かりになったそうですな。して、その犯人は誰なのでしょう」
 マ ミ「福田栄夫人ではないかと思います」
 志 筑「な、なんですと」
 早乙女「あの女性ですか」
 志筑署長と早乙女司法主任は二人同時に驚きの声をあげました。
 早乙女「しかし、彼女は午後九時過ぎまでサロンを出なかったと同人の方々が証言しておりますし、あなた方も同様の証言をされたと署長から伺いました。それでも彼女が犯人だと申されるのですか」
 どことなく挑戦するような口調です。地元警察としては他人(よそもの)が事件に介入する事に抵抗があるものの、署長への手前もあって遠廻しに嫌悪感を現しているのでしょう。
 杏 子「(小声で)なあ、なんか言葉の端々に棘を感じないか」
 さやか「(小声で)仕方ないわ。他人に口出しされたうえ、犯人まで指摘されたんですもの」
 志 筑「まあまあ、早乙女くん。とりあえず、話だけでも聞かせて頂こうじゃないか。捜査も行き詰っておる事だし、何か突破口が掴めるかも知れんからな」
 早乙女「はい」
 マ ミ「それでは御足労ですが別館サロンまでお越し頂けますか。そこで実演をしながら時間操作の真相を御説明致します」
 杏 子「ちょっと、マミ」
 マ ミ「なに?」
 杏 子「(小声で)実演なんて気軽に言うけれど大丈夫なの? 口で言うほど簡単にいかないと思うけど……」
 マ ミ「(小声で)仕方がないわ。成功しても失敗しても、実演して見せた方が説得力があるもの。当たって砕けろよ」
 杏 子「(小声で)あんたも大胆だね。いつもはノンビリしているくせに、思わぬところで度胸が据わるんだから。長い付き合いだけど、あんたの性格は未だに掴みきれないわ」
 マ ミ「(小声で)何を言っているの。(ここから普段の声で)それでは参りましょう」
 窓から差し込む朝日に見送られ、わたしたち五名と志筑署長、早乙女司法主任、捜査員三名の合計十名は大広間を出ました。
 渡り廊下を通って別館へ移動し、廊下を左手に曲がりサロンへ入ります。柱時計は昨夜と変わらず時を刻み続け、わたしたちを嘲笑するかのように振り子を揺らしておりました。
 早乙女「それでは福田栄夫人の犯行について、お話を伺いましょう」
 サロンの奥へ全員が集合すると、早乙女司法主任がマミ局長に向かって挑むような口調で言いました。
 マ ミ「腹痛を訴えた栄夫人は午後九時五分にサロンを退出されましたが、サロンの時計に細工をしていた為、そのように錯覚してしまったのです」
 志 筑「時計に細工ですと?」
 マ ミ「左様です。事前に時計の針を進めていたのでサロンの時計は九時過ぎを示しておりましたが、実際は九時前だったのです」
 早乙女「すると福田栄は前もってサロンの時計を何分か進めていたというのですか」
 マ ミ「そう考えると彼女の犯行も不可能ではございません」
 早乙女「しかし、穴子氏の証言によれば、活動写真の上映をサロンに集う人々へ知らせたのは午後八時十分少し前だったとの事でしたぞ。見るとはなしに時計を見たそうですが、その時間に間違いはありません」
 志 筑「待ちたまえ、早乙女くん。穴子氏だって時間を計りながら行動していたわけではなかろう。どうして詳しい時間が分かったのだね」
 早乙女「その点について穴子氏は次のように証言されております」
 早乙女司法主任は手帖を取り出し、そこに書かれているであろう穴子氏の証言を読みあげました。
 早乙女「『わたしがサロンに着いた時刻は午後八時十分に間違いございません。午後八時に本館の遊戯室や撞球室の方々、自室で休まれているO男爵夫妻へ活動写真の上映を通知したのでございますが、その時点で午後八時十分少し前でした。諸々の準備がございますので、八時十五分には支配人室へ戻ろうと思い時刻を気にしながら行動しておりました。ですので、サロンへ入ると同時に柱時計に目をやって現時刻を確認致しました』。時計の細工については我々も考慮しておりましたので、時間の確認だけは念入りに行っています」
 志 筑「そうすると、必然的に時計の針を細工する機会は午後八時十分以降になるわけか」
 早乙女「はい」
 志 筑「ちょっと待ってくれ。そうなるとだ。「和竿必釣会」の同人が見守る中、福田栄は時計の針を細工した事になるぞ」
 早乙女「柱時計は床から約八尺(約2m40cm)あります。この位置にある時計の針を大勢の視線から逃れて細工する事は常識的に考えても不可能です。巴マミさん……でしたな。この点はどう解決されます」
 マ ミ「その点を今から御説明させて頂こうと思います」
 早乙女「それでは拝聴させて頂きましょう」
 マ ミ「杏子。悪いけれど、椅子の足を押さえてくれる」
 杏 子「了解」
 マミ局長が柱時計の真下まで椅子を移動させて位置を決めると、杏子事務局長が片膝を立てながら椅子の足を動かないように押さえます。
 マ ミ「志筑さんに参考資料としてお渡しした事件当夜の「和竿必釣会」同人座席表を見て頂ければ分かりますが、福田栄夫人は柱時計に最も近い場所へ座っています」
 志 筑「これですかな」
 そう言うと志筑署長はポケットから四つ折りにした紙を取り出し、テーブルの上へ広げました。そこには事件当夜の座席表(【図3】を参照して下さい)が書かれています。
 早乙女「なるほど。確かに仰る通りですな。福田栄の座っている場所が柱時計から一番近い」
 マ ミ「八時十分過ぎに浪尾則助氏がサロンを出た後、残った「和竿必釣会」同人は釣り竿や釣りの腕前を自慢し合っておりました。福田栄夫人は持ち込んだ竿を振り回しながら性能について語った後、竿を分解して継ぎ方の説明を始めたのです」
 早乙女「その事は勝男氏からも聞いております」
 マ ミ「福田栄夫人の身長は目測で五尺二寸(約160cm)。分解された竿の長さは見ておりませんので分かりませんが約二尺三寸(約70cm)と仮定し、合わせて七尺五寸(約230cm)となります。腕を伸ばした長さも加算するので竿の長さに多少の誤差があっても問題なく、仮に二尺三寸としておきました。詳しい計算は早乙女主任にお任せ致します」
 早乙女「分かりました。後で福田栄の身長を確認し、竿も詳しく調べて分解した際の部品別長さと全長を控えておきます」
 マ ミ「お願い致します。さて、最低限の基礎情報は御説明致しましたので、これより人目を惹かずに時計の針を動かす方法を披露させて頂きます」

【十六】

 マ ミ「先には実演と申しましたが、証拠採取の事を考えますと針に触れない方が良いでしょうから、実際には針を動かさずに御説明致します」
 早乙女「そこまで御配慮頂き、なんとも恐縮ですなぁ」
 さやか「(小声で)やっぱり感じ悪いわ」
 ほむら「(小声で)敵愾心が剥き出しね」
 まどか「(小声で)仕方ないわよ。相手にも面子があるんだから」
 マ ミ「栄夫人は分解した竿を動かしながら構造について自慢しておりましたが、その時、実は竿の先端を時計の長針に触れさせながら押し上げていたのです。この時計の長針は短針の上に重なっており、文字盤から少し浮いております。栄夫人は時計の真下に陣取っておりましたので、竿を見せびらかせる事で同席者の視線を手許に集めながら針を進めるのは不可能ではありません」【図4参照】

【図4】時計の針を動かした方法

 マミ局長は椅子の上に立って背伸びをしながら、長針を指して説明します。
 志 筑「そんな方法があったのですか。これは気付かんかったです」
 マ ミ「わたしの予想では時計が八時四十分を示した際、このような小細工を行っている筈です。腕を伸ばせば十五分は針を進められるでしょう」
 早乙女「すると、実際は八時四十分でありながら、この柱時計は八時五十五分を示していた事になるわけですか」
 マ ミ「その通りでございます。ここで十五分の余裕が生じた事で栄夫人に不在証明が成立したのです。つまり、お手洗いに行くと言ってサロンを出た実際の時間は八時五十五分だったのです」
 杏 子「実際には手洗いへ行かず、本館401号室へ行って浪尾則助を刺殺したわけです。鞄を適当に漁り、強盗に見せかける小細工として空の財布、または中身を失敬した財布を遺体の脇に捨て、午後九時丁度に女中が死体を発見できるようドアを開けたまま逃走したのですわ。もちろん、女中より先に宿泊客が死体を見つけてくれても自分に嫌疑はかからず、その点でも算盤は弾いていたわけです」
 杏子事務局長が椅子を押さえながら早乙女司法主任に解説をされました。
 早乙女「しかし、その後はどうしたのです。まさか針を進めたままサロンを出たわけではないでしょう」
 マ ミ「もちろんですわ。今度は竿の片づけを口実に分解した穂先部分で針を押し上げたのです。鹿目まどかさんが時計を見ると午後九時十分だったそうですから、九時二十五分の位置にきていた長針を右斜め上方向へ押し上げたものと思われます。片付けの際、同人三名はサロンから出ておりましたし、松雄氏は我々のテーブルへ来ておりましたので穂先を利用して針を押し戻すのは造作ない事だったと思いますわ」
 志 筑「時計の針を細工して時間を錯覚させるとは驚きました。しかし、それを裏付ける証拠はあるのでしょうか。理屈としては納得できても、福田栄夫人が時計の針を動かした事の証明にはなりません」
 マ ミ「わたくしも詳しい知識はございませんが、和竿は竹に漆を塗って作られるそうですので、長針を押した際に竿の先端が削れて針に漆が付着しているかも知れません。万が一にも付着した漆が剥がれる事を避ける為、先程は口上による説明とさせて頂きました」
 杏 子「それだけではございません。手洗いのドアノブに福田栄夫人の指紋があるかを調べ、検出されなければ彼女の証言が嘘だという間接的な証明になります」
 マ ミ「いずれにしろ、栄夫人の釣り竿を調べてみて下さいませ。竿の穂先に傷がついていれば時計の針を動かした事の傍証になると思いますわ」
 志 筑「ふむ。竿の傷は言い逃れできても、時計の針に付着した漆と栄夫人の竿に塗られた漆が同じ種類だと証明されれば重要な証拠にはなりますな」
 早乙女「無駄だとは思いますが、念の為に時計の長針を調べてみましょう。手洗いのドアノブの方も」
 マ ミ「お手数をおかけ致しますが、よろしくお願い申し上げます」

【エピローグ】

 その日の夕方、福田栄夫人は浪尾則助氏を殺害した犯人として早乙女司法主任に検挙されました。
 志筑署長のお話によれば、サロンにある柱時計の長針に付着していた僅かな量の漆と栄夫人の竿に塗られていた漆の成分が同一であると確認され、さらに竿の穂先についた擦り傷の幅が長針の幅と一致したそうです。
 「和竿必釣会」同人の証言により、栄夫人の竿には光沢を出す独特の薬を漆と配合して竿全体に塗装されていた事が分かりました。薬品の検出が決め手となり、早乙女司法主任は福田栄夫人を厳しく追及したところ、ついに犯行を自供したのだと言う事でした(拷問の事実はなかったようですが……。なかなか激しい性格の方らしいので、あるいはと誰もが一抹の不安を感じました)。
 婦人用お手洗いのドアノブからはO男爵夫人の指紋しか検出されず、この事実も栄夫人が腹痛を口実にサロンを出て本館へ向かった事の傍証になったとの事です。
 犯行動機については頑なに口を閉ざしたまま黙して語るのを拒んでいたそうですが、粘り強い説得の末、不倫関係の清算だと分かったそうです。好奇心から夫の知り合いと肉体関係を結んだものの、その後もしつこく密会を申し込まれ、遂には栄夫人御自身が全裸で熟睡している姿を撮影した写真を脅迫の道具に利用して強引に体を求めるようになったので殺害するに至ったとの事でした。
 栄夫人の自供によれば、海で泳いでいる時に沖まで誘い出して溺死させようと目論んでいたそうですが、あのサロンで時刻誤認を利用して則助氏を殺害する方法を思い付き、それを実行にうつしたのだと言います。
 漁られた鞄や空の財布は物盗りに見せかける為の細工であり、寝室のドアを半開きにしておいたのも杏子事務局長のお考え通りだったそうです。
 杏 子「それにしても綱渡り的な犯行だったわね。行き当たりばったりの幸運が重なり合った結果とは言え、こう見事に犯罪が成立するとは驚きだわ」
 さやか「わたしとしては運頼りの犯行に踏み切った事の方が驚きよ。それも旅先で犯行に及ぶなんて」
 マ ミ「則助氏が仮眠をとりにサロンを出た事、その際に起こす時間を指定しておいた事、栄夫人が分解可能な釣り竿を持っていた事、そして柱時計の下に座していた事。この四つの偶然が杜撰な思い付きの犯行を奇蹟的に成功させたのね」
 ほむら「偶然に思い付いた姦計を後先考えず実行する度胸、精神的に病んでいたのかも知れませんね」
 まどか「井坂甚六氏が時間の事を言い出さなかったら、栄夫人はどう対応するつもりだったんでしょう」
 マ ミ「理由は何とでもつけられると思ったんじゃないかしら。自慢したい釣り道具を寝室に忘れてきたとか、柱時計が見える位置に座っている方に時刻を尋ねるとか、何か考えはあったかも知れないわね。今となっては分からないけれど」
 杏 子「いずれにしろ、軽々しく男に肌を許すなっていう事ね。この教訓を他山の石にして、あたしたちも気をつけましょう」
 さやか「大丈夫よ。この五人の誰からも男っ気(おとこっけ)は感じられないもの。わたしたちには縁のない教訓よ」
 まどか「それはそれで寂しいような……」
 ほむら「(小声で)わたしには鹿目まどかさんがいれば充分だわ」
 杏 子「(小声で)さやかがいれば男なんて……」
 マ ミ「とんだ慰安旅行になってしまったけれど、残りの四日は存分に楽しみましょう」
 杏 子「そうね。茸狩りに海水浴、山歩き。雨と事件で台無しにされた二日間を取り戻さないと」
 波乱の幕開けとなった慰安旅行ですが、これはこれで「見滝原帝都探偵局」らしい二日間だったと言えます。
 時に昭和八年八月、ある療養地での出来事でした。


≪「紺碧荘殺人事件」完結≫


【あとがき】
 見切り発車でスタートした二次創作小説ですが、どうにか完結させる事ができました。
 論理的な謎解きよりも物語で読ませる構成を重視した為、手掛かりの提示に不手際があったり、解決編の謎解きに欠陥があるかも知れません……。
 普段は何気なく読み流していますが、実際に謎解き物の創作小説を自分で書いてみると大変な労力を消費する事が分かりました。ある意味では良い体験です。
 時計のトリックはエディソン・マーシャルの短編「リンウッド倶楽部事件」(原作未見 昭和4年・横溝正史=訳)から拝借し、若干のアレンジをして使用しました。相違点については原作のネタバレとなるので書きませんが、興味のある方はチェックしてみて下さい(図書館を利用して復刻版『新青年』昭和4年5月号を借りれば手軽に読めます)。
 物語中盤で時間トリックに関する致命的な矛盾事項が見つかり慌てて修正をしましたが、その影響もあって解決編は駆け足になってしまいました。
 福田栄を犯人とする証拠も弱く、評価の厳しい推理小説ファンの方から見れば不燃焼気味の謎解きかも知れませんが、軽く読み流して頂ければ幸いです(^-^;) 。
 最後になりましたが、作中に散りばめたくすぐりネタの元ネタと補足説明を以下に併せて記します。


【発端】
 ・貴族院議員:40歳の若さで亡くなった作家・濱尾四郎氏も貴族院議員でした。
 ・婦人探偵:昭和初期の『淑女画報』には婦人探偵からの寄稿文が掲載されており、少なくとも婦人探偵の存在を読者が受け入れるだけの下地があった事を伺わせます。
 ・Negligee:お色気描写の小道具として使用しました。昭和8年当時における婦人用寝具としての日本国内普及率は調べきれず、時代考証を無視しているかも知れません。
 ・饅頭が苦手:「饅頭怖い」と題する落語がありますが、特に関係はありません。何となく挿入したエピソードです……。

【事件編】
 ・トーキー映画「MAGICA」:言うまでもなく「魔法少女まどか☆マギカ」よりタイトルを借りました。
 ・シャルロッテ探偵:マミさんと深い因縁のある「お菓子の魔女」より。
 ・『新生青年』:戦前期の探偵小説史を語るうえで外せない探偵小説専門誌『新青年』より。
 ・中島のコラム:大正15年に横溝正史氏が「探偵映画蝙蝠を観る」と題する小文を『新青年』へ発表しています。映画紹介繋がりのパロティとして用いました。
 ・博文社:かつて雑誌王国と言われていた博文館がモデルです。終戦直後に複数の出版社へ解体されました。現在は博文館新社として日記帳の販売に力を入れています。
 ・森下天渓社長:長谷川天渓氏と森下雨村氏に名前を借りています。どちらも博文館の社員として『太陽』や『新青年』の編集主幹を務めました。
 ・ハイエナ社:アニメ版「サザエさん」におけるノリスケの蔑称より。

【介入編】
 ・警視庁嘱託:草野唯雄氏の長編に登場する尾高一幸は警視庁嘱託の私立探偵として刑事事件に介入する事が許され、民間人ながら殺人事件の捜査に加わっています。

【解決編】
 ・岩井探偵事務所:明治28年に創設された日本で最も古い探偵事務所。株式会社ミリオン資料サービスと改名し、現在も営業しています。
 ・シーメンス事件:大正時代初期の一大疑獄事件。この事件によって第1次山本内閣は大正3年3月に内閣総辞職へ追い込まれました(事件解決に岩井三郎氏も寄与しています)。
 ・結婚十周年:無駄知識となりますが、アニメ版「サザエさん」放送一周年記念として「謎のパーティー」が1970年に放送されました。脚本は辻真先氏。舟の日記に書かれていた「一周年記念」の謎を巡るドタバタを描いたエピソードです。
 ・郵便行嚢爆破事件:横溝正史「爆発手紙」より。



【追記】エピローグ部分にミスがあったので修正し、それに関する前後の文章も若干ですが修正致しました。タイトルに「改訂」とありますが、些細な部分修正なので内容全体には変更がありません。また、過去3回分の矛盾項目を訂正し、見つかった限りの誤記・誤植を修正しました。(2011年8月30日・記)
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見滝原帝都探偵局  紺碧荘殺人事件(介入編)

【九】

 仮眠を取ると言ってサロンを出て行った小太りの男性が亡くなった。マミ局長の口から信じられない言葉が発せられました。
 杏 子「小太りの男って、則助とか言われていた奴でしょう?」
 マ ミ「ええ」
 さやか「仲間内の評判が悪そうな男でしたね」
 ほむら「眼鏡をかけた青年の話では文芸業界内の評判も悪いそうです」
 まどか「死亡原因は事故ですか、急病ですか、それとも……」
 マ ミ「詳しい事は何も分からないわ。ただ、聞き込んだ話を総合すると自然死ではないみたい」
 杏 子「まあ、あたしたちには関係ない事だし、さっさと部屋に戻りましょう。あんな連中と関わるとロクな事がなさそうだ」
 さやか「そ、そうね。君子危うきに近寄らず。せっかくの慰安旅行ですもの、ここは関わり合いにならない方が良いですよ、マミ局長」
 マ ミ「……」
 ほむら「巴マミ局長、今回の旅の目的をお忘れではありませんか。我々は体を休める為に療養地としても知られるS海岸まで来たのですよ。男性の死が仮に他殺であったとしても犯人検挙は土地の警察が行うべきです。自然死であれば一切の手配を行う義務は宿側にあり、いずれにしてもわたしたちの出る幕はありません」
 まどか「依頼のない事件ですから、わたしも静観を決め込む事に賛成です。警視庁嘱託の調査機関として与えられた特権と特例が有効なのは東京市内だけですから」
 杏 子「まどかの言う通りよ。それに、ここはK県の警察が管轄する地域でしょう。あまり部外者がシャシャり出ない方が余計な摩擦を起さずに済むわ」
 マ ミ「そうね。わたしたちの素性も知られていないし、余計な事はしない方が無難かも知れないわ」
 杏 子「決まり。それじゃ、部屋に戻って寛(くつろ)ぎましょう。蒸し暑い夏の夜、納涼怪談大会と洒落込もうじゃないの」
 さやか「賛成。恐ろしい話ならまかせておいて」
 まどか「さ、さやかちゃん。あまり怖い話はしないでね。わたし、怪談は苦手なんだ……」
 ほむら「大丈夫よ、鹿目まどかさん。怖くて眠れなくなっても、わたしが一緒に寝てあげるから」
 まどか「え、ええ? そこまでしなくても大丈夫よ。怖い話が苦手でも子供のように一人で眠れないなんて事はないから。……でも、ありがとう。ほむらちゃん」
 ほむら「ど、どういたしまして」
 さやか「おお、何だか意味深長な会話が聞こえてきますわね」
 杏 子「ほむらの大胆発言、これは驚いたわ。アッハハハハ」
 マ ミ「うふふふふ」
 さやか「あはははは」
 まどか「わ、笑っては駄目ですよ。もう、マミ局長まで……。ほら、ほむらちゃんの顔が真っ赤になってしまったわ」
 ほむら「そ、そんな事ないわ」
 杏 子「ごめんごめん、笑ったりして。でも、いつも張り詰めた雰囲気をビンビン発しているほむらの口から意外な言葉が聞けて驚いたわ」
 マ ミ「そうね、笑ったりしては失礼だったわね。ごめんなさい、暁美さん」
 さやか「悪かったわね、ほむら
 ほむら「い、いえ。謝られる程の事では……」
 ほむらさんの意外な一言により、わたしたちの脳裏から則助氏が死亡した事が完全に失念致しました。
 このような会話を交わしながら、あてがわれた六人用の大部屋(狩猟の季節、この紺碧荘を拠点に猟へ出掛けられるK市内在住の某子爵がお仲間と一緒に宿泊する部屋として設計されたらしく、この時期以外は利用される事が少ないそうです)へ戻ると、各人は天蓋付きの大きな寝台へ腰を落ち着けます。
 六台の大きな寝台を置いても圧迫感を覚えない広さ、さすが子爵様御用達のお部屋です。
 明日の着替えを用意し、水道管を利用して地下水を組み上げる事で好きな時間に水が仕える洗面台で歯を磨いた後、わたしたち四人は杏子事務局長の寝台に集まりました。
 杏 子「さぁて、それじゃ夏の夜の納涼怪談大会を始めるとするか。まどか、悪いけれど電灯を消して貰っていいかい」
 まどか「はい」
 パチン。
 室内を照らしていた電灯が消えると同時に杏子事務局長は備え付けの蝋燭へ火を灯し、燭台に刺して出窓の縁に置かれました。
 言い忘れましたが、杏子事務局長の使用される寝台は出窓の前にあり、天蓋から垂れ下がる遮光幕によって直射日光を避けるよう設計されております。室内の家具配置から、このような置き方になったのでしょう(夜は鎧戸により、月明かりを遮断できます)。
 遮光幕は左右に大きく開けるよう取りつけられており、寝台の爪先部分まで寄せて束ねる事ができます。
 かくして、仄暗い蝋燭の炎を唯一の光源とする雰囲気の中、杏子事務局長の発案による納涼怪談大会が始まりました。

【十】

 トントン。トントン。
 杏 子「う~ん。誰だ、こんな夜中に」
 トントン。トントン。
 さやか「うるさいわねぇ」
 トントン。
 ???「もしもし、もしもし」
 ほむら「ううん。静かにして頂けますか」
 杏 子「なんだ、依頼人かぁ」
 マ ミ「ここは事務所ではないわよ」
 ???「夜分遅く、お休み中のところを恐れ入ります。わたくし、**警察署の志筑と申します。御迷惑とは思いますが、ここを開けて頂けませんでしょうか」
 マ ミ「あ、あら、これは失礼致しました。志筑さんですか。ただいま参りますので、今しばらくお待ち下さいませ」
 杏 子「知り合いなの、マミ?」
 マ ミ「ええ、**警察署の署長で、父と旧知の間柄なの」
 まどか「マ、マミ局長。わたしが出ましょうか」
 杏 子「いや、あたしが行くよ。マミは化粧着を羽織って対応の準備をしておいて」
 マ ミ「分かったわ」
 杏子事務局長は布団から跳ね起きて寝台を降り、短く燃え残った蝋燭を手燭(てしょく)に移して火を灯すとNegligee姿のまま入口へ向かいました。
 パチリ。
 電灯のスイッチが入り、部屋は煌々とした昼間の明るさに包まれます。
 ガチャリ。ギィィィ。
 鍵が開く金属音が聞こえ、次いで蝶番をを軋ませながらドアが開きました。
 志 筑「夜分遅くに淑女の寝室を訪問する御無礼はじゅうぶんに存じておりますが、何しろ火急の用件でございます故、平にお許し下さい」
 マ ミ「御丁寧な御挨拶、痛み入ります。立ち話も何ですから、まずは中へお入りになって下さいませ」
 志 筑「いいえ、ここで……」
 マ ミ「そんな御遠慮なさらずに」
 志 筑「そ、それではお言葉に甘えて失礼致します」
 Negligee姿の女性が占拠する室内に足を踏み入れた志筑署長は緊張した表情を浮かべ、マミ局長に案内されるまま朝食用テーブルの椅子に腰を下ろされました。
 マ ミ「このような格好で失礼致します」
 志 筑「い、いいえ、わたしの方こそ常識外れの時間に御訪問してしまい申し訳ございませんです」
 マ ミ「志筑さんとお会いするのは……五年ぶりでしたかしら。お懐かしゅうございます」
 志 筑「マミお嬢さんと最後にお会いしたのは**警察署への転属以来ですから、かれこれ五年が経ちますか。時に御父上はお変わりございませんでしょうか」
 マ ミ「おかげ様で。五十に手がとどこうとする今も、部下の方を怒鳴りながら法廷でも熱弁を奮っております」
 志 筑「益々の御活躍、何よりです。御父上に志筑がよろしく言っていたとお伝え下さい」
 マ ミ「かしこまりました」
 志 筑「夜分遅くの御訪問についてですが、実はマミお嬢さんに是非とも御協力を願いたい事がありまして、こうして参上した次第なのです」
 マ ミ「もしかして、死亡された男性に関する事でございましょうか」
 志 筑「さすがの御明察。その通りです」
 杏 子「(小声で)なんだか風向きが怪しくなってこないかい?」
 さやか「(小声で)ええ」
 ほむら「(小声で)嫌な予感がします」
 まどか「(小声で)このまま事件に関わりあうなんて事には……」
 杏 子「(小声で)なるかも知れないわよ」

【十一】

 **警察署へ事件を通報したのは穴子氏でした。
 穴子氏は足場が悪い夜の山道を一時間半かけて降り、そこから三十分かけて**警察署へ向かい、宿直の刑事に殺人事件発生を伝えたそうです。
 解決したばかりの窃盗事件に関する報告書を書き終え、今まさに退庁しようとしていた志筑署長は刑事から殺人事件の話を聞き、早乙女司法主任を指揮官とする捜査班を結成して紺碧荘へ出掛けられたとの事。
 諸々の準備も含めて合計五時間半という時間が費され、志筑署長以下の捜査陣が紺碧荘へ到着したのは午前三時を過ぎた頃でした。
 宿泊客名簿を確認したところ、警視庁嘱託の調査機関である「見滝原帝都探偵局」局長(つまりマミ局長ですが)の名前が見られた為、穴子氏に容貌を尋ねて同名異人ではない事を確認した後、同宿者として事件解決の手掛かりになる証言が得られるかも知れないと思い、「和竿必釣会」の同人より一通りの聞き込みを終えてから、夜明け前にも関わらず「乙女の園」を訪問されたとの事です。
 室内に招かれた志筑署長とマミ局長の会話を逐一再現するのも煩わしいと思いますので、会話の大意のみを以下に記します。


 1.被害者の名前は浪尾則助。三十七歳。妻子あり。ハイエナ社に勤務する雑誌編集者。現在、婦人雑誌『近代女性』を担当。死因は心臓を刺し貫かれた事によるショック死。凶器は刃渡り27センチの刺身包丁。正面から一突きされている。被害者の所持品である鞄の口が開いており、犯人によって中身を物色された可能性もある(紛失物の有無は分かっていない)。死体のそばには空っぽの財布が落ちていたものの、これ見よがしな落し方から物盗りの犯行に見せかける擬装工作とも考えられる。

 2.被害者は和竿による釣りを愛する同好会「和竿必釣会」の同人であり、創設当初からの古参会員だった。今回は海釣りを楽しむため、同人五人と一緒にK県までやって来たとの事。同宿メンバーは、石野勝男,福田松雄,福田栄,金沢波奈,井坂甚六の五名である。

 3.釣った魚を船上で捌けるように会員は誰もが刺身包丁を持っていた。各人の手荷物を調べた結果、則助の釣り鞄だけ刺身包丁が見当たらず、凶器は被害者自身が持っていた包丁と断定された。

 4.被害者は同好会の仲間内でも評判が悪く、些細な揉め事を何度も起こしている。殺害に至る深い恨みを彼に頂く同人がいるかも知れないが、同宿メンバーの証言からは確認できなかった。

 5.死体が発見されたのは午後九時五分過ぎ。女中頭の浜美智子によって発見された。死体発見の経緯は、美智子の証言によると「穴子支配人より、午後九時に401号室へ宿泊されております浪尾則助様へ声をかけるよう言いつかりました。その時刻に401号室へ参りましたところ、半分近く開かれたドアの隙間から男性が虚ろな表情で倒れているのを発見し、大急ぎで穴子支配人へお知らせした次第です」との事。


 志 筑「死体発見が午後九時なので、浪尾則助氏が殺されたのは午後九時前である事が分かります。福田松雄氏の話によると、妻の栄夫人が午後九時過ぎに手洗いへ立った他、被害者の他にサロンを出た人物はいないそうですが、この証言に間違いはありませんでしょうか」
 マ ミ「志筑さんは、犯人が同宿者五名の中にいるとお考えなのですか」
 志 筑「ええ。宿泊客名簿を確認したところ、「和竿必釣会」同人六名、M県からの団体旅行客十二名、O男爵御夫妻、雑誌『風光明媚』の記者三名、東京市内在住の御婦人六名となっておりました。団体旅行客もO男爵夫妻も旅行雑誌の記者も浪尾氏と面識がなく、あなた方も無関係。そうすると必然的に被疑者は「和竿必釣会」同人に限られます」
 マ ミ「なるほど」
 志 筑「疑わしいのは福田栄夫人ですが、手洗いへ立ったのが午後九時過ぎであれば犯人にはなり得ません。そうなると、彼女以外にサロンを出た人物がいるか、いないか、そこが重要になってくるわけです」
 マ ミ「わたくしたちが知る限りでは、栄夫人の他、サロンへ出入りされた方はいらっしゃいません。ねえ、杏子」
 杏 子「え、ええ。あたした……わたくしたちの座っておりました場所からはサロンの入り口がハッキリと見えますが、栄……夫人の他に出入りされた方はおりませんでしたわ」
 さやか「(小声で)杏子さんの話し方、何だか変じゃない」
 ほむら「(小声で)巴マミ局長にあわせた話し方をされているようね」
 まどか「(小声で)何だか無理しているみたい」
 さやか「(小声で)それはそうよ。杏子さんにお嬢様言葉は似合わないし、第一、お嬢様と言えるガラではないわ」
 杏 子「(小声で)聞こえてるよ、あんたたち」
 杏子事務局長が怖い顔で振り向きました。目がすわっており、なかなか迫力のある怒り顔です。

【十二】

 以前に公開した紺碧荘別館の見取図を御覧頂ければ分かりますが、サロンへの出入り口は一つだけです。ここ以外からの出入りとなれば大きな出窓を利用するしかありませんが、そんな事をすれば同席者に分かってしまい、志筑署長を悩ませる事もございません。
 志 筑「そうなりますと五人は嫌疑から外さざるを得ませんなあ」
 眉間に皺を寄せた険しい表情で志筑署長が苦々しげに仰いました。
 志 筑「そうだ。もしかしたら、栄夫人がサロンを出た時間を勘違いしているという事はないでしょうか。別館のサロンから本館の犯行現場までは走れば二分程度で往復できます。被害者の隙をついて刺し殺すのに二分から三分。これで合計五分となります。九時五分にサロンを出たのではなく、九時五分にサロンへ入って来た、こう思い違いをされているのでは?」
 マ ミ「そのような事はあり得ませんわ」
 志 筑「と、申されますと」
 マ ミ「井坂甚六さんでしたと思いますが、栄夫人が席を外れた直後、時計を見ながら「もう九時過ぎか」と仰ったのです」
 志 筑「なんと!」
 杏 子「そう言えば、あたしたちも時計を見たわね。間違いなく九時を過ぎていたわ」
 堅苦しい話し方に疲れたのか、杏子事務局長は普段の口調に戻っております。
 志 筑「うぅむ。そうすると福田栄は犯人ではないという事か……。うむぅ」
 マ ミ「外部からの侵入者という可能性は考えられませんか」
 志 筑「建物の周囲をくまなく調べたが不審な足跡は発見できなかったと、捜査の指揮を執る早乙女君から報告がありました。カンテラの明かりを頼りに調べただけとはいえ、昼過ぎの大雨で土が柔らかくなっておりますから、この報告は信用できます」
 マ ミ「すると八方塞がりですわね」
 さやか「(小声で)何だか思った以上に複雑な事件のようね」
 まどか「(小声で)ええ」
 ほむら「(小声で)何とも不可解ね」
 さやか「(小声で)不謹慎かも知れないけど、興味がわいてきたわ」
 まどか「(小声で)わたしも」
 ほむら「(小声で)表面的な事実を繋ぎ合せていくと不可能犯罪に見えるけれど、そんな事はないわ」
 まどか「(小声で)えッ? それじゃ、ほむらちゃんは誰が犯人か分かったの?」
 ほむら「(小声で)巴マミ局長も佐倉杏子さんも誰が犯人か見当はつけている筈よ」
 さやか「(小声で)本当? 犯人の見当がついているの? だったら、あの署長に教えてあげればいいのに」
 ほむら「(小声で)おそらく犯人の詭計を解き明かせていないので沈黙を守っているのよ」
 さやか「(小声で)ま、まさか、ほむらも誰が犯人か分かっているの?」
 ほむら「(小声で)消去法で考えてみて、美樹さやかさん。浪尾則助氏が殺害された。正面から刺し殺した犯行状況によって犯人は彼と面識のある人物に限られる。外部から侵入者が忍び込んだ形跡はない。則助氏の他にサロンから出入りした人物は福田栄夫人のみ。この四つの点が動かしがたい事実であれば、導き出される答えは一つだけ」
 まどか「(小声で)もしかして……」
 さやか「(小声で)あの釣り竿を振り回しながら大はしゃぎしていた女の人が犯人?」
 ほむら「(小声で)もちろんよ」
 さやか「(小声で)でも、彼女がサロンを出たのは午後九時過ぎよ。それは間違いないわ」
 ほむら「(小声で)ええ。だからこそ、巴マミ局長も佐倉杏子さんも軽々しく口を開かないのではないかしら。午後九時五分にサロンを出た人物が、どのようにして午後九時前に殺人を犯したのか。そこまで分っていれば、志筑署長に御自分の考えを伝えている筈よ」
 まどか「(小声で)時限装置を使ったというのは? 例えば、天井にバネ仕掛けで短刀を発射するような機会を設置し、そこへ被害者の荷物から取り出した刺身包丁をセットし、時間になったら天井から刺身包丁が降ってくるような仕掛けで……」
 ほむら「(小声で)あり得ないわ。そんな物があれば捜査途中で簡単に発見されてしまう。それに、この殺人方法は相手が仰向けで寝ている事、犯人が理想とする場所から一ミリもずれてはいけない事が最低の前提条件よ。仕損じたら次はない」
 さやか「(小声で)それじゃ、どんな方法を使ったというの?」
 ほむら「(小声で)分からない。わたしには分からないわ」


≪「紺碧荘殺人事件(解決編)」へ続く≫

見滝原帝都探偵局  紺碧荘殺人事件(事件編)

【五】

 則 助「今日は生憎の天気でしたが、明日こそは大物を釣りあげたいですねぇ」
 松 雄「まあ、一時的な大雨だったから明日は大丈夫だろう」
 話題が途切れて一瞬の沈黙が訪れた時、サロン奥のテーブルで話し合う男性の声が聞こえてきました。
 甚 六「明日の釣果一等は僕が頂きますよ。この竿は、創業百五十年の暖簾を誇る「品川屋」の専属職人が半年かけて作り上げた会心の作ですからね。そこらの職人が作った竿とは物が違いますよ、物が」
 勝 男「釣りは道具じゃありませんよ、甚六さん。自慢じゃありませんが僕は自作の竿で一時間に21匹という大記録を数えた事があるんですよ。お忘れではありませんか、第三回和竿必釣会遠征旅行での好成績」
  栄 「あら、何と言っても年季の入った竿が一番よ。使い込んで手になじんだ竿に勝る名品はないわ」
 いつの間にか杏子事務局長とさやかさんが向こうテーブルの方に視線を送り、自慢話に耳を貸しています。
 杏 子「おいおい、何だか訳の分からない話が聞こえてこないか」
 さやか「腕自慢をしているのか、道具自慢をしているのか、どっちなのかしら」
 杏 子「ちょっと、見なよ。連中、竿まで取り出して自慢を始めたわよ」
 さやか「あの大荷物は竿だったのね。こんな所にまで持ち込むなんて何を考えているのかしら」
 杏 子「病肓に入る。あんな棒を自慢して何が面白いのかしら」
 マ ミ「趣味は人それぞれでしょう。釣りが好きな方にとっては竿と腕が自慢のタネなのだから、良い物が手に入ると吹聴したくなるものよ」
 さやか「誰かさんが甘い物を見境なく食べたり飲んだりするのも趣味なのかしら」
 杏 子「それは関係ないだろう、さやか
 両テーブルで話が盛り上がり始めた頃、紺碧荘の経営者である穴子海司(あなご かいじ)氏がサロンへ姿を見せました。
 穴 子「皆様、このたびは紺碧荘を御宿泊先にお選び頂き、まことにありがとうございます。本日は生憎の悪天候でしたが、ラジオ放送の天気予報【註2】によりますと明日は快晴のようです。海釣りや山歩きを存分にお楽しみ下さいませ」
 勝 男「よぉし、明日は釣りに行けるぞ~」
 穴 子「こちらの別館でございますが、本日は午後九時半より別館二階の劇場にてアメリカのトーキー映画「MAGICA」を上映致します。よろしければ、皆様お誘い合わせのうえお越し下さいませ」
 勝 男「へえ、「MAGICA」を上映するんですか」
  栄 「勝男、この活動写真を知っているの?」
 勝 男「探偵小説好きなら誰でも知っている仏国作家の短編作品を大胆に脚色した探偵映画で、たった二十分の長さだけど、最初の十分で不可解な謎が続々と提出され、残り十分で巴里警視庁のシャルロッテ探偵が一気に謎を解明するんだって。一分たりとも目が離せない傑作だって中島が言ってたんだ。確か、去年の『新生青年』に「探偵映画「MAGICA」を見る」ってコラムが中島の署名原稿で載っていたよ。僕は上映初日に見たんだ」
 則 助「それは面白そうだなぁ。この劇場では、そんな新しい作品まで見られるのかい?」
 穴 子「はい。配給元の博文社を経営される森下天渓社長とは古い付き合いがありまして、その関係で外国の新作活動写真のフィルムを借り受けております。当観劇場では活動写真上映の他、東京市内から劇団を招いて演劇を上演する事もございますし、年末にはサロンを利用して年忘れ舞踏会を開催する予定もございます」
 杏 子「サロンを解放して舞踏会。だから仕切りがないわけか」
 穴 子「左様でございます。ですが、過去に御利用されたお客様より「簡単な仕切りを設けて部屋を区分してほしい」との御意見を頂戴しております為、現在、検討中でございます」
 ようやく、仕切りのないサロンの謎が解けました。この広さを活かして舞踏会を開くとは考えたものです。
 穴 子「それでは、これにて失礼させて頂きます。お楽しみのところ、お邪魔様でした」
 則 助「ああ、ちょっと御主人」
 穴 子「はい、なんでございましょう」
 則 助「活動写真の上映は九時半からだったよね。これから仮眠をするので、九時になったら起こしてくれないかなぁ。勝男くんの話を聞いていたら、僕も「MAGICA」を見たくなってしまったんだ。女中さんにヘアのドアをノックして声をかけるよう言っておいてくれ。頼むよ」
 穴 子「かしこまりました。それでは、これにて」
 深々と頭を下げ、穴子氏はサロンを出て行きました。
  栄 「仮眠って、具合でも悪いの? 則助さん」
 則 助「いいえ。実は昨日、井坂先生の原稿が入稿時間ギリギリに届いたので差し込み作業やレイアウト調整をしているうちに徹夜しちゃいましてねぇ。みなさんの自慢話を聞いていても退屈なので、一眠りしてこようと思ったんですよ。まだ八時十分過ぎだから、一時間くらい眠れるでしょう。それじゃ、とりあえず失礼しますね」
 言うだけの事を早口で言った則助氏は、これ見よがしにアクビをしてサロンから出て行かれました。
 松 雄「いやぁ、あいかわらずの毒舌だね。則助くんは」
 勝 男「自慢話を聞きたくなければ最初から来なければいいじゃないか。自分だって釣りとは関係ない仕事の自慢話を鼻高々で喋るくせに」
 甚 六「親父の原稿を貰う時は見苦しいくらいに媚び諂(へつら)いながら、裏に廻るとアレだよ。ハイエナ社と縁を切る事、本気で親父を説得しないといけないな」
 金 沢「へぇ。浪尾さんって意外と評判が悪いんですね」
  栄 「金沢さんは入会したばかりだから知らないわよね。則助さん、いつも余計な一言でトラブルを呼ぶのよ。ちょっと大きな獲物を釣り上げただけでも話を何倍にも膨らませて自慢するし、あまり関わらない方がいいわよ」
 甚 六「そうそう。ハイエナ社の浪尾則助は文芸業界でも評判がよくないからね。下手に好かれるとロクな事がないよ」

【六】

 杏 子「王手!」
 さやか「ちょ、ちょっと。嘘でしょう」
 杏 子「ヘボ将棋 王より飛車を 可愛がり。角飛車の動きばかり見てるから油断するんだよ。まだまだ修行がたりないな、さやか
 さやか「くぅぅぅ。もう一回。もう一回、勝負よ」
 杏 子「いいわよ。何から、今度は角と飛車を落としてやろうか」
 さやか「ば、馬鹿にしないでよ」
 こちらのテーブルでは、杏子事務局長とさやかさんが将棋で熱い勝負を繰り広げている……と言いたいのですが、実力の差が大きい為か杏子事務局長の3戦3勝、しかも全ての勝負は数分という短時間で決着しております。
 一方、奥のテーブルでは釣り談義や竿自慢が続いており、今も栄夫人が竿を持ちながら性能の良さを熱く語っておりました。
  栄 「……と言う構造になっているの、この竿は。穂先に真鍮の管を用いると同時に絹糸で補強しているから、アタリが取れた時に見事な流線形を描くのよぉ。でも、普段はピシッと気持ち良いくらいに真っ直ぐ伸びているでしょう。わたしの性格と同じでね。この撓(しな)りで獲物の大きさを推測できるし、見た目よりも性能を重視した一品なんだからぁ」
 勝 男「姉さんの竿が凄いのは分かったから、あまり振り回さないでよ。危ないじゃないか」
  栄 「大丈夫よ、あんたを鰹と間違えて釣りあげたりしないから」
 勝 男「いや、そういう問題じゃなくて……。あッ、いたぁ」
  栄 「あら、ごめんなさい」
 勝 男「ほら、言わんこっちゃない。早く竿を下(おろ)して」
  栄 「分かったわよ。あ、そうだ。ねえ、見てよ。勝男」
 勝 男「今度は何さぁ」
  栄 「この印籠継ぎ、段差を全く感じさせないのよ。甚六さんの竿は年季の入った職人が作ったようだけど、わたしの竿だって負けちゃいませんからねぇ~。ほらほら、こんなにスムーズに穂先を分離させられるのよ。それでいて、差し込んだ後は抜けにくい。その秘密はねぇ……」
 杏 子「みっともない。いい年した女が仁王立ちして竿なんか振り回して」
 さやか「あの姉弟のコンビも笑えるわね。今の見た? まるで漫才をやってるみたい」
 杏 子「凸凹コンビってヤツね」
 ほむら「ふふふ」
 マ ミ「クスッ」
 まどか「うふふふふ」
 杏子事務局長のお言葉は御自分とさやかさんの会話にも当てはまるのですが、その事に当事者二人だけが気付いていないようです。
 杏 子「さて、こちらも勝負再開だ。次も平手【註3】で勝負よ」
 さやか「望むところ」
 マ ミ「ねえ、美樹さん」
 さやか「何ですか、マミ局長」
 マ ミ「よかったら、この勝負の相手を代わってくれないかしら」
 さやか「マ、マミ局長が杏子さんと指すんですか」
 マ ミ「ええ。なんだか二人の勝負を見ていたら、久しぶりに将棋を指したくなってしまったわ」
 杏 子「あたしは構わないよ。弱い相手には飽き飽きしていたところだし、マミなら相手にとって不足はない」
 さやか「杏子さんに異存がなければ、わたしも構いませんよ。それでは席を換りましょう」
 マ ミ「ありがとう。悪いわね」
 まどか「マミ局長と杏子さんの対局、どっちが勝つんだろう。ほむらちゃんの予想は」
 ほむら「巴マミ局長の勝利だと思うわ」
 まどか「そ、即答ね。さやかちゃんは」
 さやか「わたしもマミ局長の勝利に一票」
 ほむら「鹿目まどかさんの予想は」
 まどか「う~ん。難しいけれど、やっぱりマミ局長が勝ちそうな気がする」
 杏 子「あ、あんたたち……。いいわよ、いいわよ。あたしは憎まれ役がピッタリなんだ、喜んでマミの引き立て役を買ってやるわ」
 さやか「まあまあ、拗ねないの。これを起爆剤に棋聖の腕前を存分に発揮して下さいな」
 杏 子「ふん。見えすいた事を言って。まあ、いいや。マミ、勝負よ」

【七】

 杏 子「ぐッ……。ま、負けた」
 さやか「さすがマミ局長。杏子さんに勝ってしまったわ」
 ほむら「佐倉杏子さんのネバりも見事でした。勝負を捨てずに最後まで王将を守ろうとする姿勢は誇り高い棋士そのものです」
 まどか「実力者同士の対局は凄いですね。見ている側にも指し手の熱気が伝わってきましたよ」
 マ ミ「どうもありがとう」
 さやか「まさに熱戦でしたね。あんなに長い勝負は見た事がありませんでした」
 各人が名勝負の感想を述べていると、奥のテーブルから栄夫人の金切り声が聞こえてきました。
  栄 「いたぁ~。あたたたた」
 勝 男「ど、どうしたの、姉さん」
 松 雄「だ、大丈夫かい、栄?」
  栄 「きゅ、急にお腹が痛くなってきたの。あたぁ~。ちょ、ちょっと、お手洗いへ行ってくるわ」
 言うが早いか、竿を柱時計の脇に立て掛けると同時にドタドタ足音を響かせながらサロンから出ていきます。
 杏 子「淑女の嗜みがまるで感じられないわね」
 さやか「日がな一日、何かを食べている誰かさんも淑女の嗜みに欠けると思うけど」
 杏 子「何とでも言いなさい」
 甚 六「もう九時を過ぎた事だし、どうします。部屋に引き揚げましょうか」
 松 雄「本当だ。九時五分じゃないか。まだ九時まで十分くらいあると思っていたよ」
 松雄氏の言葉につられ、わたしたち五人は柱時計に目をやりました。文字盤は確かに九時五分を指しております(柱時計が壁に掛っている位置は【図3】を参照して下さい)。

【図3】座席表(和竿必釣会メンバー)

 松 雄「それじゃ、栄が手洗いから戻ったら本館へ戻ろう。明日は午前四時起床だったね」
 甚 六「ええ。午前五時半にはS海岸まで降りていなければなりませんので、ここを五時少し前には出ましょう」
 勝 男「あ~あ、明日が楽しみだなぁ」
 金 沢「わたし、海釣りは初めてなんです。緊張するわ」
 甚 六「僕も今から腕が鳴るよ。早く、この竿で大物を釣り上げたいなぁ」
 さやか「まだ言ってるわよ、あの人たち」
 杏 子「放っておきなよ。それより、マミ。もう一局だ。次は負けないからな」
 マ ミ「ちょっと待って、杏子。ねえ、鹿目さんも暁美さんも見ているだけじゃ退屈でしょう。どう、二人で対局してみない」
 ほむら「やりましょう、鹿目まどかさん」
 ほむらさんが信じられない反応を見せて即答します。 
 杏 子「そうね、この二人の対局というのも面白そうだし。まどか、一局指してみなよ」
 マ ミ「遠慮しなくてもいいのよ」
 さやか「そうよ。まどかほむら、こんな勝負はめったに見られないわ。さあさあ、こっちへ座って。駒の動かし方は知っているでしょう」
 まどか「え、ええ。それじゃ、お邪魔します」
 あまり将棋には詳しくないのですが、せっかくの御指名ですし、ほむらさんもヤル気充分なので一局指す事に致しました。
 ほむら「それでは、お願いします」
 まどか「こ、こちらこそ」
 杏 子「それじゃ、対局開始」
 パチ。パチ。パチ。パチ。パチ。パチ。・・・・・・・・・
 まどか「ええと、こうなるから。王手」
 杏 子「そこで飛車を成らせて王手を仕掛けるとは、なかなかの勝負師ね」
 ほむら「……」
 マ ミ「暁美さん、頑張って」
 さやか「わたしより将棋が強いじゃないの、二人とも」
 ほむら「駄目だわ。逃げ場がない。まいりました」
 マ ミ「二人とも、お疲れ様」
 杏 子「熱い勝負だったわね。まどかの勘とほむらの戦略、どちらが勝ってもおかしくはなかったわ」
 わたしたちの対局が終わった時、サロンの入り口から栄夫人が戻って参られました。
  栄 「ああ、サッパリした。それで、これからどうするの」
 松 雄「甚六くんとも話し合ったんだが、明日は早いんで本館へ戻る事にしたよ。まあ、例の活動写真が見たいなら二階で見てきてもいいけど、僕は休ませてもらう」
 勝 男「僕も。活動より釣りの方が好きだから」
 甚 六「明日は午前五時前に出発予定ですから、寝すごさないように気をつけて下さい」
 金 沢「わたしも早起きに自信がないので休む事にします」
  栄 「みんなが戻るんなら、わたしも戻るわ。ちょっと待ってて、竿をしまうから」
 勝 男「早くしてよぉ、姉さん」
  栄 「分かってるわよ」
 勝 男「もう、姉さんに付き合ってられないよ。先に出てるからね」
 金 沢「わたしも、お先に失礼します」
 甚 六「僕は竿の手入れをしないと。それじゃ、また明日」
 そう言うと三名の男女は次々にサロンから出て行きました。個性が強い方の集まりだからでしょうか、チームワークが今一つ欠けているようです。
 栄夫人が片付け作業をしている最中、再び松雄氏がやってきました。
 松 雄「どうもお騒がせしました。さぞ、うるさかった事でしょう。うちの連中、釣りの事になると周囲が見えなくなってしまいまして……」
 マ ミ「いいえ。とんでもない事でございます。こちらの方こそ、かしましいばかりで。さぞ、御迷惑だった事と存じます」
 松 雄「いやいや、そんな事はありませんよ。こんな美しい御婦人連のお喋りなら、まる一日でも聞いていたいくらいです」
 マ ミ「お、恐れ入ります」
  栄 「松雄さん、何をしているの。行くわよ」
 松 雄「それでは、僕達は明日が早いので解散します。後は皆さんでゆっくりとくつろいで下さい。では」
 マ ミ「ごきげんよう」
 言うだけの事を言い、松雄氏は栄夫人の厳しい視線を全身に浴びながらサロンの入口に向かって走って行きました。
 さやか「さて、邪魔者も消えたわ。勝負再開よ、杏子さん」
 杏 子「いいよ、相手してあげる。まあ、今回も五分以内に決着がつくだろうけどね」
 さやか「失礼な。そんな大口を叩くなら……。ねえ、まどか
 まどか「なに?」
 さやか「本当に五分以内の決着となるか、あの時計で計ってくれないかしら」
 まどか「いいわよ」
 顔をあげて柱時計を見ると……何と言う事でしょう。まだ九時十分でした。
 まどか「あれ、まだ九時十分なんだ。もっと時間が経っていたかと思っていたのに……」
 杏 子「なんだって」
 さやか「嘘でしょう」
 わたしの言葉に全員の視線が柱時計を注がれます。しかし、誰が見ても時計の針が指し示す時刻は九時十分。これは動かしがたい事実なのです。
 マ ミ「時間の感覚が先程とは逆ね」
 杏 子「時間に縛られない旅行だから感覚が鈍ったのかしら」
 さやか「それはあり得る」
 ほむら「そうでしょうか?」
 マ ミ「まあ、いいじゃないの。のんびりできるのだから」
 ほむら「……そうですね」
 杏 子「手洗いから五分で御帰還とは、あの女の次は使いたくないわね」
 さやか「同感」
 まどか「ひ、ひどい言われようね」
 ほむら「確かに、あまり品のよい御婦人とは言えないわ」
 杏 子「よし。今度の勝負は雪隠詰めで終わらせてやるか」
 さやか「そう思い通りにはいかせないわ」
 賑やかな中、四度目になる杏子事務局長とさやかさんの対戦が始まりました。
 
【八】

 杏 子「ほら。これで王手。予告通りの雪隠詰めだ」
 さやか「うぅぅ。また負けた」
 杏 子「さやかは目の前しか見てないから駄目なんだよ。さっきも言ったでしょう」
 さやか「こうなったら……。マミさん、ほむらまどか
 まどか「え?」
 ほむら「まさか」
 マミさん「どうしたの?」
 さやか「一局、お相手願います」
 杏 子「やめておきなよ、さやか。さっきの対局を見ていただろう。あんたじゃ勝てないよ、ほむらにも、まどかにもね。ましてや、あたしを倒したマミに勝てるわけないでしょう」
 さやか「そ、そんな事……。やってみないと分からないわ」
 まどか「どうしましょう、マミ局長」
 マ ミ「まあ、美樹さんが望むなら」
 ほむら「お相手しましょう」
 さやか「よぉし。今度は負けないわよ」
 張りきって対局に臨むさやかさんでしたが……。結果は申すまでもございません。さやかさんの全敗です。いずれも40手未満で勝負がつきました。
 さやか「やっぱり杏子さんの言う通りだったわ。わたしには目の前の事しか見られないし、将棋の才能もないんだ」
 マ ミ「そう力を落とさないで。将棋では役に立たなかったけれど、目の前の事に全力で集中できるのは美樹さんの良い所だわ。将棋だって、もっと場数を踏めば強くなれるはずよ。だから元気を出して」
 さやか「は、はい」
 気落ちしているさやかさんを優しく励ますマミ局長。母性溢れる優しさ、心から尊敬できます。
 杏 子「(小声で)何だか詭弁で相手を丸め込む講釈師みたいな慰め方だなぁ。マミも口がうまいや」
 マ ミ「杏子、聴こえたわよ」
 杏 子「えッ……。き、聴こえたって、何の話かしら?」
 マ ミ「まったく、とぼけるのがうまいんだから」
 杏 子「もうすぐ九時半か。そろそろ部屋に戻ろうかな。あたしは活動を見る気がしないし」
 マ ミ「みんなはどうするの? 活動写真を見たければ、まだ間に合うわよ」
 まどか「わたしも部屋に戻ります。あまり活動には興味がありませんから」
 ほむら「わたしも」
 さやか「同じく」
 杏 子「それじゃ、片づけを済ませましょう。マミ、テーブルを拭いてくれる。あたしはカップとソーサーを片付けておくから」
 マ ミ「わかったわ」
 まどか「後片付けなら……」
 杏 子「いいから、あんたたちは座ってな。いつも下働きさせているんだから、こんな時くらいは先輩がサービスしてあげないとね」
 マ ミ「そうそう」
 こう言いながらもマミ局長と杏子事務局長は手際よく後片付けを済ませ、数分で洗い物からテーブル掃除まで終わらせてしまいました。思いやりある二人の先輩に恵まれ、わたしは(わたしたちは、と言うべきでしょうか)「見滝原帝都探偵局」という職場での激務に耐える事ができます。
 息の合った連携プレイにより、片付けは五分もかからずに済みました。
 マ ミ「さあ、照明を消すわよ」
 全員がサロンの外へ出たのを確認すると、マミ局長は壁際のスイッチを押して照明を消しました。最前まで賑やかだったサロンが暗闇の沈黙に沈みます。
 廊下へ出ると、杏子事務局長は銀の小箱から残りの花林糖を取り出し、ポリポリと齧りながらマミ局長に尋ねました。
 杏 子「明日はどうするんだい」
 マ ミ「そうね、天気が良ければ高原の向こうにある森へ行ってみましょう。なんでも、福禄茸という美味しい茸【註4】が自生しているそうよ。一人二本までは採ってもよいそうなので、みんなで探してお昼に頂きましょう」
 杏 子「福禄茸か。聞いた事はある。特殊な土壌でないと育たない食用茸だろう。高級料亭では一本食べるのにも大枚をはたくって言う茸が二本も食べられるとは幸せだ」
 マ ミ「それより、杏子。歩きながら物を食べるのはお止しなさいと言ったでしょう。あまり見っともいいものじゃないわ」
 杏 子「はいはい。蓮っ葉な女で申し訳ありません。以後は慎みます」
 さやか「そう言って、次の日には元の黙阿弥。まったく、杏子さんは口だけなんだから」
 このような会話をしながら渡り廊下を通って本館へ戻ってきたのですが、何やら慌ただしい雰囲気を感じます。
 杏 子「なんだか騒々しいが不審者でも入り込んだのかしら」
 マ ミ「ちょっと聞いてくるわね」
 さやか「きょ、局長。それなら、わたしが……」
 さやかさんの返事も待たず、マミ局長は自ら聞き込みに行かれました。
 しばらくしてマミ局長が戻られましたが、その口から驚くべき報告がもたらされました。
 マ ミ「緘口令が敷かれているのか、あまり詳しい話は聞けなかったけれど、どうやら人が亡くなったらしいわ」
 杏 子「なんだって!」
 マ ミ「午後八時過ぎにサロンを出て行かれた角刈りの頭の小太りな男性、覚えてるでしょう。亡くなったのは、この男性のようよ」


≪「紺碧荘殺人事件(介入編)」へ続く≫


【註2】ラジオ放送による天気予報は大正14年3月22日から開始されたと記録に残されています。
【註3】全20枚の駒を所定の位置に置いた状態から指される将棋の事。
【註4】福禄茸(ふくろくたけ)は架空の茸です。特に物語とは絡んできませんので、存在を覚えておく必要はありません。

見滝原帝都探偵局  紺碧荘殺人事件(発端)

【はじめに】
 コミックマーケット80(開催:8月12日~14日)で発行された「魔法少女まどか☆マギカ」関連の新刊同人誌を読んでいたところ、これまで休止状態だった「まどマギ熱」が再燃してきました。
 購入した同人誌はクオリティが高く、最初から最後までタップリと楽しみながら大いに創作意欲も刺激され、自分でも「魔法少女まどか☆マギカ」の二次創作活動をしてみたくなり、当初の予定を変更して「~まどか☆マギカ」の二次創作作品を公開する事に決めた次第です。
 最初は「全員生存のハッピーエンド世界」が舞台のSSにしようと思ったのですが、どうも良いアイディアが浮かばず、軽い気持ちで読める探偵物に仕上げてみました。
 主要メンバー五人を登場させたものの、活躍の比重はマミさん&杏子に偏っています。また、キャラクター設定も原作に忠実ではありません。
 原作の世界観を崩した二次創作が苦手な方、シリアスな物語を好まれる方、オリジナル要素の濃い二次創作を敬遠される方、いずれか一つでも該当する場合、閲覧を控えて頂きますよう事前にお知らせ致します。
 各キャラクターのイメージを極度に壊すような描写は控えたつもりですし、グロテスク要素も皆無ですので、「~まどか☆マギカ」の二次創作作品に興味がありましたら御笑覧下さい。
 現時点では全四回(発端,事件編,捜査編,解決編)完結の予定ですが、その通りになるかは……何とも言えません(^▽^;)。隔日更新で八月中には完結させる予定であります。
 最後になりましたが、物語構成の都合上、時代考証や時代風俗の正確さに欠ける描写、表現があります。この点もよろしくお含み置き下さい。



 皆様、初めまして。鹿目(かなめ)まどかと申します。
 父は警視庁勤務の警察官、母は閨秀作家。祖父は貴族院議員、祖母は女学校の教員。
 特殊な家庭環境に育ったせいか気が付くと花嫁修業に精を出している同窓の友人とは異なった道を歩いており、K女学院を卒業後は同郷の先輩だった巴マミさんが局長を務める見滝原帝都探偵局へ就職、婦人探偵見習いとして忙しい毎日を送っております。
 一口に探偵と申しましても、雑誌や新聞紙上を賑わせる血なまぐさい犯罪ばかりを追っている訳ではございません。尾行から帳簿の調査、秘密書類の探索まで幅広く手掛ける他、世間様に知られない業務も行っているのです。

 積極的介入はございませんが、時には殺人事件にも対応する事もございます。
 その良い例が、K県の避暑地にある紺碧荘での事件です。
 わたしたちが紺碧荘でおこった殺人事件に巻き込まれたのは、見滝原帝都探偵局の創立十周年(探偵局の開業は大正12年)を祝う慰安旅行の最中でした。
 豪雨が去った蒸し暑い夏の夜、泊まり客の一人が刺身包丁で胸を刺され殺されたのです。
 捜査担当の司法主任がマミ局長の御父上と懇意だった為、後で申します事情も含め、見滝原帝都探偵局メンバーも犯人検挙に協力する事となりました。
 今日は……この事件についてお話を致しましょう。

 事件の舞台となる紺碧荘はS海岸を見下ろす高台にある西洋風の宿泊施設です。
 やや古びた印象を与える名前ですが、なかなか近代的な設備が整っており、撞球室(ビリヤード・ルーム)やサロンも用意されておりました。
 林を抜けた向こうには高原があり、その奥は鬱蒼とした森林が広がって雄大な山の自然を満喫させてくれます。
 利用者に踏み固められた道を下り、民家の脇の路地を抜けるとS海岸があるので、海までの徒歩15分は適度な運動にもなります。
 山と海の自然を満喫できる環境は、険しい山道を上り下りする地理的条件さえ苦でなければ一泊10円の価値は十二分(じゅうにぶん)にあると言えるでしょう。
 もっとも、わたしたちもマミ局長の引率でなければ気軽に泊まれるような宿ではないのですが……。

 前置きはこれくらいにして、それでは事件の話に移ろうと思います。
 ……。
 と、その前に。
 見滝原帝都探偵局のメンバーと被害者、そして五人の容疑者を以下に箇条書きで御紹介致します。
 被害者と容疑者は釣り好きの男女によって結成された「和竿必釣会(わざおひっちょうかい)」のメンバーです。
 彼ら五人の中に潜む殺人犯は誰か、皆様も話を聞きながら推理してみて下さい。
 物語を円滑に進行させるため、必要最低限の人物以外は登場させておりません。この省かれた宿泊客の中には犯人が存在しない事は語り手である鹿目まどかが保障致します。


【見滝原帝都探偵局】
 ・巴マミ……見滝原帝都探偵局長。紅茶好きで日に五杯は飲まれますが、茶葉の銘柄や淹れ方に拘りがあるのか御自身で用意されます。年下の局員にも優しく、頼りになる人生の先輩です。
 ・佐倉杏子……見滝原帝都探偵局事務局長。調査員長。甘い物を好まれ、お汁粉十二杯を完食して「甘味処 久兵衛」の店主から週三回以上の入店を遠慮してほしいと言われたそうです。大らかで明るい方ですが怒ると怖いです。
 ・美樹さやか……見滝原帝都探偵局経理担当。調査員。杏子事務局長よりも年下なのですが、幼馴染のせいか親しい口調で話しかけます。杏子事務局長の大食ぶりを皮肉る事も多く、いろいろな意味で息の合ったコンビネーションを見せてくれます。
 ・暁美ほむら……見滝原帝都探偵局交渉事務担当。調査員。口数が少なく存在感がないように思われがちですが、さりげない気配りで温かい人柄を感じさせてくれます。相手の名前をフルネームで呼ぶ不思議なクセがあるようです。
 ・鹿目まどか……見滝原帝都探偵局書類検査担当。調査員。企業秘密に関わる書類調査を担当しながら、この仕事について勉強する日々を過ごしております。さやかさん、ほむらさんと同期に採用されました。

【和竿必釣会メンバー】
 ・福田松雄(ふくだ まつお)……海産物流経理部長。
 ・福田栄(ふくだ さかえ)……福田夫人。旧姓・石野(石野勝男は実弟)。
 ・石野勝男(いしの かつお)……鴎商会営業部販売課長。
 ・金沢真奈子(かんざわ まなこ)……金沢不動産の社長令嬢。
 ・井坂甚六(いさか じんろく)……旭ヶ丘大学文学部教授。大衆作家・井坂南仏の次男。
 ・浪尾則助(なみお のりすけ)……雑誌編集者。福田松雄の友人。


【プロローグ】

 晴天にわかにかき曇り、という表現が相応しいくらいに天気が一転したかと思うと、たちまち黒雲に覆われた空から大粒の雨が降ってまいりました。
 折りからの強風も手伝い、まるで台風のような豪雨です。真夏の白昼とは思えない暗さに誰もが驚きを隠せません。
 自然とは、かくも偉大なものである。
 詩人(ポエット)ならば風流な気持ちで詩の二、三編でも書いてしまうのでしょうが、我々にそのような心の余裕はございません。
 御主人と従業員の皆様は大急ぎで鎧戸を閉めたり、干していた洗濯物を取り込んだり、大わらわです。わたしたちも戸締りを手伝いましたが、吹き込む雨や降りかかる豪雨で全身をビシャビシャに濡らしてしまいました。
 Modarn(モダン)な休息の場を提供する紺碧荘では女性用寝巻としてNegligee(ネグリジェ)が用意されているそうなので、わたしたちも濡れた服からNegligeeに着かえましたが、着なれない寝巻なので着心地は今一つです。
 マミ局長は胸部分のサイズが合わないらしく、傍から見ても胸元が相当にキツそうです。逆に、わたしやほむらさん、さやかさんは……。
 杏子事務局長もマミ局長と同年齢の筈ですが発育不良なのか胸元が寂しく見え、わたしたちの同志である事を確認できました。
 このような経緯があって入浴も済まないうちから「見滝原帝都探偵局」メンバーは寝巻姿で過ごす事となり、事情を知らない方に妙な印象を与える事になったのです。

【一】

 通り雨だったのか豪雨は午後五時前に治まり、それと同時に突風もピタリと止みました。まったく、人騒がせな天気です。
 この騒動が影響して食事の支度が少し遅れ、夕食が済んだのは午後七時半を過ぎた頃でした。
 食後、宿泊客は食堂から三々五々に散って行きます。
 天気がよければ高原での夕涼みや海岸散策を楽しめますが、あの豪雨の直後ですからとても外へ出られません。
 山を下る道はひどく泥濘(ぬかるみ)、この道を漆黒の闇夜に行き来する事は命がけの行為と言えます。
 必然的に宿泊客は館内娯楽で長い夜を過ごす事になりました。
 ミニ・ルーレット室で小さな博打に一喜一憂したり、遊戯室で和気藹々とカードゲームに興じたり、撞球室での球付き競技で得点と技術を競ったり、楽しみ方は人それぞれです。
 部屋へ戻っても眠るには早すぎますし、ルーレットやカードゲームをする気分ではございません。
 わたしたち五名は半年前に新設されたという別館のサロンへ赴き、そこでくつろぐ事に致しました。
 宿泊客は有閑階級の若い方ばかりなので静かな環境で語り合うよりも大勢で騒ぎながら遊ぶほうを選ばれたのでしょう、広いサロンにはわたしたち以外の人影は見られません。
 マ ミ「あら、気が利くわね。ダージリンやアッサムの茶葉が用意されているわ」
 入口近くに設けられた小さな給湯室へ入るなり、マミ局長が歓喜に満ちた声で喜びました。どうやら好きな紅茶の茶葉が置いてあったようです。
 杏 子「紅茶はいいから、何か甘い物はない? お饅頭とか、羊羹とか」
 さやか「えッ……。まだ食べるの」
 杏 子「なんか物足りない夕食だったんでね。あんたが作ってくれる梅干し握りの方が腹溜りがよかった」
 さやか「マミ局長、この大食漢な事務局長が食べられそうなものはありますか?」
 杏 子「た、大食漢って……」
 マ ミ「残念ながら食べ物はないわ。今日は我慢するしかないようね、杏子」
 さやか「残念でしたね、杏子さん」
 杏 子「ふん。まあ、無い物は仕方がない。マミ、あたしにも紅茶を頼むよ。ハチミツがあれば大目にね」
 マ ミ「はいはい」
 さやか「あッ、マミ局長。わたしが淹れます」
 杏 子「あんたに美味しい紅茶が淹れられるのかい」
 さやか「うッ。そう言われると自信がないわ」」
 杏 子「それじゃ、早くテーブルへ戻りなよ。マミの邪魔になるから」
 マ ミ「気遣ってくれて、どうもありがとう。ここは大丈夫だから美樹さんも席に座っていて」
 まどか「は、はい……」
 さやかさんが給湯室を出ると、マミ局長はハリきってアッサムティーの用意に取り掛りました。
 売り出されたばかりのガス瞬間湯沸かし器【註1】があるので、手間暇かけずにお湯を用意できるようです。
 杏 子「それにしても旅行初日から悪天候とはついてないな」
 まどか「本当ですね」
 さやか「そう言えば、昔から杏子さんが出掛ける時は高確率で雨が降るわね」
 杏 子「変な言いがかりはよしてよ」
 さやか「言いがかりじゃないわ、事実よ。ねえ、まどか
 まどか「う~ん。わたしは違うと思うわ。きっと偶然よ」
 杏 子「おッ、さすがにまどかは話せるねえ」
 さやか「そんなに気を遣う事ないわよ。ほむらはどう思う」
 ほむら「夏の雨は馬の背を分ける、と言う諺があるから。佐倉杏子さんの責任ではないと思うわ」
 杏 子「それって擁護してくれているの?」
 さやか「東京市内は晴れ、こちらは大雨って事でしょう。言いたい事が分からなくもないけど……。明後日の方角を向いた擁護ね」
 マ ミ「お待たせ。淹れたてのアッサムティーよ。ハイデルベルグのハチミツもあったから一緒に持ってきたわ」
 微妙な空気が流れ始めた時、ちょうどのタイミングでマミ局長が給湯室から出てまいりました。さすが局長、場の雰囲気を読んでおります。

【二】

 わたしたちがテーブルを囲んで談笑している時、入口から六名の男女が集団でサロンへ入ってまいりました。
 角刈りの小太りな男性を先頭に、坊主頭の青年、散切り頭をした長身の男性、前髪を三つにカールさせた細身の女性、ふくよかな体格をした女性、眼鏡をかけた神経質そうな若い男性。以上の方々です。
 ここで各人のお名前を申し添えますと、

 浪尾則助:角刈りの小太りな男性
 石野勝男:坊主頭の青年
 福田松雄:散切り頭をした長身の男性
 福田 栄:前髪を三つにカールさせた細身の女性
 金沢波奈:ふくよかな体格をした女性
 井坂甚六:眼鏡をかけた神経質そうな若い男性

 このようになります(わたしたちが各人の名前を知ったのは事件発生後ですが、それに先駆けて御紹介しておきます)。
 彼らのうち、石田勝男氏、福田栄夫人、伊坂甚六氏は大きな荷物を持っており、着席前に出窓へ立て掛けておられました。
 先にも申しました通り浪尾則助氏は殺害され、その加害者は残る五名の中に存在致します。
 賑々しくサロンへ入られた六名の男女ですが、わたしたちに会釈すると右手に曲がって奥へ用意されたテーブルの方に進んで行きました。
 サロンには二組の宿泊客が別れて談話できるようテーブルと椅子が配置され、給湯室寄りと反対側の柱時計寄りにテーブルと六脚の椅子が用意されております。
 簡単な見取り図は【図1】を、見滝原帝都探偵局メンバーの座り順は【図2】を参照して下さい。

【1】紺碧荘別館見取り図 【図2】座席表(見滝原帝都探偵局メンバー)

 広さを演出する意図があるのでしょうが、解放感を感じさせる反面、仕切りがないので互いに相手の様子が丸見えの状態となっており、せめて区切りのカーテンくらいは設けて欲しいと思いました。
 杏子事務局長も同じ意見らしく、相手に聞こえないよう囁きます。
 杏 子「解放感があるのも結構だけど、せめて仕切りくらい作ってほしかったな。これじゃ互いに気をつかって落ち着けないじゃないの」
 さやか「同感」
 マ ミ「いいじゃないの。こちらはこちら、向こう様は向こう様」
 マミ局長は頬笑みながら暖かい紅茶を口にします。その落ち着いた態度、わたしには到底マネできません。
 杏 子「向こう様は向こう様ねぇ。心が広いと言うか、人間ができていると言うか、そう思えるなんて立派だよ。あんたは」
 さやか「そこが局長の風格、大人の余裕ね。誰かさんとは大違い」
 杏 子「誰かって、誰の事を言っている? さやか
 さやか「さぁね」
 マ ミ「美樹さん。沈黙は金、雄弁は銀と言うわよ。せっかくの慰安旅行なんだから、あまり杏子をイジメないでね」
 さやか「はぁい」
 杏 子「銀……。そうだ。ちょっと席を外すわね」
 何かを思い出したのか、杏子事務局長は席を立ってサロンを出て行きました。
 それと同時に奥のテーブルを立った福田松雄氏が布巾をかけた皿を持って来て、笑顔でわたしたちに話しかけます。
 松 雄「くつろぎの時間をお邪魔して申し訳ありません。僕、福田松雄と言います。この栗饅頭、よろしければ皆さんで召し上がって下さい」
 そう言いながら松雄氏は皿を覆う布巾を取ります。その下からは六つの栗饅頭が出てまいりました。
 松 雄「あそこにいる小太りの男性、彼が栗饅頭を食べたいというので御主人から頂いたのですが我々だけでは食べきれないくらい貰ってしまって……」
 マ ミ「それは御丁寧に恐れ入ります」
 マミ局長が立ちあがり、わたしたちを代表して松雄氏の応対を致します。
 松 雄「大きな声では言えませんが、彼は強引でしてね。御主人の困り顔にも関わらず食べきれない量の栗饅頭を強奪してきたんです。ハッハハハハハ。それに僕も家内も甘い物が苦手なので、なおさら余ってしまったのですよ」
 マ ミ「左様でございますか。そのような事情であれば御厚意に甘えさせて頂きます。あら、これは失礼致しました。わたくし、巴マミと申します。以後、お見知りおき下さい」
 栗饅頭が盛られた皿を受け取りながら笑顔で挨拶をされるマミ局長。
 胸元のTight(タイト)なNegligeeを着ながら微笑むマミ局長の全身からは同性も魅了される色気が漂ってくるのですが、その色気に松雄氏もあてられたのでしょうか、お皿を渡した後もマミ局長から視線を逸らそうとはしません。
 淫らな視線を感じたのかマミ局長は言葉に詰まり、皿を持ったまま立ちつくしております。
 この沈黙には誰もが対応できず、場の空気が白けたところ、杏子事務局長が銀の小箱を手に戻ってまいりました。
 甘いものに目がない杏子事務局長は栗饅頭に気付き、一瞬、歓喜の表情を浮かべましたが、すぐに落ち着きを取り戻すと銀の小箱を持ったまま椅子に腰かけました。
 状況を把握できない杏子事務局長は、この白けた沈黙の空気を不思議がっております。
 気まずい時間が数十秒続きましたが、それを破ったのは女性の一括でした。
  栄 「あなた、何やってるのよぉ~」
 松 雄「ああ、今戻るよ。それでは失礼致します」
 マ ミ「ご、御馳走様です。ごきげんよう」
 奥方らしい女性に睨まれながら松雄氏は奥のテーブルへ戻って行きましたが、去り際まで視線は胸元から外さず、わたしたち五人を辟易させました。
 マミ局長が慌てた口調で立ち去る松雄氏に挨拶をされましたが、このようなお姿を拝見したのは初めてです。それだけ気が動転していたのでしょう。
 完全無欠なマミ局長も無遠慮で強引な男性は苦手なようです。

【三】

 杏 子「今の男は誰?」
 松雄氏が去った後、杏子事務局長がマミ局長に尋ねます。
 マ ミ「福田松雄さんと申される方で、これを差し入れて下さったわ」
 杏 子「おッ、栗饅頭か。気のきいた差し入れをしてくるじゃないの。乙女たちの休息を邪魔した償いとは良い心掛けね。いただきまぁす」
 喜色満面の杏子事務局長は、さっそく栗饅頭に手を伸ばされました。
 ほむら「佐倉杏子さん、よろしければ、わたしの分もどうぞ」
 まどか「わたしの分も食べて下さい」
 杏子「(ゴクリ)。いいのかい、二人とも」
 まどか「はい。夕食でお腹がいっぱいになりましたので、せっかくの御好意ですがお気持ちだけ頂きます」
 ほむら「わたしも」
 さやか「わ、わたしも遠慮するわ。見るだけで胸が苦しくなってきた。ウプッ」
 杏 子「ありがとう。さやかほむらまどか。こんな優しい後輩に恵まれて、あたしは嬉しいよ」
 まどか「お、大袈裟ですよ」
 杏 子「それじゃ、ありがたく頂戴するわね。あ~ん」 
 マ ミ「よかったら、これも食べて。わたし、お饅頭は苦手だから」
 さやか「あれ、マミ局長はお饅頭が嫌いなんですか」
 マ ミ「ええ。ちょっとね」
 杏 子「アッハハハ。そうそう、落語みたいな話だけど、マミは饅頭が怖くて仕方ないんだよな」
 口元に餡子がついたまま、豪快な笑いと共に杏子事務局長が爆弾発言をされました。
 マ ミ「きょ、杏子。その話は……」
 杏 子「いいじゃない、今日は無礼講なんだから」
 ほむら「(小声で)鹿目まどかさん」
 まどか「(小声で)どうしたの、小さなか声で」
 ほむら「(小声で)巴マミ局長があんなに慌てるなんて珍しいわね。いやらしい目で見られた事といい、今日は厄日なのかしら」
 まどか「(小声で)そういう時もあるよ。でも、何だか今まで以上に親しみが感じられたわ」
 ほむら「(小声で)わたしも」
 マ ミ「あんな恥ずかしい話、鹿目さんたちに聞かせないで。ねえ、杏子。お願いよ」
 頬を真っ赤にしながらマミ局長は杏子事務局長に懇願します。
 杏 子「どうしようかなぁ。いつも冷静沈着で弱点のない局長様を身近に感じさせる良い機会だしなぁ」
 からかうような口調で杏子事務局長が焦らします。
 マ ミ「もう、杏子ったら。この話は終わり。終わりにしましょう。これは局長命令よ」
 杏 子「局長命令か。その手で反撃されるとは一本取られたな」
 遂にマミ局長は実力行使に出ました。よほど、恥ずかしい事があったのでしょう。
 優しい局長の困った顔は見たくないので、この話が打ち切られ内心ではホッと致しました。
 杏子事務局長も悪ノリし過ぎた事を反省されたのでしょうか、素直に「了解です、局長」と命令に従います。
 これで一見落着と思ったのも束の間、今度はマミ局長が爆弾発言をされました。

【四】

 二つめの栗饅頭を食べ終えた杏子事務局長に向かい、マミ局長は少し照れたような表情を浮かべて言いました。
 マ ミ「きょ、杏子。口の周りに餡子がついているわよ。あ、杏子(あんこ)が餡子(あんこ)で口を汚すなんて笑えない話ね。ハ、ハンカチでお拭きなさい」
 この発言に(わたしも含めた)全員の視線がマミ局長へ集中しました。
 杏子事務局長は茫然とし、さやかさんは信じられないといった表情を浮かべ、ほむらさんは……いつもと同じPoker Face(ポーカーフェイス)のままです。
 杏 子「い、今……何て言った。マミ……」
 マ ミ「な、な、何でもないわ。ほら、あ、餡子を拭いてあげるから動かないで」
 杏 子「いいわよ、自分で拭けるから。それよりも今の一言だけど……。あれって冗談のつもり?」
 マ ミ「そ、そうよ。あなたが変な事を言い出すから、そのお返しよ」
 杏 子「ウフッ、ウフフフフ。アッハハハハ」
 餡子を拭う事も忘れ、杏子事務局長は大声で笑い出しました。その声は奥のテーブルに集まったグループを驚かせたのか、十二の瞳がわたしたちのテーブルに集まります。
 杏 子「アッハハハハ。まさか、あんたの口から冗談が聞けるとは驚いたわ」
 さやか「さすがマミ局長、冗談のセンスも一流でしたよ」
 ほむら「杏子(あんこ)と餡子(あんこ)の語呂合わせ、お見事です。巴マミ局長」
 まどか「今の一言、当意即妙でした」
 マ ミ「もう、みんなまで……。知らない」
 顔を真っ赤にしたマミ局長は恥ずかしそうに両手で顔を隠し、俯(うつむ)いてしまわれました。
 渾身と思われる冗談が大受けしすぎ、羞恥心を増長させてしまったようです。
 杏 子「まあまあ、マミ。そんなに恥ずかしがらないで。見てみな、さやかたちを。冷静で真面目な普段とは違った一面を見られたのか、より親しみを抱いた顔で見てるじゃない。気を張って仕事に取り組むのも結構だけど、たまには肩の力を抜きな。そうしないと部下の方が息詰まりするんだから。そうだろう、まどかほむらさやか
 相手を気遣う言葉をかける杏子事務局長。この決めセリフの後で三つめの栗饅頭を頬張らなければ、先輩としての威厳は満点だったのですが……。
 さやか「そうですよ、マミ局長。たまにはリラックスして下さい。いつも一番遅くまで事務所に残って決済業務を済ませ、一番早くに事務所へ来て調査報告に目を通して証印する。激務の毎日なんですから、こういう時こそ体を休ませて心を解放させないといけませんよ」
 まどか「冗談を言った時のマミ局長、とても輝いて見えました。凛としたお姿も素敵ですが、肩の力を抜いたマミ局長も素敵です」
 ほむら「巴マミ局長のお人柄が伺える一言でした。緊張の連続だけでなく、適度な休息もとって下さい」
 杏 子「なぁ。可愛い部下がこう言ってるんだ、機嫌を直しなよ」
 杏子事務局長が綺麗に話を纏めました。
 恥ずかしそうに俯いていたマミ局長ですが、この一言で自信を取り戻されたようです。顔を上げて紅茶を一口飲むと、ニッコリ微笑みながら優しい声で言いました。
 マ ミ「みんな、どうもありがとう。確かに、みんなの前では無理して気を張り詰め過ぎていたのかも知れないわ。ふつつかな局長ですが、これからもサポート、よろしく頼みますね」
 天使ようなの微笑みに、わたしたちもホッと致しました。
 さやか「それですよ、マミ局長。相手は部下なんですから、そんなに丁寧な挨拶をしないで下さい。サポート役も調査員の仕事なんですから」
 杏 子「そうそう。雑務は三人に、事務一切はあたしに任せて、あんたはドッシリ構えていなよ」
 さやか「ドッシリって言うのはひびきがよくないわね。いつも椅子に座って書類を書きながら物を食べている鯨飲馬食の誰かさんにはピッタリだけど」
 杏 子「げ、鯨飲馬食は言いすぎだろう。まったく、少しはマミへの尊敬の念を分けて貰いたいよ。あたしだって事務局の責任者なんだからね」
 まどか「ところで杏子さん。お手元にある銀の小箱には何が入っているんですか」
 杏 子「ん? ああ、これか。この中にはなぁ……」
 杏子事務局長が箱の蓋を取ると、その中には花林糖(かりんとう)がギッシリと詰まっておりました。
 さやか「なに、それ?」
 杏 子「見れば分かるでしょう。花林糖よ」
 さやか「まさか、これを食べるんじゃないでしょうね」
 杏 子「当然でしょう。空腹に備えて出掛けに用意してきたんだから。マミの「雄弁は銀」と言う一言で思い出したよ。みんなも食べるかい?」
 マ ミ「わ、わたしは結構よ。ありがとう」
 さやか「わたしも遠慮するわ」
 まどか「お気持ちだけ頂戴します」
 ほむら「お心遣いに感謝しますが……御遠慮させて下さい」
 杏 子「そう。それなら一人で食べるわね」
 この一言を聞いた誰もが杏子事務局長の健啖ぶりに改めて驚かされました。 
 いろいろと話題はつきず、こうしてサロンの夜はゆっくりと深けて行きます。


≪「紺碧荘殺人事件(事件編)」へ続く≫


【註1】国産湯沸かし器の第一号は昭和6年に陽栄製作所から発売されました。価格やスペックの詳細はこちらを御覧下さい。

30,000HIT達成の御礼

 2011年8月9日の午前3時少し前、当ブログへのアクセス数が30,000Hitに達しました。
 狭いネタを扱うブログにも関わらず、定期的に訪問して下さる方々に厚く御礼申し上げます。また、キーワード検索や他サイト様からのリンクでお越し下さった皆様にも感謝しております。
 来週まで更新停止とする筈でしたが、せっかくのキリ番達成なので御報告したく更新を致しました。

 これまでのペースを確認してみたところ、再カウント後は3ヶ月程で10,000アクセスを記録していました。
 今のペースを保てれば、次の御挨拶は晩秋11月になりそうです。
 まだ紹介したい作品は山のようにある為、年内の更新ネタには困りませんが……。果たして、いつまでストックが保ってくれるやら。
 最低でも来春までは「黄昏タイムス」を続けたいと思っておりますので、今後も引き続きの御愛顧、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 今回の記念イラストですが、三神峰氏より作品の御提供を受けました。
 アクセス30,000Hitの記念画像は、先の特別企画「大ピンチ! ウルトラマザー&ウルトラクイーン(2)」で紹介が叶わなかったウルトラマザーのイラストです。
 巨大ヒロインの首絞めピンチ場面は珍しく、こちらも貴重なショットを描いた作品と言えるでしょう。

30,000Hit記念画像
(C)三神峰/キャラクター原案:らすP

 次の御挨拶ですが、40,000Hit達成時となります。
 具体的な日程は未定ですが、今秋は豊富な挿絵を用いたSSの公開を予定しておりますので、夏以降も定期的にお越し頂ければ幸いです。

 これは個人的な事ですが、三人目の新戦士が登場してから「スイートプリキュア」を見る楽しみが増え、視聴率もグンと上がりました(6月は視聴回数ゼロ、7月は1~2回しか見ていません)。
 懐かしのアニメソングを思わせる優しい曲調の新エンディングテーマも気に入り、これからの展開と併せ、ますます目が離せない番組です。

OVA「クイーンズブレイド・美しき闘士たち 愛惜!アレイン千年の別れ」

【夏の連続企画】大ピンチ! ウルトラマザー&ウルトラクイーン≪1≫≪2≫  開催中
苦戦を強いられる歴戦の勇士
(C)らすP/a-ru/グリフィン/黒谷渚/kk/桜刃光/二次剣/dis/マスターdog/三神峰



 2010年8月から2011年3月にかけて全6巻がリリースされたOVA「クイーンズブレイド 美しき闘士たち」を御覧になった方は分かると思いますが、TVシリーズ(2期 全24話)よりも過激な表現が目立ち、「下手なエロ本よりもエロい」と称賛される原作を超えたエロスを存分に堪能できます。
 30分の本編と特典映像の内容(通常版ソフト)で5,000円から6,000円の出費は懐に痛いかも知れませんが、美闘士たちのあられもない姿や大胆な姿をハイクオリティな作画で拝める事を考えれば納得の価格と言えない事もありません。

 人それぞれ好みが異なりますので万人を納得させられる作品チョイスは難しいのですが、当ブログではOVA第2巻「クイーンズブレイド 美しき闘士たち 愛惜!アレイン千年の別れ」をお薦めしたいです。
 このエピソードでは、高い戦闘能力を誇る戦闘教官アレインが夜の海辺でフニクラに襲われて触手攻撃に苦しめられるシーンが見られるうえ、18禁アニメを思わせる際どい描写もありました。
 残念ながらアレインの両目はフニクラの触手によって覆い隠され、クールで美しい顔に苦悶の表情を浮かべる様子は見られませんが、それを補って余りあるエロチックなシーンが約1分30秒にわたって見られます。

背後からアレインに迫るフニクラ アレインの全身を拘束するフニクラの触手 不意をつかれ触手に巻きつかれたアレインは武器を落とし、フニクラの罠に屈しかける……
(C)ホビージャパン/松竜/メディアファクトリー
アレインの口を抉じ開け口内に侵入した触手は不気味な液体を放出
(C)ホビージャパン/松竜/メディアファクトリー
触手攻撃に苦戦するアレイン、彼女を助けに愛弟子のノアが駈けつける フニクラの触手地獄から解放され、白濁の液体を吐き出す 体力の限界に達し、立っている力さえ僅かにしか残っていない
(C)ホビージャパン/松竜/メディアファクトリー

 触手による悶絶シーンが満載の「愛惜! アレイン千年の別れ」はアレイン好きにとって堪らないエピソードでした。
 シナリオと作画の完成度が神レベルであり、これらも作品の質を高めている一因と言えるでしょう。
 先に述べた通り、好みは人それぞれなので「この話が最高傑作だ」と断言はしませんが、是非とも動画で見て頂きたいエピソードである事も間違いありません。

 最後になりましたが、フニクラの触手攻撃に苦しめられるアレインを描いたイラストを静有希氏から頂戴しているので御紹介させて頂きます。
 作者の静有希氏は細部まで書き込んだ緻密な鉛筆画を得意とする方で、文字通り筆一本を使って触手の感触やアレインの柔肌を再現して下さいました。
 漠然としたリクエスにも関わらず見事なイラストを描きあげ、併せて作品転載まで御快諾頂きました事、静有希氏に厚く御礼申し上げます。

戦闘教官アレイン 不意打ち攻撃に焦るアレイン アレインを襲うフニクラの触手 両手両足を束縛されたアレインはフニクラの攻撃に抵抗できず苦悶する
(C)静有希

 静有希氏の他のイラストは、pixivにて御覧頂けます(アクセスからこちらから)。
 なお、作品を閲覧するにはサイトへの登録が必要となります。ご注意下さい。



【付記】
 本日より10日から2週間程度、ブログの更新を停止致します。夏休みという訳ではありませんが、諸事情で更新が難しくなりますので……。更新再開は夏コミ終了後(お盆明け)になる予定です。

【追記】同カテゴリの記事とタイトルを統一する為、本記事も「戦闘教官アレインVSフニクラ様」から「OVA「クイーンズブレイド・美しき闘士たち 愛惜!アレイン千年の別れ」へとタイトルを変更しました。(2013年7月14日・記)

クイーンズブレイド 戦闘教官アレイン (対戦型ビジュアルブックロストワールド)クイーンズブレイド 戦闘教官アレイン (対戦型ビジュアルブックロストワールド)
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松竜

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【夏の連続企画】  大ピンチ! ウルトラマザー&ウルトラクイーン(2)

【夏の連続企画】大ピンチ! ウルトラマザー&ウルトラクイーン  開催中
苦戦を強いられる歴戦の勇士
(C)らすP/a-ru/グリフィン/黒谷渚/kk/桜刃光



 前回に引き続き、ウルトラマザーとウルトラクイーンのヒロピンイラスト紹介です。
 比較的資料の少ないキャラクターにも関わらず、a-ru氏,グリフィン氏,黒谷渚氏,kk氏,桜刃光(桜火@轟沈)氏は見事なピンチ場面を描いて下さいました。
 今日は二次剣氏,dis氏,マスターdog氏,三神峰氏の4名より転載許可、御寄稿を頂いた合計8点のイラストを紹介します。
 色っぽく悶え苦しむ歴戦の勇士の姿、存分にお楽しみ下さい。


【9】作品タイトル:触手……それは縛る以外にも色々出来るもの
ウルトラマザー(C)二次剣
≪鑑賞≫
 ピンクが基調のコスチュームとグロテスクな暗黒空間の組み合わせが抜群です。異生獣クトゥーラの操る触手に捕縛され、身動きを封じられたウルトラマザーの焦燥する様子がイラストから伝わってきました。大きな胸と切れあがった股下に描かれた傷痕から肉体的ダメージを与えられた事が窺え、ヒロピンらしいショットに仕上がっています。

【10】作品タイトル:青い狐火の少女  ※イラスト転載作品。
ウルトラマザー(C)dis
≪鑑賞≫
 作者曰く「家畜を食い荒らすミエゴンを退治しにきたマザー、だが、姿を消すことのできるミエゴンに苦戦する。 だが、隙を突かれて… 「ひっ!!」  痛みに自分の体を見下ろすと赤いスーツの生地がぐいり、と股間がスーツに食い込んでいた。なんということをするのか、と羞恥と怒りに燃えるマザー。 だが、姿の見えないミエゴン相手にどうするのか!?」との事。コスチュームの股間食い込み描写が好きな者としては嬉しい構図です。本家「ウルトラレディ」シリーズに限らず、姿の見えない敵に翻弄されて苦戦を強いられる発想は意外と少ない為、その意味でもGJなイラストでした。

【11】作品タイトル:二大怪獣マザーに迫る!  ※イラスト転載作品。
ウルトラマザー(C)dis
≪鑑賞≫
 作者曰く「街で暴れるケムジラを退治するために舞い降りたマザー、だが、戦場に迷いこんだタケシ少年を助けるために満足に戦えないマザーにふりかかるケムジラの糸。 ぎゅうぎゅうと締め付けられた彼女はがくんと大地に倒れ伏す。 そんななかバサバサと巨大な羽音を立てて怪鳥バードンが現れた、バードンはマザーを一瞥した後、ケムジラに視線を移す。 彼の好物である食葉怪獣を……そして食物連鎖が始まった。 肉片を、臓腑を食い散らしながら捕食し続けるバードン、そのおぞましさにマザーは顔を背けた… 」との事。ケムジラが吐き出す糸の締めつけに歪むウルトラマザーの胸に視線が集中しそうですが、極太の糸によって両手を封じられた描写も見逃せません。

【12】作品タイトル:マイピク様贈呈
ウルトラマザー(C)マスターdog
≪鑑賞≫
 ピンチショットと併せて御寄稿頂いた、ウルトラマザーのバストアップイラストです。色鉛筆だけの使用とは思えない着色技術には驚かされました。豊満な乳房に手を当てながら微笑む姿に頼もしさを感じます。

【13】作品タイトル:マイピクの皆様へ贈呈2
ウルトラマザー(C)マスターdog
≪鑑賞≫
 作者曰く「体中に輪っかを纏い、凌辱的な残酷さで宇宙にその名を轟かせる「ワッパ星人(勿論オリジナル)」が エネルギー切れのマザーを超電磁ワイヤー製の首輪で引き摺り廻し、言葉で嬲る様子… とでも考えて下さい」との事。首輪を嵌められて相手の思うがままに動かされ、ビルを破壊しながら大都市に未曽有の危機をもたらしてしまったウルトラマザーの姿が見事にイラスト化されています。背景の緻密な描写によって被害状況も分かり、特撮番組のワンショットをイラストで見ているような錯覚に陥りました。ヒロピン要素を少し変わった角度から捉えた奇抜なアイディアが冴えています。

【14】作品タイトル:無題
ウルトラマザー(C)三神峰
≪鑑賞≫
 宇宙人に関節技を掛けられるウルトラマザー、これも貴重な一枚です。ボロボロに破れたコスチュームと苦痛の悲鳴を挙げる表情は最強のコンビネーションでした。巨大ヒロイン物のピンチと言えば、怪獣との肉弾戦や宇宙人の策略で絶体絶命の危機に追い込まれるシチュエーションを思い浮かべますが、そのような先入観を根柢から覆す斬新なアイディアに拍手喝采を贈りたいです。

【15】作品タイトル:クイーン  ※リクエストイラストの転載。
ウルトラクイーン(C)三神峰
≪鑑賞≫
 それ自身が意思を持っていそうな触手に襲われるパワーセーブ状態のウルトラクイーン。首と胴体を締めつけながら股裂き攻撃を繰り出す触手が単体生物のように思え、通常の触手と比べてシチュエーションのエロスが強まって見えました。息苦しそうなクイーンの苦悶顔には興奮させられます。

【16】作品タイトル:リク絵 クイーン
ウルトラクイーン(C)三神峰
≪鑑賞≫
 破壊と殺戮の実行部隊である凶悪怪獣を倒した直後、控えていた指揮官の宇宙人が不意打ちを仕掛ける「2対1」のヒロピンショット。風になびく長い髪と逞しい腹筋の描写がウルトラクイーンの美しさを強調しており、劣勢状態との対比が何とも言えません。息絶えた(と思われる)怪獣、渾身の力を込めて巨大怪獣の体を持ち上げるウルトラクイーン、その下半身を狙って襲いかかる宇宙人、それぞれの個性を殺さず一枚の絵に収めるセンスと画力があるからこそ描けたイラストだと思います。


 以上、総勢9名の絵師が描く全16作品を御紹介しました。
 らすP氏の原作では戦闘シーンの少ないウルトラマザーとウルトラクイーン。今回の特別企画が、ヒロピン好きな両者のファンの方にお楽しみ頂けたのであれば何よりです。

 最後になりましたが、二次創作活動に理解を示して下さるらすP氏、描き下ろし作品を御提供頂いた皆様、作品転載を許可して下さったdis氏に改めて御礼申し上げます。



【イラスト執筆者一覧(五十音順・敬称略)】
 ・a-ru
 ・グリフィン
 ・黒谷渚  ※創作活動休止中。2011年8月2日・現在
 ・kk
 ・桜刃光  ※リンク先での名前は桜火@轟沈2011年8月2日・現在
 ・二次剣
 ・dis
 ・マスターdog
 ・三神峰

【SPECIAL THANKS】
 ・らすP(WEBサイト「らすとがーでぃあんP」)

【夏の連続企画】  大ピンチ! ウルトラマザー&ウルトラクイーン(1)

 去る7月6日、オリジナル特撮ヒロインサイト「らすとがーでぃあんP」が開設一周年を迎えました。
 運営者のらすP氏が描く「ウルトラレディ」シリーズには多くのファンがついており、私もそんなファンの一人です。
 忙しい本職の合間を利用して執筆されているとは思えないハイクオリティなイラストの数々、まだ御覧になった事のない方がいらっしゃれば、是非とも閲覧される事をお薦めします。
 現在は新章「ウルトラ銀河伝説」が連載(2011年1月28日~ 連載134回:8月1日現在)されており、次回更新の第135話からはウルトラ戦姫と百体怪獣ベリュドラのバトルが描かれるそうなので、強く清く美しいヒロインが勇ましく戦う姿を見る事ができる筈です。

 残念ながら「らすとがーでぃあんP」開設一周年には間に合いませんでしたが、かねてからの予告通り、今日と明日の二日間に亙って「ウルトラレディ」シリーズのファンアートを紹介する【夏の連続企画】を開催します。
 今回のテーマは「ウルトラマザー(ウルトラレディ・マリア)とウルトラクイーンのピンチシーン」。
 タイトルからも分かる通り、ウルトラマザーとウルトラクイーンが襲い来る強敵の猛攻に苦戦させられるシーンとなります。

 二人とも高い戦闘能力を持つ経験豊富な戦士でありながら、立場的に後方支援としてウルトラ戦姫の戦いをサポートする事が多く、若いウルトラ戦姫の危機を救う為に前線で戦った事は(らすP氏の公式作品では)数える程しかありません。
 そこで思い付いたのが上記の企画。ファンアートの劇中にてウルトラマザーとウルトラクイーンを前線へ派遣し、凶悪怪獣や極悪宇宙人と戦ってもらいました。
 気高く美しい大人なヒロインがピンチに陥る姿、たっぷりとお楽しみ下さい。

 この企画に参加して下さったメンバーは総勢9名。どなたもらすP氏を敬愛する絵師であり、イラスト一枚一枚に原作への愛情が感じられます。
 一日目に作品を紹介させて頂くのは、a-ru氏,グリフィン氏,黒谷渚氏,kk氏,桜刃光(桜火@轟沈)氏の5名。二日目には、二次剣氏,dis氏,マスターdog氏,三神峰氏の作品を紹介します。
 謝辞と作者紹介は最後に一括で掲載しますので、まずは力の入った描き下ろし作品を御鑑賞下さい。

 ……と、その前に。
 らすP氏の描かれたウルトラマザー,その若き日の姿であるウルトラレディ・マリア,ウルトラクイーンのイラストを見て頂こうと思います。
 オリジナル作品を紹介するにあたり、「らすとがーでぃあんP」及びpixivからイラスト3点を転載させて頂きました。

ウルトラマザー ウルトラレディ・マリア ウルトラクイーン(パワーセーブ状態) ウルトラクイーン(バトルフォーム)
(C)らすP


【1】作品タイトル:ウルトラレディ・マリア
ウルトラレディ・マリア(C)a-ru
≪鑑賞≫
 若き日のウルトラマザーを描いた貴重な一枚。まだ戦闘経験が浅いウルトラレディ時代の戦闘シーンなので、狡猾な宇宙人に翻弄されながら絶体絶命の危機へ追い込まれるまでの経緯が好きなように想像できます。怪力による締めつけというシチュエーションは珍しく、敵宇宙人の顔がマリアの胸に密着している点も見逃せません。

【2】タイトル:危うし女王様
ウルトラクイーン(C)a-ru
≪鑑賞≫
 パワーセーブ状態のウルトラクイーンが不気味な触手に襲われるシーン。片腕の自由を奪われながら股下を攻撃されそうになる瞬間は何ともエロチックです。クイーンの全身から「不意打ちされてしまった」という緊迫感が漂ってきました。常に冷静沈着な歴戦の勇士が見せる焦りの表情はイラストの構図と相性抜群です。まぶしく輝く美しい背景がイラストとマッチしています。

【3】タイトル:クイーン、ブラック指令の手におちる!
ウルトラクイーン(C)グリフィン
≪鑑賞≫
 作者曰く「円盤生物たちに姑息な手段を使われ敗北してしまったウルトラクイーン。しかし、とどめを刺されることなくクイーンは生け捕りにされてしまう。気がついた時には敵の要塞ブラックスターへと連れ込まれ、中の肉壁に拘束されていたのであった。これから一体どんなことをされてしまうのか!?」との事。圧倒的戦闘力を誇るバトルフォームのウルトラクイーンがブラックスターの内部に閉じ込められ、触手に首と胴体を締めつける状況設定は見事としか言いようがありません。白く濁った怪しい液体の存在が、生々しい赤茶けた触手の描写を引き立たせています。

【4】タイトル:クイーンが危ない! 暗殺者は円盤生物(レオ第42話より)
ウルトラクイーン(C)黒谷渚
≪鑑賞≫
 円盤生物アブソーバの長い触手で急所を刺激されたウルトラクイーンの恥じらう姿が絶妙なポーズで描かれています。自分のポーズに羞恥するクイーンの胸中を赤らめた頬で表現する演出が効果的に用いられていました。パワーセーブ状態のクイーンは白いスクール水着を思わせるコスチュームなので、かなり際どいショットとも言えるでしょう。

【5】タイトル:恐怖の円盤生物シリーズ!(ウルトラクイーン版)
ウルトラクイーン(C)黒谷渚
≪鑑賞≫
 円盤生物ブニョの意外な強さに驚いたのか、縛られた両手を見ながら茫然とするウルトラクイーン。相手を見下したブニョの余裕シャクシャクなポーズで笑いを誘いながら、作者はギャグの中に色気を取り入れる事も忘れていません。胸アーマーの破壊で露出した胸をチラ見させながら、M字開脚で座り込むクイーンはバトルフォーム変身後という事もあってかヒロピン度が非常に高く感じられます。

【6】タイトル:ウルトラ・マザーVSエロガーキ星人
ウルトラマザー(C)kk
≪鑑賞≫
 作者曰く「エロガーキ星人:地球の少年に憑依し、迂闊に手出しできない戦姫達にエロを要求する割とどうしようもない種族。しかしエロガキ故にエロ耐性は低く、大抵しょうも無いことで満足して帰還する。今回のターゲットはマザー。地球でのご近所の男の子に憑依され恥ずかしいポーズ。」との事。大股開きを強調した中腰姿勢を強いられ赤面するウルトラマザーの姿は何ともセクシーです。恥ずかしいポーズをさせる必然性の設定(=アイディア)に感心させられました。

【7】タイトル:クィーンVSガメエロン
ウルトラクイーン(C)kk
≪鑑賞≫
 作者曰く「宇宙淫獣ガメエロン:強靭な筋肉と自由自在に動く舌を持つカメレオン怪獣。飲み込んだ生物を体内に貯える事が出来る。まだ生きている人間を飲み込み、迂闊に抵抗できないウルトラ戦姫達に襲い掛かる。巻きついた舌を伝って媚薬成分の含まれた唾液を全身に染み込ませていく。」との事。長い舌で首と胸と胴体を締めつけられながらも、ポーカーフェイスで冷静を装うウルトラクイーンに気丈なヒロインの魅力を感じました。バトルフォームの成熟した肉体を唾液で汚され、おぞましい舌舐め攻撃に耐えるクイーンの姿はエロスに満ちています。

【8】タイトル:ウルトラクイーン
ウルトラクイーン(C)桜刃光
≪鑑賞≫
 背後からのベアハッグと見せかけてウルトラクイーンの胸を揉むプレッシャー星人。バトルフォームになったクイーンの胸はボリュームがあるので、さぞ揉み応えがあった事でしょう。もう片方の腕は途中までしか描かれていませんが、全体的な構図から察するに敏感な股間を弄んでいる事は想像に難しくありません。ニヤニヤと笑うプレッシャー星人の表情が意味深長です……。

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Author:新 京史朗
好きな技(1):バスター技
好きな技(2):股裂き関節技
好きなシチュエーション:リョナ

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