華麗な美少女巨大ヒロイン フールゥ
子供の頃から「帰ってきたウルトラマン」や「ウルトラマンA」の再放送を見るたび、怪獣の攻撃に苦しむヒーローの姿を頭の中で女性に置き換えては「脳内変換したヒロピン場面」を妄想していました。
地球の平和を守る為、その身が傷つく事も顧みない高潔な正義のヒロイン。
自己犠牲の精神で怖ろしい怪獣や宇宙人との戦いに傷つき苦しむヒロインの姿を想像するだけで何とも言えない興奮を感じていましたが、今にして思えば、この頃(あえて何歳の頃とは書きませんが)からヒロピンやリョナの嗜好に目覚めていたようです……。
近年、ブロードバンド通信の普及によって美麗なイラストを描いた大容量画像データの送受信が可能となり、様々なヒロピン作品をインターネット上で見る事ができるようになりました。
らすP氏の「ウルトラレディ」シリーズを始め、美しく可憐な巨大ヒロインが襲い来る強敵との戦いに苦戦させられピンチに陥るイラストが次々と個人ブログやPixivへアップされるようになり、絵心のないヒロピン好きにとっては夢のようです。
大容量データ―通信技術の進歩は、このような所にまで恩恵を与えてくれました。
前書きが長くなりましたが、今回もブロードバンド通信の恩恵によって巡り合えたオリジナル巨大ヒロインを紹介しようと思います。
このヒロインの名前はフールゥ。作者はdimwin氏です。
まだ細かい設定は決まっていないそうですが、dimwin氏によれば「体の模様はコスチュームのようなもので、ダメージを受けると剥がれてしまう」との事。
昨年12月にpixivへ発表されたイラスト「鉄球」を第1作に、早くも5枚のピンチイラストが発表されました(2011年4月27日現在)。
凶悪怪獣や極悪宇宙人に臆せず立ち向かうフールゥですが、力及ばず強烈な反撃を受けてしまいます。
ここでは全5点のイラストから2点を選び、dimwin氏より転載許可を得て掲載しました。
新しく誕生した巨大美少女ヒロインのピンチぶり、存分に堪能して下さい。

(C)dimwin
これら以外の作品もpixivにて公開されており、誰でも見る事ができます(アクセスからこちらから)。
腹パン、乳責め、緊縛。華奢な体を痛めつけられるフールゥの姿、どうぞ御覧下さい。やさしいタッチの絵なので、グロテスク要素は全く感じられません。
なお、pixiv掲載作品を閲覧するにはサイトへの登録が必要となる為、未登録の方はトップページの案内に従って登録をして下さい。
【追記】残念ながらdimwin氏は2014年1月で創作活動を終了されました。pixivのIDも同月末に抹消され、管理ページへのアクセスは不能です。(2014年2月23日・記)
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地球の平和を守る為、その身が傷つく事も顧みない高潔な正義のヒロイン。
自己犠牲の精神で怖ろしい怪獣や宇宙人との戦いに傷つき苦しむヒロインの姿を想像するだけで何とも言えない興奮を感じていましたが、今にして思えば、この頃(あえて何歳の頃とは書きませんが)からヒロピンやリョナの嗜好に目覚めていたようです……。
近年、ブロードバンド通信の普及によって美麗なイラストを描いた大容量画像データの送受信が可能となり、様々なヒロピン作品をインターネット上で見る事ができるようになりました。
らすP氏の「ウルトラレディ」シリーズを始め、美しく可憐な巨大ヒロインが襲い来る強敵との戦いに苦戦させられピンチに陥るイラストが次々と個人ブログやPixivへアップされるようになり、絵心のないヒロピン好きにとっては夢のようです。
大容量データ―通信技術の進歩は、このような所にまで恩恵を与えてくれました。
前書きが長くなりましたが、今回もブロードバンド通信の恩恵によって巡り合えたオリジナル巨大ヒロインを紹介しようと思います。
このヒロインの名前はフールゥ。作者はdimwin氏です。
まだ細かい設定は決まっていないそうですが、dimwin氏によれば「体の模様はコスチュームのようなもので、ダメージを受けると剥がれてしまう」との事。
昨年12月にpixivへ発表されたイラスト「鉄球」を第1作に、早くも5枚のピンチイラストが発表されました(2011年4月27日現在)。
凶悪怪獣や極悪宇宙人に臆せず立ち向かうフールゥですが、力及ばず強烈な反撃を受けてしまいます。
ここでは全5点のイラストから2点を選び、dimwin氏より転載許可を得て掲載しました。
新しく誕生した巨大美少女ヒロインのピンチぶり、存分に堪能して下さい。


(C)dimwin
これら以外の作品もpixivにて公開されており、誰でも見る事ができます(アクセスからこちらから)。
腹パン、乳責め、緊縛。華奢な体を痛めつけられるフールゥの姿、どうぞ御覧下さい。やさしいタッチの絵なので、グロテスク要素は全く感じられません。
なお、pixiv掲載作品を閲覧するにはサイトへの登録が必要となる為、未登録の方はトップページの案内に従って登録をして下さい。
【追記】残念ながらdimwin氏は2014年1月で創作活動を終了されました。pixivのIDも同月末に抹消され、管理ページへのアクセスは不能です。(2014年2月23日・記)

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可憐な美少女保安官
古い『小学六年生』(現在は『小六』誌名変更)に目を通していたところ、面白い連載漫画を見つけました。
連載1回分しか実見していないので詳しいストーリーやキャラクター設定は分かりませんが、手持ち雑誌からスキャンした画像と併せて簡単に内容紹介しようと思います。
作品のタイトルは「冒険リリー」。作者は早見利一氏です。
掲載誌は前述の通り『小学六年生』ですが、所持しているのが昭和26年6月号だけなので連載期間は分かりません。
連載第3回が昭和26年6月号に載っている事から逆算し、同年4月号からの新連載という事は間違いありませんが終了時期は不明です(学習誌の連載物は読者の進級によって入れ替わるので基本的に4月号から翌年3月号までの全12回連載が多いのですが、稀に例外もある為、「冒険リリー」の連載終了号は不明としました)。

(C)早見利一/小学館
作者の早見利一氏は1917年生まれの漫画家。詳しい経歴や代表作については調べきれませんでしたが、昭和30年頃に『少女』へ連載された「てるてる姫」が有名作品のようです。
古書目録の情報によれば、『アサヒグラフ』昭和28年6月10日号へ掲載された「児童漫画家告知板」コーナーに紹介記事があるとの事でした(現物未見)。
本作「冒険リリー」は美少女保安官(だと思われます)が仲間と一緒に悪者を懲らしめる物語らしく、西部開拓時代のアメリカが舞台になっているようです。
主人公のリリーは大きな目が可愛らしいブロンドの少女で、年齢は10代中頃と思われます。
連載第3回目は悪者に捕えられたリリーたちが火あぶりにされかける場面で終わっており、絶体絶命のシーンが次号への引きとなっていました。

(C)早見利一/小学館

(C)早見利一/小学館
時代を感じさせる絵柄であると同時に、言葉では上手く表現できない懐かしさと優しさを感じさせます。
僅か連載1回分しか現物を確認できていない為、中途半端な内容の記事となってしまいましたが、早見利一氏の漫画「冒険リリー」を御紹介しました。
連載1回分しか実見していないので詳しいストーリーやキャラクター設定は分かりませんが、手持ち雑誌からスキャンした画像と併せて簡単に内容紹介しようと思います。
作品のタイトルは「冒険リリー」。作者は早見利一氏です。
掲載誌は前述の通り『小学六年生』ですが、所持しているのが昭和26年6月号だけなので連載期間は分かりません。
連載第3回が昭和26年6月号に載っている事から逆算し、同年4月号からの新連載という事は間違いありませんが終了時期は不明です(学習誌の連載物は読者の進級によって入れ替わるので基本的に4月号から翌年3月号までの全12回連載が多いのですが、稀に例外もある為、「冒険リリー」の連載終了号は不明としました)。

(C)早見利一/小学館
作者の早見利一氏は1917年生まれの漫画家。詳しい経歴や代表作については調べきれませんでしたが、昭和30年頃に『少女』へ連載された「てるてる姫」が有名作品のようです。
古書目録の情報によれば、『アサヒグラフ』昭和28年6月10日号へ掲載された「児童漫画家告知板」コーナーに紹介記事があるとの事でした(現物未見)。
本作「冒険リリー」は美少女保安官(だと思われます)が仲間と一緒に悪者を懲らしめる物語らしく、西部開拓時代のアメリカが舞台になっているようです。
主人公のリリーは大きな目が可愛らしいブロンドの少女で、年齢は10代中頃と思われます。
連載第3回目は悪者に捕えられたリリーたちが火あぶりにされかける場面で終わっており、絶体絶命のシーンが次号への引きとなっていました。

(C)早見利一/小学館

(C)早見利一/小学館
時代を感じさせる絵柄であると同時に、言葉では上手く表現できない懐かしさと優しさを感じさせます。
僅か連載1回分しか現物を確認できていない為、中途半端な内容の記事となってしまいましたが、早見利一氏の漫画「冒険リリー」を御紹介しました。
ドSなヤンデレ姫の物語(坂口安吾「夜長姫と耳男」より)
無頼派作家の中心的存在となった坂口安吾氏が昭和27年に発表した「夜長姫と耳男」には、今で言う「ヤンデレ属性」のヒロインが登場します。
マゾヒズムの残虐美と人間の死がもたらす破滅美を彩りに添え、狂気と愛情の果てに待つ悲劇的な死を描いた情痴文学の異色作であり、この分野の意外な傑作とも言えるでしょう。
ヒロイン役の夜長姫ですが、彼女の本名は最後まで明かされず、作中では「夜長の長者の娘」である事から「夜長ヒメ」とだけ記されています。
この夜長姫、野良仕事へ出た村人が疫病によって働きながら命を落とす様子を見ては喜び、そばに控える耳男を震え上がらせます。
それだけでなく、耳男へ叢に生息する蛇を捕えてくるよう命令し、その生き血を啜っては死骸を天井から逆さ吊りにさせるという恐ろしい行動をとるようになりました。
結局、このような残酷な性格によって夜長姫は命を落としますが、死ぬ間際に彼女は耳男へ偽りのない本心を語って聞かせます。
以下、夜長姫のドSっぷりをヤンデレらしい末期の言葉と併せ、たっぷりと御紹介します。
ヒメはニッコリうなずいた。ヒメはエナコに向って云った。
「エナコよ。耳男の片耳もかんでおやり。虫ケラにかまれても腹が立たないそうですから、存分にかんであげるといいわ。虫ケラの歯を貸してあげます。なくなったお母様の形見の品の一ツだけど、耳男の耳をかんだあとではお前にあげます」
ヒメは懐剣をとって侍女に渡した。侍女はそれをささげてエナコの前に差出した。
【中略】
可憐なヒメは無邪気にイタズラをたのしんでいる。その明るい笑顔を見るがよい。虫も殺さぬ笑顔とは、このことだ。イタズラをたのしむ亢奮(こうふん)もなければ、何かを企む翳りもない。童女そのものの笑顔であった。
【中略】
オレの耳がそがれたとき、オレはヒメのツブラな目が生き生きとまるく大きく冴えるのを見た。ヒメの頬にやや赤みがさした。軽い満足があらわれて、すぐさま消えた。すると笑いも消えていた。ひどく真剣な顔だった。考え深そうな顔でもあった。なんだ、これで全部か、とヒメは怒っているように見えた。すると、ふりむいて、ヒメは物も云わず立ち去ってしまった。
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P369~371≫
侍女たちは小屋の中をみてたじろいだ。ヒメだけはたじろいだ気色がなかった。ヒメは珍しそうに室内を見まわし、また天井を見まわした。蛇は無数の骨となってぶらさがっていたが、下にも無数の骨が落ちてくずれていた。
「みんな蛇ね」
ヒメの笑顔に生き生きと感動がかがやいた。ヒメは頭上に手をさしのばして垂れ下っている蛇の白骨の一ツを手にとろうとした。【後略】
「火をつけなくてよかったね。燃してしまうと、これを見ることができなかったわ」
ヒメは全てを見終ると満足して呟いたが、
「でも、もう、燃してしまうがよい」
侍女に枯れ柴をつませて火をかけさせた。小屋が煙につつまれ、一時にピッと燃えあがるのを見とどけると、ヒメはオレに云った。
【中略】
オレはヒメの無邪気な笑顔がどのようなものであるかを思い知ることができた。エナコがオレの耳を斬り落とすのを眺めていたのもこの笑顔だし、オレの小屋の天井からぶらさがった無数の蛇を眺めていたのもこの笑顔だ。【後略】
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P376~378≫
「今日も死んだ人があるのよ」
それをきかせるときも、ニコニコとたのしそうであった。【後略】
オレはヒメになぶられているのではないかと疑っていた。さりげない風を見せているが、実はやっぱり元日にオレを殺すつもりであったに相違ないとオレは時々考えた。なぜなら、ヒメはオレの造ったバケモノを疫病よけに門前へすえさせたとき、
「耳男が無数の蛇を裂き殺して逆さに吊り、蛇の生き血をあびながら呪いをかけて刻んだバケモノだから、疫病よけのマジナイぐらいにはなりそうね。ほかに取得もなさそうですから、門の前へ飾ってごらん」
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P383≫
「耳男よ。今日は私が何を見たと思う?」
ヒメの目がいつもにくらべて輝きが深いようでもあった。ヒメは云った。
「バケモノのホコラへ拝みにきて、ホコラの前でキリキリ舞いをして、ホコラにとりすがって死んだお婆さんを見たのよ」
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P389~390≫
「袋の中の蛇を一匹ずつ生き裂きにして血をしぼってちょうだい。お前はその血をしぼって、どうしたの?」
「オレはチョコにうけて飲みましたよ」
【中略】
「お前がしたと同じことをしてちょうだい。生き血だけは私が飲みます。早くよ」
【中略】
オレはまさかと思ってみたが、ヒメはたじろぐ色もなく、ニッコリと無邪気に笑って、生き血を一息にのみほした。それを見るまではさほどのこととは思わなかったが、その時からはあまりの怖ろしさに、蛇をさく馴れた手までが狂いがちであった。
【中略】
ヒメは蛇の生き血をのみ、蛇体を高楼に逆吊りにして、何をするつもりなのだろう。目的の善悪がどうあろうとも、高楼にのぼり、ためらう色もなくニッコリと蛇の生き血を飲みほすヒメはあまり無邪気で、怖ろしかった。
【中略】
ヒメは心残りげに、たそがれの村を見下した。そして、オレに言った(ママ)。
「ほら。お婆さんの死体を片づけに、ホコラの前に人が集っているわ。あんなに、たくさんの人が」
ヒメの笑顔はかがやきを増した。
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P393~395≫
二度目の袋を背負って戻ると、ヒメの頬も目もかがやきに燃えてオレを迎えた。ヒメはオレにニッコリと笑いかけながら小さく叫んだ。
「すばらしい!」
ヒメは指して云った。
「ほら、あすこの野良に一人死んでいるでしょう。つい今しがたよ。クワを空高くかざしたと思うと取り落してキリキリ舞いをはじめたのよ。そしてあの人が動かなくなったと思うと、ほら、あすこの野良にも一人倒れているでしょう。あの人がキリキリ舞いをはじめたのよ。そして、今しがたまで這ってうごめいていたのに」
【中略】
「耳男よ。ごらん! あすこに、ほら! キリキリ舞いをしはじめた人がいてよ。ほら、キリキリと舞っていてよ。お日さまがまぶしいように。お日さまに酔ったよう」
【中略】
「とうとう動かなくなったわ。なんて可愛いのでしょうね。お日さまが、うらやましい。日本中の野でも里でも町でも、こんな風に死ぬ人をみんな見ていらッしゃるのね」
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P397~400≫
オレはヒメに歩み寄ると、オレの左手をヒメの左の肩にかけ、だきすくめて、右手のキリを胸にうちこんだ。オレの肩はハアハアと大きな波をうっていたが、ヒメは目をあけてニッコリ笑った。
「サヨナラの挨拶をして、それから殺して下さるものよ。私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに」
ヒメのツブラな瞳はオレに絶えず、笑みかけていた。
【中略】
するとヒメはオレの手をとり、ニッコリとささやいた。
「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして……」
ヒメの目が笑って、とじた。
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P400~401≫
【関連サイト紹介】
・坂口安吾の「夜長姫と耳男」(「kenyama's blog お酒とジャズが大好きです」2004年2月3日更新記事)
・『夜長姫と耳男』を熱を出しながら読む(「唯物論的な猫の日常生活」2007年12月2日更新記事)
・『桜の森の満開の下』と『夜長姫と耳男』(「福島剛 ホワッドアイセイ?」2009年4月5日更新記事)
※「夜長姫と耳男」収録。
※「夜長姫と耳男」収録。
※漫画=近藤ようこ。
※漫画=タナカコージ。
マゾヒズムの残虐美と人間の死がもたらす破滅美を彩りに添え、狂気と愛情の果てに待つ悲劇的な死を描いた情痴文学の異色作であり、この分野の意外な傑作とも言えるでしょう。
ヒロイン役の夜長姫ですが、彼女の本名は最後まで明かされず、作中では「夜長の長者の娘」である事から「夜長ヒメ」とだけ記されています。
この夜長姫、野良仕事へ出た村人が疫病によって働きながら命を落とす様子を見ては喜び、そばに控える耳男を震え上がらせます。
それだけでなく、耳男へ叢に生息する蛇を捕えてくるよう命令し、その生き血を啜っては死骸を天井から逆さ吊りにさせるという恐ろしい行動をとるようになりました。
結局、このような残酷な性格によって夜長姫は命を落としますが、死ぬ間際に彼女は耳男へ偽りのない本心を語って聞かせます。
以下、夜長姫のドSっぷりをヤンデレらしい末期の言葉と併せ、たっぷりと御紹介します。
ヒメはニッコリうなずいた。ヒメはエナコに向って云った。
「エナコよ。耳男の片耳もかんでおやり。虫ケラにかまれても腹が立たないそうですから、存分にかんであげるといいわ。虫ケラの歯を貸してあげます。なくなったお母様の形見の品の一ツだけど、耳男の耳をかんだあとではお前にあげます」
ヒメは懐剣をとって侍女に渡した。侍女はそれをささげてエナコの前に差出した。
【中略】
可憐なヒメは無邪気にイタズラをたのしんでいる。その明るい笑顔を見るがよい。虫も殺さぬ笑顔とは、このことだ。イタズラをたのしむ亢奮(こうふん)もなければ、何かを企む翳りもない。童女そのものの笑顔であった。
【中略】
オレの耳がそがれたとき、オレはヒメのツブラな目が生き生きとまるく大きく冴えるのを見た。ヒメの頬にやや赤みがさした。軽い満足があらわれて、すぐさま消えた。すると笑いも消えていた。ひどく真剣な顔だった。考え深そうな顔でもあった。なんだ、これで全部か、とヒメは怒っているように見えた。すると、ふりむいて、ヒメは物も云わず立ち去ってしまった。
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P369~371≫
侍女たちは小屋の中をみてたじろいだ。ヒメだけはたじろいだ気色がなかった。ヒメは珍しそうに室内を見まわし、また天井を見まわした。蛇は無数の骨となってぶらさがっていたが、下にも無数の骨が落ちてくずれていた。
「みんな蛇ね」
ヒメの笑顔に生き生きと感動がかがやいた。ヒメは頭上に手をさしのばして垂れ下っている蛇の白骨の一ツを手にとろうとした。【後略】
「火をつけなくてよかったね。燃してしまうと、これを見ることができなかったわ」
ヒメは全てを見終ると満足して呟いたが、
「でも、もう、燃してしまうがよい」
侍女に枯れ柴をつませて火をかけさせた。小屋が煙につつまれ、一時にピッと燃えあがるのを見とどけると、ヒメはオレに云った。
【中略】
オレはヒメの無邪気な笑顔がどのようなものであるかを思い知ることができた。エナコがオレの耳を斬り落とすのを眺めていたのもこの笑顔だし、オレの小屋の天井からぶらさがった無数の蛇を眺めていたのもこの笑顔だ。【後略】
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P376~378≫
「今日も死んだ人があるのよ」
それをきかせるときも、ニコニコとたのしそうであった。【後略】
オレはヒメになぶられているのではないかと疑っていた。さりげない風を見せているが、実はやっぱり元日にオレを殺すつもりであったに相違ないとオレは時々考えた。なぜなら、ヒメはオレの造ったバケモノを疫病よけに門前へすえさせたとき、
「耳男が無数の蛇を裂き殺して逆さに吊り、蛇の生き血をあびながら呪いをかけて刻んだバケモノだから、疫病よけのマジナイぐらいにはなりそうね。ほかに取得もなさそうですから、門の前へ飾ってごらん」
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P383≫
「耳男よ。今日は私が何を見たと思う?」
ヒメの目がいつもにくらべて輝きが深いようでもあった。ヒメは云った。
「バケモノのホコラへ拝みにきて、ホコラの前でキリキリ舞いをして、ホコラにとりすがって死んだお婆さんを見たのよ」
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P389~390≫
「袋の中の蛇を一匹ずつ生き裂きにして血をしぼってちょうだい。お前はその血をしぼって、どうしたの?」
「オレはチョコにうけて飲みましたよ」
【中略】
「お前がしたと同じことをしてちょうだい。生き血だけは私が飲みます。早くよ」
【中略】
オレはまさかと思ってみたが、ヒメはたじろぐ色もなく、ニッコリと無邪気に笑って、生き血を一息にのみほした。それを見るまではさほどのこととは思わなかったが、その時からはあまりの怖ろしさに、蛇をさく馴れた手までが狂いがちであった。
【中略】
ヒメは蛇の生き血をのみ、蛇体を高楼に逆吊りにして、何をするつもりなのだろう。目的の善悪がどうあろうとも、高楼にのぼり、ためらう色もなくニッコリと蛇の生き血を飲みほすヒメはあまり無邪気で、怖ろしかった。
【中略】
ヒメは心残りげに、たそがれの村を見下した。そして、オレに言った(ママ)。
「ほら。お婆さんの死体を片づけに、ホコラの前に人が集っているわ。あんなに、たくさんの人が」
ヒメの笑顔はかがやきを増した。
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P393~395≫
二度目の袋を背負って戻ると、ヒメの頬も目もかがやきに燃えてオレを迎えた。ヒメはオレにニッコリと笑いかけながら小さく叫んだ。
「すばらしい!」
ヒメは指して云った。
「ほら、あすこの野良に一人死んでいるでしょう。つい今しがたよ。クワを空高くかざしたと思うと取り落してキリキリ舞いをはじめたのよ。そしてあの人が動かなくなったと思うと、ほら、あすこの野良にも一人倒れているでしょう。あの人がキリキリ舞いをはじめたのよ。そして、今しがたまで這ってうごめいていたのに」
【中略】
「耳男よ。ごらん! あすこに、ほら! キリキリ舞いをしはじめた人がいてよ。ほら、キリキリと舞っていてよ。お日さまがまぶしいように。お日さまに酔ったよう」
【中略】
「とうとう動かなくなったわ。なんて可愛いのでしょうね。お日さまが、うらやましい。日本中の野でも里でも町でも、こんな風に死ぬ人をみんな見ていらッしゃるのね」
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P397~400≫
オレはヒメに歩み寄ると、オレの左手をヒメの左の肩にかけ、だきすくめて、右手のキリを胸にうちこんだ。オレの肩はハアハアと大きな波をうっていたが、ヒメは目をあけてニッコリ笑った。
「サヨナラの挨拶をして、それから殺して下さるものよ。私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに」
ヒメのツブラな瞳はオレに絶えず、笑みかけていた。
【中略】
するとヒメはオレの手をとり、ニッコリとささやいた。
「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして……」
ヒメの目が笑って、とじた。
≪岩波文庫『桜の森の満開の下・白痴 他十二篇』P400~401≫
【関連サイト紹介】
・坂口安吾の「夜長姫と耳男」(「kenyama's blog お酒とジャズが大好きです」2004年2月3日更新記事)
・『夜長姫と耳男』を熱を出しながら読む(「唯物論的な猫の日常生活」2007年12月2日更新記事)
・『桜の森の満開の下』と『夜長姫と耳男』(「福島剛 ホワッドアイセイ?」2009年4月5日更新記事)
![]() | 桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫) (1989/04/03) 坂口 安吾 商品詳細を見る |
※「夜長姫と耳男」収録。
![]() | 桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫) (2008/10/16) 坂口 安吾 商品詳細を見る |
※「夜長姫と耳男」収録。
![]() | 夜長姫と耳男 (ビッグコミックススペシャル) (2008/03/28) 近藤 ようこ 商品詳細を見る |
※漫画=近藤ようこ。
![]() | 桜の森の満開の下・夜長姫と耳男 (ホーム社 MANGA BUNGOシリーズ) (2010/09/10) 萩原 玲二、タナカ コージ 他 商品詳細を見る |
※漫画=タナカコージ。
卑猥な姿の脅迫写真(「刑事コロンボ アリバイのダイヤル」より)
アメリカのミステリードラマ「刑事コロンボ」が日本で初めて紹介されたのは1972年8月の事です。
本国では1968年に第1作「Prescription:Murder」(邦題「殺人処方箋」)が放送されており、1972年8月の時点で第1シーズンが終了していました。
1979年製作の第45作「The Conspirators」(邦題「策謀の結末」)で「刑事コロンボ」は終了しましたが、1989年から新シリーズの放送が開始され、現在は第24作「Columbo Like the Nightlife」(邦題「虚飾のオープニング・ナイト」)が最新作となっています。
主役のピーター・フォークが高齢という事もあり、この作品がシリーズ最終作になるかも知れません。
TVドラマ作品なので原作小説は存在しませんが、日本ではノベライズとして活字化されています。
旧シリーズ全45作の大半は二見書房のサラ・ブックスへ収録され、一部の作品は新作と併せて二見文庫でも読めるようになりました。
一時期は30冊を超えるラインナップを誇った二見文庫版「刑事コロンボ」ですが、未映像化作品のシナリオを原作にした「サーカス殺人事件」が2003年に刊行されてから新刊は出ておらず、全ての作品が絶版状態となって久しいです。
翻訳家の小鷹信光氏によれば、こうしたノベライズ化の作業はシナリオを単純に小説化するだけではなく、「話を面白くする為、内容をふくらませたり、ドラマには見られない展開を盛り込んだりしている」との事です。
今回は「ドラマには見られない展開」が加筆されたノベライズ版だけで楽しめる「刑事コロンボ」のエロチック描写を紹介しようと思います。
フットボールチームのオーナー代行による巧妙な犯罪を描いた「The Most Crucial Game」(邦題「アリバイのダイヤル)は電話を利用したアリバイトリックと凶器消失トリックが扱われており、犯人逮捕の決め手となる物証が極めて少ない事件でした。
ノベルス版では、オーナー夫人が卑猥な写真を送りつけられ無言の脅迫を受ける場面が冒頭に描かれています。
夫人を脅かすのは、十年前に悪徳カメラマンが彼女の水着写真を細工して作った合成写真ですが、ここに映る若かりし夫人のポーズというのが何ともエロチックなのです。
【前略】彼女ははげしいめまいさえ覚えた。それはシャーリーが裸でプールで泳いでいる写真だった。もう十年前の遠い出来事。忌わしい記憶が一枚の写真でよみがえった。【中略】通称フラッシュというその男は、折りからプールで泳いでいたシャーリーを、持っていたカメラで撮った。そのときシャーリーはちゃんと水着を着ていたはずだ。
ところが一週間後、送られてきた写真のシャーリーは水着を着ていなかった。素裸でプールで泳いでいる写真だった。それも脚をひろげた卑猥な恰好で。写真は怖ろしい意図のもとに合成されていたのだ。フラッシュはスキャンダル専門誌のフリーの悪徳カメラマンだった。【後略】
≪サラ・ブックス『刑事コロンボ31 アリバイのダイヤル』P20≫
秘部を露出させながら泳ぐ女性の写真。この脅迫事件のエピソードも映像化されていたら、さぞかし男性視聴者が喜んだ事でしょう。
完全犯罪を企てる犯人をコロンボが論理的な推理で追い詰める本格ミステリー作品の為、こうした煽情的なエロスが劇中に出てくる事は非常に珍しいです。
僅かな記述ではありますが、その意味でもノベライズ版「アリバイのダイヤル」で描かれた卑猥写真の具体的描写は貴重な一文と言えます。
【参考資料】町田暁雄・著『刑事コロンボ読本 [全45エピソード考察]』(私家版)。
※Vol.6に「アリバイのダイヤル」収録。脅迫写真のエピソードはありません。
※「アリバイのダイヤル」収録。脅迫写真のエピソードはありません。
※「刑事コロンボ」ガイドブック。
※主演俳優ピーター・フォークの自伝。
本国では1968年に第1作「Prescription:Murder」(邦題「殺人処方箋」)が放送されており、1972年8月の時点で第1シーズンが終了していました。
1979年製作の第45作「The Conspirators」(邦題「策謀の結末」)で「刑事コロンボ」は終了しましたが、1989年から新シリーズの放送が開始され、現在は第24作「Columbo Like the Nightlife」(邦題「虚飾のオープニング・ナイト」)が最新作となっています。
主役のピーター・フォークが高齢という事もあり、この作品がシリーズ最終作になるかも知れません。
TVドラマ作品なので原作小説は存在しませんが、日本ではノベライズとして活字化されています。
旧シリーズ全45作の大半は二見書房のサラ・ブックスへ収録され、一部の作品は新作と併せて二見文庫でも読めるようになりました。
一時期は30冊を超えるラインナップを誇った二見文庫版「刑事コロンボ」ですが、未映像化作品のシナリオを原作にした「サーカス殺人事件」が2003年に刊行されてから新刊は出ておらず、全ての作品が絶版状態となって久しいです。
翻訳家の小鷹信光氏によれば、こうしたノベライズ化の作業はシナリオを単純に小説化するだけではなく、「話を面白くする為、内容をふくらませたり、ドラマには見られない展開を盛り込んだりしている」との事です。
今回は「ドラマには見られない展開」が加筆されたノベライズ版だけで楽しめる「刑事コロンボ」のエロチック描写を紹介しようと思います。
フットボールチームのオーナー代行による巧妙な犯罪を描いた「The Most Crucial Game」(邦題「アリバイのダイヤル)は電話を利用したアリバイトリックと凶器消失トリックが扱われており、犯人逮捕の決め手となる物証が極めて少ない事件でした。
ノベルス版では、オーナー夫人が卑猥な写真を送りつけられ無言の脅迫を受ける場面が冒頭に描かれています。
夫人を脅かすのは、十年前に悪徳カメラマンが彼女の水着写真を細工して作った合成写真ですが、ここに映る若かりし夫人のポーズというのが何ともエロチックなのです。
【前略】彼女ははげしいめまいさえ覚えた。それはシャーリーが裸でプールで泳いでいる写真だった。もう十年前の遠い出来事。忌わしい記憶が一枚の写真でよみがえった。【中略】通称フラッシュというその男は、折りからプールで泳いでいたシャーリーを、持っていたカメラで撮った。そのときシャーリーはちゃんと水着を着ていたはずだ。
ところが一週間後、送られてきた写真のシャーリーは水着を着ていなかった。素裸でプールで泳いでいる写真だった。それも脚をひろげた卑猥な恰好で。写真は怖ろしい意図のもとに合成されていたのだ。フラッシュはスキャンダル専門誌のフリーの悪徳カメラマンだった。【後略】
≪サラ・ブックス『刑事コロンボ31 アリバイのダイヤル』P20≫
秘部を露出させながら泳ぐ女性の写真。この脅迫事件のエピソードも映像化されていたら、さぞかし男性視聴者が喜んだ事でしょう。
完全犯罪を企てる犯人をコロンボが論理的な推理で追い詰める本格ミステリー作品の為、こうした煽情的なエロスが劇中に出てくる事は非常に珍しいです。
僅かな記述ではありますが、その意味でもノベライズ版「アリバイのダイヤル」で描かれた卑猥写真の具体的描写は貴重な一文と言えます。
【参考資料】町田暁雄・著『刑事コロンボ読本 [全45エピソード考察]』(私家版)。
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ウルトラ姉妹を超えて行け! 序章 ~First Contact~(後編)
【空想巨大ヒロインシリーズ ウルトラ戦姫】
「ウルトラ姉妹を超えて行け! 序章 ~First Contact~(後編)」
原 案:らすP
原 作:a-ru(「ウルトラ姉妹を超えて行け!」より)
文 章:新 京史朗
それぞれの思惑が交差しながらもクイーンとタイラントの戦いは続く。
ギシャアァァァ。
奇声をあげたタイラントはクイーンの予想通り、右手の鎖ガマを発射させてきた。
「思った通りじゃ」
バシッ。
左手でカマを捌き、長く伸びた鎖を自ら左腕に巻き付けた。
(イマだ!)
「お主に恨みはないが、残留思念が実態化した怪物を宇宙に放つわけには行かぬのでな。ワシが供養してやるから今度は安心して成仏するがよい」
憐憫の情に満ちた視線を眼下のタイラントに送りながら呟いた時。
バリバリバリバリバリ。
「ぐはぁぁぁ」
高電圧の電流がクイーンの全身を背後から襲い、同時に彼女の悲鳴が荒涼とした大地に響き渡る。
さすがのクイーンも予想外の攻撃には対処できず、左腕に鎖ガマの鎖を絡ませたまま大地に落下した。
ドサッ。
「うッ……。くうぅ」
毒ガスによって体力を奪われているせいか満足に立ち上がろうとする事さえできない。
「どうだ、ジメンにハいつくばるキブンは」
「ア、アルファキラー。そうか、主らの事を失念しておったわ。ワシとした事が何たる失態」
「ヒッポリトのドクガスがキきハジめてきたのだろう。オレたちのソンザイをカンゼンにワスれていたのはチメイテキなシッパイだったな」
「……」
返す言葉もないクイーン。辛うじて立ち上がったが体が重く、立っているのも精一杯な状態だ。
(久しぶりの変身で体に大きな負担をかけたうえ、今の電撃ショック。おまけに毒ガスとは……。どうやら、覚悟しなければならぬのはワシの方かも知れんな)
目の前の意外な成り行きに茫然としていたタイラントだったが、やがて自分を痛めつけていた相手が倒れているのに気付き、「ギャゥオオオン」と一声鳴いてクイーンの方に向かって進みだした。
タイラントにはエレドータスの霊魂も含まれており、鎖を介して伝わって来た電気を食べていたのだ。これを見越し、アルファキラーはタイラントが間接的な二次感電するにも関わらず電流攻撃を仕掛けたのである。
「バンジキュウスだな」
「お主に言われるまでもないわ」
「へらずグチをきくゲンキがあるのか。タイラントよ、もっとイタめつけてやるがいい」
ギャオオオ~。
アルファキラーの言葉を理解したのか、タイラントは今までにない大きな鳴き声で返事をし、苦しげに肩で息をするクイーンに襲いかかった。
タイラントの逆襲一発目は左腕のハンマーによる腹部強打であった。
ドボッ。
「うぐッ……。ゲホッ」
ものすごい衝撃と痛みを腹部に感じたクイーンは片膝を落し、苦しげなうめき声をあげた。
攻守が逆転した事を理解したタイラントは、これまでの恨みをはらそうと容赦ない攻撃でクイーンを痛めつける。
「あぐッ」……「うくぅ」……「ぐはッ」……
攻撃が加わるたび、クイーンの苦痛に満ちた声が痛々しく響く。
(だ、駄目じゃ。どんどん体の自由がきかなくなってくる……。毒ガスが本格的に体内を蝕みだしたようじゃ)
ギシャアァァァ。
タイラントは「これでトドメだ」と言わんばかりの鳴き声を発し、片膝をついた状態で満足に防御できないクイーンの鳩尾を蹴り上げた。
ボゴッ。
「くはぁぁぁ」
さすがのクイーンも弱った体の鳩尾を蹴られてはひとたまりもない。下腹部を押さえながら、その場に蹲(うずくま)ってしまった。
「ハア……ハア……ハア……」
お尻を持ち上げた卑猥な恰好で喘ぐクイーン。
色っぽい背中、括れた腰、丸く形のよい臀部、引き締まった股間を脂汗が濡らし、遥か彼方の稜線から顔を見せる太陽の光が女神の全身を淫らに輝かせ、汗を真珠のように光らせる。
三人の宇宙人は淫靡な笑みを浮かべながら、かつて敗北させられた相手のはしたない姿を見ていた。
「銀河の女帝の権威も地に堕ちたものだ」
「我ら頭脳派トリオにかかっては、ウルトラクイーンでさえ敵ではないと言う事だ」
「まだだ。もっともっとクルしむカオをミなければキがスまん。タイラント、もっとウルトラクイーンにクツウをアタえてやるのだ」
ギヤァァァス。
アルファキラーの命令に反応したタイラントはクイーンに背を向けると、側面に棘の植わった太い尾を華奢なクイーンの体に巻き付けた。
「し、しまっ……ぐはぁぁ」
平たく横に長い尾の内側がクイーンの胴体を包み込んだかと思うと、次の瞬間、悲痛な叫びがクイーンの口から洩れた。
ギシッ。ギシッ。ギシッ。
タイラントの尾がクイーンの胴体を締めつけつけているのだ。持てる全ての力を振り絞って絞め付ける尾を解こうと抵抗を試みたクイーンだが、毒ガスで弱りきった体が思うよう動かず力が出ない。これでは脱出不可能である。
ミシッ。ミシッ。ミシッ。
さらに締めつけは激しくなり、圧迫されるクイーンの骨が軋み出した。
「あぐッ。こ、このままでは体中の骨が砕かれてしまう……。くぅぅ。な、何とか脱出せねば……」
(とは言ったものの、今の状態では指一本すら動かせぬ。どうやら……ここで……果てる事になりそうじゃ)
「タイラントめ、お主の言葉が分かるのか」
全身を圧迫され地獄の苦しみを味わうクイーンを見ながら、ヒッポリト星人がアルファキラーに尋ねた。
「そのようだな。だがフシギだ。このタンジカンでゲンゴをリカイできるようになるとは」
「ヒッポリトの散布した毒ガスの影響で知性が発達したのかも知れんな。モグネズンの毒性分解能力があるとは言え、他の怪獣と霊魂を合体させた事で解毒効果が満足に機能しなかった可能性は否定できん。この機能が中途半端に働いたせいで何らかの化学変化が体内で起こり、知性が身についているのではないか」
「さあて。そのような実験データーは得られなかったが」
「我々のように免疫物質で体の内外から毒性をシャットアウトしていれば話は別だが、基本体となるベムスターやシーゴラスの体にモグネズンの毒性分解機能が働かず、体内に浸透した毒ガスの成分が未知の化学物質となってタイラントの前頭葉に刺激を与えたのかも知れん。これが一時的な作用か永続か、その辺は何とも言えぬが……」
「まあ、コマかいコトをカンガえるのはよそう。それより、そろそろクイーンがチカラツきようとしているのだ。これまでのウラみ、イマこそハらすトキだ」
「残念だが、アルファキラー。我々が手を下すまでもないだぞ」
「うむ。もはやクイーンは完全に死に体(しにたい)。我らが引導を渡すには及ぶまい」
「……」
「クイーンへの恨みをタイラントが晴らしたと思い、我らは高見の見物と決めこもう」
「自らの手でクイーンを痛めつけてやりたいと思っているのは、お前だけではない。私たちだって同じ気持ちだ。だが、こうして女王の敗北を見物するのも悪くはなかろう」
「うむ……」
ヒッポリト星人とテンペラー星人の言葉に頷いたものの、復讐に燃えるアルファキラーの心中は複雑だった(この時の憎悪が後にウルトラ姉妹へ向けるられる事になるが、それはまた別の話である)。
怒り狂ったタイラントの猛攻は休む事を知らない。
骨も砕けよと渾身の力を尾に込めて、巻き付けたクイーンの体を締めつける。
ビキッ。ビキッ。ビキッ。
「うぐッ……」
ボキ。ボキ。ボキ。
「くはああぁぁぁぁ」
鈍い音と共にクイーンの肋骨が折れた。強靭な筋肉によって数本の骨折で済んだが、普通のウルトラ戦姫であれば全身の骨を砕かれていた事だろう。
阿鼻叫喚の惨い光景にも関わらず、テンペラー星人たちは恨み骨髄の相手が苦しむ姿をスポーツでも観戦するように見ている。
「今ので何本か折れたな」
「ああ」
「スコしずつホネをオられるのはジゴクのクルしみだろう。これでタショウのリュウインはサがったとイうものだ」
こんな会話が交わされる間にも、タイラントは容赦なくクイーンを攻め続ける。
ボキ。ボキ。ボキ。
「ぐはぁぁぁ」
(ま、まずい。このままでは……肋骨ばかりか……せ、背骨まで砕かれてしまう。じゃが、今のワシにはどうする事もできん……。うぐッ)
クイーンが敗北を覚悟した時、突然、タイラントは尾を緩めてクイーンの体を解放した。
ドサッ。
「あうッ」
ようやく骨折地獄から解放されたクイーンだが、その肉体には痛々しい痣の痕跡が認められる。うつ伏せに倒れたまま、彼女はピクリとも動かない。いや、骨折と痺れで動きたくても動けないのだ。
やっとの事で呼吸をし、弱々しく上下に動くクイーンの背中。そこへタイラントの大きな足が容赦なく迫る。
(もはや……これまで……か。む、無念じゃ)
タイラントは全体重を掛けてクイーンの背中を踏みつけた。
グシャ。
メキッ。
「くああぁぁぁぁ」
どうやら背骨にヒビが入ったらしく、クイーンは血を吐く様な悲鳴をあげて力尽きた。
「どうやら、これでトドメのようだな」
「もう終わりか。少し呆気ないように思えるが、まあ良いだろう」
「あのオンナにカワり、オレたちはチキュウをマモるウルトラセンキをゾンブンにいやぶってやるか。エモノはイきがヨいホド、いたぶりガイがあるからなぁ」
「お前も好きだな。女をいたぶるのが」
「ウルトラセンキはスベてテキだ。ハツラツとしたニクタイをキズつけ、ウチュウのヘイワをマモるというセイギヅラをクツウにユガませ、ゾンブンにハズカシめる。フネンショウギミなウルトラクイーンへのウラみにカワり、これからのターゲットはウルトラセンキたちだ」
三人の宇宙人とタイラントが慰霊惑星クレイヴヤードから姿を消してから数時間後。
短かった日照時間が終わり、再び星は夜の闇に包まれていた。
(うぐッ……。ど、どうやら毒ガスの効き目が薄れてきたようじゃな。あんな小細工に引っ掛かるとは、前戦での活動から退いたブランクは如何ともし難いのう)
どうにか両腕が動かせるまでに体力が回復したクイーンは全身の痛み耐えながら、宇宙警備隊長のウルトラレディ・シルフィーに宛てた【ウルトラサイン】を送った。
慰霊惑星クレイヴヤードにて異常事態発生。怪獣たちの残留思念が実態化したタイラントなる怪獣が現れた。
この一件にはアルファキラーたちが絡んでいる。次に狙われるのは地球を守るウルトラ戦姫たちとも思われる。
クレイヴヤードから地球までの全宙域に万全な警戒態勢を敷き、地球のシャインたちにも連絡を入れよ。
ヒッポリト星人、テンペラー星人、アルファキラーも一緒に行動している。警戒怠るべからず。
持てる力を使いきったクイーンは再び意識を失った。
数十分後。
このサインを受信したシルフィーは亜空間飛行でクレイヴヤードへ向かい、そこに満身創痍のウルトラクイーンを発見した。
傷ついたクイーンの姿に驚きながらも、シルフィーは宇宙銀十時病院へクイーンを搬送。ウルトラレディ・マリア=ウルトラマザーに助けを求めた。
万全の治療によって幸いにも一命は取り留めたが、それでも意識不明のまま昏睡状態が続く危険な状態だと言う。
改めて事の重大さを理解したシルフィーは地球で生活するシャインたちへクイーンからのメッセージを伝えた後、ただちに宇宙警備隊の精鋭メンバーを引き連れ、タイラント討伐に出掛けた。
悲劇と血と暴力に彩られた血みどろの戦いの幕開けであった。
シルフィーたちが宇宙警備隊本部を出発した頃、タイラントは単身地球に向かっていた。
毒ガスの影響によって目覚めた知能水準は再び下がり始めたが、それでも破壊本能だけは衰えていない。
ウルトラクイーンを徹底的に痛めつけた時に荒ぶりはじめたベムスターやレッドキングの魂が破壊を求めて止まないのだ。
僅かに残った知性がアルファキラーの発した「地球」という単語を覚えているのか、無意識のうちにタイラントは地球を目指しているらしい。
道すがら、タイラントは獰猛な目つきで獲物を探しつつ、暗黒の宇宙空間を我がもの顔で飛び回っていた。
テンペラー星人、ヒッポリト星人、アルファキラーだが、誰がタイラントを手下にするかで口論となり、最終的には喧嘩別れしてしまった。
事実は、興奮しながら大声で罵り合うさ3人にイライラしたタイラントが自慢の尾でテンペラー星人たちに不意打ちを仕掛けてKOしたのだが……。
3人が意識を取り戻した時、すでにタイラントの姿はなかった。
~「ウルトラ姉妹を超えて行け!」第1話へ続く~
【あとがき】
前後編となってしまった「ウルトラ姉妹を超えて行け!」の二次創作SSを最後まで読んで下さった皆様へ、まずは御礼申し上げます。
今回もツッコミ所の多い内容かも知れませんが、原作に敬意を払い誠心誠意を込めて書きました。筆の足りない箇所については自分の力不足を詫びるしかありません。
特にa-ru氏の原作と矛盾する部分が出てしまった事については、二次創作許可を頂きながら申し訳なく思います。
細かい点まで理屈づけをした為、苦しい設定(毒ガス免疫の件やウルトラクイーンが弱くなる理由)が次々と増えてしまい、この辺の処理が自分でも下手だと思いました。簡潔な文章で物語を展開する書き方については、良質なSSを読んで文章技術を学ばせて頂こうと思います。なお、理数系は昔から大の苦手で、本文中にある「前頭葉と知性の関係」は不正確な知識に拠るものである事を白状しておきます。
前編を書いていた時は「タイラント&アルファキラーがウルトラクイーンを苦しめる」予定でしたが、思う所あり、結局はタイラントの一人舞台に変更しました。細部まで物語を考えずに大まかな概要が出来た時点で見切り発車し、細部は本文を書きながら適宜補足していく欠点が露呈した結果とも言えますが……。
肉弾戦をメインとする筈が骨折ネタに始終してしまったのも反省点です。言うまでもありませんが、徹底的な骨折ネタは「ドラゴンボール」(孫悟空VSベジータ戦)を意識しました。
いろいろ至らない点はありますが、念願だったウルトラクイーンのヒロピン場面を書く事ができて楽しかったです。
なお、この作品はa-ru氏による二次創作SS「ウルトラ姉妹を超えて行け!」の前日譚をイメージしたものであり、原作者の許可を得て「アナザーストーリー」として書かせて頂きました。
ウルトラ戦姫とタイラントの壮絶な戦いは、こちらへアクセスして下さい(閲覧にはサイトへの登録が必要です)。
【謝辞】
らすP氏とa-ru氏の御二人より二次創作許可を頂きました。記して感謝致します。
【追記】
ある方より、「「ウルトラ姉妹を超えて行け!」はゴルゴタ編(=アルファキラー編)の後の時系列なので、アルファキラーがウルトラ戦姫に恨みを抱く理由は矛盾している」との御指摘を頂きました。指摘を受けたのは「ウルトラクイーンに恨みを晴らせなかったアルファキラーが、怒りの矛先を地球のウルトラ姉妹へ向ける」という箇所です。a-ru氏へも問い合わせ、この設定では時系列的に齟齬が出る事を確認しました。原作の設定を無視する致命的なミスを犯してしまった事、二次創作を快く許可して下さいましたa-ru氏と本編を読んで下さった皆様に深くお詫び申し上げます。(2011年4月19日・記)
「ウルトラ姉妹を超えて行け! 序章 ~First Contact~(後編)」
原 案:らすP
原 作:a-ru(「ウルトラ姉妹を超えて行け!」より)
文 章:新 京史朗
それぞれの思惑が交差しながらもクイーンとタイラントの戦いは続く。
ギシャアァァァ。
奇声をあげたタイラントはクイーンの予想通り、右手の鎖ガマを発射させてきた。
「思った通りじゃ」
バシッ。
左手でカマを捌き、長く伸びた鎖を自ら左腕に巻き付けた。
(イマだ!)
「お主に恨みはないが、残留思念が実態化した怪物を宇宙に放つわけには行かぬのでな。ワシが供養してやるから今度は安心して成仏するがよい」
憐憫の情に満ちた視線を眼下のタイラントに送りながら呟いた時。
バリバリバリバリバリ。
「ぐはぁぁぁ」
高電圧の電流がクイーンの全身を背後から襲い、同時に彼女の悲鳴が荒涼とした大地に響き渡る。
さすがのクイーンも予想外の攻撃には対処できず、左腕に鎖ガマの鎖を絡ませたまま大地に落下した。
ドサッ。
「うッ……。くうぅ」
毒ガスによって体力を奪われているせいか満足に立ち上がろうとする事さえできない。
「どうだ、ジメンにハいつくばるキブンは」
「ア、アルファキラー。そうか、主らの事を失念しておったわ。ワシとした事が何たる失態」
「ヒッポリトのドクガスがキきハジめてきたのだろう。オレたちのソンザイをカンゼンにワスれていたのはチメイテキなシッパイだったな」
「……」
返す言葉もないクイーン。辛うじて立ち上がったが体が重く、立っているのも精一杯な状態だ。
(久しぶりの変身で体に大きな負担をかけたうえ、今の電撃ショック。おまけに毒ガスとは……。どうやら、覚悟しなければならぬのはワシの方かも知れんな)
目の前の意外な成り行きに茫然としていたタイラントだったが、やがて自分を痛めつけていた相手が倒れているのに気付き、「ギャゥオオオン」と一声鳴いてクイーンの方に向かって進みだした。
タイラントにはエレドータスの霊魂も含まれており、鎖を介して伝わって来た電気を食べていたのだ。これを見越し、アルファキラーはタイラントが間接的な二次感電するにも関わらず電流攻撃を仕掛けたのである。
「バンジキュウスだな」
「お主に言われるまでもないわ」
「へらずグチをきくゲンキがあるのか。タイラントよ、もっとイタめつけてやるがいい」
ギャオオオ~。
アルファキラーの言葉を理解したのか、タイラントは今までにない大きな鳴き声で返事をし、苦しげに肩で息をするクイーンに襲いかかった。
タイラントの逆襲一発目は左腕のハンマーによる腹部強打であった。
ドボッ。
「うぐッ……。ゲホッ」
ものすごい衝撃と痛みを腹部に感じたクイーンは片膝を落し、苦しげなうめき声をあげた。
攻守が逆転した事を理解したタイラントは、これまでの恨みをはらそうと容赦ない攻撃でクイーンを痛めつける。
「あぐッ」……「うくぅ」……「ぐはッ」……
攻撃が加わるたび、クイーンの苦痛に満ちた声が痛々しく響く。
(だ、駄目じゃ。どんどん体の自由がきかなくなってくる……。毒ガスが本格的に体内を蝕みだしたようじゃ)
ギシャアァァァ。
タイラントは「これでトドメだ」と言わんばかりの鳴き声を発し、片膝をついた状態で満足に防御できないクイーンの鳩尾を蹴り上げた。
ボゴッ。
「くはぁぁぁ」
さすがのクイーンも弱った体の鳩尾を蹴られてはひとたまりもない。下腹部を押さえながら、その場に蹲(うずくま)ってしまった。
「ハア……ハア……ハア……」
お尻を持ち上げた卑猥な恰好で喘ぐクイーン。
色っぽい背中、括れた腰、丸く形のよい臀部、引き締まった股間を脂汗が濡らし、遥か彼方の稜線から顔を見せる太陽の光が女神の全身を淫らに輝かせ、汗を真珠のように光らせる。
三人の宇宙人は淫靡な笑みを浮かべながら、かつて敗北させられた相手のはしたない姿を見ていた。
「銀河の女帝の権威も地に堕ちたものだ」
「我ら頭脳派トリオにかかっては、ウルトラクイーンでさえ敵ではないと言う事だ」
「まだだ。もっともっとクルしむカオをミなければキがスまん。タイラント、もっとウルトラクイーンにクツウをアタえてやるのだ」
ギヤァァァス。
アルファキラーの命令に反応したタイラントはクイーンに背を向けると、側面に棘の植わった太い尾を華奢なクイーンの体に巻き付けた。
「し、しまっ……ぐはぁぁ」
平たく横に長い尾の内側がクイーンの胴体を包み込んだかと思うと、次の瞬間、悲痛な叫びがクイーンの口から洩れた。
ギシッ。ギシッ。ギシッ。
タイラントの尾がクイーンの胴体を締めつけつけているのだ。持てる全ての力を振り絞って絞め付ける尾を解こうと抵抗を試みたクイーンだが、毒ガスで弱りきった体が思うよう動かず力が出ない。これでは脱出不可能である。
ミシッ。ミシッ。ミシッ。
さらに締めつけは激しくなり、圧迫されるクイーンの骨が軋み出した。
「あぐッ。こ、このままでは体中の骨が砕かれてしまう……。くぅぅ。な、何とか脱出せねば……」
(とは言ったものの、今の状態では指一本すら動かせぬ。どうやら……ここで……果てる事になりそうじゃ)
「タイラントめ、お主の言葉が分かるのか」
全身を圧迫され地獄の苦しみを味わうクイーンを見ながら、ヒッポリト星人がアルファキラーに尋ねた。
「そのようだな。だがフシギだ。このタンジカンでゲンゴをリカイできるようになるとは」
「ヒッポリトの散布した毒ガスの影響で知性が発達したのかも知れんな。モグネズンの毒性分解能力があるとは言え、他の怪獣と霊魂を合体させた事で解毒効果が満足に機能しなかった可能性は否定できん。この機能が中途半端に働いたせいで何らかの化学変化が体内で起こり、知性が身についているのではないか」
「さあて。そのような実験データーは得られなかったが」
「我々のように免疫物質で体の内外から毒性をシャットアウトしていれば話は別だが、基本体となるベムスターやシーゴラスの体にモグネズンの毒性分解機能が働かず、体内に浸透した毒ガスの成分が未知の化学物質となってタイラントの前頭葉に刺激を与えたのかも知れん。これが一時的な作用か永続か、その辺は何とも言えぬが……」
「まあ、コマかいコトをカンガえるのはよそう。それより、そろそろクイーンがチカラツきようとしているのだ。これまでのウラみ、イマこそハらすトキだ」
「残念だが、アルファキラー。我々が手を下すまでもないだぞ」
「うむ。もはやクイーンは完全に死に体(しにたい)。我らが引導を渡すには及ぶまい」
「……」
「クイーンへの恨みをタイラントが晴らしたと思い、我らは高見の見物と決めこもう」
「自らの手でクイーンを痛めつけてやりたいと思っているのは、お前だけではない。私たちだって同じ気持ちだ。だが、こうして女王の敗北を見物するのも悪くはなかろう」
「うむ……」
ヒッポリト星人とテンペラー星人の言葉に頷いたものの、復讐に燃えるアルファキラーの心中は複雑だった(この時の憎悪が後にウルトラ姉妹へ向けるられる事になるが、それはまた別の話である)。
怒り狂ったタイラントの猛攻は休む事を知らない。
骨も砕けよと渾身の力を尾に込めて、巻き付けたクイーンの体を締めつける。
ビキッ。ビキッ。ビキッ。
「うぐッ……」
ボキ。ボキ。ボキ。
「くはああぁぁぁぁ」
鈍い音と共にクイーンの肋骨が折れた。強靭な筋肉によって数本の骨折で済んだが、普通のウルトラ戦姫であれば全身の骨を砕かれていた事だろう。
阿鼻叫喚の惨い光景にも関わらず、テンペラー星人たちは恨み骨髄の相手が苦しむ姿をスポーツでも観戦するように見ている。
「今ので何本か折れたな」
「ああ」
「スコしずつホネをオられるのはジゴクのクルしみだろう。これでタショウのリュウインはサがったとイうものだ」
こんな会話が交わされる間にも、タイラントは容赦なくクイーンを攻め続ける。
ボキ。ボキ。ボキ。
「ぐはぁぁぁ」
(ま、まずい。このままでは……肋骨ばかりか……せ、背骨まで砕かれてしまう。じゃが、今のワシにはどうする事もできん……。うぐッ)
クイーンが敗北を覚悟した時、突然、タイラントは尾を緩めてクイーンの体を解放した。
ドサッ。
「あうッ」
ようやく骨折地獄から解放されたクイーンだが、その肉体には痛々しい痣の痕跡が認められる。うつ伏せに倒れたまま、彼女はピクリとも動かない。いや、骨折と痺れで動きたくても動けないのだ。
やっとの事で呼吸をし、弱々しく上下に動くクイーンの背中。そこへタイラントの大きな足が容赦なく迫る。
(もはや……これまで……か。む、無念じゃ)
タイラントは全体重を掛けてクイーンの背中を踏みつけた。
グシャ。
メキッ。
「くああぁぁぁぁ」
どうやら背骨にヒビが入ったらしく、クイーンは血を吐く様な悲鳴をあげて力尽きた。
「どうやら、これでトドメのようだな」
「もう終わりか。少し呆気ないように思えるが、まあ良いだろう」
「あのオンナにカワり、オレたちはチキュウをマモるウルトラセンキをゾンブンにいやぶってやるか。エモノはイきがヨいホド、いたぶりガイがあるからなぁ」
「お前も好きだな。女をいたぶるのが」
「ウルトラセンキはスベてテキだ。ハツラツとしたニクタイをキズつけ、ウチュウのヘイワをマモるというセイギヅラをクツウにユガませ、ゾンブンにハズカシめる。フネンショウギミなウルトラクイーンへのウラみにカワり、これからのターゲットはウルトラセンキたちだ」
三人の宇宙人とタイラントが慰霊惑星クレイヴヤードから姿を消してから数時間後。
短かった日照時間が終わり、再び星は夜の闇に包まれていた。
(うぐッ……。ど、どうやら毒ガスの効き目が薄れてきたようじゃな。あんな小細工に引っ掛かるとは、前戦での活動から退いたブランクは如何ともし難いのう)
どうにか両腕が動かせるまでに体力が回復したクイーンは全身の痛み耐えながら、宇宙警備隊長のウルトラレディ・シルフィーに宛てた【ウルトラサイン】を送った。
慰霊惑星クレイヴヤードにて異常事態発生。怪獣たちの残留思念が実態化したタイラントなる怪獣が現れた。
この一件にはアルファキラーたちが絡んでいる。次に狙われるのは地球を守るウルトラ戦姫たちとも思われる。
クレイヴヤードから地球までの全宙域に万全な警戒態勢を敷き、地球のシャインたちにも連絡を入れよ。
ヒッポリト星人、テンペラー星人、アルファキラーも一緒に行動している。警戒怠るべからず。
持てる力を使いきったクイーンは再び意識を失った。
数十分後。
このサインを受信したシルフィーは亜空間飛行でクレイヴヤードへ向かい、そこに満身創痍のウルトラクイーンを発見した。
傷ついたクイーンの姿に驚きながらも、シルフィーは宇宙銀十時病院へクイーンを搬送。ウルトラレディ・マリア=ウルトラマザーに助けを求めた。
万全の治療によって幸いにも一命は取り留めたが、それでも意識不明のまま昏睡状態が続く危険な状態だと言う。
改めて事の重大さを理解したシルフィーは地球で生活するシャインたちへクイーンからのメッセージを伝えた後、ただちに宇宙警備隊の精鋭メンバーを引き連れ、タイラント討伐に出掛けた。
悲劇と血と暴力に彩られた血みどろの戦いの幕開けであった。
シルフィーたちが宇宙警備隊本部を出発した頃、タイラントは単身地球に向かっていた。
毒ガスの影響によって目覚めた知能水準は再び下がり始めたが、それでも破壊本能だけは衰えていない。
ウルトラクイーンを徹底的に痛めつけた時に荒ぶりはじめたベムスターやレッドキングの魂が破壊を求めて止まないのだ。
僅かに残った知性がアルファキラーの発した「地球」という単語を覚えているのか、無意識のうちにタイラントは地球を目指しているらしい。
道すがら、タイラントは獰猛な目つきで獲物を探しつつ、暗黒の宇宙空間を我がもの顔で飛び回っていた。
テンペラー星人、ヒッポリト星人、アルファキラーだが、誰がタイラントを手下にするかで口論となり、最終的には喧嘩別れしてしまった。
事実は、興奮しながら大声で罵り合うさ3人にイライラしたタイラントが自慢の尾でテンペラー星人たちに不意打ちを仕掛けてKOしたのだが……。
3人が意識を取り戻した時、すでにタイラントの姿はなかった。
~「ウルトラ姉妹を超えて行け!」第1話へ続く~
【あとがき】
前後編となってしまった「ウルトラ姉妹を超えて行け!」の二次創作SSを最後まで読んで下さった皆様へ、まずは御礼申し上げます。
今回もツッコミ所の多い内容かも知れませんが、原作に敬意を払い誠心誠意を込めて書きました。筆の足りない箇所については自分の力不足を詫びるしかありません。
特にa-ru氏の原作と矛盾する部分が出てしまった事については、二次創作許可を頂きながら申し訳なく思います。
細かい点まで理屈づけをした為、苦しい設定(毒ガス免疫の件やウルトラクイーンが弱くなる理由)が次々と増えてしまい、この辺の処理が自分でも下手だと思いました。簡潔な文章で物語を展開する書き方については、良質なSSを読んで文章技術を学ばせて頂こうと思います。なお、理数系は昔から大の苦手で、本文中にある「前頭葉と知性の関係」は不正確な知識に拠るものである事を白状しておきます。
前編を書いていた時は「タイラント&アルファキラーがウルトラクイーンを苦しめる」予定でしたが、思う所あり、結局はタイラントの一人舞台に変更しました。細部まで物語を考えずに大まかな概要が出来た時点で見切り発車し、細部は本文を書きながら適宜補足していく欠点が露呈した結果とも言えますが……。
肉弾戦をメインとする筈が骨折ネタに始終してしまったのも反省点です。言うまでもありませんが、徹底的な骨折ネタは「ドラゴンボール」(孫悟空VSベジータ戦)を意識しました。
いろいろ至らない点はありますが、念願だったウルトラクイーンのヒロピン場面を書く事ができて楽しかったです。
なお、この作品はa-ru氏による二次創作SS「ウルトラ姉妹を超えて行け!」の前日譚をイメージしたものであり、原作者の許可を得て「アナザーストーリー」として書かせて頂きました。
ウルトラ戦姫とタイラントの壮絶な戦いは、こちらへアクセスして下さい(閲覧にはサイトへの登録が必要です)。
【謝辞】
らすP氏とa-ru氏の御二人より二次創作許可を頂きました。記して感謝致します。
【追記】
ある方より、「「ウルトラ姉妹を超えて行け!」はゴルゴタ編(=アルファキラー編)の後の時系列なので、アルファキラーがウルトラ戦姫に恨みを抱く理由は矛盾している」との御指摘を頂きました。指摘を受けたのは「ウルトラクイーンに恨みを晴らせなかったアルファキラーが、怒りの矛先を地球のウルトラ姉妹へ向ける」という箇所です。a-ru氏へも問い合わせ、この設定では時系列的に齟齬が出る事を確認しました。原作の設定を無視する致命的なミスを犯してしまった事、二次創作を快く許可して下さいましたa-ru氏と本編を読んで下さった皆様に深くお詫び申し上げます。(2011年4月19日・記)
ウルトラ姉妹を超えて行け! 序章 ~First Contact~(前編)
【空想巨大ヒロインシリーズ ウルトラ戦姫】
「ウルトラ姉妹を超えて行け! 序章 ~First Contact~(前編)」
原 案:らすP
原 作:a-ru(「ウルトラ姉妹を超えて行け!」より)
イラスト:a-ru
文 章:新 京史朗
太陽系のはずれに位置する慰霊惑星グレイヴヤード。
ここは生命(いのち)を全うできなかった怪獣の霊を慰め弔って成仏させる場所であり、宇宙の霊域とも呼ばれている。
かつては管理人不在の無法地帯であったが、不慮の死を遂げた怪獣達の残留思念が実体化し、偶然の事故から地球へ運ばれ大騒動になった「シーボーズ事件」を契機に管理人配置案が宇宙警備隊本部へ提出された。
辺鄙な場所にある不気味な慰霊惑星という場所がらの為、誰一人として管理人役を立候補する者はおらず、最終的に「半年交代の当番制」という事で話がまとまろうとしていたところ、一人の女性が会議室に姿を現し自ら管理人業務を引き受けると言った。
その女性とは誰あろう、ウルトラ族伝説の超人ウルトラクイーンである。
光の国のプラズマスパーク建設に尽力し、数々の武勲と功績を残すウルトラ長老の一人としてウルトラ戦姫たちから神格化され、銀河の女帝とも呼ばれていた。
宇宙警備隊長ウルトラレディ・シルフィーの話によれば、この時、シルフィーを始めとする首脳幹部一同は席から立ち上り彼女を最敬礼で迎えたと言う。
これも後にシルフィーが妹たちに語った話だが、クイーンが宇宙警備隊本部を訪れたのは、資源豊富な地球を植民惑星にしようと企む凶悪宇宙人や知的宇宙怪獣が侵略作戦を画策している事が分かり、地球警備問題について相談する為だったそうだ。
ウルトラ姉妹が揃って地球へ派遣されたのも、この時のクイーンの危惧が的中した結果なのである。
それはともかく、伝説のウルトラ戦姫に墓守のような仕事を押し付けるのは申し訳ないと幹部たちは恐縮しながらも意見をしたが、結局は「前線で働くのは若い者の役目。自分のような引退者は影の仕事に徹するべきだ」と主張するクイーンの意思を汲み、彼女にグレイヴヤードの管理を一任する事となった。
太陽系の果てにあるグレイブヤードは日照時間が極めて短く、一日の大半は夜の帳によって支配されている。
それが慰霊惑星の不気味さを強調し、別名「怪獣墓場」とも呼ばれる所以となった。
ある日の事。
ギャゥオオオン。
徐々に明るくなり始めた地平線の彼方から、突如として荒々しい獣の咆哮が聞こえてきた。
「なにごとか」
時ならぬ獣の咆哮に目を覚ましたクイーンは監視塔を飛び出した。
周囲を見廻すと、僅かに明るい空の向こうから飛んでくる巨大な影が見える。
「な、なんじゃ……あれは」
この星には自分以外の生命体は存在しない筈。そう思っていたクイーンは目をこらして飛来する影を見つめたが、飛行物体の輪郭をハッキリと確認できた時、滅多な事では驚かない歴戦の戦姫ですら言葉を失った。
暁の寒空を猛スピードで飛行するのは獰猛な顔つきの怪獣であった。側面に鋭い棘が植わった長い尾を垂らしながら、ものすごい早さでグレイヴヤード監視塔に近づいてくる。
荒涼とした大地に聳え立つ唯一の人工物に興味を持ったのだろう。未知の物に関心を抱き近寄ってくる事から一応の知性はあるようだ。
怪獣とクイーンの距離が見る見る縮まっていく。
「来るなッ」
次の瞬間、遂に怪獣が彼女の目の前に降りて来た。
ズシン。
怪獣の両足が大地にめり込み周囲を大きく揺らす。
「こやつはシーゴラス。いやッ、違う。あの両腕はバラバのようじゃな。ボディはベムスターに似ておる。それに足はレッドキングそっくりじゃ」
ギャゥオオオン。
大きく口を開けて鋭い牙を見せながら甲高い鳴き声で相手を威嚇する怪獣。その姿を冷静に分析したクイーンは、ある結論に達した。
「こやつ、もしかしたら」
ギャゥオオオン。
三度、怪獣の咆哮が響きわたる。
「シャインたちに退治された怪獣達の残留思念が歪んだ形で実体化した合体怪獣か」

(C)a-ru
そう言えば、クイーンには思い当たる事があった。
怨念を持った怪獣たちの霊魂を一ヶ所に集め、各怪獣の強い部分(パーツ)だけを合体させた新生物を実体化させる禁断の黒魔術。
ここには彷徨える霊魂を呼び集めて供養する慰霊区域があり、惑星自体も墓場化している影響で霊が集まりやすくなっている。
(何者か慰霊区域の神殿を使ってウルトラ姉妹に倒された怪獣達の霊魂を呼び集め、このような合体の秘術を行ったに違いあるまい。それにしても不覚じゃ。ワシがおりながら無法者の侵入を許すとは……。やはり年かのう)
自嘲気味に心の中で独ち言ちた時、背後から何者かが声をかけてきた。
「フフフフ。久しぶりよのぁ、ウルトラクイーン」
「何者じゃ」
「フオッフオッフオ。我らの顔、よもや忘れたとは言わさぬぞ」
「お、お主らは……」
「・・・キサマにつけられたヒタイのキズのイタミ、イマもオレをクルシめる。コンドはオレがキサマのカラダにイタみをキザんでやろう」
振り返ると、そこには三人の宇宙人が佇んでいた。そのうち二人は不敵な笑みを浮かべている。
「テンペラー星人にヒッポリト星人にアルファキラー。お歴々の極悪宇宙人御一行の侵入を許すとは一生の不覚じゃ」
「お主が老いたわけではない。筋肉弛緩効果と神経麻痺効果を多様に含む毒ガスを星全体に撒き散らしたのだ。その影響で我らの気配を察知する事もできなかっただけの事」
「何ッ!」
「試しに体を動かしてみるがよい。いつもより強い倦怠感を感じ、思うように動かせぬ筈だ」
「なるほど。どうも体がダルいと思っておったら、そのような小細工をしておったのか」
「ウルトラ戦姫として絶頂期だったお主に敗北の屈辱を喫してから幾星霜。我がヒッポリト星の最新化学兵器、テンペラー星人の魔力、アルファキラーの戦闘分析能力を一つにし、今ここに積年の恨みを晴らさんと参上したのだ」
得意気になって話すヒッポリト星人。彼の長口上を脇で聞いていたテンペラー星人は苦笑しながら口をはさんだ。
「その大時代なセリフ、何とかならんのか。まるで仇打ちみたいな言い方ではないか」
「おマエがイうな。マッタく、ここでまともなのはオレだけのようだな」
無表情なアルファキラーが馬鹿にしたような口調で言った。
「口のきき方に気をつけろ、この若造が」
「自分に自信を持つのは結構だが、謙虚さを忘れてはならぬ。お主に足りぬ事は忍耐と謙虚の二文字のようだ」
「トシヨりのセッキョウはキきアキた。ダイイチ、カコのシリョウからウルトラクイーンのセントウノウリョクをブンセキしたのはオレだ。イチバンのコウロウシャはオレだぞ」
「だが、タイラントを生み出したのは私だ」
「そのタイラントを誕生させる舞台を用意したのは誰あろう私である。彼女の敏感な危機察知能力を鈍らせたのも私であり、だからこそ怪獣墓場へ侵入できたのだ」
目の前でコントのような会話を繰り広げる三人を見て、クイーンは一瞬、彼らが幾つのも惑星を征服、壊滅させてきた極悪宇宙人である事を忘れてしまった。
(こやつら、漫才トリオでも結成した方がよいのではないか)
一方の怪獣は退屈そうに首を揺らし、三白眼の両目でクイーンたちを見ている。
「まあいい。お前の口の悪さは承知のうえだ、ここでくだらん言い争いをしている余裕はない」
「左様」
「そうだな。まずはクイーンのカラダにオレとオナじイタミをアジわわせるコトがサキだ」
これまでとは雰囲気を一転させ、テンペラー星人たちはクイーンを睨みつけた。
「さあ、どうするね。ウルトラ族最強の女王様。我々三人とタイラントを相手にしては、さすがのウルトラクイーンでも勝ち目はないぞ」
「スウヒャクネンマエのオレイ、タップリとノシをツけてカエしてやる。カクゴするんだな」
「この慰霊惑星を墓所に永遠(とわ)の眠りにつくがよい」
「フッ。一人では勝てぬと分かり徒党を組んでの襲撃か。こんな化け物まで作りだし、女一人をリンチにかけようとは見下げた悪党どもじゃ。卑怯な臆病者が何人集まろうと臆するワシではない」
「言いたい事はそれだけか」
「ああ、これだけじゃ」
「それでは遠慮なく行くぞ。まずはタイラント、お前の出番だ」
ギャゥオオオン。
テンペラー星人が命令すると、それまで茫然と佇んでいたタイラントが激しく一声鳴いてクイーンに襲いかかってきた。
「たわけがッ」
振り下ろされる左手のハンマーを軽やかなステップでかわし、クイーンはタイラントのボディに強烈なパンチをくらわせた。
グモォォォ。
少女のような容姿からは考えられないスピードとパワー。全盛期を過ぎたとはいえ、パワーを抑えての戦闘力でさえ現役ウルトラ戦姫の誰よりも遥かに高い。
自分の二倍はあるタイラントの巨体に臆せずオフェンスを仕掛けるクイーン。パンチの一発、キックの一発が確実にダメージを与えていく。
ギシェェェ。
遂にタイラントの声が断末魔に近くなった。このままでは倒されるのも時間の問題だ。
「やはり生まれたてのタイラントでは百戦錬磨のクイーンには勝てぬようだな」
「知性も戦闘能力も未熟な状態だ、仕方なかろう」
「では、オレがテダスけしてやるか。フタリとも、イゾンなナいな」
「その言い方が気にくわんが、まあいい」
「お主の好きにするがよい」
(クックックッ。このトキをマちわびたぞ。ウルトラクイーン、キサマのセントウデーターはスベてカイセキしてある。ブザマにハイボクするスガタ、コンドはキサマがミせるバンだ)
(くッ。だんだん体が重くなってくる。どうやらヒッポリトの散布した毒ガスが効いてきたようじゃ……。このまま戦いを長引かせては不利になる。仕方がない。今の状態では体力の消耗が激しそうじゃがバトルフォームに変身して一気にカタをつけるしかないようじゃの)
長期戦を避ける為、ウルトラクイーンはバトルフォームに変身する事を決めた。
「はッ」
グゲァァァ。
強烈なキックでタイラントの体を数十メートル先まで蹴り飛ばしたクイーンは僅かな時間を利用し、普段は体内に封じているエネルギーを全開放した。
次の瞬間、クイーンの全身が金色(こんじき)の光に包まれ、周囲は目も開けられない明るさになる。
「な、何事だ」
「どうやら秘めていた力を解放させたようだ」
「・・・・・・」
まばゆい光が消え去った時、小柄な少女にしか見えなかったクイーンに代わって、グラマラスな肉体の美しい女性が姿を現した。
豊満な乳房は小さな胸当てによって辛うじて乳首周辺が隠され、レオタード衣装は長身化によって破けてしまったのか股間部分を僅かに隠す程度の布切れと化している。
「ふうっ。この姿になるのは百年ぶりじゃのう」
バトルフォームとなったクイーンは軽く肩を動かしながら、
「あやつを倒した後は主たちの番じゃ。今度は容赦せぬぞ、覚悟しておれ」
テンペラー星人たちを一睨みした後、クイーンは怒りの形相で迫り来るタイラントに視線を戻した。
ギャゥオオオン。
クイーンの容赦ない猛攻撃によって手負いとなったタイラントは威嚇するような荒々しい鳴き声を発した後、口を大きく開いて灼熱の炎を吐き出した。
ゴオォォォ~。
「フッ。こんな炎に驚くワシではない」
パッと大地を蹴って飛び上がり、クイーンはタイラントの吐き出す業火を避ける。
「馬鹿め。空に逃げ道を求めるとは狙ってくれと言っているようなものだ」
テンペラー星人は笑いながら言うが、傍らのアルファキラーは苦笑しながら心の中で嘲った。
(オロかモノはキサマだ。クイーンがジョウクウにノガれたのはサクセンなのだ。ムボウビなトコロをミギテのクサリガマでネラわせ、オソいくるクサリをトラえてタイラントのウゴきをフウじ、キュウショのノウテンへコウゲキするサンダンにチガいない。あのコウゲキリョクであればカタいヒフゴしでもノウシントウをオこさせるのはゾウサないコトだろう)
クイーンが上空へ逃がれたのはアルファキラーの考えた通りだった。彼女は鋭いカマを捌いて鎖を腕に絡ませタイラントの動きを封じ、ウルトラレディ・レオナに伝授してやったダイナマイト・キックで脳天を砕こうと計算していたのだ。
(さあ、右手の鎖ガマでワシを狙ってこい)
(クックック。ハカるつもりがハカられる。どうやら、ヒッポリトのコザイクはムダではナかったようだ。あのオンナのイシキはメのマエのタイラントにだけシュチュウし、ワレワレのソンザイをカンゼンにワスれている。チュウイリョクとシコウノウリョクがイチジルしくテイカしたウルトラクイーン、オソるるにタらずだ)
~後編に続く~
【あとがき】
a-ru氏がpixivへ発表されたSS「ウルトラ姉妹を超えて行け!」のプロローグを書かせて頂きました。
オリジナルSSの二次創作を許可して下さったa-ru氏には厚く御礼申し上げます。
当初の予定では、第2話の本文中で僅かに記述のあった「ウルトラクイーンがタイラントに敗北した」場面を詳しく描く予定だったのですが、あれこれ細かい所を書き込んでいるうちに内容が大きく膨らみ過ぎてしまい、遂にはテンペラー星人たちまで登場させてしまいました……。
ヒロピンシーンへの導入部にあたる前編が書き終ったので、いよいよ後編では最強のウルトラ戦姫が大ピンチに陥る場面を書く事ができます。
一人の女性を大勢で痛めつけるリンチは好きではないので、アルファキラーとタイラントが二人がかりでクイーンを襲うような戦闘シーンにしようと思います(イメージ的には「ブラックキング&ナックル星人VS新マン」のシチュエーションです)。
らすP氏の「ウルトラレディ」シリーズには熱烈なファンが多く、優れた二次創作作品も多数あるので、目の肥えたファンの方々から「原作レイプだ」と言われないよう精一杯努力します。
もっとも、このSSを読んで下さる方がいればの話ですが……。
【謝辞】
らすP氏とa-ru氏の御二人より、二次創作許可とイラスト転載の許可を頂きました。記して感謝致します。
「ウルトラ姉妹を超えて行け! 序章 ~First Contact~(前編)」
原 案:らすP
原 作:a-ru(「ウルトラ姉妹を超えて行け!」より)
イラスト:a-ru
文 章:新 京史朗
太陽系のはずれに位置する慰霊惑星グレイヴヤード。
ここは生命(いのち)を全うできなかった怪獣の霊を慰め弔って成仏させる場所であり、宇宙の霊域とも呼ばれている。
かつては管理人不在の無法地帯であったが、不慮の死を遂げた怪獣達の残留思念が実体化し、偶然の事故から地球へ運ばれ大騒動になった「シーボーズ事件」を契機に管理人配置案が宇宙警備隊本部へ提出された。
辺鄙な場所にある不気味な慰霊惑星という場所がらの為、誰一人として管理人役を立候補する者はおらず、最終的に「半年交代の当番制」という事で話がまとまろうとしていたところ、一人の女性が会議室に姿を現し自ら管理人業務を引き受けると言った。
その女性とは誰あろう、ウルトラ族伝説の超人ウルトラクイーンである。
光の国のプラズマスパーク建設に尽力し、数々の武勲と功績を残すウルトラ長老の一人としてウルトラ戦姫たちから神格化され、銀河の女帝とも呼ばれていた。
宇宙警備隊長ウルトラレディ・シルフィーの話によれば、この時、シルフィーを始めとする首脳幹部一同は席から立ち上り彼女を最敬礼で迎えたと言う。
これも後にシルフィーが妹たちに語った話だが、クイーンが宇宙警備隊本部を訪れたのは、資源豊富な地球を植民惑星にしようと企む凶悪宇宙人や知的宇宙怪獣が侵略作戦を画策している事が分かり、地球警備問題について相談する為だったそうだ。
ウルトラ姉妹が揃って地球へ派遣されたのも、この時のクイーンの危惧が的中した結果なのである。
それはともかく、伝説のウルトラ戦姫に墓守のような仕事を押し付けるのは申し訳ないと幹部たちは恐縮しながらも意見をしたが、結局は「前線で働くのは若い者の役目。自分のような引退者は影の仕事に徹するべきだ」と主張するクイーンの意思を汲み、彼女にグレイヴヤードの管理を一任する事となった。
太陽系の果てにあるグレイブヤードは日照時間が極めて短く、一日の大半は夜の帳によって支配されている。
それが慰霊惑星の不気味さを強調し、別名「怪獣墓場」とも呼ばれる所以となった。
ある日の事。
ギャゥオオオン。
徐々に明るくなり始めた地平線の彼方から、突如として荒々しい獣の咆哮が聞こえてきた。
「なにごとか」
時ならぬ獣の咆哮に目を覚ましたクイーンは監視塔を飛び出した。
周囲を見廻すと、僅かに明るい空の向こうから飛んでくる巨大な影が見える。
「な、なんじゃ……あれは」
この星には自分以外の生命体は存在しない筈。そう思っていたクイーンは目をこらして飛来する影を見つめたが、飛行物体の輪郭をハッキリと確認できた時、滅多な事では驚かない歴戦の戦姫ですら言葉を失った。
暁の寒空を猛スピードで飛行するのは獰猛な顔つきの怪獣であった。側面に鋭い棘が植わった長い尾を垂らしながら、ものすごい早さでグレイヴヤード監視塔に近づいてくる。
荒涼とした大地に聳え立つ唯一の人工物に興味を持ったのだろう。未知の物に関心を抱き近寄ってくる事から一応の知性はあるようだ。
怪獣とクイーンの距離が見る見る縮まっていく。
「来るなッ」
次の瞬間、遂に怪獣が彼女の目の前に降りて来た。
ズシン。
怪獣の両足が大地にめり込み周囲を大きく揺らす。
「こやつはシーゴラス。いやッ、違う。あの両腕はバラバのようじゃな。ボディはベムスターに似ておる。それに足はレッドキングそっくりじゃ」
ギャゥオオオン。
大きく口を開けて鋭い牙を見せながら甲高い鳴き声で相手を威嚇する怪獣。その姿を冷静に分析したクイーンは、ある結論に達した。
「こやつ、もしかしたら」
ギャゥオオオン。
三度、怪獣の咆哮が響きわたる。
「シャインたちに退治された怪獣達の残留思念が歪んだ形で実体化した合体怪獣か」

(C)a-ru
そう言えば、クイーンには思い当たる事があった。
怨念を持った怪獣たちの霊魂を一ヶ所に集め、各怪獣の強い部分(パーツ)だけを合体させた新生物を実体化させる禁断の黒魔術。
ここには彷徨える霊魂を呼び集めて供養する慰霊区域があり、惑星自体も墓場化している影響で霊が集まりやすくなっている。
(何者か慰霊区域の神殿を使ってウルトラ姉妹に倒された怪獣達の霊魂を呼び集め、このような合体の秘術を行ったに違いあるまい。それにしても不覚じゃ。ワシがおりながら無法者の侵入を許すとは……。やはり年かのう)
自嘲気味に心の中で独ち言ちた時、背後から何者かが声をかけてきた。
「フフフフ。久しぶりよのぁ、ウルトラクイーン」
「何者じゃ」
「フオッフオッフオ。我らの顔、よもや忘れたとは言わさぬぞ」
「お、お主らは……」
「・・・キサマにつけられたヒタイのキズのイタミ、イマもオレをクルシめる。コンドはオレがキサマのカラダにイタみをキザんでやろう」
振り返ると、そこには三人の宇宙人が佇んでいた。そのうち二人は不敵な笑みを浮かべている。
「テンペラー星人にヒッポリト星人にアルファキラー。お歴々の極悪宇宙人御一行の侵入を許すとは一生の不覚じゃ」
「お主が老いたわけではない。筋肉弛緩効果と神経麻痺効果を多様に含む毒ガスを星全体に撒き散らしたのだ。その影響で我らの気配を察知する事もできなかっただけの事」
「何ッ!」
「試しに体を動かしてみるがよい。いつもより強い倦怠感を感じ、思うように動かせぬ筈だ」
「なるほど。どうも体がダルいと思っておったら、そのような小細工をしておったのか」
「ウルトラ戦姫として絶頂期だったお主に敗北の屈辱を喫してから幾星霜。我がヒッポリト星の最新化学兵器、テンペラー星人の魔力、アルファキラーの戦闘分析能力を一つにし、今ここに積年の恨みを晴らさんと参上したのだ」
得意気になって話すヒッポリト星人。彼の長口上を脇で聞いていたテンペラー星人は苦笑しながら口をはさんだ。
「その大時代なセリフ、何とかならんのか。まるで仇打ちみたいな言い方ではないか」
「おマエがイうな。マッタく、ここでまともなのはオレだけのようだな」
無表情なアルファキラーが馬鹿にしたような口調で言った。
「口のきき方に気をつけろ、この若造が」
「自分に自信を持つのは結構だが、謙虚さを忘れてはならぬ。お主に足りぬ事は忍耐と謙虚の二文字のようだ」
「トシヨりのセッキョウはキきアキた。ダイイチ、カコのシリョウからウルトラクイーンのセントウノウリョクをブンセキしたのはオレだ。イチバンのコウロウシャはオレだぞ」
「だが、タイラントを生み出したのは私だ」
「そのタイラントを誕生させる舞台を用意したのは誰あろう私である。彼女の敏感な危機察知能力を鈍らせたのも私であり、だからこそ怪獣墓場へ侵入できたのだ」
目の前でコントのような会話を繰り広げる三人を見て、クイーンは一瞬、彼らが幾つのも惑星を征服、壊滅させてきた極悪宇宙人である事を忘れてしまった。
(こやつら、漫才トリオでも結成した方がよいのではないか)
一方の怪獣は退屈そうに首を揺らし、三白眼の両目でクイーンたちを見ている。
「まあいい。お前の口の悪さは承知のうえだ、ここでくだらん言い争いをしている余裕はない」
「左様」
「そうだな。まずはクイーンのカラダにオレとオナじイタミをアジわわせるコトがサキだ」
これまでとは雰囲気を一転させ、テンペラー星人たちはクイーンを睨みつけた。
「さあ、どうするね。ウルトラ族最強の女王様。我々三人とタイラントを相手にしては、さすがのウルトラクイーンでも勝ち目はないぞ」
「スウヒャクネンマエのオレイ、タップリとノシをツけてカエしてやる。カクゴするんだな」
「この慰霊惑星を墓所に永遠(とわ)の眠りにつくがよい」
「フッ。一人では勝てぬと分かり徒党を組んでの襲撃か。こんな化け物まで作りだし、女一人をリンチにかけようとは見下げた悪党どもじゃ。卑怯な臆病者が何人集まろうと臆するワシではない」
「言いたい事はそれだけか」
「ああ、これだけじゃ」
「それでは遠慮なく行くぞ。まずはタイラント、お前の出番だ」
ギャゥオオオン。
テンペラー星人が命令すると、それまで茫然と佇んでいたタイラントが激しく一声鳴いてクイーンに襲いかかってきた。
「たわけがッ」
振り下ろされる左手のハンマーを軽やかなステップでかわし、クイーンはタイラントのボディに強烈なパンチをくらわせた。
グモォォォ。
少女のような容姿からは考えられないスピードとパワー。全盛期を過ぎたとはいえ、パワーを抑えての戦闘力でさえ現役ウルトラ戦姫の誰よりも遥かに高い。
自分の二倍はあるタイラントの巨体に臆せずオフェンスを仕掛けるクイーン。パンチの一発、キックの一発が確実にダメージを与えていく。
ギシェェェ。
遂にタイラントの声が断末魔に近くなった。このままでは倒されるのも時間の問題だ。
「やはり生まれたてのタイラントでは百戦錬磨のクイーンには勝てぬようだな」
「知性も戦闘能力も未熟な状態だ、仕方なかろう」
「では、オレがテダスけしてやるか。フタリとも、イゾンなナいな」
「その言い方が気にくわんが、まあいい」
「お主の好きにするがよい」
(クックックッ。このトキをマちわびたぞ。ウルトラクイーン、キサマのセントウデーターはスベてカイセキしてある。ブザマにハイボクするスガタ、コンドはキサマがミせるバンだ)
(くッ。だんだん体が重くなってくる。どうやらヒッポリトの散布した毒ガスが効いてきたようじゃ……。このまま戦いを長引かせては不利になる。仕方がない。今の状態では体力の消耗が激しそうじゃがバトルフォームに変身して一気にカタをつけるしかないようじゃの)
長期戦を避ける為、ウルトラクイーンはバトルフォームに変身する事を決めた。
「はッ」
グゲァァァ。
強烈なキックでタイラントの体を数十メートル先まで蹴り飛ばしたクイーンは僅かな時間を利用し、普段は体内に封じているエネルギーを全開放した。
次の瞬間、クイーンの全身が金色(こんじき)の光に包まれ、周囲は目も開けられない明るさになる。
「な、何事だ」
「どうやら秘めていた力を解放させたようだ」
「・・・・・・」
まばゆい光が消え去った時、小柄な少女にしか見えなかったクイーンに代わって、グラマラスな肉体の美しい女性が姿を現した。
豊満な乳房は小さな胸当てによって辛うじて乳首周辺が隠され、レオタード衣装は長身化によって破けてしまったのか股間部分を僅かに隠す程度の布切れと化している。
「ふうっ。この姿になるのは百年ぶりじゃのう」
バトルフォームとなったクイーンは軽く肩を動かしながら、
「あやつを倒した後は主たちの番じゃ。今度は容赦せぬぞ、覚悟しておれ」
テンペラー星人たちを一睨みした後、クイーンは怒りの形相で迫り来るタイラントに視線を戻した。
ギャゥオオオン。
クイーンの容赦ない猛攻撃によって手負いとなったタイラントは威嚇するような荒々しい鳴き声を発した後、口を大きく開いて灼熱の炎を吐き出した。
ゴオォォォ~。
「フッ。こんな炎に驚くワシではない」
パッと大地を蹴って飛び上がり、クイーンはタイラントの吐き出す業火を避ける。
「馬鹿め。空に逃げ道を求めるとは狙ってくれと言っているようなものだ」
テンペラー星人は笑いながら言うが、傍らのアルファキラーは苦笑しながら心の中で嘲った。
(オロかモノはキサマだ。クイーンがジョウクウにノガれたのはサクセンなのだ。ムボウビなトコロをミギテのクサリガマでネラわせ、オソいくるクサリをトラえてタイラントのウゴきをフウじ、キュウショのノウテンへコウゲキするサンダンにチガいない。あのコウゲキリョクであればカタいヒフゴしでもノウシントウをオこさせるのはゾウサないコトだろう)
クイーンが上空へ逃がれたのはアルファキラーの考えた通りだった。彼女は鋭いカマを捌いて鎖を腕に絡ませタイラントの動きを封じ、ウルトラレディ・レオナに伝授してやったダイナマイト・キックで脳天を砕こうと計算していたのだ。
(さあ、右手の鎖ガマでワシを狙ってこい)
(クックック。ハカるつもりがハカられる。どうやら、ヒッポリトのコザイクはムダではナかったようだ。あのオンナのイシキはメのマエのタイラントにだけシュチュウし、ワレワレのソンザイをカンゼンにワスれている。チュウイリョクとシコウノウリョクがイチジルしくテイカしたウルトラクイーン、オソるるにタらずだ)
~後編に続く~
【あとがき】
a-ru氏がpixivへ発表されたSS「ウルトラ姉妹を超えて行け!」のプロローグを書かせて頂きました。
オリジナルSSの二次創作を許可して下さったa-ru氏には厚く御礼申し上げます。
当初の予定では、第2話の本文中で僅かに記述のあった「ウルトラクイーンがタイラントに敗北した」場面を詳しく描く予定だったのですが、あれこれ細かい所を書き込んでいるうちに内容が大きく膨らみ過ぎてしまい、遂にはテンペラー星人たちまで登場させてしまいました……。
ヒロピンシーンへの導入部にあたる前編が書き終ったので、いよいよ後編では最強のウルトラ戦姫が大ピンチに陥る場面を書く事ができます。
一人の女性を大勢で痛めつけるリンチは好きではないので、アルファキラーとタイラントが二人がかりでクイーンを襲うような戦闘シーンにしようと思います(イメージ的には「ブラックキング&ナックル星人VS新マン」のシチュエーションです)。
らすP氏の「ウルトラレディ」シリーズには熱烈なファンが多く、優れた二次創作作品も多数あるので、目の肥えたファンの方々から「原作レイプだ」と言われないよう精一杯努力します。
もっとも、このSSを読んで下さる方がいればの話ですが……。
【謝辞】
らすP氏とa-ru氏の御二人より、二次創作許可とイラスト転載の許可を頂きました。記して感謝致します。
砂浜で苦悶する女性捜査官
惨殺KO技で有名な2D対戦格闘ゲーム「モータルコンバット」が業務用ゲームソフトとして発売されたのは、今から20年近く前の事です。
実写取り込みのキャラクター(国内ソフトで有名なタイトルは「ツインゴデッス」や「STREET FIGHTER REAL BATTLE ON FILM」でしょうか)が奇想天外なバトルを繰り広げる異色の格闘ゲームはアメリカで開発され、日本へは1993年に輸入されました。
対戦相手を残虐な方法で殺害する演出はSNK(現・SNKプレイモア)の「サムライスピリッツ」や「幕末浪漫 月下の剣士」にも見られますが、その源流は「モータルコンバット」シリーズのトドメ専用技「フェイタリティー」に影響を受けていると思われます。
この「モータルコンバット」ですが意外にも玄人筋にはウケが良かったのか、シリーズ作品が続々と発売され、近年はDetective Comics社の人気キャラクターとも共演しています。
マルチメディア展開も行われており、オリジナルストーリーのコミックスだけでなく、映画やドラマも製作されました。
映画版の第1作「モータルコンバット」は1995年にアメリカで製作されましたが、本作ではブリジット・ウィルソンが演じる女性捜査官ソニアの悶え苦しむ姿が見られます。
個人的には色気のあるヒロインとは思えませんでしたが……。腹を蹴られて苦しげに呻く姿はリョナ度の高いショットでした。
伝説の格闘技大会【モータル・コンバット】へ参戦したソニアの対戦相手はカノウ。彼こそ、ソニアが追っている犯罪組織の幹部でした。
因縁のある二人は砂浜の闘技場で激しい戦いを繰り広げます。

(C)ワーナーエンターテイメントジャパン
先制攻撃を仕掛けたソニアの猛攻に防戦一方だったカノウですが、キックを繰り出す足を捕えてソニアを転倒させ、起き上がろうとした彼女の腹部に強烈な一撃をくらわせました。
カノウの重い蹴りにソニアは苦悶の表情を浮かべながら苦しそうに呻きます。
そんなソニアを見下しながらトドメをさそうとするカノウ。しかし、ソニアの反撃によって逆転KOされました。

(C)ワーナーエンターテイメントジャパン

(C)ワーナーエンターテイメントジャパン
実写取り込みのキャラクター(国内ソフトで有名なタイトルは「ツインゴデッス」や「STREET FIGHTER REAL BATTLE ON FILM」でしょうか)が奇想天外なバトルを繰り広げる異色の格闘ゲームはアメリカで開発され、日本へは1993年に輸入されました。
対戦相手を残虐な方法で殺害する演出はSNK(現・SNKプレイモア)の「サムライスピリッツ」や「幕末浪漫 月下の剣士」にも見られますが、その源流は「モータルコンバット」シリーズのトドメ専用技「フェイタリティー」に影響を受けていると思われます。
この「モータルコンバット」ですが意外にも玄人筋にはウケが良かったのか、シリーズ作品が続々と発売され、近年はDetective Comics社の人気キャラクターとも共演しています。
マルチメディア展開も行われており、オリジナルストーリーのコミックスだけでなく、映画やドラマも製作されました。
映画版の第1作「モータルコンバット」は1995年にアメリカで製作されましたが、本作ではブリジット・ウィルソンが演じる女性捜査官ソニアの悶え苦しむ姿が見られます。
個人的には色気のあるヒロインとは思えませんでしたが……。腹を蹴られて苦しげに呻く姿はリョナ度の高いショットでした。
伝説の格闘技大会【モータル・コンバット】へ参戦したソニアの対戦相手はカノウ。彼こそ、ソニアが追っている犯罪組織の幹部でした。
因縁のある二人は砂浜の闘技場で激しい戦いを繰り広げます。


(C)ワーナーエンターテイメントジャパン
先制攻撃を仕掛けたソニアの猛攻に防戦一方だったカノウですが、キックを繰り出す足を捕えてソニアを転倒させ、起き上がろうとした彼女の腹部に強烈な一撃をくらわせました。
カノウの重い蹴りにソニアは苦悶の表情を浮かべながら苦しそうに呻きます。
そんなソニアを見下しながらトドメをさそうとするカノウ。しかし、ソニアの反撃によって逆転KOされました。

(C)ワーナーエンターテイメントジャパン

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恋に破れた青年は唇がお好き?(J・W・V・ゲーテ「若いウェルテルの悩み」より)
婚約者のいる女性に恋をしてしまった青年の苦悩と死を描いた「Die Leiden des jungen Werthers」(邦題「若きウェルテルの悩み」等)は1774年に発表された書簡体小説です。
作者のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテはドイツを代表する文豪であり、詩人や劇作家、さらには政治家や法律家としても活躍していました。
友人と婚約中だった女性に恋をしたゲーテは自分自身の失恋体験をベースに「Die Leiden des jungen Werthers」を1ヶ月程度で書きあげたと言われています。
成就される事が許されない恋に悩むウェルテルの心理、生々しい失恋の記憶が鮮明なうちだったからこそ克明に描く事ができたのかも知れません。
ちなみに、ウェルテルが恋をした相手の名前はシャルロッテ(=ロッテ)と言いますが、ゲーテが恋した女性の名前もシャルロッテでした。
シャルロッテに惚れたウェルテルは友人のヴィルヘルムへ宛てた手紙の中で彼女への恋慕を細々(こまごま)と綴っていますが、その中に唇フェチらしい記述が見られます。
恋焦がれる女性の唇について熱く語る(?)ウェルテル。彼がペンを走らせる姿を想像しながら該当箇所を読んでみるのも面白いかも知れません。
とは言っても極端に官能的な描写は見られず、現代人からすれば刺激的でも何でもない描写ですが……。
「あなたにも接吻させてあげましょう」と彼女はいって、カナリアを手渡した。――小さな嘴はあのひとの口から私の口へとうつってきた。この唇を啄むその感触に、愛にあふれた悦楽の一抹の息吹きと予感がつたわった。
「この鳥の接吻は」と私がいった、「もっと何かをほしがっているようですね。餌を食べたがっていますね。ただ可愛がってもらっただけでは足らないようです」
「口移しにしてやっても食べますわ」とロッテはいった。――そうして、パン屑を二つ三つくわえて食べさせてやった。その唇はけがれない愛の愉悦にほほえみながら。
私は顔をそむけた。これはつらかった! このような聖らかな無心と至福の場面を見せて、私の想像をあおって、ともすると平板単調な人生がわれらをひき入れる眠りから、私の心をよび醒すようなことを、このひとはしてはいけなかった!【後略】
≪岩波文庫『若きウェルテルの悩み』改版P114~115≫
【前略】ロッテは逃れてピアノにむかい、弾きながら、ひくい甘い声でなだらかなしらべを口ずさんだ。その唇のさまがいまだおぼえがないほどに心をそそった。さながらこの唇がうちひらいて、楽器に湧きいずる甘美なものの音(ね)を啜り入れるにつれて、きよい口からふたたびにひそやかな谺(こだま)がひびきかえしてくるかのようだった。【中略】「唇よ、その上に天の霊のただよう唇よ! もはやそれにくちづけをねがいはすまい。」【後略】
≪岩波文庫『若きウェルテルの悩み』改版P126≫
この後、ある殺人事件をキッカケにウェルテルは自殺を決意し、シャルロッテの婚約者であるアルベルトから「旅行したいのでピストルを貸してほしい」と嘘を言ってピストルを借ります。
使いの少年からピストルを受け取ったウェルテルは、それがロッテより手渡された事を知って驚喜しました。
あまりの嬉しさから、彼はロッテの触れたピストルに接吻をしますが、この時の心理は「誰もない教室で好きな女子の使う口笛を手に取り、持ち主の姿を妄想しながら唄口(ベック)をしゃぶる少年」と重なります。
ピストルに接吻する自分の姿をウェルテルは次のように書いています。
「このピストルはあなたの手からさずけられ、あなたが埃りを拭いてくださいました。私は千度も接吻します。あなたがさわったものですから。天なる霊よ、おんみはわが決心を嘉(よみ)したまいます! そして、ロッテ、あなたは私に武器をわたしてくれました。かねてからあなたの手によって死を享けたいとねがっていましたが、ああ! いまそれを享けるのです。【後略】」
≪岩波文庫『若きウェルテルの悩み』改版P173~174≫
※訳=竹山道雄。
※訳=高橋義孝。
作者のヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテはドイツを代表する文豪であり、詩人や劇作家、さらには政治家や法律家としても活躍していました。
友人と婚約中だった女性に恋をしたゲーテは自分自身の失恋体験をベースに「Die Leiden des jungen Werthers」を1ヶ月程度で書きあげたと言われています。
成就される事が許されない恋に悩むウェルテルの心理、生々しい失恋の記憶が鮮明なうちだったからこそ克明に描く事ができたのかも知れません。
ちなみに、ウェルテルが恋をした相手の名前はシャルロッテ(=ロッテ)と言いますが、ゲーテが恋した女性の名前もシャルロッテでした。
シャルロッテに惚れたウェルテルは友人のヴィルヘルムへ宛てた手紙の中で彼女への恋慕を細々(こまごま)と綴っていますが、その中に唇フェチらしい記述が見られます。
恋焦がれる女性の唇について熱く語る(?)ウェルテル。彼がペンを走らせる姿を想像しながら該当箇所を読んでみるのも面白いかも知れません。
とは言っても極端に官能的な描写は見られず、現代人からすれば刺激的でも何でもない描写ですが……。
「あなたにも接吻させてあげましょう」と彼女はいって、カナリアを手渡した。――小さな嘴はあのひとの口から私の口へとうつってきた。この唇を啄むその感触に、愛にあふれた悦楽の一抹の息吹きと予感がつたわった。
「この鳥の接吻は」と私がいった、「もっと何かをほしがっているようですね。餌を食べたがっていますね。ただ可愛がってもらっただけでは足らないようです」
「口移しにしてやっても食べますわ」とロッテはいった。――そうして、パン屑を二つ三つくわえて食べさせてやった。その唇はけがれない愛の愉悦にほほえみながら。
私は顔をそむけた。これはつらかった! このような聖らかな無心と至福の場面を見せて、私の想像をあおって、ともすると平板単調な人生がわれらをひき入れる眠りから、私の心をよび醒すようなことを、このひとはしてはいけなかった!【後略】
≪岩波文庫『若きウェルテルの悩み』改版P114~115≫
【前略】ロッテは逃れてピアノにむかい、弾きながら、ひくい甘い声でなだらかなしらべを口ずさんだ。その唇のさまがいまだおぼえがないほどに心をそそった。さながらこの唇がうちひらいて、楽器に湧きいずる甘美なものの音(ね)を啜り入れるにつれて、きよい口からふたたびにひそやかな谺(こだま)がひびきかえしてくるかのようだった。【中略】「唇よ、その上に天の霊のただよう唇よ! もはやそれにくちづけをねがいはすまい。」【後略】
≪岩波文庫『若きウェルテルの悩み』改版P126≫
この後、ある殺人事件をキッカケにウェルテルは自殺を決意し、シャルロッテの婚約者であるアルベルトから「旅行したいのでピストルを貸してほしい」と嘘を言ってピストルを借ります。
使いの少年からピストルを受け取ったウェルテルは、それがロッテより手渡された事を知って驚喜しました。
あまりの嬉しさから、彼はロッテの触れたピストルに接吻をしますが、この時の心理は「誰もない教室で好きな女子の使う口笛を手に取り、持ち主の姿を妄想しながら唄口(ベック)をしゃぶる少年」と重なります。
ピストルに接吻する自分の姿をウェルテルは次のように書いています。
「このピストルはあなたの手からさずけられ、あなたが埃りを拭いてくださいました。私は千度も接吻します。あなたがさわったものですから。天なる霊よ、おんみはわが決心を嘉(よみ)したまいます! そして、ロッテ、あなたは私に武器をわたしてくれました。かねてからあなたの手によって死を享けたいとねがっていましたが、ああ! いまそれを享けるのです。【後略】」
≪岩波文庫『若きウェルテルの悩み』改版P173~174≫
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※訳=竹山道雄。
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※訳=高橋義孝。
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真夜中のキャットファイト(尾崎紅葉「金色夜叉」シリーズより)
尾崎紅葉氏の名作「金色夜叉」は明治30年から明治35年まで『読売新聞』に長期連載された未完の大作として知られています。
読書が娯楽の中心だった世代の方は「ダイヤモンドに目が眩み」や「貫一お宮の松」と聞いただけで、即座に「金色夜叉」のタイトルを挙げられる事でしょう。
恋する女性に裏切られて高利貸となった間貫一の生き様を描きつつ、彼を取り巻く人々、そして一時期の物欲で好きな男性を捨ててしまった鴨沢宮の復縁を求める女心の揺れ動きにまで筆が及び、大河小説に相応しい複雑な内容となっています。
作者の病気による休載があったとは言え、足掛け6年に亙って書き継がれた大作という点に本作へ傾けた作者の情熱が感じられました。
正確に言えば「金色夜叉」は6部構成となっており、「金色夜叉」,「後編 金色夜叉」,「続金色夜叉」,「続々金色夜叉」,「続々金色夜叉 後編」に分けられます。
初出時と初刊本でタイトルが違う為、書誌的にはもっと細かい分類となりますが、その辺の相違については煩わしくなるので書きません。気になる方は各自で調べてみて下さい(同じく「6部構成なのに初出タイトルが5編なのは何故か」と言う疑問についても各自でお調べ下さい)。
物語冒頭、月光に照らされる熱海の海岸で貫一が宮を足蹴にする場面はよく知られており、ダイヤモンドの誘惑に負けて好きな男を捨てた女性の哀れな姿はイラストとしても有名です。
自業自得の仕打ちではありますが、艶めかしい太腿を露わにして倒れる宮のポーズには背徳的な色気が見られます。
武内桂舟氏による挿絵を脳裏に思い描きながら該当場面を読んでみると、私が受けた印象を分かって頂けると思います。
其声と与(とも)に貫一は脚を挙げて宮の弱腰を礑(はた)と踢(けり)たり。地響して横様に転(まろ)びしが、なかなか声をも立てず苦痛を忍びて、彼はそのまま砂の上に泣き伏したり。貫一は猛獣などを撃ちたるやうに、彼の身動も得為ず弱々と僵(たお)れたるを、なほ憎さげに見遣りつつ、
「【中略】宮(みい)さん、お前から好(よ)く然(そ)う言っておくれ、よ、若(も)し貫一は如何したとお訊ねなすったら、あの大馬鹿者は一月十七日の晩に気が違って、熱海の浜辺から行方知れずになって了ったと……。」
宮は矢庭に蹶(はね)起きて、立たんと為(す)れば足の痛に脆くも倒れて効無きを、漸く這寄りて貫一の脚に縋付き、声と涙とを争ひて、
「貫一さん、ま……ま……待って下さい。貴方これから何(ど)……何処へ行くのよ。」
貫一は有繁(さすが)に驚けり、宮が衣(きぬ)の披(はだ)けて雪可羞(はずかし)く露せる膝頭は、夥く血に染みて顫(ふる)ふなりき。
「や、怪我をしたか。」
【中略】
「ええ、何の話が有るものか。さあ此を放さないか。」
「私は放さない。」
「強情張ると蹴飛すぞ。」
「蹴られても可(い)いわ。」
貫一は力を極めて振断(ふりちぎ)れば、宮は無残に伏転(ふじまろ)びぬ。
「貫一さん。」
貫一ははや幾間を急行きたり。宮は見るより必死と起上りて、脚の傷(いたみ)に幾度か仆(たお)れんとしつつも後を慕ひて、
「貫一さん、それぢゃもう留めないから、もう一度、もう一度……私は言遺した事がある。」
≪角川ソフィア文庫『ビギナーズ・クラシック近代文学編 尾崎紅葉の「金色夜叉」』P45~48≫
話は飛んで物語終盤。
ある夜、鴨沢宮と女性高利貸しの赤樫満枝が貫一を巡って激しい肉弾戦を展開します。
白刃まで飛び出す壮絶な女性同士の戦い。
牽強付会の見方かも知れませんが、この二人の争いは明治時代のキャットファットと言えるのではないでしょうか。
「さあ、私恁(こう)して抑へて居りますから、吭(のど)なり胸なり、ぐつと一突遣ってお了ひ遊ばせ。ええ、もう貴方は何を遅々(ぐずぐず)して被居(いらっしゃ)るのです。刀の持様(もちよう)さへ御存じ無いのですか、恁して抜いて!」
【中略】
「之で突けば可いのです。」
【中略】
言下に忽焉(こつえん)と消えし刃の光は、早くも宮が乱鬢(らんびん)を掠めて顕(あらわ)れぬ。啊呀(あなや)と貫一の号(さけ)ぶ時、妙(いし)くも彼は跂起(はねお)きざまに突来る鋩(きっさき)を危うく外して、
「あれ、貫一さん!」
と満枝の手首に縋れるまま、一心不乱の力を極めて捩伏せ捩伏せ、仰様(のけざま)に推重(おしかさな)りて仆(たお)したり。
【中略】
「貫一さん、貴方は私を見殺になさるのですか。奈何(どう)でも此女の手に掛けて殺すのですか!私は命は惜くはないが、此女に殺されるのは悔い!悔い!!私は悔い!!!」
彼は乱せる髪を夜叉の如く打振り打振り、五体を揉みて、唇の血を噴きぬ。
彼も殺さじ、是を傷(きずつ)けじと、貫一が胸は車輪の廻(めぐ)るが若(ごと)くなれど、如何にせん、其身は内よりも不思議の力に緊縛せられたるやうにて、逸(はや)れど、躁(あせ)れど、寸分の微揺(ゆるぎ)を得ず、せめては声を立てんと為(す)れば、吭を又塞(ふさが)りて、銕丸(てつがん)を啣(ふく)める想(おもい)。
力も今は絶々に、はや危しと宮は血声を揚げて、
「貴方が殺して下さらなければ、私は自害して死にますから、貫一さん、此刀を取つて、私の手に持せて下さい。さ、早く、貫一さん、後生です、さ、さ、さあ取つて下さい。」
又激く捩合(ねじあ)う郤含(はずみ)に、短刀は戞然(からり)と落ちて、貫一が前なる畳に突立つたり。宮は虚(すか)さず躍り被(かか)りて、我物得つと手に為れば、遣らじと満枝の組付くを、推隔(おしへだ)つる腋の下より後突に、欛(つか)も透(とお)れと刺したる急所、一声号(さけ)びて仰反る満枝。鮮血! 兇器! 殺傷! 死体! 乱心! 重罪! 貫一は目も眩(く)れ、心も消ゆるばかりなり。
≪角川ソフィア文庫『ビギナーズ・クラシック近代文学編 尾崎紅葉の「金色夜叉」』P170~172≫
今では使用されない漢字が多く、文体も独特なので具体的な場面をイメージし難いかも知れません。
ここでは原文からの引用としましたが、底本に使用した『ビギナーズ・クラシック近代文学編 尾崎紅葉の「金色夜叉」』には山田有策氏の現代語訳が掲載されているので、宮と満枝の戦いを分かり易い文章で読みたい方には本書の活用をお薦めします。
かく言う私も山田氏の現代語訳のお世話になりましたので……。
生足を見せて倒れる宮の姿や深夜の決闘場面をビジュアル的に思い描けたのも山田訳のおかげです。
邪道な読書方法かも知れませんが、アブノーマル趣味やフェチシズム要素を探しながら格調高い文豪の名作を読んでみるのも面白いです。
学校の授業で習わされるような受動的な読書ではなく、自分の好みの場面が見つかる事を期待しながらの能動的な読書となり、日本文学を楽しく読めるようになるかも知れません。
今回の引用文ですが、斜体にすると読み辛くなってしまう為、例外として通常の字体にしました。
※原文と訳文を同時に読めるうえ、作品解説や書誌データーも充実しているガイドブックです。物語をダイジェストで読みながら作品背景が理解できる推薦図書です。
読書が娯楽の中心だった世代の方は「ダイヤモンドに目が眩み」や「貫一お宮の松」と聞いただけで、即座に「金色夜叉」のタイトルを挙げられる事でしょう。
恋する女性に裏切られて高利貸となった間貫一の生き様を描きつつ、彼を取り巻く人々、そして一時期の物欲で好きな男性を捨ててしまった鴨沢宮の復縁を求める女心の揺れ動きにまで筆が及び、大河小説に相応しい複雑な内容となっています。
作者の病気による休載があったとは言え、足掛け6年に亙って書き継がれた大作という点に本作へ傾けた作者の情熱が感じられました。
正確に言えば「金色夜叉」は6部構成となっており、「金色夜叉」,「後編 金色夜叉」,「続金色夜叉」,「続々金色夜叉」,「続々金色夜叉 後編」に分けられます。
初出時と初刊本でタイトルが違う為、書誌的にはもっと細かい分類となりますが、その辺の相違については煩わしくなるので書きません。気になる方は各自で調べてみて下さい(同じく「6部構成なのに初出タイトルが5編なのは何故か」と言う疑問についても各自でお調べ下さい)。
物語冒頭、月光に照らされる熱海の海岸で貫一が宮を足蹴にする場面はよく知られており、ダイヤモンドの誘惑に負けて好きな男を捨てた女性の哀れな姿はイラストとしても有名です。
自業自得の仕打ちではありますが、艶めかしい太腿を露わにして倒れる宮のポーズには背徳的な色気が見られます。
武内桂舟氏による挿絵を脳裏に思い描きながら該当場面を読んでみると、私が受けた印象を分かって頂けると思います。
其声と与(とも)に貫一は脚を挙げて宮の弱腰を礑(はた)と踢(けり)たり。地響して横様に転(まろ)びしが、なかなか声をも立てず苦痛を忍びて、彼はそのまま砂の上に泣き伏したり。貫一は猛獣などを撃ちたるやうに、彼の身動も得為ず弱々と僵(たお)れたるを、なほ憎さげに見遣りつつ、
「【中略】宮(みい)さん、お前から好(よ)く然(そ)う言っておくれ、よ、若(も)し貫一は如何したとお訊ねなすったら、あの大馬鹿者は一月十七日の晩に気が違って、熱海の浜辺から行方知れずになって了ったと……。」
宮は矢庭に蹶(はね)起きて、立たんと為(す)れば足の痛に脆くも倒れて効無きを、漸く這寄りて貫一の脚に縋付き、声と涙とを争ひて、
「貫一さん、ま……ま……待って下さい。貴方これから何(ど)……何処へ行くのよ。」
貫一は有繁(さすが)に驚けり、宮が衣(きぬ)の披(はだ)けて雪可羞(はずかし)く露せる膝頭は、夥く血に染みて顫(ふる)ふなりき。
「や、怪我をしたか。」
【中略】
「ええ、何の話が有るものか。さあ此を放さないか。」
「私は放さない。」
「強情張ると蹴飛すぞ。」
「蹴られても可(い)いわ。」
貫一は力を極めて振断(ふりちぎ)れば、宮は無残に伏転(ふじまろ)びぬ。
「貫一さん。」
貫一ははや幾間を急行きたり。宮は見るより必死と起上りて、脚の傷(いたみ)に幾度か仆(たお)れんとしつつも後を慕ひて、
「貫一さん、それぢゃもう留めないから、もう一度、もう一度……私は言遺した事がある。」
≪角川ソフィア文庫『ビギナーズ・クラシック近代文学編 尾崎紅葉の「金色夜叉」』P45~48≫
話は飛んで物語終盤。
ある夜、鴨沢宮と女性高利貸しの赤樫満枝が貫一を巡って激しい肉弾戦を展開します。
白刃まで飛び出す壮絶な女性同士の戦い。
牽強付会の見方かも知れませんが、この二人の争いは明治時代のキャットファットと言えるのではないでしょうか。
「さあ、私恁(こう)して抑へて居りますから、吭(のど)なり胸なり、ぐつと一突遣ってお了ひ遊ばせ。ええ、もう貴方は何を遅々(ぐずぐず)して被居(いらっしゃ)るのです。刀の持様(もちよう)さへ御存じ無いのですか、恁して抜いて!」
【中略】
「之で突けば可いのです。」
【中略】
言下に忽焉(こつえん)と消えし刃の光は、早くも宮が乱鬢(らんびん)を掠めて顕(あらわ)れぬ。啊呀(あなや)と貫一の号(さけ)ぶ時、妙(いし)くも彼は跂起(はねお)きざまに突来る鋩(きっさき)を危うく外して、
「あれ、貫一さん!」
と満枝の手首に縋れるまま、一心不乱の力を極めて捩伏せ捩伏せ、仰様(のけざま)に推重(おしかさな)りて仆(たお)したり。
【中略】
「貫一さん、貴方は私を見殺になさるのですか。奈何(どう)でも此女の手に掛けて殺すのですか!私は命は惜くはないが、此女に殺されるのは悔い!悔い!!私は悔い!!!」
彼は乱せる髪を夜叉の如く打振り打振り、五体を揉みて、唇の血を噴きぬ。
彼も殺さじ、是を傷(きずつ)けじと、貫一が胸は車輪の廻(めぐ)るが若(ごと)くなれど、如何にせん、其身は内よりも不思議の力に緊縛せられたるやうにて、逸(はや)れど、躁(あせ)れど、寸分の微揺(ゆるぎ)を得ず、せめては声を立てんと為(す)れば、吭を又塞(ふさが)りて、銕丸(てつがん)を啣(ふく)める想(おもい)。
力も今は絶々に、はや危しと宮は血声を揚げて、
「貴方が殺して下さらなければ、私は自害して死にますから、貫一さん、此刀を取つて、私の手に持せて下さい。さ、早く、貫一さん、後生です、さ、さ、さあ取つて下さい。」
又激く捩合(ねじあ)う郤含(はずみ)に、短刀は戞然(からり)と落ちて、貫一が前なる畳に突立つたり。宮は虚(すか)さず躍り被(かか)りて、我物得つと手に為れば、遣らじと満枝の組付くを、推隔(おしへだ)つる腋の下より後突に、欛(つか)も透(とお)れと刺したる急所、一声号(さけ)びて仰反る満枝。鮮血! 兇器! 殺傷! 死体! 乱心! 重罪! 貫一は目も眩(く)れ、心も消ゆるばかりなり。
≪角川ソフィア文庫『ビギナーズ・クラシック近代文学編 尾崎紅葉の「金色夜叉」』P170~172≫
今では使用されない漢字が多く、文体も独特なので具体的な場面をイメージし難いかも知れません。
ここでは原文からの引用としましたが、底本に使用した『ビギナーズ・クラシック近代文学編 尾崎紅葉の「金色夜叉」』には山田有策氏の現代語訳が掲載されているので、宮と満枝の戦いを分かり易い文章で読みたい方には本書の活用をお薦めします。
かく言う私も山田氏の現代語訳のお世話になりましたので……。
生足を見せて倒れる宮の姿や深夜の決闘場面をビジュアル的に思い描けたのも山田訳のおかげです。
邪道な読書方法かも知れませんが、アブノーマル趣味やフェチシズム要素を探しながら格調高い文豪の名作を読んでみるのも面白いです。
学校の授業で習わされるような受動的な読書ではなく、自分の好みの場面が見つかる事を期待しながらの能動的な読書となり、日本文学を楽しく読めるようになるかも知れません。
今回の引用文ですが、斜体にすると読み辛くなってしまう為、例外として通常の字体にしました。
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※原文と訳文を同時に読めるうえ、作品解説や書誌データーも充実しているガイドブックです。物語をダイジェストで読みながら作品背景が理解できる推薦図書です。
映画「スーパーガール」のコミック版


上の画像は、アメコミ『SUPERGIRL』のカヴァー両面です。
イギリスで製作された映画「SUPERGIRL」のコミック版として、映画公開と同じ1984年に発売されました(1985年発売とする資料もありますが、奥付の発行年は1984年となっています)。
映画とのタイアップを強調する為か、裏面(右画像参照)にはスーパーガール(SUPERGIRL)に扮した主演女優ヘレン・スレイター(HELEN SLATER)の写真が掲載されています。
コミック版の内容ですが基本的には映画版と同じです。
物語として必要最低限なエピソードだけを描き、スーパーガールの活躍を中心に再構築したダイジェストとなっていました。
手許に「SUPERGIRL」のDVDがないので詳しい内容比較はできませんが、根本的な部分に修正はないと思います。
細かい指摘となりますが、スーパーガールが地球人姿になる場面、コミック版では走りながら服を着替えるスーパーガール=リンダ・リー(LINDA LEE)の姿が描かれており、彼女の微妙な半裸を見られました。
ただし、映画ではヌードのある変身シーンはNGだったのか、このような場面はありません。

最終決戦シーンの見所とも言える、魔女セレーナ(SELENA)の術中に陥ったスーパーガールが苦痛に喘ぎながら悶絶する場面は残念ながらカットされており、セレーナの精神体と肉弾戦を繰り広げる場面へ変更されています。
ある意味、ヒロピン好きにとって一番盛り上がる見せ場とも言える場面だったのですが……。
なお、最終決戦直前に監獄惑星へ飛ばされたスーパーガールがスーパーパワーを封じられ、そこからの脱出に難儀する場面は再現されていました。

以下は記憶に頼る比較なので話半分として読み流して頂きたいのですが、セレーナとの最初の対戦時、映画では空間を越えての超能力攻撃にスーパーガールは苦戦させられました。
この場面、一方のコミック版では姿が見えない怪物との戦いに変更されています。
怪物の攻撃で電柱に叩きつけられたスーパーガールですが、その電柱を使った頭脳プレーで怪物を撃退して勝利を収めました。


アメリカのコミック通販サイト「Mile High Comics」の在庫リストを調べてみたところ、比較的保存状態の良い物(Fine,Very Fine,Near Mint)が最低でも各1冊づつ在庫している事を確認しました。
英語の知識が必要となりますが、上記の通販サイトを利用すればコミック版『SUPERGIRL』を難なく入手する事ができます。
現在は更新停止状態となっていますが、オリジナル創作小説を中心にしたスーパーガールのファンサイト「SSTの妄想書庫」には関連画像が豊富に用意されています。
興味があれば、上記のWEBサイトへアクセスしてみる事をお薦めします。
【関連情報紹介】
・スーパーガール(「かたすみの映画小屋」2006年1月29日更新記事)
※映画レビュー記事。