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2021-04

恥辱の罠を仕掛ける探偵(海野十三「赤外線男」より)

★「黄昏タイムス」開設10周年★
 ・特別企画第一弾(2020年4月19日)


〈ネタバレ注意:本記事では、海野十三「赤外線男」の犯人を明かしています〉

 SF的発想を取り入れた奇想天外な推理小説を数多く書いた海野十三氏は昭和6年発表の「麻雀殺人事件」に帆村荘六という私立探偵を登場させて以降、彼をシリーズキャラクターとして積極的に登場させています。
 帆村探偵の事件簿は作品総数が30篇近くありますが、海野氏が発表媒体を問わずに書きまくる多作家であったため、シリーズの全貌はハッキリしないようです。

 シリーズ初期の短編「赤外線男」は海野氏の代表短編の一つであり、本作には赤外線テレヴィジョンを通じてしか認識できない赤外線男なる怪人が登場します。
 怪人の正体とトリックは帆村によって暴かれますが、不気味な怪人が陰惨な事件を引き起こすという展開は、大坂を舞台にした長編「蠅男」と同じ怪人対名探偵といった趣きを感じさせます。

 いよいよ事件の全貌が明らかとなるクライマックス、帆村探偵は警視庁に美しい女子大生を呼び出して映画を見せますが、その直前、食堂に案内してオレンジ・エードを飲ませます。
 この女子大生こそが赤外線男であり、一連の事件の犯人でした。
 彼女が犯人だという証拠を警察官に見せるため、帆村は女子大生を食堂へ連れて行き大胆な罠を仕掛けたのです。
 その罠と言うのは、オレンジ・エードに利尿作用がある薬を混入して排泄を我慢できなくさせ、トイレに向かって全力疾走する際に犯人だけしか知り得ない場所へ駆け込むよう誘導する、というシンプルなものでした。
 しかし、年頃な女子大生に対しては効果覿面だったらしく、見事、赤外線男=女子大生は帆村探偵の罠に陥って自滅します。

 利尿作用がある薬が混ざったジュースを飲んでしまった女子大生の白丘ダリアは、映画を観ている最中、膀胱の限界が近い事を知って部屋を飛び出しトイレへ駆け込みますが、その時の様子が作中で詳しく描写されています。


 このとき白丘ダリアは、先刻(さっき)から耐(こら)えていた尿意が、どうにももう待ちきれなくなった。その激しさは、いまだ経験したことが無い位だった。彼女は慌てて試写室を出ると、薄暗い廊下に飛び出した。見ると、直ぐ間近に、赤い灯火(ともしび)が点っていて、それに『便所』という文字が読めた。
 彼女は、飛び立つ想いで、そこの扉(ドア)を押した。扉(ドア)があくと、そこには清潔な便器が並んでいる洋風厠だった。ダリアはその一つに飛びこんで、パタリと戸を寄せると、気持のよい程、充分に用を足した。

≪創元推理文庫『貘鸚』P238≫


 事件解決後、帆村探偵は事件の記録者に真相を詳しく話して聞かせますが、そこで罠に掛かったダリアの痴態を事細かに説明します。


(中略)それには鬼才ダリア嬢も見事に引懸ってしまった。それはすこし下卑た話だ。けれども、あの便所の一件だ。例のフィルムの映写中に彼女は激しい尿意を催したのだった。それは勿論、すこし前に食堂で彼女が飲んだオレンジ・エードに、一服盛ってあったというわけサ。映画が終るや否やダリア嬢は気が気でなく廊下へ飛び出した。もうこれ以上我慢をすると、女の身にとって顔から火の出るような粗相を演ずることになる。(中略)彼女は扉(ドア)を押して飛びこんだ。果してそこには奥深く便器が並んでいた。彼女は用を足した。(後略)
≪創元推理文庫『貘鸚』P244≫
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危険な電話に御用心(島田荘司「殺人ダイヤルを捜せ」より)

★「黄昏タイムス」開設10周年★
 ・特別企画第一弾(2020年4月19日)


 回転ダイヤル式電話、プッシュフォン、携帯電話、スマートフォン。時代の流れに合わせ、電話の大きさや機能も目まぐるしい進化を続けてきました。
 日常生活に欠かせない通信手段である電話は、推理小説でも古今東西を問わず様々な形で登場しています。
 甲賀三郎氏の「電話を掛ける女」、横溝正史氏の「ドラ吉の新商売」、西村京太郎氏の「伊豆七島殺人事件」、山村美紗氏の「百人一首殺人事件」、斎藤栄氏の「金糸雀の唄殺人事件」や「日美子の少女まんが家殺人事件」……などなど。
 電話トリックを扱った作品を挙げていくとキリがありませんが、その中でも異色なのは島田荘司氏の長編「殺人ダイヤルを捜せ」でしょう。
 テレフォン・セックスに耽る三十路(みそじ)間近のOLが殺人現場らしき部屋へ電話してしまった事から、恐ろしい完全犯罪の罠に陥っていくサスペンスミステリーです。
 この作品は、回転ダイヤル式電話が主流だった昭和60年に発表されました。

 浜松町の商社で電話交換手をしている岡江綾子は同棲していた男と別れた後、欲求不満を解消させるため、テレフォン・セックスの魅力にハマっていきます。
 声の低い素敵な男と巡り会うため、夜になると綾子は見知らぬ番号のダイヤルを廻す日々を送っていました。


 浜松町の今の商社に電話交換手として勤めはじめてもう十年になる。今年の誕生日がくれば、私ももう三十だ。けれども、何故かまだ独身である。
 会社では気位の高い、冷たい女で通っている。顔やスタイルは、自分では悪くないと思っている。以前は、モデルにならないかとよく道で声をかけられた。
 そんな私が一つ、他人が聞いたら卒倒しそうな、大変な秘密を持っているのである。テレフォン・セックスが趣味だということだ。

【中略】
 低い声、どうしても低い声の男が欲しい。夜になると、私はそんなことばかり考えて悶々とするようになった。そしていいことを思いついた。
【中略】
 欲求不満が次第に嵩じてきて、私のうちで爆発寸前になった。そこで――、私はとうとうあの冒険を決心したのである。すごく不道徳な、そして大胆な、一大冒険である。

≪講談社文庫『殺人ダイヤルを捜せ』P9〜11≫

 すっかり片づけると私は服を脱ぎ、ネグリジェに着替えた。化粧を落し、髪をブラッシングした。一番気に入った下着をつけ、新しい恋人と初夜を迎えるような気分でベッドに入った。みずみずしい欲望が、体内から湧き出す気分である。
 電話を手もとにひき寄せた。すっかり慣れてしまって、もう震えることはなくなった。ベテランの色情狂女のように自分が思われて、ちょっとげんなりする。私はそんなに欲求が強いのだろうかと思う。

≪講談社文庫『殺人ダイヤルを捜せ』P22≫


 テレフォン・セックスに興じるはずが殺人現場らしい部屋へ電話をしてしまった綾子は、思いあまって頼りたくもない腐れ縁のある村井佑二(ゆうじ)に相談を持ちかけたところ、強引に部屋へあがられたうえ、キスをされたりスカートの中に手を入れられたり、散々な目に遭わされます。


「別に怒ってなんていないわよ。何よ、もう出てって。さあ、帰ってよ!」
 そう言って私は、カーペットの上に坐りこんでいた村井の腕をとり、立ちあがらせようとした。意に反して、村井はいきなり立ちあがった。そして私に抱きついてきた。
「何するのよ!」
 悲鳴をあげた。その唇に、村井は強引にキスをしてきた。おぞましさに鳥肌が立った。ひどく腹も立った。こんな男に、私は見下げられている、と思った。暴れようと思ったが、両手ははがいじめにされていた。

【中略】
「人を呼ぶわよ」
 言いながら足をばたつかせた。あっ、と思った。思いがけないところに村井の指があった。
 まるで叩くような、拳を突きあげるような、無骨なやり方だった。少しも感じはしなかった。私は反射的に腰をうんと引き、強引に村井の手をスカートの中から追い払った。それから両手を胸のあたりで突っぱった。

≪講談社文庫『殺人ダイヤルを捜せ』P44〜45≫


 殺人ダイヤルの繋がった先について地道な調査を進める中、刑事の訪問を受けた綾子は次々と噓がバレていき、とうとう、テレフォン・セックスで性欲を解消させていた事を自白してしまいます。


「私、変なんです。きっと普通の人より、欲求が強いんだと思う」
「欲求が強い?」
 いったい何を言い出すんだと言うように刑事二人は私の顔を見た。
「欲求とは、何の欲求かね?」
「ですから、体の……」
「…………」
 すると二人の男は、軽蔑するように無言で私を見た。私はしばらくまた黙りこんだ。

≪講談社文庫『殺人ダイヤルを捜せ』P89≫


 やがて、綾子の疑惑はクッキング・スクールで知り合った須賀野美枝子に向けられ、そこから謎は一気に加速していき、同時に綾子自身も事件の核心に迫っていきます。
 そんな中、再び村井の助けを借りた綾子。もちろん、ただで済むはずがありません。欲情した村井に押し倒され、下着姿にされてしまいます。


 どしんと村井の胸のあたりが私にぶつかってきた。痛い、と思うより早く、私の唇が村井の唇でふさがれていた。ブラウスの上からだが、むんずと乳房が掴まれた。強い痛みがある。
 すっかり飢えているような、せっかちなやり方だった。村井の肩が少し震えているのに気づいた。興奮しているのだ。せかせかと私のスカートがたくしあげられ、パンストを穿いた足が、ざらざらとなでられた。少しも感じはしなかった。それでも私は多少は期待していたのだが、これでは、今から苦行が始まるのだと、そんな感じしかなかった。
 押し倒された。私の後頭部と肩が、丸められたふとんにぶつかった。私は目を閉じていた。されるままにしていた。大急ぎでパンストが引き下げられ、スカートが脱がされた。ブラウスのボタンが一つ一つはずされて行き、冷えた手が侵入してきた。
「待って、鍵は? 部屋の鍵は?」
 私は言った。
「いいんだ。かからないんだ。誰も来やしないよ」
 村井は上ずった声で言った。やがてブラウスも脱がされ、私は下着だけになった。しかし、ドアのことが気になり。私は感じることができない。
 ブラジャーのホックが、背中で何度も何度も失敗したあげくはずされた。ブラジャーが肌から離れる。乳房に直接触れる外気が、私の羞恥心を呼びさます。思わず、少し身をよじる。するとパンティもとられた。

≪講談社文庫『殺人ダイヤルを捜せ』P174〜175≫


 この後、紆余曲折を経て事件の黒幕へと辿り着いた綾子は、自分を蔑んだ二人の刑事に助けられ、真犯人の魔手から逃れる事ができました。
 綾子を事件に巻き込む原因となった電話番号のトリックも盲点をついており、なかなかユニークです。
 本作はテレフォン・セックスを扱っているせいか作中の至るところにエロチックな描写を垣間見る事ができ、エロスと本格ミステリーの醍醐味を同時に味わえる貴重な作品でした。



【付記】本記事は『推理小説斜め読み【増補改訂版】  ——リョナとエロスのある風景』(2017年9月24日に開催された「りょなけっと8」にて販売)からの転載です。転載にあたりタイトルを一部修正しました。

母親のアソコを見たがる息子(草野唯雄「甦った脳髄」より)

★「黄昏タイムス」開設10周年★
 ・特別企画第一弾(2020年4月19日)


 一緒に暮らす家族の精神が他人に乗っ取られてしまったら……。
 『小説宝石』昭和49年2月号に掲載された草野唯雄氏の短編「甦った脳髄」は、こうした恐怖をSF的な構想で書いた短編です。

 先天性精神発育制止症の少年に、急逝した物理学者の脳から抽出した脳汁を皮下注射する。
 禁断の実験を受けた阿賀一郎は精神発育の遅れが噓だったように日を追って知能が高まり、実験開始から僅か一ヶ月で優秀成人クラスの知能に至りました。
 しかし、息子を被験者にした解剖生理学の阿賀博士が「+5の頭脳と−4の頭脳を足して+1の常人を創るという算式が、あまりにも単純粗雑すぎた」(ワイルドブック『甦った脳髄』P94)と危惧したとおり、この実験には大きな落とし穴が待ち受けていたのです。

 その落とし穴の一つが性的な欲望でした。
 実験前まで息子と一緒に風呂へ入っていた母親は、それまでと同じ感覚で息子の背中を流してあげようとします。
 不意に一郎は母親に卑猥な質問をし、素早くパンティを引き下げると、顔中を真っ赤にして息をはずませ、自分の母親を襲いかかろうとするのでした。


 午後、一郎が風呂に入りたいと言い出したので、わかした。入ってしばらくして石鹸がないというので、戸をあけて手渡すと、
「久しぶりに背中を流して」
 と、一郎がいった。十一、二くらいまでは、背中の洗い方も知らなかった幼児同然だったので、妻が一緒に入って洗ってやったこともあったのだ。
 妻は何気なく応じて、濡れてもいいようにスリップ一枚になって浴場に入り、一郎の背を流しはじめた。すると一郎が突然、
「ママ」といった。
「なーに?」
「ぼく女の人のあそこ見たことがないんだ。どうなってるのか見せてよ」といった。妻はドキッとして思わず顔に血が上った。

【中略】
 言うより早くスリップをまくり、パンティをひき下げにかかった。目を光らせ顔中まっ赤にして息をはずませている。がそれより一郎ののっぺりしたものが、びっくりするくらい大きく勃起しているのが、生えかけの恥毛と共に妻の目を射た。
【中略】
「何をするの、一郎! 親に対して!」
 絶叫して、思いっきり平手打ちを一つ。
【後略】
≪ワイルドブック『甦った脳髄』P90〜91≫



【付記】本記事は『推理小説斜め読み【増補改訂版】  ——リョナとエロスのある風景』(2017年9月24日に開催された「りょなけっと8」にて販売)からの転載です。転載にあたりタイトルと本文を一部修正しました。

失禁・女体美・セミヌードを堪能できるショートショートSF集(岬兄悟「妄想暴走空間」より)

★「黄昏タイムス」開設10周年★
 ・特別企画第一弾(2020年4月19日)


 豊田有恒氏や高井信氏、古くは城昌幸氏が得意とし、近年では江坂遊氏や田丸雅智氏の活躍が目立つショートショート。短い物語に印象的な結末(オチ)をつけた物語の一般的な呼称として普及しており、文芸ジャンルの一つとして成立しています。
 この分野で最も名を知られている星新一氏は「ボッコちゃん」や「おーい、でてこーい」など、生涯に1000編を越えるショートショートを世に送り出しました。
 機智や閃きを必要とするアイディア重視の分野だけに、一編を書き上げる努力は相当なものであると素人考えにもわかります。
 1980年代に旺盛な執筆活動を展開した岬兄悟氏(現在も執筆活動をされているかは……確認できませんでした)は、1989年9月に大陸書房から出版された『暴走妄想空間』の巻末で、「ショート・ショートの場合一冊になるまでがじつに大変なのですが、そのかわりまとまったときにはうれしいのなんの」と述べる一方、「10年ぐらい前に雑誌にデビューして以来、けっこう様々な場所にコンスタントに書き散らしてきたつもりなのに、これでやっと三冊めなのですからねえ……」とショートショート作家としての苦しみを吐露しています(岬氏には長編SFの著書もあり、この当時でも単行本の冊数自体は三冊以上ありました)。

 先述の『暴走妄想空間』には全23作のショートショートが収録されており、いずれも10ページ前後という短さです。
 作中にエロチック描写が見られる作品も何作かあり、話の短さが重要であるショートショートにエロチシズムの要素を惜しみなく投入する心意気には感心させられました。
 なんだか失禁や尿に関する描写が多いように感じますが……こうしたシチュエーションは岬氏の好みなのでしょうか(>v<)

 以下、該当タイトルと作中に見られるエロチック描写を紹介します。
 使用した単行本は、大陸ベスルスの一冊として発売された前掲『暴走妄想空間』です。


●チャンネル移動:チャンネルを変えると瞬間移動する不思議なテレビを買ってしまった女子大生の奇妙な体験。
 あたしはキャアキャア言い、思わず自分でバストをぎゅっとつかんでしまった。
 お風呂あがりなので、おへそがまる見えのつんつるてんのタンクトップにショーツだけというかっこうだったのだ。まだ髪もドライヤーで乾かしていないので、濡れてくしゃくしゃになっている。

 「どこなのって……。おれがテレビ観てたら、いきなり君がテレビの前に出現して、トシちゃんトシちゃんって言って、ひとりでバスト揉んで悶えたりして……」

【中略】
 そーだ。あたしは、こーんなつんつるてんの乳首なんかが透けて見えちゃう薄い生地のタンクトップに、超ビキニのピンクのショーツひとつきりだったんだっ。
≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P17〜21≫

●哀しきスター街道:別次元のスカウトマンによって異次元アイドルになってしまった女学生の悲喜劇。
 小学生のカメラ小僧が、あたしの超ミニのスカートの中を撮影したりもしていた。
【中略】
 お風呂へ入っているときにきたときはさすがにあせった
 衣装がテレポートのようにあたしの体に出現したものの、あたしはシャンプー途中の泡だらけの髪で唄った。

【中略】
 しかもしかも。超ミニスカートの衣装なのに、下にはなにもはいていなかったりして……。
≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P45≫

●ジャンケン小僧:事故死した少年の幽霊と遭遇した女子学生は、階段を上りきるため、幽霊とジャンケン勝負をする事に……。
 あたしは失禁しそうだった。もうすでにちょっとだけでちゃってるかもしれない。
≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P57≫

●超視力:『第二の視力』を手に入れた男子高校生の話。
 ぼくはいつものように高校へ通う満員電車に揺られながら、靴先ですぐ前に立っている女子高校生のスカートの中を"超視力"で覗いていた。
 われながら変態だと思うのだが、もう病みつきになってしまっていたのである。
 女子高校生のショーツは、かわいいピンクの♡模様だったりして、眼を閉じたぼくは感動していた。

≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P110≫

●うるせえやつ:突如、人間拡声器となってしまった男子学生の話。
 バリンバリン! と窓ガラスが破れ、女子生徒が気絶したり失禁したりした。
≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P122≫

●コートの中は……:密着した相手と体を入れ替える不思議なコートを手に入れたサラリーマンが体験する悲喜こもごも。
 女性とも身体を交換した。交換された女性は今までおれが身につけていた男の身体になってしまうのでかわいそうだが、どうしてもおれはがまんできなかったのだ。
 コートを着た美人OLに痴漢と思われるほどピタッと身体をくっつけて終点まで行くと、コートの中の身体はバッチリ交換していた。
 おれはグラマーな女性の身体になってしまったのである。

【中略】
 おれ自身の手足さえ見なければ生唾ものの素晴らしい女性の肉体なのだ。
 おまけに感覚は自分のものとして脳に伝わってくるのだからじつに不思議なものだった。
 その日は交換を止めにしてアパートに戻り、一睡もせずにありとあらゆることを試してしまった。
 女性の身体というのはじつに素晴らしいものだった。男でいたのが馬鹿らしくなるほどだった。

≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P146≫

●双眼鏡の中の老人:双眼鏡で街を眺める女子中学生は、レンズ越しに死神を見てしまった……。
 ぐわと死神老人が大口を開けた。
 窓ガラスのすぐ向こうだ!
 「いやなのおおおおおっ!!」
 あたしはジャージャー失禁しながら、無意識のうちに双眼鏡をくるりと反対にした。

≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P214〜215≫

●われに光あれ:内向的な女子短大生の肉体が奇妙な現象を引き起す。
 あたしの唇の隙間から白っぽい光が漏れ、大きく開けるとサーチライトみたいに眼前の鏡を照らしたのである。
 大きくあんぐり開けたあたしの口の中は、照明の点いた洞窟みたいに隅々までよく見渡すことができた。喉ちんこの奥までよおく見えたのである。

【中略】
 パジャマを脱いでビキニショーツだけになってみた。
 おヘソからも光が出ていた。
 も、もしや……と思い、ショーツを脱いで全裸になり、腰をぐっと落としてガニ股になってみた。
 ガニ股になったあたしの足と足の間の床に、ぼうっとサーチライトで照らしたような明りがあった。
 つまり、あたしの股間からも光が漏れていたのである。
 「いや〜〜ん!」
 あたしは股間を押さえて身悶えした。むろん、そんなことをしてもしょうがなかった。

【中略】
 あたしは一番濃いサングラスをかけ、黒いマスクをし、両耳に黒い布でつくったカバーをかけ、おヘソに十字にバンドエイドを貼り、生理でもないのにタンポンとナプキンをして何重にも生理用ショーツを重ねてはいてすごす、という悲惨な状態になってしまったのだ。
≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P221〜223≫

●一瞬の逆行:幽体となって時間が巻き戻る様を見つめる女子大生の話。
 自分の部屋のトイレで小用を済ませたあたしは、便座から立ちあがりショーツを引きあげようとした。その瞬間、あたしの体はピクリとも動かなくなってしまった。
 ビデオをポーズにしたように、体の動きが停止してしまったのだ。
 スカートをまくりあげ、中腰になってショーツをずりおろしたなんともなさけない恰好のまま、あたしはまったく動けなくなってしまったのである。

【中略】
 いくらがんばっても、どうしてもあたしはお尻丸だしの中腰の状態のまま、まったく身動きできないのだった。
【中略】
 幽体であるあたしは、あんぐり口を開けた。
 あたしの肉体はなんと、おしっこを体に戻していた
(原文12文字に傍点)のである!!
 呆然としているうちに、あたしの体はおしっこを完全に戻し終わり(原文5文字に傍点)、ショーツをあげスカートをおろし、そして後ろ向きにトイレからでて行ってしまったのだ(原文21文字に傍点)
【中略】
 トイレで小用を終えショーツをあげようとした瞬間から、ビデオを逆戻しするように、時間が逆行しはじめたのである。
≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P228〜230≫

●卵の親じゃ:バージンを失った女子高生が卵を産む奇想天外な物語。
 枕もとの目覚し(原文ママ)時計のアラームで目覚めたあたしは、股間の感触にぎょっとしてとび起きたのだ。
 そううっ
(原文ママ)とパジャマのズボンとショーツを脱いでみると……。
 あったのである。
 あたしの腿と腿の隙間にはさまれ、ぴったりと股間に密着して、この卵があったのである。
 いつのまにか知らない間にあたしは股間に卵をはさんで眠っていたのである。
 もちろんあたしには、股間に卵をはさんで眠るなんていう変態的な趣味はない。
 だいたい卵をはさんで寝たりしたら危ないではないか。眠っている間に割れて、その殻が大切な部分に刺さったりしたら大変なことになってしまう。

【中略】
 卵はあたしの股間の温もりで暖かった。
 あたしは卵に鼻を近づけ、くんくん匂いをかいでみた。別に臭くはない。

【中略】
 あたしは都内某私立女子高校に通う十七歳の乙女なのだ。いや、乙女というのはまちがい。
 じつはあたしは先月処女を捨ててしまっていたのである。

≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P238〜239≫

●なぜか糸クズ:ある女子高生にだけ見える奇妙な糸クズの正体とは……。
 お尻についていたのを取ってしまった子はひどい便秘になってしまったようだし、失禁しっぱなしになってしまった子もいた。
≪大陸ノベルス『妄想暴走空間』P255≫


 余談ながら、単行本を発売した大陸書房は1992年に100億円近い負債を抱えて倒産しており、当時は出版界最大の経営破綻として話題に(?)なりました。
 大陸書房は書店を通じたビデオ販売も行なっており、アラフィフ世代のアニメ愛好者ならば「グーデの紋章 女戦士エフェ&ジーラ」や「くりいむレモンジュニア」の発売元と言えば聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。

殺し屋はリョナラー(「三姉妹探偵団6 危機一髪篇」より)

 おっとり天然系の長女・綾子、活発ながら母性溢れる次女・夕里子、しっかり者で吝嗇な三女・珠美。個性豊かな三人姉妹がM警察署の国友刑事と力を併せながら知恵と勇気で困難を乗り越えていくライトノベル感覚のユーモアミステリー「三姉妹探偵団」はベストセラー作家の赤川次郎氏による人気シリーズで、昭和57年発表に第一作が発表されてから現在も新作が書き続けられている長寿シリーズでもあります。

 平成元年に初刊本が刊行されたシリーズ第6作「三姉妹探偵団6 危機一髪篇」は、国友刑事を恨む人物の標的にされた三姉妹が殺し屋に命を狙われる、タイトル通りの危機一髪なシーンが連続するサスペンシブルな一編です。
 三女の珠美は毒薬使いの青年に狙われますが、その毒薬使いは生粋のリョナラーらしく、毒に苦しみながら徐々に弱って行く犠牲者を見るのが何よりも好きなのだとか。
 ピストルや刃物で一気に殺(や)るより、命を奪うギリギリの分量の毒薬を呑ませて苦しむ様を見たい。この青年こそ、殺し屋という生き方が天職なのかも知れません!
 実際、裏社会の関係者があてがった女性の苦しむ顔を見るため、彼女の首を絞めそうになったというエピソードが作中に描かれています。


「フフフ……」
 女は忍び笑いをした。「ね、今話してた『薬を使う人』って、いつか私が相手した男のこと?」
「ああ。人が苦しんで、のたうち回って死ぬのを見て喜ぶっていう奴だ。――狂ってるよ」
「私、首しめられかけたわ」
「悪かった。あそこまでやるとは思わなかったんだ。ま、使いようだからな、あんな奴でも」

≪講談社文庫『三姉妹探偵団6 危機一髪篇』P65≫


 この毒薬使いの名前は小野井といいます。彼が依頼された新しいターゲットは三姉妹の三女、佐々本珠美でした。
 殺す相手が苦しみ悶える姿を見るのが好きな小野井はレストランでの暗殺を企て、巧妙な手段で珠美が注文したグラタンにヒ素を混入させます。


 小野井は、ポケットの中を探った。小さな紙の袋が、指先に触れる。その中には「死」がある。
 小野井は今、二十八歳。――子供のころから近所の犬や猫に、こっそり毒をやって、苦しむのを見て、面白がっている、という、恐ろしい性質を持っていた。

【中略】
 そして、二十歳を過ぎたころには、小野井は「一服盛る」ことで、食べていけるのだと知り、それを実行していた。
 楽しみで人を殺す。しかも、アッサリと死んでしまってはつまらない。
 だから、小野井は、確実を期して、多目に薬を使う、ということはしない。ぎりぎりの量で、相手が苦しみ抜いて死ぬのを、楽しむのである。
 あの娘には、この量で充分だろう。――直感は、めったに、外れたことはなかった。後は、グラタンの出来上るのを待つばかりだ……。

≪講談社文庫『三姉妹探偵団6 危機一髪篇』P133〜135≫


 ヒ素が混入された事を知らないウェイトレスは注文テーブルへグラタンを運び、珠美は熱々のグラタンを食べ始めます……。
 猛毒入りのグラタンを食べてしまった珠美はどうなってしまうのか。続きが気になる方は原作小説を読んでみてください!
 本作は講談社文庫のロングセラーとして版を重ねており、現在はカバーイラストが描き直された新装版が新刊で入手できます(旧版イラストは酷かったですが、新装版は現代風なイラストでラノベっぽい感じがします)。

妖艶無残な見立て殺人の美(島田一男「下田子守り唄殺人」より)

 島田一男氏は40年に及ぶ作家生活の中で数多くのシリーズキャラクターを生み出しました。
 四十代以上の推理小説愛読者であれば、刑事弁護士の南郷次郎、鉄道公安官の海堂次郎、特命刑事の千崎進吾といった個性豊かなキャラクターが活躍する作品を最低一冊は読んでいると思いますし、お耳役檜十三郎や御朱印銀次など、時代物にも何人かのシリーズキャラクターがいます。
 熱海周辺を舞台にした犯罪と縁のある“死神監察医”こと松平利春は島田氏の生み出したキャラクターでは(おそらく)最後期にあたり、1989年発表の書下ろし長編「熱海走り湯殺人事件」に初登場しました。

 1992年発表のシリーズ第5作「下田子守り唄殺人」では、遠州子守り唄の歌詞に見立てた連続殺人が扱われています。
 遠州子守唄りの歌詞は無邪気で牧歌的なのですが、それに見立てた殺人死体は意外にもセクシャルな演出が施されており、太鼓詰めにされて両膝を胴から垂らした美女やら、磔刑を思わせる姿で稲掛けに縛り付けられた美女やら、殺されている女性が全裸という事もあり、その様子を想像するだけで陰惨ながらも興奮を禁じ得ない背徳的な美と艶が感じられました。
 無残絵にも通じる、ある意味、リョナラーにとっては嬉しいと思われる現場検証時の描写を以下に紹介します。

 まずは第三の殺人の描写から。
 太鼓に体を突っ込まれた死体の足が胴の縁から垂れ下がっている様子の描写と、直腸温度を測るため大股開き状態にされた事が語られる場面です。
 殺されていたのは、ある病院で副院長をしている女性でした。


【前略】女が太鼓の中で死んでいたって?」
「太鼓は両面共、三つ巴が大きく書いてあるんですがね、裸の女はその巴の一面を破って、円筒型の胴の中へ上半身を埋め込み、両足の膝を胴の縁にダランと垂らしてたんです」

 【中略】
 人だからの中央に、大きな太鼓が置いてあった。その胴の縁から、ブランと女の素足が垂れていた。
 【中略】
「死体を動かさなかったかね?」
「動かさねェですとも。動かそうとしても、コチコチになっていて動かねェんです。直腸温度をはかろうとした時も苦労したんです。股を開かせようとして、二人がかりでやっと拡げた程ですから。裸で死んでいたんで助かりましたよ」

≪徳間文庫『下田子守り唄殺人』P92〜96≫


 続く第四の殺人では、稲掛け(「刈り取った稲を束ね、穂を下にして、掛けて置くところ」。徳間文庫『下田子守り唄殺人』P128より)へ磔状態にされた死体が松平監察医の視点から描写されています。ちなみに、四人目の犠牲者は短大生の若い女性です。
 両手を左右に拡げたポーズでの磔。不謹慎かも知れませんが、腋好きには嬉しい恰好です!


 いた! 正しくそこに全裸の若い女性の変死体が立っていた。
 磔刑になったキリストの姿そのまま、両手を左右に拡げた全裸の女を、十字架様の死刑台に縛り付けて、立ててあるのだ。
≪徳間文庫『下田子守り唄殺人』P129≫


 この後、事件は第五の殺人を経て急転直下の解決を迎えますが……連続猟奇殺人の最後は非常にあっけないものでした。
 もし、これから「下田子守り唄殺人」を読んでみようという方がいるようでしたら、これだけは声を大にして言っておきます!
 全ての謎が理路整然と解き明かされ、意外な犯人が明かされるという本格推理小説を期待するとうっちゃりを食わされる予想外の結末が待っているのでご注意を……。

死の限界を愉しむ男(蘭郁二郎「息を止める男」より)

 日本SF界の先駆者として海野十三氏と並び称される蘭郁二郎氏のデビュー作は、呼吸停止時の苦しみに酔いしれる水島という男を主人公にした奇抜な発想のフェチシズム掌編でした。
 タイトルもズバリそのまま「息を止める男」です! 昭和6年に平凡社から刊行された「江戸川乱歩全集」の付録冊子『探偵趣味』に掲載されました。
 江戸川乱歩氏は本作について「もっと練って探偵小説的な事件を付加え、長く書いたらいつか新青年に当選した「股から覗く」に似た好短篇が出来るかも知れない」と評していますが、実際、主人公のマゾヒスト性を活かした探偵小説的事件を書き加えてみたら、寸評の中で引き合いに出されている「股から覗く」(作者は葛山二郎氏。同作については過去にも当ブログで紹介しています)や乱歩氏の代表作「陰獣」のようなフェチシズム探偵小説の快作に仕上がっただろうと思います。

 蘭作品に詳しいSF研究家の會津信吾氏は、本作のモチーフを「死のギリギリまで自分を追いこむマゾヒスティックな快感と、体内回帰願望が入りまじった、異常感覚の世界」と表現していますが言い得て妙です!
 苦痛と快楽を同時に愉しむ男の様子、どうぞご覧下さい。


 【前略】まあ話を聞くよりは自分でちょっと息を止めてみ給え、始めの二三十秒はなんでもないかも知れないが、仕舞いになるとこめかみ(原文は4字に傍点)の辺の脈管の搏動が頭の芯まで響いて来る。胸の中は空っぽになってわくわくと込み上げるようになる――遂、堪らなくなって、ハァーと大きく息を吸うと胸の中の汚いものがすっかり嘔き出されたようにすがすがしい気持になって、虐げられた心臓は嬉しそうに生れ変ったような新らしい力でドキンドキンと動き出す。
 僕はその胸のわくわくする快感が堪らなく好きなのだ。ハァーと大きく息する時の気持、快よい心臓の響き。僕はこれ等の快感を味わうためには何者も惜しくないと思っている」

≪論創社『論創ミステリ叢書60 蘭郁二郎探偵小説選Ⅱ』P2≫

 【中略】もう二十分も経った。その瞬間不吉な想像が後頭部に激しい痛みを残して通り過ぎた。彼は自殺したのではないかしら、日頃変り者で通っている彼のことだ、自殺するに事を欠いて親しい友人の私の面前で一生に一度の大きな芝居をしながら死んで行こうとしているのではないだろうか、死の道程を見詰めている。そんな不吉な幻が私に軽い眩暈を感ぜしめた。
 彼の顔は不自然に歪んで来た、歪んだ頬はひきつけたように震えた。私は自分を落付けるために勢一杯の努力をした、しかし遂にはこの重苦しい雰囲気の重圧には耐えられなくなってしまった、そうして、死の痙攣、断末魔の苦悶、そんな妙な形容詞が脳裏に浮んだ瞬間私は腰掛けていた椅子をはねのけて彼を抱き起し、力一杯ゆすぶって目をさまさせようと大声で水島の名を呼んでいたのだった――。

【中略】彼の青白い顔には次第に血の気が表われて来た。しかしそうして少しの後、口が听(き)けるようになると直ぐ乾からびた声で、
 「駄目だなぁ君は、今やっと最後の快感にはいり始めたのに……」そういって力のない瞳で私を見詰めるのだった。
【後略】
≪論創社『論創ミステリ叢書60 蘭郁二郎探偵小説選Ⅱ』P4≫


 デビュー作だけあって「息を止める男」は現在でも手軽に読む事ができ、光文社文庫の『幻の探偵雑誌8 「探偵クラブ」傑作選』や論創社の「論創ミステリ叢書60 蘭郁二郎探偵小説選Ⅱ』へ収録されている他、青空文庫にも登録されています。

昭和モダンな水着のエロス(乾信一郎「髭と猛獣」より)

 今でこそ裸体に近いエロチックな水着の女性をプールや海で見かける事は珍しくありませんが、第二次大戦後の日本へアメリカ文化が一気に輸入(?)されるまで、海水浴場で見られる女性の水着といえば肌の露出が控え目なセパレートタイプの水着が圧倒的に多かったようです。 
 もちろん、昭和モダンと呼ばれる時代にも過激なデザインの水着で海水浴場を闊歩する女性の姿は皆無ではありませんでしたが、そうした水着の持ち主は主として富裕層の有閑マダムか資産家令嬢に限られており、肌の露出が多い一般的なデザインではありませんでした(たぶん……。間違っていたら申し訳ありません)。

 昭和モダンの時代には珍しい肌露出が多い水着姿で海水浴に出掛ける淑女が描写されたユーモア小説を乾信一郎氏の作品から見つけたので、三角ビキニどころかヴィスチェ水着やモノキニ程度の露出度すら珍しく見られていた(であろう)古き良きの水着描写を以下に紹介します。
 乾信一郎氏は6歳までのアメリカで育ったせいか洒落た感覚を持っており、そのモダンなセンスは探偵小説の牙城的雑誌『新青年』編集部時代に遺憾なく発揮されました。
 乾氏に関する詳しい評伝は天瀬裕康氏によって『悲しくてもユーモアを ―文芸人・乾信一郎の自伝的な評伝』としてまとめられており、乾信一郎という作家に興味をもたれた方には一読をお薦めします!


 「もし、お嬢さま……」
 平山執事がうしろから呼びかけた。
 「うるさいわね! なによ!」
 呼びとめられた房子さんは、今や、派手な真紅(まっか)の水着一枚で玄関をとび出ようというところである。
 「……ええ……はなはだ差出がましい次第ではございますが、ソノ……」
 「じれったいわね! ぼくひと泳ぎしようと思って出かけるところだよ。用なら帰ってからにして」

【中略】
 「は。只今申上げます。先刻、お嬢さまは淑女云々と申されましたが、実は問題はそれなのでございまして、甚だ差出がましいようではございますが、お嬢さま御自身でも淑女と思召(おぼしめ)していらっしゃる以上は、もう少し御服装(おみなり)に御注意が肝要かと存じます……」
 「いやに廻りっくどいな。お前の言うことはいつもこうだから癪に障る!」
 「恐れ入ります」
 「恐れ入らなくたっていいわよ。みなりに気をつけろったって、海水着一枚じゃ仕様がないじゃないの」
 「その海水着一枚が問題でございます」
 「どう問題なの?」
 と房子さんは、肩からケープを外して胸を張ってみせた。
 「忌憚なく申上げますが、その水着では、余りに肉体の露出する部分が多分過ぎるようでございまして、例えば背中なぞは俗に申します「丸出し」になって居(お)りますし、男子用の如きパンツも好い趣味とは申し上げられません」
 「いやな平山」
 と、そこはさすがに二十(はたち)の房子さんである。あわててケープを羽織った。

【中略】
 「は、じゃないわよ! 此の海水着がいけないって言うんなら、一体どんな海水着を着りゃいいんだい?」
 「は。さればでございます……」
 「よしてよ、その、さればでございますッてやつは?」
 「は、されば……いや……、まず、此の様な水着がお嬢さまには適当かと存じます」
 そう言って、平山執事は、此の暑いのにキチンと着込んだ黒い上衣(うわぎ)の下からゾロリと一着の海水着を引張り出して、ひろげてみせた。濃い水色の、型も下品におちないスマートさだった。

≪アトリエ社『百万人の行進』P268~272≫


 平山執事のセリフから察するに、房子さんは大胆なビキニ水着で海水浴に出掛けるところだったようですw
 それにしても「背中なぞは俗に申します「丸出し」になって」だの、「男子用の如きパンツ」だの、酷い言われようです……。

 底本(昭和14年発行)の原文は旧字・旧かな遣いとなっているため、文章の引用にあたって新字・新かな遣いに修正しました。

ホテルでイチャつく秘書と風呂場で縛り上げられる人妻(嵯峨島昭「深海恐竜(ニュー・ネッシー)殺人事件」より)

 官能小説文壇の大御所として活躍していた宇能鴻一郎氏は覆面作家として推理小説を書いた時期もあり、酒島章警視が主役のグルメミステリーや冒険推理小説を多数発表しました。
 そのうちの一作に「深海恐竜(ニュー・ネッシー)殺人事件」と題するノン・シリーズの長編があります。
 ニュー・ネッシーとは改めて説明するまでもなく、昭和52年4月25日にトロール船「瑞洋丸」がニュージーランド付近の海域で引き揚げた巨大な未確認水棲生物(の腐乱死体)の事。本作はタイトル通り、このニュー・ネッシーの捕獲を巡る冒険がメインテーマとなっています。
 前半はニュー・ネッシーの正体探りに絡んだ殺人事件が、中盤は謎めいた紳士の過去が、後半はニュー・ネッシーを捕獲しようする人々の姿が描かれ、冒険推理小説としては手堅い構成に仕上がっています。
 本作の中盤以降には何箇所か美人秘書や若い人妻のサービスシーンが用意されており、官能小説家である宇能氏の面目躍如たる筆の冴えを堪能できます。

 まずは、謎めいた怪紳士の蜂須賀伯爵と美人秘書の高野弘美がイチャイチャキャッキャするシーンからご紹介しましょう。
 その行為のストレートな描写がなくとも、ベッドの上で繰り広げられる艶めかしい男女の行為を読者に想像させる筆運びには脱帽させられました。
 舞台は赤坂にある高級ホテル。一泊24万円の特別室での出来事です。


 その寝室から、中国服の小柄な美人が出てきた。雌鹿のように軽やかなハイヒールを運んで、デスクの前に立った。
 「お呼びになりまして? 蜂須賀さん。いえ、モナコの国籍と爵位もお買いになったのね。蜂須賀伯爵と言わなくちゃいけないわね」
 「別に君を呼んではいないが」
 「いえ、たしかにベルが鳴ったわ」
 と女は蜂須賀のデスクに腰をのせ、身をひねって振り返り、嫣然(えんぜん)と笑った。
 「そうか、なるほど、たしかに呼んだよ」
 というと、蜂須賀伯爵は、女をかるがると抱き上げた。隣りの、白い猫脚の寝台がおいてある部屋に抱いていった。
 ――しばらくのちに、広いベッドの中でながながと脚を触れ合わせながら、蜂須賀伯爵は言った。

【中略】
 やがて服装をととのえて、居間にもどって、高野弘美はオーストリッチのハンドバッグから、白い封筒を抜き出した。
≪徳間ノベルス『深海恐竜(ニュー・ネッシー)殺人事件』P156≫


 続いては運命の荒波に翻弄される不幸な人妻が風呂場で悪漢に縛り上られる場面、その人妻が若い頃に暴力で犯される場面を紹介します。
 週刊誌記者の本間逸男は、ひょんな事から知り合いになった青年の母親が好きになってしまい、とうとう、その家に侵入する決意をかためたところ、若く美しい人妻が浴室で縛り上げられている場面に出くわしてしまうのです。
 不幸な運命に弄ばれる美しい女性の名は平井由紀子と言います。


 湯の匂いがした。浴室らしい部屋から、明りが洩れていた。ひそやかな湯の音がした。
 本間逸男は石に上って、浴室の中をのぞきこんだ。排気のために横長の細いアルミサッシが半分、開かれていた。
 呼吸が止まった。夢にまで思いつづけていた女が、こちらに背をむけて、洗い場にしゃがみ、体に石鹸を塗っていた。
 生えぎわの美しい首筋、なだらかな肩、すんなりした腕で体を洗う身のこなしは、自分で自分を愛撫しているようだった。
 洗いながら体をななめ横にむけたとき、ちらと、丸い乳房が見えた。

【中略】
 湯を浴びて、彼女はまともにこちらに体をむけた。立ち上った。すっかり目に入った。しかしそれは一瞬で、彼女の体は静かに、湯の中に、沈んだ。
【中略】
 応接間の引き戸の、カギはかかっていなかった。靴をぬいで上って、玄関に出た。二階に上った。
 そのとき、階下の浴室のあたらいで、女の悲鳴が聞えた。それは一瞬で、あとは柔らかい肉体がぶっつかり合うような、鈍い震動がつたわってきた。それもたちまち静かになった。
 本間逸男は飛び上った。入浴中の彼女の身に変事が起った、と直観した。
 階段を二飛びでかけおりた。見当をつけて浴室に突進した。
 ドアをあけて、飛びこんだ。と、脱衣場にころがった、白いものが目に入った。猿ぐつわをかけられて縛り上げられた、全裸の彼女だった。
 声を呑んだとき、いきなり頭を殴られた。ドアのかげに犯人がひそんでいたらしかった。

【中略】
 「平井信一か。逃げまわっていたが、やっと捕まったな」
 ぼんやりと記憶が回復した。自分は平井信一とまちがえられているらしい。それなら、当分、彼になりすまして様子を見るとするか。
 「おふくろは、どうしたんだ」
 「お前をおびきよせ、会長が聞きたいことを吐かせるために、来てもらったのよ。ちょっと手荒いマネをしたのは悪かったがな。正直に言わねえと、お前の母親は、組員たちに、輪姦(まわ)されるぜ。何しろ美人だし、女ざかりの色気があるからな。裸でしばり上げられるところを見て、オレもムズムズしてきたよ」

≪徳間ノベルス『深海恐竜(ニュー・ネッシー)殺人事件』P204~206≫


 若い頃の由紀子には倉沢という婚約者がいたのですが、彼は赴任先のニューシーランドで消息を絶ってしまいます。愛する者を探すため、由紀子は倉沢の同僚である平井健太郎と一緒に現地へ向かったのですが、そこで由紀子は平井に力づくで犯されてしまいました……。


 とつぜん、由紀子は、抱きすくめられた。ベッドに押し倒された。
 「いや、いや、いやっ」

【中略】
 「いや、止めて、止めて」
 「拒むのか。ようし」
 本気になると男の力は強かった。由紀子は口をふさがれ、下着をはがれた
(原文ママ)
 十五分後、由紀子はベッドに顔を伏せて、すすり泣いていた。
 平井健太郎は、タバコに火をつけながら、冷然と見おろしていた。

≪徳間ノベルス『深海恐竜(ニュー・ネッシー)殺人事件』P212≫

汗を流して石の蓋を動かす人妻(斎藤栄「龍王殺人事件」より)

 以前に紹介した「レティシア・カーベリーの事件簿」では、可愛らしい少女が脱輪した自動車を動かそうと奮闘する姿をご紹介しました。今回は、二十代の若妻が古井戸を塞ぐ巨大な石の蓋を動かそうと汗だくになって力(りき)む姿が見られる推理小説をご紹介します。
 該当作品は昭和56年に発表された斎藤栄氏の短編「龍王殺人事件」。短編集『龍王殺人事件』に表題作として収録されました。

 性格の不一致から夫婦仲が冷めていた八代夫妻。妻の琴子は旧友の物部(もののべ)と結託し、冷酷で残忍な夫の殺害を目論みます。
 琴子と物部は結託し、八代を殺して物部家の別送にある古井戸へ死体を投げ捨てる犯罪計画を決行。無事に計画は成功したと思われた矢先、琴子の耳に八代生存を疑わせる連絡が入りました。
 夫の死体を自分の目で確かめるべく物部家の別送を訪れた琴子は、古井戸の中を覗くため、重い石の蓋を汗だくになりながら動かします。


 松の木や柏などが、左右から覆いかぶさって来ている道は、薄暗い感じさえした。それでも、人目のないのが、琴子にはせめてもの救いだった。二十八歳になる今日まで、こんなに緊張した時間を持ったことはなかった。
【中略】
 レンガを敷いた地面の一角に、重そうな石の蓋を発見すると、急に琴子の心臓は高鳴り出した。その石の蓋というのは、四箇の平板の石を、コンクリートでつないだもので、女の手では、容易に動きそうもなかった。
 蓋に手をかけた琴子は、自分が旅行ケースを置いたすぐそばのレンガが、赤黒く縞模様をつくっているのに気がついた。

【中略】
 どうしても、この石の蓋を動かしたかった。両手の指先に力を籠めて、精一杯、力(りき)んだ。蓋はジリジリと動いた。
 全身から、汗が吹き出した。早く仕事をしなければならぬ。他人(ひと)に見つかったら一大事なのだ。石の蓋の動きは鈍かった。今にも爪がはがれるかと思うほどの力が要(い)った。

≪双葉文庫『龍王殺人事件』P35〜36≫

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